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最終章
第52話 白蛇神・紅の視点
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白蛇神──もともとは膨大な霊脈から派生した存在であり、山の神でもあり、風の神、空の神、海の神、燃えさかる炎の神でもあった。神々が数多生まれる前から存在していた古き存在。
しかしあまりにも強大な力のため、余は自分の権能を含めた様々なものを削ぎ落としていった。その中でも大きく余の負の面を削ぎ落として生まれたのが紫苑だった。
人の世が乱れた世界では邪気やヨクナイモノで溢れそれらも名を変え、姿を変えて根付く。
紫苑はそれらを刈り取り、殺し続けた。
誰も止めなかったし、必要なことだと割り切っていた。
紫苑は動けなくなるまで戦い、そして時代の節目で眠り続ける。それが紫苑の役割だと思っていたが、それに波紋を生じさせたのは、小晴だった。
千年前、彼女は飴細工一つで、私の世界を変えていった。
それも紫苑の婚約者として、堂々とした立ち振る舞いに驚いたものだ。
(あの紫苑に婚約者が?)
彼女が作り出した飴細工は素晴らしく、あの場に残していった飴の殆どを星香から言い値で買い取った。
美しく、甘く極上の味。
ラムネ味は特に絶品でもう一度食べるためにも、彼女がいた時間軸まで準備を整えることを考えた。
そう考えると紫苑の扱いも変える必要があると考え、従者や住む場所、世話をする土地を与えた。
筋書きは完璧だった。
だが、最後の最後で小晴と紫苑の結びつきを甘く見ていた。形だけの婚約、稀人を保護するためだけのものだとそう思っていたが、それは違ったようだ。
(……勝算はあったのだが、やはり紫苑を選ぶか)
千年の長きに渡る計画の詰めの甘さに口元が緩んだ。
それでもこの結果に満足もしていた。今後はあの極上な飴が、今後はより簡単に手に入るのだ。
あの店の商品を賭けて毎月有象無象の会議も、今後は大きく変わるだろう。よりよく小晴が望む形にようやく収まる。
何よりまた飴細工作りを間近で見る機会と立ち位置を得たのだ。悪くない。
(正月には千年前に作っていた大型飴細工を依頼するのもいいだろう。それにこの時代ではラムネ味以外にも、ソーダ味もなかなかにいい。金太郎飴も悪くない)
先ほど千年前に時間移動した時にくすねたラムネ味の飴を口に入れる。
出来たてであり、現段階で最高峰の飴玉の味は、筆舌に尽くし難い。
「自分だけ美味しい立ち位置を手に入れるなんてずるいなぁ」
「これは、九尾ではないか」
日本庭園を眺めながら幸福感に包まれていた気持ちが少しだけ削がれる。
九尾は陰陽師のような服装を好み、佇む姿は何かを企むような顔をしていた。昔から神算鬼謀に関しては得意だった男だ。
そんな彼が岩の封印から解かれて、暴れ出すかと思えば、のらりくらりとしているのだから、何か壮大な計画を企んでいると警戒するのは当然だった。
「小晴を嫁にしようと計画していたけれど、今の所まぁーーーったく隙が無いからな。まあ、俺は小晴が幸福ならなんでも良いし、アイツの望むように生きるだけだけれど」
「だから貴公ほどの者が、小晴の守護者枠に入ったと?」
「そう。小晴はさ、俺に復讐するのは止めないけれど、その先のことをどうするのか考えさせるきっかけをくれたんだ。その大恩は返さなければならないだろう? それを返し終わって初めて、同じテーブルに着けるというものだ」
それが九尾の矜持なのだろう。
それにしても小晴のファンクラブナンバー2の『たま姫』というのは伊達や酔狂ではなかったようだ。
星香といい、この九尾といい、小晴と縁を結んだ者たちは、まだまだたくさん居るのだろう。
今後も面倒事に巻き込まれるだろうと思うと、今の立ち位置は都合が良い。
「そうか。貴公が敵でないのなら心強いものだ」
「俺としてもアンタが敵じゃなくてよかったと思っているよ」
そう言って九尾はベッコウ飴を口にする。なんでも幼い頃に小晴が作った飴だとか。あんな甘ったるい味が好きとは意外だった。
「今度、小晴に人外専用の飴細工ツアーを提案してみる予定だが、どう思う?」
「え、控えめに言って最高なんだけれど」
「であろう。それなら湯水のように小晴に貢げるしな」
「小晴と合法的に会うことができるのなら完璧だ。……だが、そのツアーを大々的にやるとしたら戦争が起こるんじゃないか?」
九尾の懸念はもっともだ。それを気付かぬほど余は耄碌していない。
「案ずるな。まずは身内で始めると良い、余と守護者枠、そしてファンクラブから権利を得られるとすれば統率が取れるだろう」
「ああ、たしかに。小晴を愛でる会に入るには小晴に害を及ぼさないなどの細かな取り決めもあるので、一度入ればその誓約を盾にできるもんなぁ」
「クリスマスと正月はバタバタするので、
結構は如月を考えている」
「ん? そんなに期間をおく必要があるのか?」
珍しく勘が働いていないのか、九尾は小首を傾げる。
「二月であれば、あの行事があるだろう」
「ま、まさか」
「そう、愛之告白之日だ。当然、飴細工の形もハートマークが多くなる」
「その手があったか! これは話を詰めてツアーメンバーも厳選しなければ……」
「もちろん、噂を流すような口の軽い奴は参加不可だ」
「それな」
こうして小晴の知らないところで、今後の人外専門飴細工ツアーが爆誕したのだった。
彼女がこのツアーを知るのはお正月後、左近経由で知ることになる。
しかしそれはまた別のお話。
しかしあまりにも強大な力のため、余は自分の権能を含めた様々なものを削ぎ落としていった。その中でも大きく余の負の面を削ぎ落として生まれたのが紫苑だった。
人の世が乱れた世界では邪気やヨクナイモノで溢れそれらも名を変え、姿を変えて根付く。
紫苑はそれらを刈り取り、殺し続けた。
誰も止めなかったし、必要なことだと割り切っていた。
紫苑は動けなくなるまで戦い、そして時代の節目で眠り続ける。それが紫苑の役割だと思っていたが、それに波紋を生じさせたのは、小晴だった。
千年前、彼女は飴細工一つで、私の世界を変えていった。
それも紫苑の婚約者として、堂々とした立ち振る舞いに驚いたものだ。
(あの紫苑に婚約者が?)
彼女が作り出した飴細工は素晴らしく、あの場に残していった飴の殆どを星香から言い値で買い取った。
美しく、甘く極上の味。
ラムネ味は特に絶品でもう一度食べるためにも、彼女がいた時間軸まで準備を整えることを考えた。
そう考えると紫苑の扱いも変える必要があると考え、従者や住む場所、世話をする土地を与えた。
筋書きは完璧だった。
だが、最後の最後で小晴と紫苑の結びつきを甘く見ていた。形だけの婚約、稀人を保護するためだけのものだとそう思っていたが、それは違ったようだ。
(……勝算はあったのだが、やはり紫苑を選ぶか)
千年の長きに渡る計画の詰めの甘さに口元が緩んだ。
それでもこの結果に満足もしていた。今後はあの極上な飴が、今後はより簡単に手に入るのだ。
あの店の商品を賭けて毎月有象無象の会議も、今後は大きく変わるだろう。よりよく小晴が望む形にようやく収まる。
何よりまた飴細工作りを間近で見る機会と立ち位置を得たのだ。悪くない。
(正月には千年前に作っていた大型飴細工を依頼するのもいいだろう。それにこの時代ではラムネ味以外にも、ソーダ味もなかなかにいい。金太郎飴も悪くない)
先ほど千年前に時間移動した時にくすねたラムネ味の飴を口に入れる。
出来たてであり、現段階で最高峰の飴玉の味は、筆舌に尽くし難い。
「自分だけ美味しい立ち位置を手に入れるなんてずるいなぁ」
「これは、九尾ではないか」
日本庭園を眺めながら幸福感に包まれていた気持ちが少しだけ削がれる。
九尾は陰陽師のような服装を好み、佇む姿は何かを企むような顔をしていた。昔から神算鬼謀に関しては得意だった男だ。
そんな彼が岩の封印から解かれて、暴れ出すかと思えば、のらりくらりとしているのだから、何か壮大な計画を企んでいると警戒するのは当然だった。
「小晴を嫁にしようと計画していたけれど、今の所まぁーーーったく隙が無いからな。まあ、俺は小晴が幸福ならなんでも良いし、アイツの望むように生きるだけだけれど」
「だから貴公ほどの者が、小晴の守護者枠に入ったと?」
「そう。小晴はさ、俺に復讐するのは止めないけれど、その先のことをどうするのか考えさせるきっかけをくれたんだ。その大恩は返さなければならないだろう? それを返し終わって初めて、同じテーブルに着けるというものだ」
それが九尾の矜持なのだろう。
それにしても小晴のファンクラブナンバー2の『たま姫』というのは伊達や酔狂ではなかったようだ。
星香といい、この九尾といい、小晴と縁を結んだ者たちは、まだまだたくさん居るのだろう。
今後も面倒事に巻き込まれるだろうと思うと、今の立ち位置は都合が良い。
「そうか。貴公が敵でないのなら心強いものだ」
「俺としてもアンタが敵じゃなくてよかったと思っているよ」
そう言って九尾はベッコウ飴を口にする。なんでも幼い頃に小晴が作った飴だとか。あんな甘ったるい味が好きとは意外だった。
「今度、小晴に人外専用の飴細工ツアーを提案してみる予定だが、どう思う?」
「え、控えめに言って最高なんだけれど」
「であろう。それなら湯水のように小晴に貢げるしな」
「小晴と合法的に会うことができるのなら完璧だ。……だが、そのツアーを大々的にやるとしたら戦争が起こるんじゃないか?」
九尾の懸念はもっともだ。それを気付かぬほど余は耄碌していない。
「案ずるな。まずは身内で始めると良い、余と守護者枠、そしてファンクラブから権利を得られるとすれば統率が取れるだろう」
「ああ、たしかに。小晴を愛でる会に入るには小晴に害を及ぼさないなどの細かな取り決めもあるので、一度入ればその誓約を盾にできるもんなぁ」
「クリスマスと正月はバタバタするので、
結構は如月を考えている」
「ん? そんなに期間をおく必要があるのか?」
珍しく勘が働いていないのか、九尾は小首を傾げる。
「二月であれば、あの行事があるだろう」
「ま、まさか」
「そう、愛之告白之日だ。当然、飴細工の形もハートマークが多くなる」
「その手があったか! これは話を詰めてツアーメンバーも厳選しなければ……」
「もちろん、噂を流すような口の軽い奴は参加不可だ」
「それな」
こうして小晴の知らないところで、今後の人外専門飴細工ツアーが爆誕したのだった。
彼女がこのツアーを知るのはお正月後、左近経由で知ることになる。
しかしそれはまた別のお話。
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