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第3章
第33話 ちょっとだけ勇気をだして
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「小晴?」
「!?」
耳元で告げられた声にビクリと体が驚き、自分が寝落ちしていたのだと気付く。
どのくらい眠ってしまっただろうか。そう思って顔を上げた瞬間、肩をポンと叩かれて慌てて振り返った。
「え……あ」
「小晴?」
「あ、紫苑。私、眠っていたみたいで……」
「そのようだな。何度か声をかけたのだが、返事がなくて無断で部屋に入ってしまった。……その、すまない」
しゅんと悲しそうな顔をするので、全力で首を横に振った。
「いえ! 謝らないでください! 私ちょっと居眠りしてたみたいで……」
「そうか。……でも寝るのなら布団のほうがいい。私も一緒に横になるから少し休むといい」
「はい……え? 一緒?」
すでに布団が敷かれているのは、突っ込んだほうがいいのだろうか。そして紫苑がすでに横になっている。
「……その……横になるのは、夕食ができるまで……です」
「うん」
紫苑は「おいで」と言わんばかりに両手を広げている。期待に目を輝かせる姿に負けて、おっかなびっくりしつつも、紫苑の腕の中に収まった。結構勇気を出したので、心臓がバクバクと煩い。
「まさか……本当に来てくれるなって……。いつもは照れて代案を出してきていたけど、やっと素直になってくれた?」
「……今も恥ずかしくて死にそうです。でも、その……今回のことで、そんなに落ち込まなかったのは、紫苑が隣にいてくれたからで……紫苑が喜びならって……」
「小晴」
恥ずかしくて紫苑の顔が見られないのに、先ほどから熱い視線が感じられる。
「小晴は私が喜ぶから嫌々しているのかい?」
「ちがいます!」
「やっと私を見てくれたね」
「あ」
やられた。にっこにっこの紫苑は恋の駆け引きにおいても、光の速さで主導権を獲得したようだ。
「紫苑は狡いです」
「その言葉はそっくりそのまま小晴に返すよ。小晴が可愛くって、狡いことばかりする。私を振り回せるのは兄上と小晴ぐらい……いや小晴だけかな」
(言い直した!)
「小晴は可愛い。うん、すっごく可愛い」
(途端に語彙力が失ったのは何故……)
紫苑は宝物を扱うように抱きしめて、こっちが恥ずかしくなるような甘い言葉を贈ってくれる。その温もりに、安心してしまう自分がいた。
(紫苑は神様で、素敵な人で、私の世界を色鮮やかにしてくれた。紫苑もそう少しでも思ってくれていたら嬉しいな)
「小晴」
「~~っ」
自分の中にある冷え切ったものを紫苑は優しく溶かしてくれる。
紫苑は私に触れることが多いのは何となくだけれど、私がここに居るというのを実感したいのかもしれない。
ふと紫苑からお寺で薫るような、お香の匂いがした。伽羅だったか。
「紫苑は今までどなたかとお会いになっていたのですか?」
「面倒な者が来訪して……話をするのも億劫だった。私は早く小晴に会いたかったのに……」
少しだけ離れていただけなのに、その時のことを思い出したのか、ぎゅうぎゅうと抱きしめてきた。
離れたくない、そう思ってくれているのが嬉しい。
こんなに綺麗で美しくて、何でも持ってそうなのに、些細なことに慣れていない生まれたての子供のような顔を覗かせる時がある。
だからだろうか、無意識に彼の頭を撫でてしまう。
その言動に紫苑は目を丸くして固まっている。これはどう受け取るのだろう。「子供扱いしないで」と言って落ち込む――あるいは、「神の頭を撫でるとは」と憤慨するのだろうか。
「あ……紫苑。これは……」
「くすぐったいけれど、嫌じゃない。むずむずする? きっと小晴からキスをされたら、むずむずが治る気がすると思うのだけれど、どうかな?」
「え!?」
とんでもないことを言い出した紫苑はジッと私を見つめる。狡い。自分からキスする勇気がなくて、話を逸らす。
「……ええっと、誰にも頭を撫でられたことはないのですか?」
「後頭部を強打されたことや、槍で串刺しにされた以外はないな」
「…………一体何があったのか気になりますが、聞かないことにします」
「うん。いつか聞きたくなったら言ってほしい」
紫苑は自分のことに興味がないと思ったのか、切なげな声で微笑んだ。私は言葉選びを誤ったと後悔する。
「紫苑」
勇気を振り絞って、額にキスを落とす。お互いに横になっていたから上手くできた。目を潤ませて、顔を赤らめる紫苑は幸せそうだ。
「!?」
耳元で告げられた声にビクリと体が驚き、自分が寝落ちしていたのだと気付く。
どのくらい眠ってしまっただろうか。そう思って顔を上げた瞬間、肩をポンと叩かれて慌てて振り返った。
「え……あ」
「小晴?」
「あ、紫苑。私、眠っていたみたいで……」
「そのようだな。何度か声をかけたのだが、返事がなくて無断で部屋に入ってしまった。……その、すまない」
しゅんと悲しそうな顔をするので、全力で首を横に振った。
「いえ! 謝らないでください! 私ちょっと居眠りしてたみたいで……」
「そうか。……でも寝るのなら布団のほうがいい。私も一緒に横になるから少し休むといい」
「はい……え? 一緒?」
すでに布団が敷かれているのは、突っ込んだほうがいいのだろうか。そして紫苑がすでに横になっている。
「……その……横になるのは、夕食ができるまで……です」
「うん」
紫苑は「おいで」と言わんばかりに両手を広げている。期待に目を輝かせる姿に負けて、おっかなびっくりしつつも、紫苑の腕の中に収まった。結構勇気を出したので、心臓がバクバクと煩い。
「まさか……本当に来てくれるなって……。いつもは照れて代案を出してきていたけど、やっと素直になってくれた?」
「……今も恥ずかしくて死にそうです。でも、その……今回のことで、そんなに落ち込まなかったのは、紫苑が隣にいてくれたからで……紫苑が喜びならって……」
「小晴」
恥ずかしくて紫苑の顔が見られないのに、先ほどから熱い視線が感じられる。
「小晴は私が喜ぶから嫌々しているのかい?」
「ちがいます!」
「やっと私を見てくれたね」
「あ」
やられた。にっこにっこの紫苑は恋の駆け引きにおいても、光の速さで主導権を獲得したようだ。
「紫苑は狡いです」
「その言葉はそっくりそのまま小晴に返すよ。小晴が可愛くって、狡いことばかりする。私を振り回せるのは兄上と小晴ぐらい……いや小晴だけかな」
(言い直した!)
「小晴は可愛い。うん、すっごく可愛い」
(途端に語彙力が失ったのは何故……)
紫苑は宝物を扱うように抱きしめて、こっちが恥ずかしくなるような甘い言葉を贈ってくれる。その温もりに、安心してしまう自分がいた。
(紫苑は神様で、素敵な人で、私の世界を色鮮やかにしてくれた。紫苑もそう少しでも思ってくれていたら嬉しいな)
「小晴」
「~~っ」
自分の中にある冷え切ったものを紫苑は優しく溶かしてくれる。
紫苑は私に触れることが多いのは何となくだけれど、私がここに居るというのを実感したいのかもしれない。
ふと紫苑からお寺で薫るような、お香の匂いがした。伽羅だったか。
「紫苑は今までどなたかとお会いになっていたのですか?」
「面倒な者が来訪して……話をするのも億劫だった。私は早く小晴に会いたかったのに……」
少しだけ離れていただけなのに、その時のことを思い出したのか、ぎゅうぎゅうと抱きしめてきた。
離れたくない、そう思ってくれているのが嬉しい。
こんなに綺麗で美しくて、何でも持ってそうなのに、些細なことに慣れていない生まれたての子供のような顔を覗かせる時がある。
だからだろうか、無意識に彼の頭を撫でてしまう。
その言動に紫苑は目を丸くして固まっている。これはどう受け取るのだろう。「子供扱いしないで」と言って落ち込む――あるいは、「神の頭を撫でるとは」と憤慨するのだろうか。
「あ……紫苑。これは……」
「くすぐったいけれど、嫌じゃない。むずむずする? きっと小晴からキスをされたら、むずむずが治る気がすると思うのだけれど、どうかな?」
「え!?」
とんでもないことを言い出した紫苑はジッと私を見つめる。狡い。自分からキスする勇気がなくて、話を逸らす。
「……ええっと、誰にも頭を撫でられたことはないのですか?」
「後頭部を強打されたことや、槍で串刺しにされた以外はないな」
「…………一体何があったのか気になりますが、聞かないことにします」
「うん。いつか聞きたくなったら言ってほしい」
紫苑は自分のことに興味がないと思ったのか、切なげな声で微笑んだ。私は言葉選びを誤ったと後悔する。
「紫苑」
勇気を振り絞って、額にキスを落とす。お互いに横になっていたから上手くできた。目を潤ませて、顔を赤らめる紫苑は幸せそうだ。
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