白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中

文字の大きさ
上 下
14 / 15

旦那様の視点2

しおりを挟む
「旦那様」
「ロータスか。首尾は?」
「問題ありません。今回の件に関わった闇ギルド及び暗殺者は全て処理済みです」
「そうか。……これでフランカを付け狙う者も一掃できたら良いのだが」
「本当の夫婦になった以上、旦那様の弱点となるのは奥様ですからね。より一層、護衛を厚くしておくべきでしょう」
「ああ。……フランカに会いたい」
「これでまた奥様への秘密が増えてしまいましたか。どうなさいますか?」

 我が国一の元暗殺者ロータスは痛い所を突いてくる。以前は秘密が増えるたび、嫌われないか懊悩おうのうしたが今は少し違う。

「この秘密だけはフランカを守るためにも隠し通す──と昔なら言っていたのだろうけれど、すでにフランカには話してある。それでも傍に居てくれると言ってくれた……。言ってくれたんだ」
「旦那様」
「ああ、早く妻に会いたい……」

 思い出したら無性に会いたくなった。早く家に帰って「お帰りなさい」と言って欲しい。それから抱きしめて温もりを実感して、可愛い声が聞きたい。月明かりのように朗らかな笑みも見たい。妻から送って貰ったガラス細工の懐中時計を取り出して、時間を確認する。
 今から急いで戻れば、一度屋敷には寄れるだろうか。

「それでは後処理も終わりましたので、帰還しましょう。本日は旦那様のためにミルフィーユをお作りになると話しておりましたよ」
「それは早く戻らなければな」
「ですが……あの青い宝石魔導具を国王陛下に返却しなくてはならないのでは?」
「あー、そうだったな。……というかそれを独断で借りてきたのはロータスお前だろう。お前が返しに……」
「旦那様の名代として国王陛下に頼みましたので、返却は旦那様からのほうが良いかと」
「うっ……。だが」
「早く行って返してしまいましょう」

 こういう時のロータスに何を言っても駄目なので、早々に大国へと戻る。一刻も早くフランカに会いたかったし、スイーツも食べたかった……。


 ***


 青い宝石のブレスレットを国王陛下に返すため、渋々と執務室に向かうことになった。あまりにも凹んでいたからか、ロータス経由でフランカが財務課に差し入れを持ってきてくれるよう手配したそうだ。なんとできた執事なのだろう。
 ロータスには後日、賞与を弾まなければな。
 そんなホクホク具合で執務室に入ったが、王太子のアルフレートもいた。

「ほんとうぉーーーーーーーーーうに、すまなかった」
「アルフレート殿下が頭を下げる必要は大いにあるものの、王家の神具を貸して頂いたので貸し借りはなし」
「ドミニク!」
「──にはしないので、三日間の訓練で手を打とう」
「うわあ……。本気で怒っているな」
「当たり前だ。下手すればフランカを失うかもしれなかったのだから」
「それこそ真実の愛を確かめるための、ちょっとしたスパイスじゃないか」
「訓練は五日に変更しよう」
「えええ? 愛の試練があってこそ真実の愛が分かるものだと思うのだが」
「殿下がそのような主義主張をもっているのは構わないが、私を巻き込むな」
「嫌だね」
「国王陛下。大変申し訳ないのですが、ご子息を殴ってもいいでしょうか」
「あー、うん。気持ちは分かるけれどパーティーが近々あるから終わったらね」

 体格の良い王太子アルフレートは、外見こそ金髪に空色の瞳、甘いマスクのご令嬢が好む理想の王子像に近い。もっとも中身は腹黒で性格も歪んでいる。アルフレートのお眼鏡に適った次期王妃は、本当に運が悪かったと思う。こんな最悪な男に執着されてしまっているのだから。
 なぜ賢王と呼ばれた国王陛下に、こんな化物が生まれたのか。謎だ。

「今、すごく失礼なことを考えただろう」
「まさか。事実を思っただけです」
「はあー、ドミニクは辛辣だな」

 アルフレート殿下は政治や王太子としては非の打ち所がないのだが、恋愛観に関しては障害を乗り越えなければ、真実の愛は証明できない! と訳のわからない自論を持っている。これはアッサリ手に入ったら、大切な者の有り難みが分からないからだのもっともらしい事を言っているが、単に性格が悪いだけだ。

 殿下は苦労して王妃を捕まえたので、友人である私やデュランデルにも同じ目に合ってほしいと思っているのだろう。やめて頂きたい。デュランデル殿下は単なる暇つぶし……。もっと最悪だな。
 盤上遊戯では、大国と帝国の腐敗した存在を駒に見立てて潰し合うらしいが、それぞれ腹黒いことを考えていそうな気がする。知りたくもないが。

「アッシュはルーズベルトの乳兄弟でね。生い立ちも複雑でアッシュの母に王家も恩義もあった。だからフランカ嬢──いや夫人と恋仲だと言うことを信じて、婚約の打診に手を貸してしまった、あるいは利用したのかもしれない。それをデュランデルに勘づかれ、今回の絵を描いたのだろう。元々は麻薬密売を取り締まるところから出てきた情報だったしな」

 そこで二人は私に黙って盤上遊戯を楽しんだという。ああ、できるのなら思い切り殴りたい。性格最悪の腹黒男たちが、いずれ国の頂点にそれぞれ立つのかと思うと恐ろしいものだ。特にデュランデル殿下には早々に運命の相手と出会って、骨抜きになってクソデカ重苦しい愛情をその思い人に向けて欲しい。

「はあ、早くフランカ──妻に会いたい」
「私だって婚約者に会いたいのだ。もう少し辛抱してくれ」
「嫌だ。あと三分で終わらせてくれ」
「ドミニクの重すぎる愛情は理解した。国宝も回収できたので、謝罪の品は後日贈るとして……デュランデルが帝国で大々的にパーティーを行うとのことで招待状が来ている」
「私たちは不参加で」
「ドミニクと奥方も来るようにと私の手紙に抱えてあったぞ。恐らく屋敷に招待状が届いているだろう」
「帝国の方角に竜のドラゴン息吹ブレスを放っても許されるよな」
「待て待て待て! いつから冷静沈着ツッコミ役のお前がボケ役になったのだ! 今後困るのでツッコミ役に戻ってきてくれ! 冷ややかな目で『は? 何言っているんだ?』って役が居なくなるとブレーキが利かなくなるだろう」
「そんな役回りになったつもりはない!」
息吹ブレスは本気でやめてくれ。誤射とか言い訳できないのでな」
「国王陛下がそういうのなら……」
「私と態度違うではないか!?」
「適切な対応だと思うが?」
「ドミニクが辛辣すぎる……容赦ないな」

 なんだかどっと疲れた。やっぱり癒しがないとストレスが溜まるようだ。とにもかくにも招待状の件は屋敷に戻って確認しよう。そしてフランカの顔がみたい。ああ、フランカ。フランカ……。フランカ要素が足りない。

「アッシュは帝国に亡命したまま行方不明──ということにしておく。また第三王子に成りすました偽物は、王家で対処する」
「承知しました。表向きはそのようにお願いします」

 陛下の決定に皆頷いた。
 アッシュは妻を散々苦しめたのだ、もっと重く苦しませても良かったが、その時間も惜しいと感じてさっさと始末してしまった。後処理も帝国との密約を結ぶ形で収束に向かうだろう。これで完全に闇に葬られることになる。
 王家との貸し借りも、これで帳消しとなるのであれば悪くない。話も終わるとここに用はないので、立ち上がった。
 ちょうどお茶の準備が終わった侍女が部屋に入ってきたが、構わずに退席する。

「せめてお茶ぐらい飲んでいってくれないか?」
「ありがとうございます。しかし、もうすぐ妻が財務課を訪ねるとのことでしたので、失礼させていただきます」
「ああ、なるほど」
「それじゃあ、私もフランカ夫人に顔合わせを」
「今度で」
「酷いなぁ」

 最後までアルフレート殿下が煩かったが無視して退室した。今日ほど財務課に向かうのが楽しみだったことはないだろう。
 ──が、この時アルフレート殿下が引き下がったことを、あまり気に留めていたなかった。それに勘づいたら、腹部ぐらい殴っていたというのに、残念だ。


しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

婚約者は他の女の子と遊びたいようなので、私は私の道を生きます!

皇 翼
恋愛
「リーシャ、君も俺にかまってばかりいないで、自分の趣味でも見つけたらどうだ。正直、こうやって話しかけられるのはその――やめて欲しいんだ……周りの目もあるし、君なら分かるだろう?」 頭を急に鈍器で殴られたような感覚に陥る一言だった。 そして、チラチラと周囲や他の女子生徒を見る視線で察する。彼は他に想い人が居る、または作るつもりで、距離を取りたいのだと。邪魔になっているのだ、と。

旦那様、離縁の申し出承りますわ

ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」 大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。 領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。 旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。 その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。 離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに! *女性軽視の言葉が一部あります(すみません)

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける

堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」  王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。  クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。  せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。  キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。  クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。  卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。  目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。  淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。  そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。

緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」  そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。    私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。  ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。  その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。 「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」  お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。 「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」  

処理中です...