【完結】白蛇神様は甘いご褒美をご所望です

あさぎかな@電子書籍二作目発売中

文字の大きさ
上 下
52 / 57
最終章

第52話 白蛇神・紅の視点

しおりを挟む
 白蛇神──もともとは膨大な霊脈から派生した存在であり、山の神でもあり、風の神、空の神、海の神、燃えさかる炎の神でもあった。神々が数多生まれる前から存在していた古き存在。

 しかしあまりにも強大な力のため、余は自分の権能を含めた様々なものを削ぎ落としていった。その中でも大きく余の負の面を削ぎ落として生まれたのが紫苑だった。
 人の世が乱れた世界では邪気やヨクナイモノで溢れそれらも名を変え、姿を変えて根付く。
 紫苑はそれらを刈り取り、殺し続けた。
 誰も止めなかったし、必要なことだと割り切っていた。

 紫苑は動けなくなるまで戦い、そして時代の節目で眠り続ける。それが紫苑の役割だと思っていたが、それに波紋を生じさせたのは、小晴だった。

 千年前、彼女は飴細工一つで、私の世界を変えていった。
 それも紫苑の婚約者として、堂々とした立ち振る舞いに驚いたものだ。

(あの紫苑に婚約者が?)

 彼女が作り出した飴細工は素晴らしく、あの場に残していった飴の殆どを星香から言い値で買い取った。

 美しく、甘く極上の味。
 ラムネ味は特に絶品でもう一度食べるためにも、彼女がいた時間軸まで準備を整えることを考えた。

 そう考えると紫苑の扱いも変える必要があると考え、従者や住む場所、世話をする土地を与えた。
 筋書きは完璧だった。
 だが、最後の最後で小晴と紫苑の結びつきを甘く見ていた。形だけの婚約、稀人を保護するためだけのものだとそう思っていたが、それは違ったようだ。

(……勝算はあったのだが、やはり紫苑を選ぶか)

 千年の長きに渡る計画の詰めの甘さに口元が緩んだ。
 それでもこの結果に満足もしていた。今後はあの極上な飴が、今後はより簡単に手に入るのだ。

 あの店の商品を賭けて毎月有象無象の会議も、今後は大きく変わるだろう。よりよく小晴が望む形にようやく収まる。
 何よりまた飴細工作りを間近で見る機会と立ち位置を得たのだ。悪くない。

(正月には千年前に作っていた大型飴細工を依頼するのもいいだろう。それにこの時代ではラムネ味以外にも、ソーダ味もなかなかにいい。金太郎飴も悪くない)

 先ほど千年前に時間移動した時にくすねたラムネ味の飴を口に入れる。
 出来たてであり、現段階で最高峰の飴玉の味は、筆舌に尽くし難い。

「自分だけ美味しい立ち位置を手に入れるなんてずるいなぁ」
「これは、九尾ではないか」

 日本庭園を眺めながら幸福感に包まれていた気持ちが少しだけ削がれる。

 九尾は陰陽師のような服装を好み、佇む姿は何かを企むような顔をしていた。昔から神算鬼謀に関しては得意だった男だ。
 そんな彼が岩の封印から解かれて、暴れ出すかと思えば、のらりくらりとしているのだから、何か壮大な計画を企んでいると警戒するのは当然だった。

「小晴を嫁にしようと計画していたけれど、今の所まぁーーーったく隙が無いからな。まあ、俺は小晴が幸福ならなんでも良いし、アイツの望むように生きるだけだけれど」
「だから貴公ほどの者が、小晴の守護者枠に入ったと?」
「そう。小晴はさ、俺に復讐するのは止めないけれど、その先のことをどうするのか考えさせるきっかけをくれたんだ。その大恩は返さなければならないだろう? それを返し終わって初めて、同じテーブルに着けるというものだ」

 それが九尾の矜持なのだろう。
 それにしても小晴のファンクラブナンバー2の『たま姫』というのは伊達や酔狂ではなかったようだ。

 星香といい、この九尾といい、小晴と縁を結んだ者たちは、まだまだたくさん居るのだろう。

 今後も面倒事おもしろいことに巻き込まれるだろうと思うと、今の立ち位置は都合が良い。

「そうか。貴公が敵でないのなら心強いものだ」
「俺としてもアンタが敵じゃなくてよかったと思っているよ」

 そう言って九尾はベッコウ飴を口にする。なんでも幼い頃に小晴が作った飴だとか。あんな甘ったるい味が好きとは意外だった。

「今度、小晴に人外専用の飴細工ツアーを提案してみる予定だが、どう思う?」
「え、控えめに言って最高なんだけれど」
「であろう。それなら湯水のように小晴に貢げるしな」
「小晴と合法的に会うことができるのなら完璧だ。……だが、そのツアーを大々的にやるとしたら戦争が起こるんじゃないか?」

 九尾の懸念はもっともだ。それを気付かぬほど余は耄碌していない。

「案ずるな。まずは身内で始めると良い、余と守護者枠、そしてファンクラブから権利を得られるとすれば統率が取れるだろう」
「ああ、たしかに。小晴を愛でる会ファンクラブに入るには小晴に害を及ぼさないなどの細かな取り決めもあるので、一度入ればその誓約を盾にできるもんなぁ」
「クリスマスと正月はバタバタするので、
 結構は如月2月を考えている」
「ん? そんなに期間をおく必要があるのか?」

 珍しく勘が働いていないのか、九尾は小首を傾げる。

「二月であれば、あの行事があるだろう」
「ま、まさか」
「そう、愛之告白之日バレンタインだ。当然、飴細工の形もハートマークが多くなる」
「その手があったか! これは話を詰めてツアーメンバーも厳選しなければ……」
「もちろん、噂を流すような口の軽い奴は参加不可だ」
「それな」


 こうして小晴の知らないところで、今後の人外専門飴細工ツアーが爆誕したのだった。
 彼女がこのツアーを知るのはお正月後、左近経由で知ることになる。
 しかしそれはまた別のお話。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

大正石華恋蕾物語

響 蒼華
キャラ文芸
■一:贄の乙女は愛を知る 旧題:大正石華戀奇譚<一> 桜の章 ――私は待つ、いつか訪れるその時を。 時は大正。処は日の本、華やぐ帝都。 珂祥伯爵家の長女・菫子(とうこ)は家族や使用人から疎まれ屋敷内で孤立し、女学校においても友もなく独り。 それもこれも、菫子を取り巻くある噂のせい。 『不幸の菫子様』と呼ばれるに至った過去の出来事の数々から、菫子は誰かと共に在る事、そして己の将来に対して諦観を以て生きていた。 心許せる者は、自分付の女中と、噂畏れぬただ一人の求婚者。 求婚者との縁組が正式に定まろうとしたその矢先、歯車は回り始める。 命の危機にさらされた菫子を救ったのは、どこか懐かしく美しい灰色の髪のあやかしで――。 そして、菫子を取り巻く運命は動き始める、真実へと至る悲哀の終焉へと。 ■二:あやかしの花嫁は運命の愛に祈る 旧題:大正石華戀奇譚<二> 椿の章 ――あたしは、平穏を愛している 大正の時代、華の帝都はある怪事件に揺れていた。 其の名も「血花事件」。 体中の血を抜き取られ、全身に血の様に紅い花を咲かせた遺体が相次いで見つかり大騒ぎとなっていた。 警察の捜査は後手に回り、人々は怯えながら日々を過ごしていた。 そんな帝都の一角にある見城診療所で働く看護婦の歌那(かな)は、優しい女医と先輩看護婦と、忙しくも充実した日々を送っていた。 目新しい事も、特別な事も必要ない。得る事が出来た穏やかで変わらぬ日常をこそ愛する日々。 けれど、歌那は思わぬ形で「血花事件」に関わる事になってしまう。 運命の夜、出会ったのは紅の髪と琥珀の瞳を持つ美しい青年。 それを契機に、歌那の日常は変わり始める。 美しいあやかし達との出会いを経て、帝都を揺るがす大事件へと繋がる運命の糸車は静かに回り始める――。 ※時代設定的に、現代では女性蔑視や差別など不適切とされる表現等がありますが、差別や偏見を肯定する意図はありません。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

となりの京町家書店にはあやかし黒猫がいる!

葉方萌生
キャラ文芸
★第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。お読みくださった皆様、本当にありがとうございます!! 京都祇園、弥生小路にひっそりと佇む創業百年の老舗そば屋『やよい庵』で働く跡取り娘・月見彩葉。 うららかな春のある日、新しく隣にできた京町家書店『三つ葉書店』から黒猫が出てくるのを目撃する。 夜、月のない日に黒猫が喋り出すのを見てしまう。 「ええええ! 黒猫が喋ったーー!?」 四月、気持ちを新たに始まった彩葉の一年だったが、人語を喋る黒猫との出会いによって、日常が振り回されていく。 京町家書店×あやかし黒猫×イケメン書店員が繰り広げる、心温まる爽快ファンタジー!

処理中です...