15 / 22
第15話 黒幕が自分からやってきました!
しおりを挟む
「あ」
「転移して逃げましたね」
(ここ三カ月、後宮を探したのに、こんなあっさりと見つかるなんて……。しかも応戦するどころか逃亡って……)
「あれ? もしかして……もらったら、まずいものでした?」
この状況でも、その感想が出るのはすごい。
「あ、なんだか視界が良くなったかも! それに体が軽い!」
「……あの状態でその程度の認識。ええ、ヘドロ的ものの一部になりつつありましたからね、そりゃあ軽くなりますよ」
「まあまあ! ありがとうございます」
「……昨日、見回りの時に渡した護符はどうしたのです?」
「えへへ。燃えて爆散しました」
「ばく……」
「護符は爆散するものではないのですが……」
(となると、やっぱり花琳様の特異体質の影響……)
いろんなアヤカシと対峙してきたが、この世界のアヤカシ的なものは、その生態や在り方がよくわからない。
元の世界と同じ名前であっても、その派生や意味が異なる場合は、解釈がズレているのかもしれない。
中国で鬼というのは、死人、幽鬼を現すが、日本では霊的な存在であり、人であり、悪霊であり、山の精霊であり、神であり、神の零落した存在でもあり、災いであり、恐怖でもある。総じてアヤカシと言っても様々だ。
(まあ、鬼の解釈は、古事記が描かれたことからあったし、時代を積み重ねていくことで様々な形になっていった。そのことも考えた上での護符を渡したほうがいいかも)
「私は不幸を集めてしまう体質なのですが、幸いにも私自身に災いは降りかからず周囲に影響を与える程度で良かったですわ」
「だからと言って不用意に自身を蔑ろにするのは、褒められたことじゃないですよ。貴女は第二王妃です。自身の損失によって困る者がいることを覚えておいてくださいませ」
特異体質であれば、人と異なる経験は当然増える。
そしてその環境は優遇され大事にされるか、忌避と拒絶と悪意と打算に満ちた劣悪な環境であることが多い。
稀に中間で平和に暮らすこともできる者もいるが、特異体質のような場合は先に挙げた両極端な反応が多い。
「うん、そうね。今は主上もいますもの。一人きりじゃありませんでしたわ。沙羅紗様の言葉は不思議と胸に響きます」
「そう? 初めて言われたかも……」
「きっと心根が優しいからなのでしょう」
花琳様があまりにも華やかに微笑むので、言葉に詰まった。この方は清流だろうと濁流だろうと涼やかな顔をして突き進む強さがある。
心閉ざすことで、やり過ごした私とは違う。
過去も今も自分の力をありのままに受け入れて、悲観も絶望も自暴自棄にもならない。ちょっと危機感が足りないのは問題だけれど。
「そう返せる花琳様のほうがすごいのでは?」
「ふふふっ。私も美帆様と同じく貴女には、この世界に残って欲しいですわ。今まで王妃同士の交流は最低限で、牽制ばかりでしたもの。美帆様をあんな可愛らしい方にしてしまうのだから。第四王妃も生きていればきっと変わったかもしれません」
「美帆様は元からツンデレなだけで、それが最近露見したに過ぎませんよ。(第四王妃? どうして彼女だけ名前を呼ばないのだろう?)」
単なるキッカケに過ぎなかったが、それでもここに残ってほしいと言われるのは、嬉しかった。
「それでも、私は沙羅紗様が気に入りました! 美帆様も同じですわ。妻として今後とも仲良くさせて頂きたいですわ。ですから今度、沙羅紗様の故郷のお菓子を作ってくださいませ! 私、異国の菓子を食べるのが趣味なのです」
なぜ私が菓子を作れることを知っているのか。あれはたまたまクッキーやシフォンケーキが懐かしくて厨房を借りてこっそり作ったはずだ。バカ皇帝にだって喋っていない。鼬瓏には根負けして食べさせたが……。
視線を向けると彼は目が泳いでいた。
(お前か!)
「女官にだけ食べさせるなんて狡いですわ!」
「(あ、そっか、鼬瓏のことは女性だと思っていたのね)……分かりました。諸々落ち着いたら、作りましょう」
「それは楽しみです」
(なぜ君が真っ先に顔を綻ばせて嬉しそうなんだ……)
「ふふ、では約束ですよ。きっと鈴麗も同じことを言うと思うわ」
「ところで第四王妃は──」
「花琳!」
私の声は元気いっぱいな声のせいで掻き消えてしまう。
「ふふ、噂をすれば」
「なんか変わった子たちを拾ったの! 私がギュッとしても平気なの!」
「え」
「ん?」
「んんんんんんんっ!?」
お転婆な第三王妃鈴麗は、真っ黒な禍々しい小動物を四匹――四柱? 抱き抱えているではないか。
(四凶を捕まえているんだけれどぉ!! しかも混沌は逃げたばかりじゃない!)
一角獣のウサギに、猫の姿に尾が蛇、ムチムチの狐に目が三つ、狼に羽根が生えた──どうみでもアヤカシらしいいろんな要素によって形成された存在のようだ。無駄に可愛いじゃないか!
ちょっとモフモフしたい気持ちが疼く。
「沙羅紗」
ジト目で愛くるしいオコジョ姿の蒼月が頬をペシペシ叩く。
「あー、うん、君が一番可愛いよ」
「ふん、当然だ」
「────って、そうじゃない!」
モフモフどころではない。あれを調伏せねば!
「鈴麗様、そのまま抱えていてくださいね! 調伏しますから!」
「えーーー!? ここで飼ったらダメ?」
「このままじゃダメです!」
「鈴麗様、その場合、貴女様の夫である主上から真っ先に命を落としますが?」
「ふぐっ」
(あ、私よりも容赦ない)
鼬瓏はにこやかだが、目が笑ってないのだ。めっちゃ怒っている。いやまあ、それが普通の反応だ。
「そうよ! 危ないでしょ!」
(花琳様、危機感のなさは貴女も同じなのですが……)
「そんなー、せっかく仲良くなったのにーーー」
「そういっていますが、腕の中にいる四凶は首を横に振って否定していますけど?」
首がもげるほど横に振っているのだ。
しかも顔色がすこぶる悪い。君ら本当に四凶? イメージと全く違うのだけれど。もっと凶悪かつ凶暴なイメージが……。
「えーーーーー? 私毒姫だから、こうギュッとする時は気をつけなきゃいけないんだけど、この子達は何度ギュッとしても死なないから、飼おうと思ったのに!」
「(四凶の頑丈さが仇になった感じなのね……)蒼月、対話は可能そう?」
珍しくもオコジョから人型のしかも甲冑姿で出てきていた。モフモフの黒オコジョだったら、絵的にもメルヘンな感じなのに、と思ったことは口にしなかった。私偉い。
「我が主人よ、いろいろと筒抜けだからな」
「ふぐっ」
「あと『最初は痛い』と言うのは被虐性愛という意味ではないからな。夫婦の営み的なアレだぞ?」
「? ………………あ」
「転移して逃げましたね」
(ここ三カ月、後宮を探したのに、こんなあっさりと見つかるなんて……。しかも応戦するどころか逃亡って……)
「あれ? もしかして……もらったら、まずいものでした?」
この状況でも、その感想が出るのはすごい。
「あ、なんだか視界が良くなったかも! それに体が軽い!」
「……あの状態でその程度の認識。ええ、ヘドロ的ものの一部になりつつありましたからね、そりゃあ軽くなりますよ」
「まあまあ! ありがとうございます」
「……昨日、見回りの時に渡した護符はどうしたのです?」
「えへへ。燃えて爆散しました」
「ばく……」
「護符は爆散するものではないのですが……」
(となると、やっぱり花琳様の特異体質の影響……)
いろんなアヤカシと対峙してきたが、この世界のアヤカシ的なものは、その生態や在り方がよくわからない。
元の世界と同じ名前であっても、その派生や意味が異なる場合は、解釈がズレているのかもしれない。
中国で鬼というのは、死人、幽鬼を現すが、日本では霊的な存在であり、人であり、悪霊であり、山の精霊であり、神であり、神の零落した存在でもあり、災いであり、恐怖でもある。総じてアヤカシと言っても様々だ。
(まあ、鬼の解釈は、古事記が描かれたことからあったし、時代を積み重ねていくことで様々な形になっていった。そのことも考えた上での護符を渡したほうがいいかも)
「私は不幸を集めてしまう体質なのですが、幸いにも私自身に災いは降りかからず周囲に影響を与える程度で良かったですわ」
「だからと言って不用意に自身を蔑ろにするのは、褒められたことじゃないですよ。貴女は第二王妃です。自身の損失によって困る者がいることを覚えておいてくださいませ」
特異体質であれば、人と異なる経験は当然増える。
そしてその環境は優遇され大事にされるか、忌避と拒絶と悪意と打算に満ちた劣悪な環境であることが多い。
稀に中間で平和に暮らすこともできる者もいるが、特異体質のような場合は先に挙げた両極端な反応が多い。
「うん、そうね。今は主上もいますもの。一人きりじゃありませんでしたわ。沙羅紗様の言葉は不思議と胸に響きます」
「そう? 初めて言われたかも……」
「きっと心根が優しいからなのでしょう」
花琳様があまりにも華やかに微笑むので、言葉に詰まった。この方は清流だろうと濁流だろうと涼やかな顔をして突き進む強さがある。
心閉ざすことで、やり過ごした私とは違う。
過去も今も自分の力をありのままに受け入れて、悲観も絶望も自暴自棄にもならない。ちょっと危機感が足りないのは問題だけれど。
「そう返せる花琳様のほうがすごいのでは?」
「ふふふっ。私も美帆様と同じく貴女には、この世界に残って欲しいですわ。今まで王妃同士の交流は最低限で、牽制ばかりでしたもの。美帆様をあんな可愛らしい方にしてしまうのだから。第四王妃も生きていればきっと変わったかもしれません」
「美帆様は元からツンデレなだけで、それが最近露見したに過ぎませんよ。(第四王妃? どうして彼女だけ名前を呼ばないのだろう?)」
単なるキッカケに過ぎなかったが、それでもここに残ってほしいと言われるのは、嬉しかった。
「それでも、私は沙羅紗様が気に入りました! 美帆様も同じですわ。妻として今後とも仲良くさせて頂きたいですわ。ですから今度、沙羅紗様の故郷のお菓子を作ってくださいませ! 私、異国の菓子を食べるのが趣味なのです」
なぜ私が菓子を作れることを知っているのか。あれはたまたまクッキーやシフォンケーキが懐かしくて厨房を借りてこっそり作ったはずだ。バカ皇帝にだって喋っていない。鼬瓏には根負けして食べさせたが……。
視線を向けると彼は目が泳いでいた。
(お前か!)
「女官にだけ食べさせるなんて狡いですわ!」
「(あ、そっか、鼬瓏のことは女性だと思っていたのね)……分かりました。諸々落ち着いたら、作りましょう」
「それは楽しみです」
(なぜ君が真っ先に顔を綻ばせて嬉しそうなんだ……)
「ふふ、では約束ですよ。きっと鈴麗も同じことを言うと思うわ」
「ところで第四王妃は──」
「花琳!」
私の声は元気いっぱいな声のせいで掻き消えてしまう。
「ふふ、噂をすれば」
「なんか変わった子たちを拾ったの! 私がギュッとしても平気なの!」
「え」
「ん?」
「んんんんんんんっ!?」
お転婆な第三王妃鈴麗は、真っ黒な禍々しい小動物を四匹――四柱? 抱き抱えているではないか。
(四凶を捕まえているんだけれどぉ!! しかも混沌は逃げたばかりじゃない!)
一角獣のウサギに、猫の姿に尾が蛇、ムチムチの狐に目が三つ、狼に羽根が生えた──どうみでもアヤカシらしいいろんな要素によって形成された存在のようだ。無駄に可愛いじゃないか!
ちょっとモフモフしたい気持ちが疼く。
「沙羅紗」
ジト目で愛くるしいオコジョ姿の蒼月が頬をペシペシ叩く。
「あー、うん、君が一番可愛いよ」
「ふん、当然だ」
「────って、そうじゃない!」
モフモフどころではない。あれを調伏せねば!
「鈴麗様、そのまま抱えていてくださいね! 調伏しますから!」
「えーーー!? ここで飼ったらダメ?」
「このままじゃダメです!」
「鈴麗様、その場合、貴女様の夫である主上から真っ先に命を落としますが?」
「ふぐっ」
(あ、私よりも容赦ない)
鼬瓏はにこやかだが、目が笑ってないのだ。めっちゃ怒っている。いやまあ、それが普通の反応だ。
「そうよ! 危ないでしょ!」
(花琳様、危機感のなさは貴女も同じなのですが……)
「そんなー、せっかく仲良くなったのにーーー」
「そういっていますが、腕の中にいる四凶は首を横に振って否定していますけど?」
首がもげるほど横に振っているのだ。
しかも顔色がすこぶる悪い。君ら本当に四凶? イメージと全く違うのだけれど。もっと凶悪かつ凶暴なイメージが……。
「えーーーーー? 私毒姫だから、こうギュッとする時は気をつけなきゃいけないんだけど、この子達は何度ギュッとしても死なないから、飼おうと思ったのに!」
「(四凶の頑丈さが仇になった感じなのね……)蒼月、対話は可能そう?」
珍しくもオコジョから人型のしかも甲冑姿で出てきていた。モフモフの黒オコジョだったら、絵的にもメルヘンな感じなのに、と思ったことは口にしなかった。私偉い。
「我が主人よ、いろいろと筒抜けだからな」
「ふぐっ」
「あと『最初は痛い』と言うのは被虐性愛という意味ではないからな。夫婦の営み的なアレだぞ?」
「? ………………あ」
1
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました
まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました
第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます!
結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。
麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。
スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」
伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。
そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。
──あの、王子様……何故睨むんですか?
人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ!
◇◆◇
無断転載・転用禁止。
Do not repost.
最悪なお見合いと、執念の再会
当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。
しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。
それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。
相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。
最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。
妻のち愛人。
ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。
「ねーねー、ロナぁー」
甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。
そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる