JK調伏師は皇弟妃を望むも、第四皇妃役を演じるしかないらしい

あさぎかな@電子書籍二作目発売中

文字の大きさ
上 下
20 / 22

第20話 昼夜の皇帝の秘密・後編

しおりを挟む
「……本当に、私の妻になってくださるのですか?」
「あー、うん。……恋人をすっ飛ばして結婚というのは、ちょっと気が早い気もするけれど、鼬瓏ユウロンならいいかな、って」
「いつもは、あんなにすげなくしていたのに?」
「う……それは」

 鼬瓏ユウロンは今にも泣きそうな顔をしていた。そんなに思ってくれていたのなら、もっと時間をとって話を聞いてあげれば良かったと少しだけ反省する。

鼬瓏ユウロンの秘密がわかったこと、それに」
「それに?」
「向こうでの心残りがなくなって身軽になったから、自分の今後を考えられる余裕ができたのもあるかな。『幸せになれ』って背中を押してもらったしね」

 結局、私が何かしなくても、あの一族は自分で自分の首を絞めて滅びるだろう。ささやかな復讐も私が調伏師として活躍すればするほど、成功していたようだし溜飲は大分下がった。
 それにあちらの世界で復讐を終えた先、何かしたいことや、目標なんてものもないのだと気付いたからこそ、鼬瓏ユウロンの提案をすんなりと受け入れた。もっともこの三カ月があったからこその判断だ。

「私はこの世界で生きるよ」
「それは――よかった」

 鼬瓏ユウロンは心から嬉しそうな顔をしていた。

「沙羅紗、改めて私の妻になってくださいませんか?」
「喜んで」

 嬉しくて口端がつり上がる。
 自然と彼の名が唇からこぼれ落ちた。

鼬瓏ユウロン鼬瓏ユウロン
「なんですか? 愛しい人?」
「私も。貴方が好き、好いている……愛しているわ」

 鼬瓏ユウロンの美しい瞳が大きく揺らいだ。泣きそうなほど顔をくちゃくちゃして、私を抱き寄せる。半透明な体だけれど、彼に触れることができた。

「ああ、やっと――貴女からその言葉が聞けた。もっと、聞かせてください。何度でも、私に。私も何度も貴女に愛を囁きますから」
「うん。愛しているわ」

 触れる口づけは、どちらともなく触れ合って――深いものへと変わっていく。
 キスがこんなにくすぐったくて、自分からもしたくなるものだと初めて知った。キスをするのも、されるのもくすぐったい。

(こんな風に誰かを愛する日が来るなんて、思わなかったわ)


 ***


 再び目を覚ましたのは東屋ではなく、寝室だった。
 第四皇妃の寝室だった場所だが、私が着てからは大分内装の雰囲気など変えて貰ったものだ。元々第四皇妃は暗い部屋が好みだったようで、今の緋色とは全く違う。

「ん?」

 ふと身動きが取れないことに気付き、よくよく周りを見ると鼬瓏ユウロンが私をしっかりホールドして眠っているではないか。しかも上半身裸で。あ、鎖骨がやっぱりステキだわ。

(──って、そうじゃない!)

 思わぬ展開に固まる私は、自分の体に視線を向ける。
 胸とか鎖骨当たりに赤い痕が見えた瞬間、思考が凍り付いた。

(え、え、ええええええええ!?)

 全く記憶にない。いや、夫婦になる誓い的な言葉を立てたようなことはあったが、その後はブツリと記憶が途切れているのだ。

(だ、大事な一生に一度の記憶がないなんてぇええええええええええ! え、これ、離婚案件じゃない? プロポーズからの甘々な雰囲気とか、将来のことを話したとかの大事なことをまるっと覚えていないと鼬瓏ユウロンにバレたら『その程度の愛でしたか』とかって冷めない? それとも引く?)

 ポンコツな思考回を駆使して考えついたのは、今から階段から落ちたことにして昨日の初夜(?)的な記憶はないことにする、だ。

「いや、どうしてそっちに振り切ったんだ? 大人しく幸せに浸る場面だろうが」

 寝台から出ようとした私に、黒いオコジョ姿を見せて忠告してきた。
 すぐに影に引っ込んでしまったが。

「ん? 悲観過ぎは良くないってこと?」
「何に悲観したのですか?」
「それが、自分の魂が肉体に戻った後の記憶が全くなくて……」

 つい声をかけられたので本音を語ったのだが、相手は眠っていたはずの鼬瓏ユウロンだ。寝起きで少しだけ声が掠れていて、長い髪が少しくしゃっとなっているのがなんだか可愛い。

「ああ、覚えていないのも当然でしょうね。貴女は魂と肉体が少しの間とはいえ、離れてしまっていたのですから、肉体の負荷を最小限にするために眠っていたのですよ。だからずっと寝ていた沙羅紗を私が愛でていただけ」
「……こ、この胸元の赤い痕は?」
「沙羅紗が可愛くてつい。でも、顔を真っ赤にした今がもっと可愛いですよ」
「ひゃ!?」

 墓穴を掘ったのは言うまでもなく、鼬瓏ユウロンのご機嫌スイッチがよく分からないまま――とりあえず、とっても愛された。
 思えば起きた時から鼬瓏ユウロンの呪いが解かれていたらしいのだが、私がその真実に気付いたのはもう少し後になってからだ。
 理由はそこまで頭が回っていなかったからである。恋愛初心者にはハードモードすぎる!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています

21時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。 誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。 そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。 (殿下は私に興味なんてないはず……) 結婚前はそう思っていたのに―― 「リリア、寒くないか?」 「……え?」 「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」 冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!? それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。 「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」 「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」 (ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?) 結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~

景華
恋愛
「シリウス・カルバン……むにゃむにゃ……私と結婚、してぇ……むにゃむにゃ」 「……は?」 そんな寝言のせいで、すれ違っていた二人が結婚することに!? 精霊が作りし国ローザニア王国。 セレンシア・ピエラ伯爵令嬢には、国家機密扱いとなるほどの秘密があった。 【寝言の強制実行】。 彼女の寝言で発せられた言葉は絶対だ。 精霊の加護を持つ王太子ですらパシリに使ってしまうほどの強制力。 そしてそんな【寝言の強制実行】のせいで結婚してしまった相手は、彼女の幼馴染で公爵令息にして副騎士団長のシリウス・カルバン。 セレンシアを元々愛してしまったがゆえに彼女の前でだけクールに装ってしまうようになっていたシリウスは、この結婚を機に自分の本当の思いを素直に出していくことを決意し自分の思うがままに溺愛しはじめるが、セレンシアはそれを寝言のせいでおかしくなっているのだと勘違いをしたまま。 それどころか、自分の寝言のせいで結婚してしまっては申し訳ないからと、3年間白い結婚をして離縁しようとまで言い出す始末。 自分の思いを信じてもらえないシリウスは、彼女の【寝言の強制実行】の力を消し去るため、どこかにいるであろう魔法使いを探し出す──!! 大人になるにつれて離れてしまった心と身体の距離が少しずつ縮まって、絡まった糸が解けていく。 すれ違っていた二人の両片思い勘違い恋愛ファンタジー!!

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

処理中です...