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最終章
第51話 何度でも言います
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へにゃりとなっている白蛇をよく見ると瞳が薄らと青紫色に近い。これは近くで見るとわかった。
先ほどの告白は、紫苑的に刺激が強すぎたのか照れてうねうねしている。ちゃっかり私の腕に巻きついて離れないのは、あいかわらずというか、なんというか。
「この姿の紫苑も素敵ですね」
「小晴がどんどん大胆になっていく……。そんなところも可愛い」
(目をキラキラさせて……どっちが可愛いのだか)
そっと頭を撫でたら、ご機嫌になった。チョロすぎませんかね。そんなところも好きになってしまった。
「些かお前たちを侮っていたようだ。だが、これならどうだ?」
「え?」
「──っ!? 小晴、見るな」
紅が指を鳴らした途端、白蛇になっていた紫苑が人の姿に戻った。しかしその姿は私の知る姿とは異なり、上半身がむき出しになって赤黒い鱗や痣、火傷のようなものが全身に広がっていた。
(黒の袴に裸足……。ずっと放浪していたような姿は?)
白銀の美しかった髪も赤黒い血が固まったようで、カピカピだった。顔色は悪く、宝石のように美しい青紫の瞳が仄暗い色で私を見ていた。
「……っ」
「紫苑……」
「そうそれが愚弟の本来の姿だ。戦い続け、呪いと災いを身に宿した余の側面を切り落とした。お前が見ていたのは、余の写し身であり偽りの姿。これを見ても、まだ愚弟の花嫁になりたいというのか?」
「花嫁……」
紫苑の本当の姿を見て、彼が以前話してくれたことを思い出す。
(昼も夜も関係なく、戦い続けて殺し続けた神様。それだけ戦い続けていたら、痛みなどの感覚なども失って──ううん、捨ててしまったのね。戦いに邪魔になるから、感情も全部、削ぎ落として身軽にしていた。紫苑が時々無垢な言動をするのは、心を少しずつ動かすようになったから……?)
紫苑の姿が痛々しくて、見ているこっちが痛くなる。
紫苑は一度だけ私と目線を合わせたがすぐに俯いてしまった。長い髪で顔がよく見えない。それが酷く辛かった。
「紫苑……」
今の私は紫苑に嫌われるほうが怖い。離ればなれになることも嫌だ。
紫苑も同じように思ってくれているのだろうか?
「もう私と目を合わせてくれないの?」
「そんなことはない……。だが……この姿は……あまりにも醜くて……汚れている」
「どこが!? 紫苑の体がこうなったのはずっと戦い続けた時のままにしていたからでしょう! 千年以上戦い続けた姿なら、千年以上かけて体を癒していきましょう! 私は元々人間ですから紫苑の花嫁になって、どこまで生きられるかわかりませんが、それでも体の傷を癒す手伝いをさせてください!」
「え……」
バッと紫苑が顔を上げた。その瞬間を狙って私は彼にキスをする。
「!?」
勢いをつけすぎたが、頭突きにならなくてよかった。啄むようなキスだったが、紫苑は目を丸くして固まっていた。
傍の紅も私の言動は予想外だったのか、目を丸くしていた。それを見るとなんだか兄弟だな、と実感する。
「私は、紫苑がまるごと大好きなんです!」
「──っ、あ、う」
「愚弟の醜悪な姿も丸ごと受け入れると?」
「結婚とはそういうものでしょう? いいところばかりじゃないです。けれどそれも引っくるめて、受け入れられるかどうかが大事だと私は思います。何度尋ねられても、私は紫苑と結婚します! 紫苑じゃないと私は嫌なんです!」
「小晴……っ」
紫苑は私に触れようと、手を伸ばしかけて
途中で止めるのが視界に映り込んだ。
「紫苑はいつものようにギュッとしてくれないの? なら──」
私から紫苑に抱きつく。
ぎゅうぎゅうに抱きしめていつもの仕返しを試みたのだが、思いの外効果覿面だったのか、紫苑はポロポロと泣き出してしまった。
「小晴はやっぱりすごい。私の所まで落ちてくるどころか、私を引っ張り上げてしまうなんて……」
「サラッと怖い発言してますよね!?」
「……そんなことない」
今度は私が紫苑に抱きしめられている。いつの間に。
紫苑はいつになくスキンシップをしてくるのだが、いつもよりも肌面積があり──というがよく見ると上半身裸なのだ。
そのため抱きつくと紫苑の心音がよく聞こえるし、引き締まった体の感触が伝わってくる。
(冷静になったら、とてつもなく恥ずかしい!)
しかしここで紫苑から離れようとすると、絶望した顔をしそうなので必死で耐える。
「紫苑、服を着ません? 寒くないです? 今十二月ですし……」
「ううん。小晴が暖かいから大丈夫」
(余計に離れるタイミングを失った! こうなったら紅に……)
「本当に受け入れるとは……想像以上の結果となったな」
(こっちはこっちで切り出すタイミングが難しい!)
紅がようやく立ち直ってくれたので、試練? はこれで終了だろうか。
そう思って安心しかけたのだが、何か忘れているような気がする。
(何か仕上げにすることがあったような?)
「余の花嫁として存分に愛でたかったが、ここまでのものを見せられたのだ、致し方あるまい。呪いのを解く最後の儀式は愚弟に譲るとしよう」
(あ……呪い!!)
ハッとした姿を二人に見られてしまった。
「お前、さては忘れていたな」
「あははは……そんなわけでないですヨ」
「自分が死ぬかもしれないという状態で、本当に変わった娘だ」
(え、そんな危険な状態だったの!?)
気を失ってヨクナイモノに取り囲まれて怖かったけれど、天ちゃん様や星香のところで飴細工に取りかかった時は怖さなんて無かった。
「紫苑の元に戻ることだけ考えていたからかも……」
「小晴っ!」
ぎゅうぎゅうと抱きしめる紫苑に身を預ける。どんな姿をしていても紫苑は紫苑だ。抱きしめられる温もりも、白檀の香りも変わらない。
「見せつけてくれる。……小晴、祝儀の前祝いだ」
「え? ──っ!?」
顔を上げた瞬間、紅に唇を奪われる。
啄むようなソフトタッチな感じでは無く、深いキスに体が固まってしまう。
(え、き、ええ!?)
「兄上!」
「おっと」
紫苑が素早く私を抱き上げて、手を翳す。
突風が巻き起こり、障子や花瓶などが割れる中、紅は早々に日本庭園へと逃げ出していた。
先ほどの告白は、紫苑的に刺激が強すぎたのか照れてうねうねしている。ちゃっかり私の腕に巻きついて離れないのは、あいかわらずというか、なんというか。
「この姿の紫苑も素敵ですね」
「小晴がどんどん大胆になっていく……。そんなところも可愛い」
(目をキラキラさせて……どっちが可愛いのだか)
そっと頭を撫でたら、ご機嫌になった。チョロすぎませんかね。そんなところも好きになってしまった。
「些かお前たちを侮っていたようだ。だが、これならどうだ?」
「え?」
「──っ!? 小晴、見るな」
紅が指を鳴らした途端、白蛇になっていた紫苑が人の姿に戻った。しかしその姿は私の知る姿とは異なり、上半身がむき出しになって赤黒い鱗や痣、火傷のようなものが全身に広がっていた。
(黒の袴に裸足……。ずっと放浪していたような姿は?)
白銀の美しかった髪も赤黒い血が固まったようで、カピカピだった。顔色は悪く、宝石のように美しい青紫の瞳が仄暗い色で私を見ていた。
「……っ」
「紫苑……」
「そうそれが愚弟の本来の姿だ。戦い続け、呪いと災いを身に宿した余の側面を切り落とした。お前が見ていたのは、余の写し身であり偽りの姿。これを見ても、まだ愚弟の花嫁になりたいというのか?」
「花嫁……」
紫苑の本当の姿を見て、彼が以前話してくれたことを思い出す。
(昼も夜も関係なく、戦い続けて殺し続けた神様。それだけ戦い続けていたら、痛みなどの感覚なども失って──ううん、捨ててしまったのね。戦いに邪魔になるから、感情も全部、削ぎ落として身軽にしていた。紫苑が時々無垢な言動をするのは、心を少しずつ動かすようになったから……?)
紫苑の姿が痛々しくて、見ているこっちが痛くなる。
紫苑は一度だけ私と目線を合わせたがすぐに俯いてしまった。長い髪で顔がよく見えない。それが酷く辛かった。
「紫苑……」
今の私は紫苑に嫌われるほうが怖い。離ればなれになることも嫌だ。
紫苑も同じように思ってくれているのだろうか?
「もう私と目を合わせてくれないの?」
「そんなことはない……。だが……この姿は……あまりにも醜くて……汚れている」
「どこが!? 紫苑の体がこうなったのはずっと戦い続けた時のままにしていたからでしょう! 千年以上戦い続けた姿なら、千年以上かけて体を癒していきましょう! 私は元々人間ですから紫苑の花嫁になって、どこまで生きられるかわかりませんが、それでも体の傷を癒す手伝いをさせてください!」
「え……」
バッと紫苑が顔を上げた。その瞬間を狙って私は彼にキスをする。
「!?」
勢いをつけすぎたが、頭突きにならなくてよかった。啄むようなキスだったが、紫苑は目を丸くして固まっていた。
傍の紅も私の言動は予想外だったのか、目を丸くしていた。それを見るとなんだか兄弟だな、と実感する。
「私は、紫苑がまるごと大好きなんです!」
「──っ、あ、う」
「愚弟の醜悪な姿も丸ごと受け入れると?」
「結婚とはそういうものでしょう? いいところばかりじゃないです。けれどそれも引っくるめて、受け入れられるかどうかが大事だと私は思います。何度尋ねられても、私は紫苑と結婚します! 紫苑じゃないと私は嫌なんです!」
「小晴……っ」
紫苑は私に触れようと、手を伸ばしかけて
途中で止めるのが視界に映り込んだ。
「紫苑はいつものようにギュッとしてくれないの? なら──」
私から紫苑に抱きつく。
ぎゅうぎゅうに抱きしめていつもの仕返しを試みたのだが、思いの外効果覿面だったのか、紫苑はポロポロと泣き出してしまった。
「小晴はやっぱりすごい。私の所まで落ちてくるどころか、私を引っ張り上げてしまうなんて……」
「サラッと怖い発言してますよね!?」
「……そんなことない」
今度は私が紫苑に抱きしめられている。いつの間に。
紫苑はいつになくスキンシップをしてくるのだが、いつもよりも肌面積があり──というがよく見ると上半身裸なのだ。
そのため抱きつくと紫苑の心音がよく聞こえるし、引き締まった体の感触が伝わってくる。
(冷静になったら、とてつもなく恥ずかしい!)
しかしここで紫苑から離れようとすると、絶望した顔をしそうなので必死で耐える。
「紫苑、服を着ません? 寒くないです? 今十二月ですし……」
「ううん。小晴が暖かいから大丈夫」
(余計に離れるタイミングを失った! こうなったら紅に……)
「本当に受け入れるとは……想像以上の結果となったな」
(こっちはこっちで切り出すタイミングが難しい!)
紅がようやく立ち直ってくれたので、試練? はこれで終了だろうか。
そう思って安心しかけたのだが、何か忘れているような気がする。
(何か仕上げにすることがあったような?)
「余の花嫁として存分に愛でたかったが、ここまでのものを見せられたのだ、致し方あるまい。呪いのを解く最後の儀式は愚弟に譲るとしよう」
(あ……呪い!!)
ハッとした姿を二人に見られてしまった。
「お前、さては忘れていたな」
「あははは……そんなわけでないですヨ」
「自分が死ぬかもしれないという状態で、本当に変わった娘だ」
(え、そんな危険な状態だったの!?)
気を失ってヨクナイモノに取り囲まれて怖かったけれど、天ちゃん様や星香のところで飴細工に取りかかった時は怖さなんて無かった。
「紫苑の元に戻ることだけ考えていたからかも……」
「小晴っ!」
ぎゅうぎゅうと抱きしめる紫苑に身を預ける。どんな姿をしていても紫苑は紫苑だ。抱きしめられる温もりも、白檀の香りも変わらない。
「見せつけてくれる。……小晴、祝儀の前祝いだ」
「え? ──っ!?」
顔を上げた瞬間、紅に唇を奪われる。
啄むようなソフトタッチな感じでは無く、深いキスに体が固まってしまう。
(え、き、ええ!?)
「兄上!」
「おっと」
紫苑が素早く私を抱き上げて、手を翳す。
突風が巻き起こり、障子や花瓶などが割れる中、紅は早々に日本庭園へと逃げ出していた。
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