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最終章
番外編 クリスマスデート・前編
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晴れて婚約者から伴侶となった私と紫苑は、初のクリスマスデートを迎えていた。今日は仕事をお休みにして、二人で朝からお出かけである。
(紫苑と久し振りのデート!)
思わず気合いを入れて清楚かつ大人っぽい服装をチョイスしてみた。白のニットに紺色のデニムスカート、黒タイツに焦げ茶のブーツ姿だ。本当は和装も考えたが、それはお正月の初詣に取っておくことにした。
コートも新品を用意したので、悪くない――はず。
「小晴が今日も可愛い」
「紫苑」
紫苑は白を基調とした着物に、私のスカートと合わせた紺色の羽織をしていた。両手や首元、片目の包帯は痛々しくもあるがその程度では紫苑の美しさは半減しない。
むしろ儚げな雰囲気と色香が爆上がりして素敵すぎる。
「紫苑も素敵だわ」
「包帯だらけなのに?」
「それも含めて素敵だもの」
「よかった。……この姿で外を一緒に歩き無くない、と言われたらどうしようと思っていたのだ」
「そんなこと言わないわ。むしろ紫苑の色香に他の女性がたくさん見てくると思う……」
「心配には及びません。今回も人除けの術式を強化しておりますので、お館様の認識を正確に把握することはできないでしょう」
「左近さん」
「それではよい一日を」
武家屋敷の正門が開き、私と紫苑は手を繋いで入り口をくぐった。
今回はなんと「恋人繋ぎ」を紫苑が希望したので、恥ずかしくも手を繋ぐ。
「……普通よりも胸がポカポカする」
「(紫苑、前よりも表情が豊かになった気がする)ふふっ、今日はめいいっぱい楽しみましょうね」
「ああ」
午前のデートプランは私で、午後は紫苑が担当する。私は現世でお揃いのマグカップ作り、その後はフレッシュハーブを使った入浴剤作りと体験ツアーを選んでみた。
紫苑は「小晴と一緒に共同作業するのが好き」だと話してくれたからだ。それは飴細工を見ていて、手伝いたいと思ってくれたことから繋がる。
今では私の飴細工の手伝いをするために、工房に入り浸っていることが多い。
早速、マグカップ作りに入るのだが、私は元々手先が器用なのでろくろうを使ったものも難なくこなす。指導員に「え、まさかプロ?」と三回ほど確認されるほどだった。
一方、紫苑は上手く形を作れずに悪戦苦闘している。私が一緒になって傍でアドバイスをした途端、私と全く同じマグカップを作り上げた。
(あ。これは……)
「小晴がいると何でもできそうだ」
それはお世辞とかではなく本心からなのだろう。というか私が世話を焼くのが相当嬉しいのか、できないフリをすることがたびたびある。そのさじ加減は絶妙で、終わった後で「あれ? もしかして」と気付くかどうかのレベルだ。
「小晴とお揃い。それだけで使うのは楽しみだ」
「ふふっ、できあがるのは一ヵ月以上掛かりますけれどね」
「え」
今日持って帰れると思っていた紫苑はあからさまに落ち込むので、「帰りにショップで、お揃いのマグカップを買いませんか?」と提案したら、すぐさま笑顔になった。チョロい。いや同じものがどうしても欲しいと言わないだけ有難い。
ついでに夫婦茶碗や箸なども一式揃えようと提案したら、ぎゅうぎゅうに抱きしめられた。いくら人除けがあっても結構恥ずかしいものだ。
「小晴とお揃いがいっぱい。これからもたくさんのものが増えていく」
「はい。思い出もたくさん作っていきましょうね」
「ああ」
***
その後の入浴剤作りも楽しかった。自分たちで体質や症状に会わせた生葉で入浴剤を作るのだが、まずは庭園のハーブを摘み取るところからやるので中々楽しい。
「天野我原にも似たような空間があるから、今度行ってみるのも楽しそうだ」
「天野我原?」
聞き慣れない単語に紫苑に聞き返した。
「神々の箱庭の一つで、四季折々の様々な薬草がある場所だ」
「(とりあえずとんでもない場所ということだけは分かった)……私が同行してもいいのですか?」
「小晴は私の伴侶だから問題ない。……けれど」
「けれど?」
「小晴と一緒に行く時は、貸し切りにして貰えるように話をつけておく」
「何故に」
「あの場所は変人奇人の者たちが多く集まる。特に薬や食材などに一際煩い連中だ。そんな中、飴細工職人である小晴が行ったらどうなると思う?」
「交流を図ろうとする?」
「下手すれば拉致監禁される」
(怖っ!)
友好的ならいいが、神様や妖怪には話の通じない人種も居る。何より拉致監禁なんて困るのだ。
「それは困りますね。飴細工の仕事や、紫苑と離れ離れになるのはもう嫌ですし!」
「私も小晴と離れることになったら、……土地一つ滅ぼしかねない」
「それは本当にやめてくださいね」
「ああ。だから……小晴は私の傍にいてくれ」
不意打ちで私の頬にキスをする。周囲からは見えなかっただろうが、やっぱり不意打ちはドキマギしてしまう。
本当に狡い。
そう思って、背伸びをして紫苑の頬に触れたら――固まってしまった。その後はしきりに「狡い、可愛い」しか言わなくなってしまったので、時と場所を選ぼうと私は学んだ。
(紫苑と久し振りのデート!)
思わず気合いを入れて清楚かつ大人っぽい服装をチョイスしてみた。白のニットに紺色のデニムスカート、黒タイツに焦げ茶のブーツ姿だ。本当は和装も考えたが、それはお正月の初詣に取っておくことにした。
コートも新品を用意したので、悪くない――はず。
「小晴が今日も可愛い」
「紫苑」
紫苑は白を基調とした着物に、私のスカートと合わせた紺色の羽織をしていた。両手や首元、片目の包帯は痛々しくもあるがその程度では紫苑の美しさは半減しない。
むしろ儚げな雰囲気と色香が爆上がりして素敵すぎる。
「紫苑も素敵だわ」
「包帯だらけなのに?」
「それも含めて素敵だもの」
「よかった。……この姿で外を一緒に歩き無くない、と言われたらどうしようと思っていたのだ」
「そんなこと言わないわ。むしろ紫苑の色香に他の女性がたくさん見てくると思う……」
「心配には及びません。今回も人除けの術式を強化しておりますので、お館様の認識を正確に把握することはできないでしょう」
「左近さん」
「それではよい一日を」
武家屋敷の正門が開き、私と紫苑は手を繋いで入り口をくぐった。
今回はなんと「恋人繋ぎ」を紫苑が希望したので、恥ずかしくも手を繋ぐ。
「……普通よりも胸がポカポカする」
「(紫苑、前よりも表情が豊かになった気がする)ふふっ、今日はめいいっぱい楽しみましょうね」
「ああ」
午前のデートプランは私で、午後は紫苑が担当する。私は現世でお揃いのマグカップ作り、その後はフレッシュハーブを使った入浴剤作りと体験ツアーを選んでみた。
紫苑は「小晴と一緒に共同作業するのが好き」だと話してくれたからだ。それは飴細工を見ていて、手伝いたいと思ってくれたことから繋がる。
今では私の飴細工の手伝いをするために、工房に入り浸っていることが多い。
早速、マグカップ作りに入るのだが、私は元々手先が器用なのでろくろうを使ったものも難なくこなす。指導員に「え、まさかプロ?」と三回ほど確認されるほどだった。
一方、紫苑は上手く形を作れずに悪戦苦闘している。私が一緒になって傍でアドバイスをした途端、私と全く同じマグカップを作り上げた。
(あ。これは……)
「小晴がいると何でもできそうだ」
それはお世辞とかではなく本心からなのだろう。というか私が世話を焼くのが相当嬉しいのか、できないフリをすることがたびたびある。そのさじ加減は絶妙で、終わった後で「あれ? もしかして」と気付くかどうかのレベルだ。
「小晴とお揃い。それだけで使うのは楽しみだ」
「ふふっ、できあがるのは一ヵ月以上掛かりますけれどね」
「え」
今日持って帰れると思っていた紫苑はあからさまに落ち込むので、「帰りにショップで、お揃いのマグカップを買いませんか?」と提案したら、すぐさま笑顔になった。チョロい。いや同じものがどうしても欲しいと言わないだけ有難い。
ついでに夫婦茶碗や箸なども一式揃えようと提案したら、ぎゅうぎゅうに抱きしめられた。いくら人除けがあっても結構恥ずかしいものだ。
「小晴とお揃いがいっぱい。これからもたくさんのものが増えていく」
「はい。思い出もたくさん作っていきましょうね」
「ああ」
***
その後の入浴剤作りも楽しかった。自分たちで体質や症状に会わせた生葉で入浴剤を作るのだが、まずは庭園のハーブを摘み取るところからやるので中々楽しい。
「天野我原にも似たような空間があるから、今度行ってみるのも楽しそうだ」
「天野我原?」
聞き慣れない単語に紫苑に聞き返した。
「神々の箱庭の一つで、四季折々の様々な薬草がある場所だ」
「(とりあえずとんでもない場所ということだけは分かった)……私が同行してもいいのですか?」
「小晴は私の伴侶だから問題ない。……けれど」
「けれど?」
「小晴と一緒に行く時は、貸し切りにして貰えるように話をつけておく」
「何故に」
「あの場所は変人奇人の者たちが多く集まる。特に薬や食材などに一際煩い連中だ。そんな中、飴細工職人である小晴が行ったらどうなると思う?」
「交流を図ろうとする?」
「下手すれば拉致監禁される」
(怖っ!)
友好的ならいいが、神様や妖怪には話の通じない人種も居る。何より拉致監禁なんて困るのだ。
「それは困りますね。飴細工の仕事や、紫苑と離れ離れになるのはもう嫌ですし!」
「私も小晴と離れることになったら、……土地一つ滅ぼしかねない」
「それは本当にやめてくださいね」
「ああ。だから……小晴は私の傍にいてくれ」
不意打ちで私の頬にキスをする。周囲からは見えなかっただろうが、やっぱり不意打ちはドキマギしてしまう。
本当に狡い。
そう思って、背伸びをして紫苑の頬に触れたら――固まってしまった。その後はしきりに「狡い、可愛い」しか言わなくなってしまったので、時と場所を選ぼうと私は学んだ。
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