【完結】白蛇神様は甘いご褒美をご所望です

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最終章

第49話 鬼の宴2

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 宝船に金銀財宝の象徴でもある小槌と小判、鯛、鶴と亀を入れて、花は椿寿、菊、桜を選ぶ。

 できあがった大型装飾菓子ピエスモンテは30センチほどのサイズだが、金箔も使ったのでかなり豪華だ。

(ふう。……あとは即興で飴細工加工を行う準備をしたら……ん?)

 ふと周囲の喧騒や台所の物音が消えていることに気づいた。
 ようやく周囲を見回すと板前さんはもちろん、台所に様々な鬼が集まっているのが見えた。しかもガン見で少し怖い。

(え、何この状況!?)
「なるほど、稀人であったか。であればこの状況も納得だ」

 紫苑似の青年は愉快そうに、上げて笑っていた。たったそれだけの仕草なのになんとも絵になる人だ。

「余はクレナイと言う。運ぶのを手伝おう」
「え、でも……」
「他のものではこの素晴らしい飴細工の魅了に負けて、食べられてしまうが?」
「それは困ります」
「無償でと思っているのなら、飴を一つくれれば報酬としては十分だ」
「ではそれで! 協力をお願いします」

 即答すると彼──紅は嬉しそうに頷いた。

「余を使うのに躊躇わぬとは、本当に豪胆だな」
(紫苑に似ているからか、頼みやすいだけなのだけれど……やっぱりすっごく似ている。親戚かな?)


 ***


 宴の場に戻ると、賑やかだった空気がまた変わった。しかし今度は、運んできた宝船を見て驚愕の声を上げる。

「それが娘の芸か?」
「確かに素晴らしく、芳しい匂いがするが物足りないな」
「確かに。この場で見せて欲しかったものだ」

 不満を漏らす星香セイカたちに、私は屋台や出店で用意してきた飴細工前の飴の塊を見せた。

「こちらは雰囲気を良くするための前座です。本番はここから」

 割り箸に飴の塊を突き刺した状態で、まだ飴も固まりきれていない状態だ。
 ここからは時間の勝負。

 説明を切り上げで作業に入る。すると周囲の雰囲気に変わった。
 五分かからずにハサミを使って飴細工で金魚を作り上げ、それから龍やウサギなどの小動物、花も色々作ってみた。

「これは……確かに目を惹く芸だな」
「味も保証します。桜味、ラムネ味、日本酒を使ったもの、黒糖です。抹茶は好みが分かれるので、少しだけですが」
「食べられるときたか! これはすごい」

 大の大人たち──鬼が、子供のようにはしゃいで飴を口にする。
 皆一様に幸せそうな顔をするので、私としては大満足だ。

「何故、松竹梅を入れなかった? 人間にとっては縁起物であろう?」
「祖父は『人にとっての縁起物であって、人外もその限りではない』と言っていたのを思い出したのです。地方によっても縁起物が異なるのですから、人外の方もそうなのではないかと……。なので、私の勝手なイメージも重ねて作ってみました!」

 椿は花の落ち方が首のようだと言うけれど、「荘子」の「上古大椿という者あり、八千歳を以て春と為し、八千歳を秋と為す」と言う椿寿の意味が好きだった。

 菊も縁起が悪いとされたが、天皇家の御紋としても使われており、「菊を飾ると福が来る」と言う意味合いがある。

「美味い。しかも鬼が好む酒をドンピシャで使うとは、文句なしだ。娘の呪いを某が受けよう」
「ありがとうございます!」
「うむ。これより《解呪の儀》を執り行う!」

 ドン、と太鼓の音が響き渡り、ドドドンと太鼓の音が増え、音をなす。
 星香は抜刀の構えから、一瞬で私の体を袈裟斬りにする。

(……っ、痛く……ない?)

 私の体から、黒い煙のようなものが一気に噴き出す。どこに詰まっていたのかというほどに黒い煙は宴の場を煙で覆うとした。

 しかし星香が手を翳した直後、漆黒の煙があっという間に星香の体の中に取り込まれていく。それと同時に体の至る所に黒い藤の紋様が浮かび上がった。

(なんて吸引力……!)
「ふむ、なんとも凄まじい呪いだな……。しかも某では取り除けないほどの呪いを受けているとは……」
「え……今ので全てじゃないのですか!?」

 顎に手を当てて考え込む姿は、凛々しくカッコ良い。しかもいつの間にか上半身がはだけていて、引き締まった筋肉が丸見えだった。黒い藤の紋様も気になるが目のやり場の困ってしまう。

「ふむ、これ以上続ける場合には、契約が必要となる」
「契約……ですか? それは守護者とか、そういった関係性の?」
「うむ。一番手っ取り早いのは、某の嫁になることだがどうだ?」
「よ……(嫁ぇええ!?)」

 つい最近、似たような手口で婚約した記憶が蘇る。

『一目惚れだ』
『小晴のすべてを食べ尽くしたい』
『小晴に一目惚れをした……』
『ずっと傍にいたい。番になってほしい』
『小晴、好き。愛している。……私の花嫁になってくれないか?』

 最初から紫苑は猛アプローチをかけてきた。
 でも私は信じ切れなくて……。

『返さなくていい。私はそんなことを望んでいない。……でも、一方的に恩を感じるのが嫌だというのなら、見返りとして私の傍にいてくれないか?』
『うん、小晴でないと駄目かな。小晴にとって私はよくわからない存在で、困ってしまうかもしれないけれど、今まで通り飴細工作りも、店のことも、私が支えるよ』

 できるだけ私の希望を叶えようとしてくれた。
 私への気持ちだけは譲らない頑固さもあったけれど、それだけ紫苑が私に執着していたということになるんだろう。
 あの時だって、なし崩し的な婚約だったと思い出すと口元が緩んでしまう。

 出会う順番が違っていたら、違う結果になっていたかもしれない。それでも私は紫苑と出会って、婚約者になった。なし崩しだったけれど、それでも──紫苑の婚約者になれてよかったと今でも思っている。

 だから、私の答えは決まっていた。
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