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第9話 後宮での暮らしは最高です!
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後宮と言ったら女の戦い、皇帝の関心を得るため昼ドラ並のドロドロした展開を想像して身構えたのだが……。
想像通りの貴族侍女からの洗礼を受けることに。藤の宮に到着して、皇帝陛下が王宮に戻った瞬間の変わり身の速さといったらビックリした。
「貴族でもない偉人が」
「私たちは貴女を第四王妃とは認めませんわ!」
「四神もきっと怪しげな妖術で誑かしたのよ!」
テンプレ通りの嫌味が出てきた。ここで熱湯とか、物を投げつけることをしないだけでも品性はあるほう──なのだろう。たぶん。本家とか正月挨拶時とか酷かったもん。
「アンタたちが認めようが認めないが、私は第四王妃なのよ。陛下がそういった以上、この宮での実権は私にあるの。嫌なら後宮を去るための書類を渡すけれど?」
「ふん、誰が貴女なんかの言うことを──」
「蒼月」
ベキッバキッ、と侍女の一歩前の床が抉れる。これは単に蒼月が透明化を使って拳を振り下ろしただけだ。だが蒼月が見えない以上、何が起こったのか分からない侍女たちは一瞬でその場に座り込む。
ちょっと悪女っぽい感じで、にっこりと微笑んだ。
「物理的に死ぬのと、社会的に死ぬの、どっちがいいかしら?」
「ひっ!」
「さあ、どっちを選ぶの? 早くしないと物理的に死んじゃうわよ」
「お、お許しください!!」
(おお、効果覿面!)
用意していた書状を持ってあっという間に藤の宮から出て行き、残った侍女たちは一同深々と頭を下げてくれた。
(思ったよりも粘らずに、逃げてくれて良かった……)
それからは後宮での暮らしは穏やかなものだった。もっとも夜のアヤカシ退治は苛烈だったけれど。
日中は遅く起床、宮内の散策、この国の歴史やら文献を読みあさる。昼休憩、午後は剣の稽古、商人との打ち合わせで必要なものを頼む程度。夕食、湯浴みからの夜のアヤカシ退治。
(邪気や瘴気の耐性が無い者は、精神的に異常を来しやすい。この国の後宮は元々、そういったものに耐性があるらしいけれど、それでも性格に難のある人間は乗っ取られ易いから、ちょうど良いタイミングだったのかも)
「いやあの男はそれを見越していたと思うぞ」
「え」
「後宮に悪しき神が張り込んだって当たりで、結界の出入りに関して言っていただろう」
「嘘!?」
「ちゃんと話を聞いていないからだ。というか知らないで追い出していたんだな」
「うぐっ……」
「まあ、残った侍女たちで宮を維持するのは問題ないし、邪気や瘴気に耐性もあるので問題ないだろう」
(そんなことまで考えていたんだ……。蒼月が居てくれて良かった)
肩の上でうたた寝している蒼月はモフモフして愛くるしい。すっかりこの場所が定位置になりつつあった。第四王妃の名誉ある死、そして繰り上がりとして私が宮に入ったのは第一王妃から第三王妃、そして一部の文官と大臣たちだとか。
第四王妃の亡骸は陽家が既に引き取ったとかで、なんだか展開が速すぎる。葬儀もなくひっそり、と言うところが不気味だ。
(この国の情勢とかまだよく分かってないけれど、私が新参者ってことで第一王妃たちの顰蹙を買わないようにしよう。そのうち出て行くし……)
「しかし、こうも毎夜毎夜、アヤカシ退治をしても、悪しき神の正体が掴めないとはな」
「気配は感じるのに、出てくるのは眷族ばかりだし……。まあ、地道に削っているけれど、もっとこう手っ取り早く何とかしたいわ。早く帰りたいし」
オコジョ姿の蒼月は尻尾を揺らしながら私の頬を叩く。とっても可愛いので悶絶しそうになった。
「いっそのことここで優雅に暮らすのもアリなのではないか? 元の世界に戻って彼等を救って、その後はどうする?」
「…………」
私が元の世界に戻りたいのは、親戚たちを見捨てることができない──というのも大きいが、一番の目的は復讐だ。私を見下していた連中を認めさせて、見返すこと。
本当にくだらない。けれど、その燻る炎があったからこそ、私は生きることを諦めなかった。神様たちの力になりたいというのもある。
(……復讐、か)
私の凍った心を癒すのは、蒼月だけだった。
でも──、あの夜の彼の温もりは、悪くなかった。自分の目的を忘れてしまうほど、あの温もりと抱きしめられる温かさは心地よかったのだ。
(本当に厄介だなぁ)
想像通りの貴族侍女からの洗礼を受けることに。藤の宮に到着して、皇帝陛下が王宮に戻った瞬間の変わり身の速さといったらビックリした。
「貴族でもない偉人が」
「私たちは貴女を第四王妃とは認めませんわ!」
「四神もきっと怪しげな妖術で誑かしたのよ!」
テンプレ通りの嫌味が出てきた。ここで熱湯とか、物を投げつけることをしないだけでも品性はあるほう──なのだろう。たぶん。本家とか正月挨拶時とか酷かったもん。
「アンタたちが認めようが認めないが、私は第四王妃なのよ。陛下がそういった以上、この宮での実権は私にあるの。嫌なら後宮を去るための書類を渡すけれど?」
「ふん、誰が貴女なんかの言うことを──」
「蒼月」
ベキッバキッ、と侍女の一歩前の床が抉れる。これは単に蒼月が透明化を使って拳を振り下ろしただけだ。だが蒼月が見えない以上、何が起こったのか分からない侍女たちは一瞬でその場に座り込む。
ちょっと悪女っぽい感じで、にっこりと微笑んだ。
「物理的に死ぬのと、社会的に死ぬの、どっちがいいかしら?」
「ひっ!」
「さあ、どっちを選ぶの? 早くしないと物理的に死んじゃうわよ」
「お、お許しください!!」
(おお、効果覿面!)
用意していた書状を持ってあっという間に藤の宮から出て行き、残った侍女たちは一同深々と頭を下げてくれた。
(思ったよりも粘らずに、逃げてくれて良かった……)
それからは後宮での暮らしは穏やかなものだった。もっとも夜のアヤカシ退治は苛烈だったけれど。
日中は遅く起床、宮内の散策、この国の歴史やら文献を読みあさる。昼休憩、午後は剣の稽古、商人との打ち合わせで必要なものを頼む程度。夕食、湯浴みからの夜のアヤカシ退治。
(邪気や瘴気の耐性が無い者は、精神的に異常を来しやすい。この国の後宮は元々、そういったものに耐性があるらしいけれど、それでも性格に難のある人間は乗っ取られ易いから、ちょうど良いタイミングだったのかも)
「いやあの男はそれを見越していたと思うぞ」
「え」
「後宮に悪しき神が張り込んだって当たりで、結界の出入りに関して言っていただろう」
「嘘!?」
「ちゃんと話を聞いていないからだ。というか知らないで追い出していたんだな」
「うぐっ……」
「まあ、残った侍女たちで宮を維持するのは問題ないし、邪気や瘴気に耐性もあるので問題ないだろう」
(そんなことまで考えていたんだ……。蒼月が居てくれて良かった)
肩の上でうたた寝している蒼月はモフモフして愛くるしい。すっかりこの場所が定位置になりつつあった。第四王妃の名誉ある死、そして繰り上がりとして私が宮に入ったのは第一王妃から第三王妃、そして一部の文官と大臣たちだとか。
第四王妃の亡骸は陽家が既に引き取ったとかで、なんだか展開が速すぎる。葬儀もなくひっそり、と言うところが不気味だ。
(この国の情勢とかまだよく分かってないけれど、私が新参者ってことで第一王妃たちの顰蹙を買わないようにしよう。そのうち出て行くし……)
「しかし、こうも毎夜毎夜、アヤカシ退治をしても、悪しき神の正体が掴めないとはな」
「気配は感じるのに、出てくるのは眷族ばかりだし……。まあ、地道に削っているけれど、もっとこう手っ取り早く何とかしたいわ。早く帰りたいし」
オコジョ姿の蒼月は尻尾を揺らしながら私の頬を叩く。とっても可愛いので悶絶しそうになった。
「いっそのことここで優雅に暮らすのもアリなのではないか? 元の世界に戻って彼等を救って、その後はどうする?」
「…………」
私が元の世界に戻りたいのは、親戚たちを見捨てることができない──というのも大きいが、一番の目的は復讐だ。私を見下していた連中を認めさせて、見返すこと。
本当にくだらない。けれど、その燻る炎があったからこそ、私は生きることを諦めなかった。神様たちの力になりたいというのもある。
(……復讐、か)
私の凍った心を癒すのは、蒼月だけだった。
でも──、あの夜の彼の温もりは、悪くなかった。自分の目的を忘れてしまうほど、あの温もりと抱きしめられる温かさは心地よかったのだ。
(本当に厄介だなぁ)
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