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第21話 アヤカシ蒼月の視点
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久我沙羅紗――我が主人は、愚か者だ。
沙羅紗は自分の中で大事にすると決めたモノには、とことん甘い。俺のような呪いそのものを受け入れて家族のように接するのだから、どこか狂っているのだろう。
それでも、それだからこそ、沙羅紗には幸せになってほしい。
そしてそれは、きっと俺ではない誰かだ。
呪いそのものである俺が誰かを幸せにすることなんて出来るはずがない。愛したとしてもそれは歪で、いつか俺は沙羅紗を殺すだろう。
そういった愛し方しかできない。
だからこそ沙羅紗を愛するのは、沙羅紗だけを溺愛するような男でなければ困る。結果的ではあるが、鼬瓏が沙羅紗を好いたのは好都合だった。
「ふう、まったく主人の幸福を導くのも骨が折れる」
主人の代わりに後宮の見回りをしていたが、アヤカシらしい存在は見られなかった。やはり悪神を祀る形で、善神に昇華させたのがよかったのだろう。
正式な儀式は、後で沙羅紗の演舞と祝詞を行えば問題ないはずだ。
ふと東屋から出てきた男に目が留まった。
皇帝・颯懍は、俺を見るなり足を止めた。
「これで概ね貴様の目論見通りか? 蒼月殿、いや零落した荒神殿」
「さて何のことだか」
「はぐらかさずとも分かっている。第四皇妃が貴様の世界の術士崩れたちに接触していたのを、貴様は気付いていていながら敢えて放置したのだろう」
明日の天気を話すような口ぶりで颯懍は饒舌に語る。全くもって優秀な男というのは面倒なものだ。
「本当に沙羅紗に益がなければ貴様はどんな手を使ってでも、沙羅紗を守るだろうからな」
「お前が鼬瓏を守るために、あえて自身の肉体にアヤカシを取り込んだこともそうだろう。ずっと影として生きていた自分の弟を、表舞台に出すためにもキッカケは必要だからな」
颯懍は「面白いことを言う男だ」と笑っていたが、目は一切笑っていなかった。大方その通りなのだろう。俺も颯懍もよく似ている。
だからこそ対となる存在への執着が異常なのだろう。
「余への呪いを庇ったのは、鼬瓏だからな。余は鼬瓏こそ皇帝の座にふさわしいと思っているのだが、表に立つのは好かん。アヤカシを統括するカリスマと吸引力で、民たちをまとめ上げることだって可能だろうに、俺を立たせてサポートするだけと無欲だった。……沙羅紗が現れるまでは、な」
「それで良かったのではないか。あの男に政戦は向いているように思えん。あれは普段は水面の穏やかなように見えて、苛烈で激情型だ。愛する者のためなら何処までも残酷になるだろう」
「ああ、第四皇妃や太傅の処分を見ていて考えを改めたものだ。あれは人の王にしてはいけない、とな」
さわさわと淡い色の藤の花が、風に揺られているのが見えた。
この男は鼬瓏が幸福であるうちは、沙羅紗にとってもよき理解者になるだろう。沙羅紗自身も気に入っているだろうし。
((まあ、いざとなれば殺す))
俺もこの男もよく似ている。
だから互いの大事な者が欠けるようなことになれば、どうなるのか、よく知っていた。
沙羅紗は自分の中で大事にすると決めたモノには、とことん甘い。俺のような呪いそのものを受け入れて家族のように接するのだから、どこか狂っているのだろう。
それでも、それだからこそ、沙羅紗には幸せになってほしい。
そしてそれは、きっと俺ではない誰かだ。
呪いそのものである俺が誰かを幸せにすることなんて出来るはずがない。愛したとしてもそれは歪で、いつか俺は沙羅紗を殺すだろう。
そういった愛し方しかできない。
だからこそ沙羅紗を愛するのは、沙羅紗だけを溺愛するような男でなければ困る。結果的ではあるが、鼬瓏が沙羅紗を好いたのは好都合だった。
「ふう、まったく主人の幸福を導くのも骨が折れる」
主人の代わりに後宮の見回りをしていたが、アヤカシらしい存在は見られなかった。やはり悪神を祀る形で、善神に昇華させたのがよかったのだろう。
正式な儀式は、後で沙羅紗の演舞と祝詞を行えば問題ないはずだ。
ふと東屋から出てきた男に目が留まった。
皇帝・颯懍は、俺を見るなり足を止めた。
「これで概ね貴様の目論見通りか? 蒼月殿、いや零落した荒神殿」
「さて何のことだか」
「はぐらかさずとも分かっている。第四皇妃が貴様の世界の術士崩れたちに接触していたのを、貴様は気付いていていながら敢えて放置したのだろう」
明日の天気を話すような口ぶりで颯懍は饒舌に語る。全くもって優秀な男というのは面倒なものだ。
「本当に沙羅紗に益がなければ貴様はどんな手を使ってでも、沙羅紗を守るだろうからな」
「お前が鼬瓏を守るために、あえて自身の肉体にアヤカシを取り込んだこともそうだろう。ずっと影として生きていた自分の弟を、表舞台に出すためにもキッカケは必要だからな」
颯懍は「面白いことを言う男だ」と笑っていたが、目は一切笑っていなかった。大方その通りなのだろう。俺も颯懍もよく似ている。
だからこそ対となる存在への執着が異常なのだろう。
「余への呪いを庇ったのは、鼬瓏だからな。余は鼬瓏こそ皇帝の座にふさわしいと思っているのだが、表に立つのは好かん。アヤカシを統括するカリスマと吸引力で、民たちをまとめ上げることだって可能だろうに、俺を立たせてサポートするだけと無欲だった。……沙羅紗が現れるまでは、な」
「それで良かったのではないか。あの男に政戦は向いているように思えん。あれは普段は水面の穏やかなように見えて、苛烈で激情型だ。愛する者のためなら何処までも残酷になるだろう」
「ああ、第四皇妃や太傅の処分を見ていて考えを改めたものだ。あれは人の王にしてはいけない、とな」
さわさわと淡い色の藤の花が、風に揺られているのが見えた。
この男は鼬瓏が幸福であるうちは、沙羅紗にとってもよき理解者になるだろう。沙羅紗自身も気に入っているだろうし。
((まあ、いざとなれば殺す))
俺もこの男もよく似ている。
だから互いの大事な者が欠けるようなことになれば、どうなるのか、よく知っていた。
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