【完結】白蛇神様は甘いご褒美をご所望です

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最終章

第47話 白蛇神・紫苑の視点4

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 間に合ったと、その時は思っていた。
 小晴を抱きしめて取り戻せたと、安堵したもののすぐに異変に気付く。

(呪いに毒。しかもこれは……!)

 小晴を抱きかかえて屋敷に戻ったが、一向に目を覚まさない。顔色も悪く、指先が黒紫色に滲み始めた。体温も低く凍えているよう。治癒をかけても毒や呪いの浸食のほうが早い。

「(一族いいや、もっとだな。数多の術式が複雑に絡み合っている)小晴っ……」
「…………っ」
「お館様、専門家がこちらに向かっております。小晴様を休ませるためにもこちらへ」
「その前に。……いい加減、小晴の影から出てきたらどうだ」


 少し威圧を込めて小晴の影に問いかけた。もし出てこないのなら──消してしまおうか。
 ほんの僅かな沈黙ののち、三つの影が姿を現した。
 銀と灰色の斑な髪を持つ天龍。
 元人間から鬼神になった赤銅色の鎧武者。
 最後に陰陽師姿の九尾。

「(小晴の影から出てきたと言うことは、少なくとも浅からぬ縁がある者。天龍は小晴の飴を重宝して定期的に購入していた古株。他の鬼神と九尾も店の常連ではあるが小晴個人としての縁があるとは報告に入っていない)……一応聞くが、小晴を助ける気はあるということで良いのだな」
「もちろんだよぉ~。じゃなきゃ、今も小晴の魂を僕の領域に避難させてないしぃ~」
「然り。呪いであれば某の出番故、場を整えておった」
「俺だって呪いなら手をかけるけれど、今回は鬼神殿が適任だからな。俺は俺で呪いと毒をかけた一族を逆探知記して、全員殺す準備はできているけれど、殺してもいいか?」

 あくまでも「自分たちは有能だ」と告げ、やることはやっていると言っているのだろう。そんなのは見れば分かる。

 だが一番腹立たしいのは、彼らは小晴を無傷で助けるつもりは最初から無かった点だ。

(現在、守護者枠を競っている最中。本来であれば、高得点を目指して小晴を無傷で連れ帰ることが定石だ。しかし彼らは腐っても人外。人間が抱く慈悲や慈善など存在しない。自分の益にならないことをする人種でもない。小晴を気に入っているのは確かだ。だからこそどんな手を使ってでも守護者枠に入るため、敢えて小晴を危機に陥れ付けいる隙を生み出した)

 人外は妖怪だろうと神だろうと、自分勝手だ。いや自分の感情に実直というのが正しいのかもしれない。

 助けられると自惚れているから、多少傷ついてでも良しとする。それを覆すだけのことができるからこその態度だった。

(……違うな。たとえ失敗して死んだとしても、悲しみ落ち込みはするが、人間は儚いものだと結論を出して終わりだ。似た者がまたすぐに生まれて退屈を紛らわす。そう……考えていた。私も……以前は人間のことをその程度にしか考えていなかったし、興味もなかった)

 小晴が誰かの代わりになることなどない。小晴は私の大切な、唯一無二の存在。だからこそ、自分の目的のために小晴を助けずにタイミングを見計らっていたこの三人が心底、嫌いだ。

「守護者の三席が埋まったか。小晴が望むのなら、お前たちが守護者になるのは構わない──が、次はない」

 そう一度だけ今は目を瞑る。それが小晴を生かすためなのなら、湧き上がる憤怒の怒りも収めてみせる。

 その場に白銀の冷気を三人にぶつける程度で済ませた。

「小晴を傷つけるやり方をしたらどんな理由があろうと、八つ裂きにする。……左近、いくぞ」
「承知しました」


 ***


 縁側を歩き、急いで奥の部屋に向かう。あの場なら清浄な空気が満ちている。
 すぐ後ろには滝があり、竹林に囲まれた部屋。
 小晴と出会ってから戻ったことがなかった眠りの間。いつか小晴を連れてこようと思っていたのに、こんな形で叶ってしまった。

 小晴を布団に寝かせて手をギュッと握りしめる。
 小晴の影が揺らぎ、先ほどの三人が片膝を突いて姿を見せた。
 覚悟あるいい目だ。

「一つ訂正しておくよ、紫。小晴の守護者枠に入るためにワザを静観していた訳じゃないよぉ~。他の二人は知らないけれど。これでも僕は彼女の飴を気に入っているんだ! 周囲の悪意を弱めたり、魂の介入を防いでいたんだからねぇ~。まあ、人間は感情の起伏が激しいから、君に会えない日々が精神を磨耗させていたようだけれど……」
(私が……原因か。けれど私のことを思って寂しくなってくれていたことが、嬉しく思ってしまう)

 皮肉にも、この状況で小晴に好かれていることがわかった。いや実感した。

「呪いを身に宿し食らうのが我ら鬼神だが、小晴とは不思議と縁がある。その縁が何処から来たものか、某は知りたい。それを知るまで、勝手に死なれると困るのだ」
「俺は邪魔なんかしてない。どこぞの神の霊力が強すぎて、下手に動かなかっただけだ。安心しなよ。次なんてない。この先、俺は小晴を守り続ける。守護者になったんだからな」
「…………ならいい」

 身勝手だが今は目を瞑ることにして、呪いのと毒を解呪することに専念する。
 真っ先に致命傷になりかねない毒を天龍が受け持ち、呪いを鬼神が食う──が、ここで異変が起こった。

「小晴!?」

 小晴の姿が半透明になった瞬間、消えたのだ。次に鬼神の姿も半透明になる。

「え!? 僕が繋げた帰り道がずれたんだけれど!」
「カカカッ! ああ、なるほど。千年前の小娘は小晴であったか。であれば此度の縁は因果によるものか」

 鬼神は高笑いをしたまま消えたが、小晴との婚約の証は消えていないことを確認する。その繋がりのおかげで、少しばかり冷静になれた。

(過去の辻道を小晴が通ったのか。であれば小晴の肉体も千年前に──)

 千年前に飛ぶことを躊躇いはしなかった。小晴の元へ急ぎ掛ける。
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