【完結】白蛇神様は甘いご褒美をご所望です

あさぎかな@電子書籍二作目発売中

文字の大きさ
上 下
51 / 57
最終章

第51話 何度でも言います

しおりを挟む
 へにゃりとなっている白蛇をよく見ると瞳が薄らと青紫色に近い。これは近くで見るとわかった。

 先ほどの告白は、紫苑的に刺激が強すぎたのか照れてうねうねしている。ちゃっかり私の腕に巻きついて離れないのは、あいかわらずというか、なんというか。

「この姿の紫苑も素敵ですね」
「小晴がどんどん大胆になっていく……。そんなところも可愛い」
(目をキラキラさせて……どっちが可愛いのだか)

 そっと頭を撫でたら、ご機嫌になった。チョロすぎませんかね。そんなところも好きになってしまった。

「些かお前たちを侮っていたようだ。だが、これならどうだ?」
「え?」
「──っ!? 小晴、見るな」

 紅が指を鳴らした途端、白蛇になっていた紫苑が人の姿に戻った。しかしその姿は私の知る姿とは異なり、上半身がむき出しになって赤黒い鱗や痣、火傷のようなものが全身に広がっていた。

(黒の袴に裸足……。ずっと放浪していたような姿は?)


白銀の美しかった髪も赤黒い血が固まったようで、カピカピだった。顔色は悪く、宝石のように美しい青紫の瞳が仄暗い色で私を見ていた。

「……っ」
「紫苑……」
「そうそれが愚弟の本来の姿だ。戦い続け、呪いと災いを身に宿した余の側面を切り落とした。お前が見ていたのは、余の写し身であり偽りの姿。これを見ても、まだ愚弟の花嫁になりたいというのか?」
「花嫁……」

 紫苑の本当の姿を見て、彼が以前話してくれたことを思い出す。

(昼も夜も関係なく、戦い続けて殺し続けた神様。それだけ戦い続けていたら、痛みなどの感覚なども失って──ううん、捨ててしまったのね。戦いに邪魔になるから、感情も全部、削ぎ落として身軽にしていた。紫苑が時々無垢な言動をするのは、心を少しずつ動かすようになったから……?)

 紫苑の姿が痛々しくて、見ているこっちが痛くなる。
 紫苑は一度だけ私と目線を合わせたがすぐに俯いてしまった。長い髪で顔がよく見えない。それが酷く辛かった。

「紫苑……」

 今の私は紫苑に嫌われるほうが怖い。離ればなれになることも嫌だ。
 紫苑も同じように思ってくれているのだろうか? 

「もう私と目を合わせてくれないの?」
「そんなことはない……。だが……この姿は……あまりにも醜くて……汚れている」
「どこが!? 紫苑の体がこうなったのはずっと戦い続けた時のままにしていたからでしょう! 千年以上戦い続けた姿なら、千年以上かけて体を癒していきましょう! 私は元々人間ですから紫苑の花嫁になって、どこまで生きられるかわかりませんが、それでも体の傷を癒す手伝いをさせてください!」
「え……」

 バッと紫苑が顔を上げた。その瞬間を狙って私は彼にキスをする。

「!?」

 勢いをつけすぎたが、頭突きにならなくてよかった。啄むようなキスだったが、紫苑は目を丸くして固まっていた。
 傍の紅も私の言動は予想外だったのか、目を丸くしていた。それを見るとなんだか兄弟だな、と実感する。

「私は、紫苑がまるごと大好きなんです!」
「──っ、あ、う」
「愚弟の醜悪な姿も丸ごと受け入れると?」
「結婚とはそういうものでしょう? いいところばかりじゃないです。けれどそれも引っくるめて、受け入れられるかどうかが大事だと私は思います。何度尋ねられても、私は紫苑と結婚します! 紫苑じゃないと私は嫌なんです!」
「小晴……っ」

 紫苑は私に触れようと、手を伸ばしかけて
 途中で止めるのが視界に映り込んだ。

「紫苑はいつものようにギュッとしてくれないの? なら──」

 私から紫苑に抱きつく。
 ぎゅうぎゅうに抱きしめていつもの仕返しを試みたのだが、思いの外効果覿面だったのか、紫苑はポロポロと泣き出してしまった。

「小晴はやっぱりすごい。私の所まで落ちてくるどころか、私を引っ張り上げてしまうなんて……」
「サラッと怖い発言してますよね!?」
「……そんなことない」

 今度は私が紫苑に抱きしめられている。いつの間に。

 紫苑はいつになくスキンシップをしてくるのだが、いつもよりも肌面積があり──というがよく見ると上半身裸なのだ。

 そのため抱きつくと紫苑の心音がよく聞こえるし、引き締まった体の感触が伝わってくる。

(冷静になったら、とてつもなく恥ずかしい!)

 しかしここで紫苑から離れようとすると、絶望した顔をしそうなので必死で耐える。

「紫苑、服を着ません? 寒くないです? 今十二月ですし……」
「ううん。小晴が暖かいから大丈夫」
(余計に離れるタイミングを失った! こうなったら紅に……)
「本当に受け入れるとは……想像以上の結果となったな」
(こっちはこっちで切り出すタイミングが難しい!)

 紅がようやく立ち直ってくれたので、試練? はこれで終了だろうか。
 そう思って安心しかけたのだが、何か忘れているような気がする。

(何か仕上げにすることがあったような?)
「余の花嫁として存分に愛でたかったが、ここまでのものを見せられたのだ、致し方あるまい。呪いのを解く最後の儀式は愚弟に譲るとしよう」
(あ……呪い!!)

 ハッとした姿を二人に見られてしまった。

「お前、さては忘れていたな」
「あははは……そんなわけでないですヨ」
「自分が死ぬかもしれないという状態で、本当に変わった娘だ」
(え、そんな危険な状態だったの!?)

 気を失ってヨクナイモノに取り囲まれて怖かったけれど、天ちゃん様や星香のところで飴細工に取りかかった時は怖さなんて無かった。

「紫苑の元に戻ることだけ考えていたからかも……」
「小晴っ!」

 ぎゅうぎゅうと抱きしめる紫苑に身を預ける。どんな姿をしていても紫苑は紫苑だ。抱きしめられる温もりも、白檀の香りも変わらない。

「見せつけてくれる。……小晴、祝儀の前祝いだ」
「え? ──っ!?」

 顔を上げた瞬間、紅に唇を奪われる。
 啄むようなソフトタッチな感じでは無く、深いキスに体が固まってしまう。

(え、き、ええ!?)
「兄上!」
「おっと」

 紫苑が素早く私を抱き上げて、手を翳す。
 突風が巻き起こり、障子や花瓶などが割れる中、紅は早々に日本庭園へと逃げ出していた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

大正石華恋蕾物語

響 蒼華
キャラ文芸
■一:贄の乙女は愛を知る 旧題:大正石華戀奇譚<一> 桜の章 ――私は待つ、いつか訪れるその時を。 時は大正。処は日の本、華やぐ帝都。 珂祥伯爵家の長女・菫子(とうこ)は家族や使用人から疎まれ屋敷内で孤立し、女学校においても友もなく独り。 それもこれも、菫子を取り巻くある噂のせい。 『不幸の菫子様』と呼ばれるに至った過去の出来事の数々から、菫子は誰かと共に在る事、そして己の将来に対して諦観を以て生きていた。 心許せる者は、自分付の女中と、噂畏れぬただ一人の求婚者。 求婚者との縁組が正式に定まろうとしたその矢先、歯車は回り始める。 命の危機にさらされた菫子を救ったのは、どこか懐かしく美しい灰色の髪のあやかしで――。 そして、菫子を取り巻く運命は動き始める、真実へと至る悲哀の終焉へと。 ■二:あやかしの花嫁は運命の愛に祈る 旧題:大正石華戀奇譚<二> 椿の章 ――あたしは、平穏を愛している 大正の時代、華の帝都はある怪事件に揺れていた。 其の名も「血花事件」。 体中の血を抜き取られ、全身に血の様に紅い花を咲かせた遺体が相次いで見つかり大騒ぎとなっていた。 警察の捜査は後手に回り、人々は怯えながら日々を過ごしていた。 そんな帝都の一角にある見城診療所で働く看護婦の歌那(かな)は、優しい女医と先輩看護婦と、忙しくも充実した日々を送っていた。 目新しい事も、特別な事も必要ない。得る事が出来た穏やかで変わらぬ日常をこそ愛する日々。 けれど、歌那は思わぬ形で「血花事件」に関わる事になってしまう。 運命の夜、出会ったのは紅の髪と琥珀の瞳を持つ美しい青年。 それを契機に、歌那の日常は変わり始める。 美しいあやかし達との出会いを経て、帝都を揺るがす大事件へと繋がる運命の糸車は静かに回り始める――。 ※時代設定的に、現代では女性蔑視や差別など不適切とされる表現等がありますが、差別や偏見を肯定する意図はありません。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

となりの京町家書店にはあやかし黒猫がいる!

葉方萌生
キャラ文芸
★第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。お読みくださった皆様、本当にありがとうございます!! 京都祇園、弥生小路にひっそりと佇む創業百年の老舗そば屋『やよい庵』で働く跡取り娘・月見彩葉。 うららかな春のある日、新しく隣にできた京町家書店『三つ葉書店』から黒猫が出てくるのを目撃する。 夜、月のない日に黒猫が喋り出すのを見てしまう。 「ええええ! 黒猫が喋ったーー!?」 四月、気持ちを新たに始まった彩葉の一年だったが、人語を喋る黒猫との出会いによって、日常が振り回されていく。 京町家書店×あやかし黒猫×イケメン書店員が繰り広げる、心温まる爽快ファンタジー!

処理中です...