【完結】白蛇神様は甘いご褒美をご所望です

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第2章

第23話 本当のこと

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「抗争だなんて、大げさですよ?」
「そんなことはない。それほど小晴を気に入っている連中は多い。ただ……」
「ただ?」
「小晴の住んでいた土地は、元々私の領域だったからね。私の領域に無作法な真似をしてまで、土足で入ってこようとしなかっただけだ」
「時雨さんも言っていましたが、紫苑はこの土地の……神様ということになるのですか?」
「それも兼任をしている。白銀財閥について名前ぐらいは知っているかな?」
「はい、日本有数の財閥ですよね。金融業に力を入れていると、聞いたことがあります」

 財閥の名を出されて固まっていると、紫苑は口元を綻ばせた。

(えっ……まさかの)
「白銀財閥は、私の兄弟の末裔が起こしたグループで、私も現世でもそれなりに立場があるポストに就いている。人外界隈では、人間社会でも融通が利かせられると言えばいいだろうか」
「何だか言い回しが悪役っぽいような?」
「そうかな。……まあ、そんな場所の膝元であからさまな抗争をすればどうなるのか、分かっていたのだろう。小晴の店に出入りをしていた鬼神の末裔も、何かと接触を図っていたようだし」
「鬼神の末裔……。全然気付きませんでした……」

 鬼神の末裔――と言うことは、神様の血脈を持った人、と言うことだろうか。ネット販売でのリピート客は多いが、実際に何度も店を訪れた人は限られている。
 ふと脳裏に軽薄そうな男が浮かび上がった。

「まあ、向こうは小晴の住んでいる土地が危険だと思っていたから、どうにかして小晴を安全な場所に避難させたかったのだろうけれど色恋を出した結果、失敗したようだ」
「え。避難させようと?」

 私のことを気に掛けていて、立ち退きをさせたかったと言うほうが衝撃だった。完全に私利私欲のためだと思っていたから驚きだ。

(でもあの電話で話しているの聞くまでは、信頼していたし……面倒見は良かった)

 私は読み違いをしていたのだろうか。あるいはそう決めつけてしまった。

「気付いていなかったのか」
「はい。……藤堂さんは土地に執着しているとばかり」
「あの土地は特別だからね。耐性がないと長く住み続けるのは難しいんだ」
「私や家族は今までずっと、あの家で暮らしてきたのに……」
「それは小晴の祖父が覡としての役割を全うしていたからであって、本来なら人が住むには向いていない。耐性がなければ障りヨクナイモノにとって恰好の餌場となる」
「!?」

 ちらつくのは両親の事故死だ。
 本当にあれは事故だったのか、その疑問が頭をもたげる。

障りヨクナイモノ……とは、妖怪とも異なるのですか?」
「ああ。怪異かいいともいい、現象であり、災厄を怪物でもある。妖怪にも残虐性の強い者があるが、その発生元は大抵怪異から生じたものが多いだろう。人によって生み出された闇の側面でもある。そう言うものにも、小晴は魅力的に映る」
「(それが昨日の夜に形になって、現世に姿を見せた……)私を食べると長生きできるとか、人魚の肉のような扱いなのでしょうか?」
「いや。そういうのではなく、美しい魂の色を好むんだ」
「魂の色……ですか」
「ああ。小晴は真珠のように美しい。可愛い。見る角度によっては虹色を放つ。惚れ惚れしてしまう」
「自分では……よくわかりません」
「小晴の生き方によって、魂の色合いは移りゆくとても綺麗で、可愛い。私はとても好きだ。好ましい」
「……っ」

 白銀の雪が空から振り落ちていく。
 現世とは異なり、白銀の結晶は幻想的で、空を舞う龍や烏天狗たちが旋回しているのが見えた。心なしか妖怪の数が増えた気がする。

「もうすぐ逢魔が時おうまがどきだから、増えるんだよ」

 紫苑は私の手を引いて抱き寄せた。冷たくなっていた指先がじんわりと温かくなり、その熱は触れ合う部分から徐々に全身に広がっていく。
「私の傍から離れないように」と、耳元で囁く紫苑は本当に狡い。
 ゆっくりと私の選択肢を狭めていくのだから。

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