勇魔転移転生 〜勇者の骸の上で魔王は幸福な夢を描く〜

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第3話 魔王と言ったらラスボスです

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 誰もが思ったことを的確に見抜いて、釘を刺した。もしここが「ゲームの世界で死んでもリセットされる」、または「死んだら元の世界に戻れる」と考えて実行する可能性を真っ先に封じたのだ。

「ここはどこなんです?」と誰かの声が上がった。そう、ここがどこなのか。というか何が起こっているのか、ここにいる誰もが同じことを思っていた。

「君たちがいた世界とは異なる世界、魔法と剣の存在する《レーヴ・ログ大国》。ここは始まりの地とされる《アルムの村》よ」
(聞いたことがない。まあ、当然か)
「それとまず念頭に置いてほしいのだけれど、この星は定期的に異世界のエネルギーを取り込むことで延命しているの。君たちの世界にあるパワースポットには、この星を潤わすだけのエネルギーが満ちており、それらを時折拝借しようと取り込んだ際、たまたま運悪く居合わせた人たちごと、この世界に連れて来てしまうようなのよ」
「それって単なる巻き込まれたってことか?」

 思わず声が漏れた。
 魔王と戦うために徴兵された訳でも、国王だとか、神官などの込み入った人類存亡の危機とか、国家間の事情とかでもなく、偶発的な事故に巻きこまれたというのだろうか。

「そうね。運悪く災害のような現象に巻き込まれた──という認識であっているわ」

 酷く軽い。「せいぜい不運な事故だ」と言わんばかりの口調だった。いや巻き込まれる側としてはたまったものではないのだが。

「おい、これって最近ニュースでやっていた行方不明が多発している奴じゃないのか?」
「あ、そういえば」
「無差別で人がいなくなるって……これのこと!? え、でも……」

 周囲から混迷する声や不安が漏れた。そう言われて、元の世界の記憶が朧気に浮かび上がる。

(そういえば……。ここ最近、行方不明が増加したって、ニュースでやっていたような?)

 一瞬だけ元の世界のことを思い出すが、何か忘れているような喪失感が拭えない。何を忘れているのか考えようとするのだが、すぐに霧散して消えてしまう。

(この違和感は……なんだ?)
「それじゃあ、元の世界に戻る方法は……ないの?」

 誰もが思った疑問に対して、ダリアは首肯する。

「ええ。《レーヴ・ログ大国》が建国して三百年が経つけれど、異世界人が『元の世界に戻った』という話は聞かないわ。その辺の詳しい情報がほしいのなら冒険者あるいは職人になって、この世界の統治者である魔王に聞いてみることね!」
「魔王!?」

 HPゲージに次いで冒険者、魔王というゲーム要素臭のするワードが出てきた。だが「聞いてみたら」という言い回しが引っかかる。
 敵対している──訳ではないのだろうか。しかし魔王というワードは他の者たちの不安をかき立てるには充分なワードだった。

「魔王が統治者って……」
「それって危険じゃ?」
「魔王を倒すために呼び出されたとかじゃないよな?」
「それってゲームあるあるでしょう」

 その場にいた全員が魔王と言う単語に、似通った反応を示していた。確かに不穏当なワードではあるが、俺はダリアの言葉を待った。

「ああ、これも正しておくけれど魔王はラスボスでもなければ、倒したからって元の世界に戻るとかじゃないわ。この国を平和に導いた偉大なる人なのだけれど、彼は『英雄』とか『先駆者』って呼ばれたくなくて、魔王を名乗っているのよ」
(自称魔王。なんであえて悪の総大将ともいえる称号を使っているのか──謎だ。というか魔王と名乗るのはデメリットが多すぎないか? 普通に国王とか、統治者とかいろいろあるだろうに、何故その名称を選んだ。厨二病か? それとも本当に――)
「まあ、その話は職業を選択した後で、説明するわ♪」

 ダリアは今後の生活について話を進めた。魔王と名乗っている男よりも、現実問題として今後の身の振り方、衣食住の確保のほうが最優先なのは当然だ。周りも思うところはあったが、ダリアの話に口を挟むことは無かった。

「異世界人の君たちには福利厚生は勿論、生活のサポートは万全だから安心してね。まず三カ月期間は宿一部屋を無償で提供、宿内に風呂トイレ設備在り。三食付き♪」

 ダリアの説明に、俺も含め皆が安堵の声を漏らした。
 異世界と言えば生活水準が大きく異なるのだ。俺としても是非とも衣食住は安定したい。いや冒険もしたいけれど、生活の拠点は大事だと思う。

「三カ月の間に職業を決めてもらうけれど適性なんかもあるし、その都度職業の変更は可能よ。異世界人は冒険者ギルドか、職人ギルドのいずれかを利用しているわ。両方掛け持ちも一応できるから、その辺は気軽にね」

 この世界の都合で呼び出されたとはいえ、あまりにも良心的な対応に怪しんだ。安心させて過酷な労働を虐げる気なのではないだろうか、と悪い方に物事を考えてしまう。

(この世界の事情も分からないから、生活保護みたいな保障があるのは有難い)
「質問じゃ。流通があるのなら、流通貨幣はどうなっている?」

 挙手したのは眉目秀麗、目鼻立ちが整った長耳の森人族エルフの偉丈夫だった。二十代前半の外見に白銀の長い髪、芯の強そうな琥珀色の瞳がダリアを睨む。老人っぽい口調と外見とのギャップに周囲の女性たちは陥落寸前だ。

(くっ、イケメンめ……。その外見で爺キャラはずるいだろう。ハッ、陽菜乃はどういう反応している!?)

 ふと陽菜乃へと振り返ったのだが、「筋肉のつきがイマイチですね」などとずれた感想を呟いていた。うん、彼女が面食いじゃなくてホッとした。
 でも気になる所はそこなのか。

「ギルドに登録後にその辺の講習があるけれど、まあいいわ。答えてあげる♪ 通貨は銅、銀、金の三種類に分かれている。銅貨十枚で銀貨一枚の価値、銀貨百枚で金貨一枚の価値。あと村の外には魔物もいるから、ドロップアイテムした素材なんかはギルドで貨幣と交換も可能よ」
(異世界だと流通関係は物々交換などが多そうなイメージだけれど、やっぱり生活水準が高いと見るべきなのか?)
「それとギルト登録者救済システムがあるから、初期は装備や武器を整えやすいように登録者には金貨一枚を渡しているの。職人ギルドも同じね♪」

 偉丈夫は顎を撫でながら、次の疑問を投げかける。

「ふむ。ちなみに銅貨一枚で何ができる?」
「そうね。宿のEランチ一食分かしら。他に質問は?」
「はいはいはいはーーーい! なんでオレはカボチャ頭で案山子なんだよぅ!? マイハニー!!」
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