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第2章
第25話 幼なじみ浅緋の視点
しおりを挟む浅緋は薄暗いbar店内のカウンターで、一人やけになって酒を煽っていた。ムーディな曲が彼の心を癒すことはなく、腹立たしさで周囲など見えていないようだ。
久し振りに日本に戻ってきた浅緋は幼馴染みの小晴の行方を探していたが、手がかりなし。
連絡が取れないことが、さらに腹立たしくてたまらなかった。
(クソッ、空港に迎えに来いっていったのにすっぽかしたのは、火事があったからしょうがないとしても、何で小晴の居場所が分からない!?)
警察に捜索願を頼んだが、「火事の件で当人の知人と連絡が取れている」と言われてしまい門前払いされた後だった。
幼馴染みとはいえ、身内ではないため部外者扱いされたことも腹立たしかった。もうすぐ家族になるかもしれないと食い下がっても、相手にされなかったのだ。
(チッ、パリで有名になって戻ってきて、告白するつもりだった計画も全部パーだ)
酒を飲み干すとグラスを乱暴に置いた。
空のグラスに入っていた氷がカランと音を鳴らす。
(次にあったら絶対に――)
「荒れているわね。浅緋」
「梨々花か、何の用だ?」
金髪の派手な色の髪に、整った顔立ち、緋色の胸開きニットのワンピースを着こなして、周囲の客の目を惹く美貌をしていた。
浅緋は顔を顰めると、マスターにお代わりを頼んだ。
(面倒な奴に出会ったな)
「連れないわね~。元カノに対して、もう少し優しくしてくれたっていいんじゃない?」
「ハッ、ワガママ女王様は俺には荷が重いからな。俺なんかよりも、お前のぶっ飛んだ金銭感覚に付き合ってくれるセレブを探したらどうだ?」
「まあ、酷いわ。あんなに愛し合ったのに」
「何年前の話だよ」
パリに店を構えて軌道に乗ったあたりで梨々花は、浅緋に声をかけてきた。
極上の女だったが、金遣いと気性の荒さに辟易して三カ月も持たずに別れた。それ以降、女は大人しくて順々な奴に限ると浅緋は考えを改めた。
それこそ幼馴染み――小晴こそが、条件にぴったりだった。
(パリで店を構えて、それから他の店舗を持つようになっていろんな女と付き合ったが、やっぱり小晴以上の女はいなかった)
小晴が学生時代の頃、ちょっと褒めたら頬を赤らめて喜んでいたものだ。努力家で、飴細工にかける情熱は浅緋と同じだった。
(褒めるぐらいで喜ぶなら、今は花や指輪一つでコロッと俺の女になるのは間違いない。飴技術の腕も悪くなかった。やっぱり小晴は俺を支えるにふさわしい。それに気付いて連絡を取ろうとしたって言うのに……。クソッ、俺と駆け引きをするために無視しているのかと思ったが……目論見が外れた)
「で、荒れている理由は?」
「探している幼馴染みと連絡が取れないだけだ」
「ふーん。拒否されているんじゃないの?」
浅緋は梨々花の言っている意味が分からず、目が点になった。馬鹿馬鹿しいと口元が緩んだ。
「アイツに限ってそれはない。つい最近火事があってバタバタしているだけだ」
「火事……ふーん、そう。次は幼馴染みに手を伸ばそうって言う訳ね」
浅緋の隣に腰を下ろしつつ、マスターにミモザを頼んだ。その仕草一つでも周囲を魅了してしまうほど魅惑的だった。
「……元から好きだった」
「でも浅緋って、私もそうだけれど結構、いろんな子と遊んでいたよね」
「遊びだ。本命とは違う」
「その子って、同じ飴細工職人?」
「ああ」
「お人好しで頼みとか断れなさそうなお人好し?」
「ああ」
「名前は柳沢小晴っていう子?」
「――っ!?」
その名前を聞いた瞬間、浅緋は目を見開いて梨々花を睨んだ。
「何を知っている!?」
「ん~、実はね。……私のタイプの男と隣を歩いていたから、探しているのに全然会えないのよね」
「は? 小晴が他の男と歩いているなんてあるわけないだろう。だいたいストーカーならやめておけ」
「失礼ね。……とにかく小晴と連絡を取りたいのは私も一緒なのよ」
「お前も?」
「そう私も探しているのよ、小晴をね。ちょぉーっと、お願い事をしようかなって思っていて」
艶然と微笑む彼女の影には蜘蛛の影が映っていた。
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