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第3章
第27話 嬉しくない再会
しおりを挟む新しくできたカフェらしく、内装がとても可愛らしいアンティーク風の外観に、店内はシャンデリアが吊され、照明はオレンジ色に統一されていた。各スペースに観葉植物とアンティークの調度品などが置かれており、中々雰囲気がある。
(か、かわいい!)
特に季節限定イチゴのパフェクリスマス仕様が人気だそうで、既に行列ができている。最後尾に並びながら紫苑とメニューを真剣に眺めていた。
「…………」
「……紫苑は限定イチゴのパフェですよね?」
「ああ、小晴も同じものにするのかい?」
「!」
同じもの。
思い返せば好きな人と同じものを選ぼうとしたことがあった。そのたびに「同じものを選んだらシェアできないだろう」と憤慨されたことがあったのを思い出す。
価値観の違いにちょっと落ち込んだこともあった。
けれど、今は違う。
紫苑の何気ない言葉にいつも救われる。
「はい。一緒のものを食べるのも、お揃いでいいかもしれませんね、楽しみです」
「小晴、可愛い」
「――!?」
後ろからギュッと抱きついた。
(人前で何て目立つことを! ……って、あれ?)
周囲の人たちは私たちに視線を向けることなく、雑談に花を咲かせている。紫苑の容姿が視界に入れば思わず見惚れてしまいそうなのに、そして公衆の面前でハグをしてくるイケメンに対して反応が薄い、薄すぎる。
「……もしかして人払い的な術式が発動しているのでしょうか?」
「そうだよ。でないとどうでもいい人間たちが会話に入ってくるだろう。左近にも面倒が増えるから、と念を押されていたからね」
「なるほど。……道理で誰も紫苑を見ても反応が薄いわけです」
「うん。小晴の視界に入るのも、話すのも好きだが、それ以外の関わりは煩わしいからね」
「思いのほかストイック……」
私に甘い一面を見せる紫苑だが、他人に関してはかなりドライだったりする。結構自由で人間味満載なのでたまに忘れそうになるが、この方は神様なのだ。
対応策を講じるのは当然だろう。
「考えてごらん、外見だけ取り繕いつつも魂が醜悪な色や匂いを発していたら、会話したくないだろう。小晴は外見も魂も可愛いけれど」
「……そうでした。紫苑は魂の色が見えるのでしたね。つまりは性格がひん曲がっているかとか根性が腐っているかとかも事前に分かるというのは、予防線としては素晴らしい機能だと思います」
「だろう。人間は簡単に外見と上っ面な言葉で騙される」
(ぐっ……)
自分がその最たる者で、騙されて振り回された経験があるとは口に出せなかった。背中から嫌な汗と共に過去の記憶が浮上する。
苦々しい思い出。
(紫苑に失望されたら嫌だな……)
「小晴は優しくて、お人好しだから気にしなくていい」
「え」
「だが少し警戒心は持つように。もしくは私が同席していれば回避出来るようになる」
「――っ」
私の魂の揺らぎを察知したのか、紫苑は私の頭を撫でる。
気持ちが上昇するのは、たぶん私が単純だからだろう。紫苑から貰っているものをこれから私はどれだけ返していけるだろうか。
一つずつ積み重ねていくしかない。それが嫌ではないのが心地よい。
「紫苑。ありが」
「小晴!」
叫び声に振り返ると、そこには元同僚であり幼馴染みの浅緋が佇んでいた。荒い息をして眉をつり上げて鬼の形相だった。
(な、なんでここに浅緋が!?)
「やっと見つけた! ほら、早く行くぞ」
「は?」
一方的に要件をぶつけられ、私の手首を掴もうと手を伸ばす。
私に手を伸ばした刹那、それを止めたのは紫苑だった。その瞬間、硝子の砕けたような音が耳に入る。
「私の小晴に何の用だ?」
「!」
浅緋は紫苑が突然現れたかのように見えたのか、酷く狼狽していた。それと同時に周囲の視線が私たちに向けられ、一気に目立ってしまう。
人払いの術式は一度、人に認識されてしまうと効果が薄れてしまうという。おそらく浅緋が私に接触したことで、周囲の目が向いてしまったのだ。
「お前は小晴の何だよ?」
「婚約者だ」
「はあ!? 冗談だろう」
「紫苑が婚約者なのは本当よ!」
「はあああ!?」
声を荒げる浅緋に、私は驚き紫苑の背に隠れる。それに気付いたのか、彼は一瞬傷ついた顔をしたが、すぐに眉をつり上げた。
「火事になって心配して探し回っていたら、こんな所で男とデートとはいい身分だな」
「何を怒っているのか知らないけれど、浅緋には関係ないでしょう」
なぜ私が浮気をする彼女の立ち位置なのか全然分からない。何より浅緋が私に何をしたのか忘れてしまったのだろうか。
「関係ない――って、四代目の俺が、あの土地の権利を受け付いたんだぞ、お前は俺の下で俺を支える立場だって言うのに、何が関係ないだ!?」
「……消し炭にしてしまおう」
「(発言がものすごく物騒! でもそれだけは阻止しないと!)紫苑、待って」
激昂する浅緋。
今にもこの場の全てを壊しかねないほど静かに怒っている紫苑。
周囲の視線を感じて、二人をレンタルキッチンの奥にあるカフェスペースに誘導することにした。
大変遺憾ではあるものの、イチゴのパフェはまた今度にしよう。
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