【完結】白蛇神様は甘いご褒美をご所望です

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第4章

第41話 会いたい

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 左近さんは言い淀んだ。
 もしかして他の人を好きになったとか、何か口止めをされているのだろうか。心臓の音がうるさい。

「教えて下さい。紫苑は――」
「神殺しを目論む妖怪たちを一掃している」
「右近!」
「妖怪の……ん、え?」
「だって、もう一週間だろう? お館様的にはまだ数分のような感覚だろうが、人間にとったら一週間って長いし、小晴に黙って行くのは良くないだろう。お館様は人間の機微に疎いんだから!」
「だからと言って……」

 唐突に物騒なワードがてんこ盛りなのだが。
 左近さんは「はあ」と溜息を漏らしながらも捕捉をしてくれた。

(妖怪たちの一掃? 私を嫌いになった……とかではなく?)
「一週間前に小晴様を不安させたことでお館様は……いろいろと曲解していまして……」
「ええっと……曲解?」
「心配させたくないから黙って行くと言い出して失踪……。お館様的にはほんの少し家を空ける間隔でして……」
「一週間連絡無しなのが?」
「はい……。元々世界そのものに興味を持たない方です。数百年単位で眠ることなどありますし、かと思えば騒がしいからと自分に向かってくる妖怪をことごとく屠って土地を焦土にしたこともままあります。小晴様と出会ってからは変わってきていたのですが……」
「私も紫苑が突然姿を見せなくなるなんて思いませんでした。……でも、紫苑が私のことを鬱陶しく思ったり、興味が失せた……と言うわけじゃないのがわかっただけでも良かったです」

 できるだけ明るく告げたのだが、二人は顔を強張らせた。

「お館様に限ってそれはないですね。予想以上のクソ重い愛情で小晴様が押し潰されないか心配です」
「絶対にない。天地がひっくり返って太陽と月が同時に出てきたとしても、それはない! あの重すぎるお嬢への束縛を傍から見ていて、それはない!」
(傍から見ていると、そう見えるのね……)

 二人からは嘘は感じられなかった。
 でも白昼夢で言われた言葉が胸を抉る。

(だって私に誇れるのは飴細工の腕だけだもの)

 甘えたら駄目だ。
 弱みを見せたらつけこまれる。
 常に気を張って、自分で着ることを精一杯やって、走り続けてきた。

 紫苑と出会って走ることをやめて、ゆっくりと歩いたら呼吸が楽で、見落としていた世界を色鮮やかにしてくれた。
 一番辛い時に傍にいて、守ってくれて、支えて――帰る場所を、安心できる場所を与えてくれた。

「紫苑に会いたい。……私が会いに行くことはできますか?」

 待っているだけ、受け取るだけだから不安になる。
 怖くなるんだ。
 奪われたくないなら、大事なら自分の気持ちを紫苑に伝えて、理解し合いたい。
 神様で、高貴で釣り合いとか取れていないけれど、それでも――。

「それでしたら、すぐにお館様に連絡を入れましょう。戦闘中であれば危ないですからね」
「え、でも」
「じゃあ、俺はお館様に連絡入れてくる!」

 そういって右近は姿を消してしまった。
 左近さんはタブレットを取り出して、私に日本地図の画面を見せた。西日本の岐阜辺りが赤く点滅していると思ったら反応が消えて、今度は出雲周辺、次に九州と点々としている。

「ええっと、これは?」
「お館様の服にGPSを付けていたのですが、どうやら各地を行脚しているようです」
(GPS……え、じゃあこの点滅って……)
「もっともお館様の首を狙った連中もいたので先手必勝で、各個撃破をしているようですね。見事な潰しようです」

 あの美しくて穏やかな紫苑からは想像できない。行動力と容赦のなさ。
 心配しないように、私に目隠しをするという紫苑の考えはやっぱり私には理解出来ない。

 紫苑は私を大事にしてくれるけれど、紫苑は自分を大事にしない。しなくても平気だという。
 それが嫌だという私は――人間の考えを、感情を押しつけているだけなのだろうか。

「(それでも……もう一度、話をしたい)……紫苑を狙っている妖怪って、そんなに多いのですか?」
「お館様だけではなく、万の神々を殺して力を得ようと画策する妖怪が一定数いるのは確かです。特にお館様の遍歴はあまり知られておりませんので、組みしやすいと勘違いしたのでしょう」

 私を助けてくれた時に見せてくれた力は圧倒的だった。それでも力の一端なのかもしれないが、紫苑がすごいというのは分かる。

「どうして弱いと思うのでしょう?」
「私も何故あの方を弱いと思えるのか分かりかねます。……もしかすると誰一人戻ってこなかったからこそ、噂や伝承すら残らなかったのかもしれませんね」
(誰一人戻ってこなかった……。紫苑はずっと眠っていたと言っていたけれど、刺されたことがあると言っていたぐらいだから……苛烈な生き方をしていたのかもしれない)

 ふと風に揺られて、庭の藤の花が揺れた。
 淡い色合いに目が行った刹那、血塗れの白蛇神が見えたものの瞬きの合間に、姿は消えていた。

(紫苑?)
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