18 / 56
第1幕
第8話 王弟セドリックの視点1-3
しおりを挟むこの森は空間の歪みが酷く、魔物以外にも捨てられた子供が迷い込む森らしい。フィデス王国の中でも危険ともいえる場所に住み続けられたのは、オリビアの魔法結界によるものだ。本当にオリビアは魔導士として有能で、一つの分野ではなく様々な魔法への知識が深かった。
ローレンスは当時、オリビアにいる子供たちの心と体の傷が癒えたのち、身の振り方などの人材斡旋に協力をしていたらしい。
グラシェ国でもオリビアの功績などは耳に入るらしく、逆に自国であるフィデス王国ではオリビアの功績は誰かが奪い利用しているようだった。オリビア自身、地位や名声に興味はないようだったが、実家から認めてもらいたい──という気持ちはあったようだ。
それも私やダグラス、スカーレットが傍に居て一緒に暮らしていくうちに実家への思いも薄らいで──私たちのことを第一に考えるようになった。
実家連中は何もしないで甘い汁だけ奪いとるが、私たちは違う。心からオリビアが大好きだったし、傍にいて笑ってほしいと願った。それはいつもオリビアを取り合って喧嘩をするスカーレットとダグラスと私の三人の中での唯一の共通点だった。
オリビアが「愛している」と口にすれば「あいしてる」とか「好き」って気持ちをたくさん答えた。そうすると彼女が喜ぶから。
たくさん喜んで笑ってほしい。一緒に幸せになりたい。
穏やかで、平和だった一年。
竜魔人族、天使族、悪魔族においても一年という時間は砂時計のように一瞬のように短い。それでも心から幸せだったと断言できた。魔物の侵攻が激化し、フィデス王からオリビアに出兵の書状が届くまでは──。
魔物との戦争に対して思いのほか国内で出兵を拒む者が多かった。特に王侯貴族などは戦果を挙げることよりも、いかに楽をして功績を立てるか、地位や名誉を得るかばかり考えていたのだ。吐き気を催す屑っぷりだ。
「オリビアが、行かないとダメなの?」
「ごめんね、フラン。私がこの国で一番の魔導士だから──駄目ね」
「他人なんかいいだろう。今までリヴィを馬車馬みたいにこき使ってきたんだ。無視していい」
「そうよ。リヴィは私たちとずうっと一緒にいるの!」
「ダグラス、スカーレットまで難しい言葉を使うようになったのね」
「感動しているばあいじゃない!」
「ほんとそうよ!」
(オリビア……。行っちゃやだ……)
オリビアは国一番の魔導士だからと、戦争の最前線に赴くように指示を受けた。彼女に拒否権はない。だから私たちに「絶対に帰ってくるから」と残して別邸を出た。
革のトランクケース一つと黒の外套を羽織って。オリビアが出て行ってから一週間ぐらいで我慢の限界が来てしまった。
私たちは相談してオリビアの元に向かおうと準備を進めていた矢先、グラシェ国の護衛騎士たちが別邸に姿を見せた。そこには兄ディートハルト──竜魔王と王妃の姿もあった。
ずっと行方を捜していたところ、オリビアという魔導士から本国に連絡を入れてくれたのだと知る。恐らく戦争になればここも危ないと思ったのだろう。自分が一番危険な場所に居るというのに、私たちの心配をするオリビアの傍に行きたくてたまらなかった。別邸で療養していた他種族たちは兄の庇護下に入り、兄は私の番がオリビアだと気づいていたようで、フィデス王国に援軍を頼み、自分も戦いに参加すると話してくれた。
自分も戦場に行きたかったが、それは許されず──それならと自分の魂の一部で眷族を作り、オリビアに送って欲しいと頼んだ。オコジョの姿をしたそれを「フラン」として兄に託した。
(今度帰ってきたら、オリビアをグラシェ国に迎えよう。私の番として本当の家族になってほしい)
幼過ぎる私は必ずオリビアが帰ってくると信じて疑わなかった。
いつも約束を守ってくれた──誰よりも優しくて、愛しい人。
けれど私の元に戻ってきたのは石化した兄と王妃、そして──オリビアだった。魂の一部であるフランもまたオリビアの肩の上で石化しており、自分の元に戻すことはかなわなかった。
64
お気に入りに追加
298
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語
ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ……
リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。
⭐︎2023.4.24完結⭐︎
※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。
→2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

もう一度あなたと?
キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として
働くわたしに、ある日王命が下った。
かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、
ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。
「え?もう一度あなたと?」
国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への
救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。
だって魅了に掛けられなくても、
あの人はわたしになんて興味はなかったもの。
しかもわたしは聞いてしまった。
とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。
OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。
どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。
完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。
生暖かい目で見ていただけると幸いです。
小説家になろうさんの方でも投稿しています。
【完結】愛猫ともふもふ異世界で愛玩される
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
状況不明のまま、見知らぬ草原へ放り出された私。幸いにして可愛い三匹の愛猫は無事だった。動物病院へ向かったはずなのに? そんな疑問を抱えながら、見つけた人影は二本足の熊で……。
食われる?! 固まった私に、熊は流暢な日本語で話しかけてきた。
「あなた……毛皮をどうしたの?」
「そういうあなたこそ、熊なのに立ってるじゃない」
思わず切り返した私は、彼女に気に入られたらしい。熊に保護され、狼と知り合い、豹に惚れられる。異世界転生は理解したけど、私以外が全部動物の世界だなんて……!?
もふもふしまくりの異世界で、非力な私は愛玩動物のように愛されて幸せになります。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/09/21……完結
2023/07/17……タイトル変更
2023/07/16……小説家になろう 転生/転移 ファンタジー日間 43位
2023/07/15……アルファポリス HOT女性向け 59位
2023/07/15……エブリスタ トレンド1位
2023/07/14……連載開始

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる