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第6話 後宮はモフモフがいっぱいでした

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 すぐさま第四王妃として身綺麗にされたのち、漢服に似た衣服に袖を通した。
 ひらひらで袖も裾も長い服はいざという時に動きにくそうだが、巫女服もこんな感じだったので、まあ大丈夫だろう。たぶん。

 第四王妃は藤の宮らしく、藤色と白を基調とした衣服はなかなかに気に入った。銀色の装飾も悪くない。艶のある黒髪は軽く結ぶ程度にしたが、これなら邪魔にならない。

「ほお、悪くない。今宵が楽しみだな」
「夜這いに来たら問答無用で斬り付けるから」
「夫を受け入れないとは、妻としての自覚が足りないのではないか?」

 随分と余裕綽々な態度だと苛立っていたら、肩にいたオコギョの蒼月が耳元で囁いた。

「馬鹿者。アレは夜にアヤカシ退治をするから部屋を訪れるというのを暗に言っているのだ」
(え、そうなの!? 百パーセント自分のことしか考えてないと思ってた)
「フフッ、今から夜が待ち遠しいな」
「……まあ、その気持ちは分からなくもないが」

 王宮の奧にある後宮は四つの宮があり、四神が暮らす場所でもある。その為、一つの宮の大きさは蒼月の曰く東京ドームほどあるらしい。うん、もう規模とかツッコまない。
 悪しき神が後宮内に潜んでいる、そう聞いていたが後宮の入り口周囲は霧に覆われていたが中は桃源郷のように明るく、美しい花々や庭が広がっていた。

(思っていたのと違う……)

 特に藤の宮は、名を冠するだけ合って様々な藤の花が咲き誇っていた。カーテンのように優雅に揺れる様は圧巻だった。

「思った以上に清浄な空気に満ちているわ」
「四神の住処だからな。そう簡単には落ちない──と言いたいが、池を見てみろ」
「あ……淀みが」

 水面は美しく見えたが、目を凝らせば黒く濁っている。一時的なものだが、軽く塩を撒いてみたら淀みが消えた。この世界でも塩は邪気を祓うのに有効だということが分かったのは大きい。

「ほぉ、塩だけで邪気を祓うとは」
「これは私どもがやっても効果はあるのですか?」
「術者あるいは我が主人以外であれば、気休め程度だろうな」

 颯懍ソンリェン鼬瓏ユウロンの質問に、蒼月が答えた。私もその事実は知らなかったので、ちょっぴり驚いたのは内緒だ。
 第四王妃の藤の宮は北にある。そのため協力交渉する四神は玄武げんぶなのだが。なぜか真っ白なモフモフ虎さんが待ち構えていた。

「なっ!? なぜ西の宮を守護する白虎が!」
「落ち着け鼬瓏ユウロン、玄武でないことが気がかりだが、選定が始まったと考えよ」

 ゴゴゴゴッ、という効果音が聞こえそうな緊張感の場で、白虎が大きな口を開いた。

「モフりたいか?」
「したい! あとハグも!」
「しょうがないなぁ」

 待ち構えていた白虎に抱きつき、モフモフを堪能する。大きさ的に三メートルほどだろうか。真っ白な毛並みに、黒の紋様が美しい。なにより何というイケメンボイス。

「…………は」
「なんという……」
「言ったであろう。我が主人は天然アヤカシタラシなのだと」
「タラシじゃないわ! みんな親切にしてくれるだけよ!」
「それが普通じゃないって、もっと早い段階で教えておくべきだったか……」

 蒼月が何かぼやいていたが気にせず、モフモフを堪能する。その後、青龍と朱雀も愛くるしい姿で現れてたくさん愛でる機会を得ることができた。
 朱雀の羽根もふっさふっさだったけれど、以外だったのは玄武と青龍のモフモフ具合だ。ぬいぐるみのように柔らかい。

「この撫で具合、悪くない」
「毛繕いするのを許してあげても良いんだからね!」
「……一緒に日なたぼっこしよう」

 白虎はかなり巨大だが、残る朱雀、青龍、玄武は抱っこできるほど小さい。というか、力が落ちているらしい。なのでなぜか私の傍に寄ってきた。

(いや、私は空気清浄機とかじゃないのだけれど……)

 清浄な気を持っているとかでもない。調伏師、あるいは邪気と瘴気を祓う程度だ。一族なら当主やベテラン術士など造作も無いだろう。

「沙羅紗殿が、アヤカシに好かれる理由が何となく分かる気がします」
「え?」

 白虎とじゃれ合っていると、鼬瓏ユウロンが声をかけてきた。颯懍ソンリェンの声がしないと思っていたら、他の宮に向かったとか。本当に自由な男だ。

(そういえば、鼬瓏ユウロンが何者なのか聞かされていないような? 呪い持ちだっていうのは皇帝も知っていた風だし、側近あるいは護衛者なのかしら?)
「貴女の傍は何というか、ホッとするような落ち着く」
「それは……初耳です?」
「私もアヤカシに近しいから……そう感じるのかもしれないが」

 意味深な言葉だったが、その時の私は横顔も凜々しいしどう見ても男にしか見えない+女官の女装が似合っているなーとか、馬鹿なことを考えていた。
 結局、その後は話を誤魔化されてしまったが、その日の夜に鼬瓏ユウロンの秘密が分かる。
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