23 / 57
第2章
第23話 本当のこと
しおりを挟む
「抗争だなんて、大げさですよ?」
「そんなことはない。それほど小晴を気に入っている連中は多い。ただ……」
「ただ?」
「小晴の住んでいた土地は、元々私の領域だったからね。私の領域に無作法な真似をしてまで、土足で入ってこようとしなかっただけだ」
「時雨さんも言っていましたが、紫苑はこの土地の……神様ということになるのですか?」
「それも兼任をしている。白銀財閥について名前ぐらいは知っているかな?」
「はい、日本有数の財閥ですよね。金融業に力を入れていると、聞いたことがあります」
財閥の名を出されて固まっていると、紫苑は口元を綻ばせた。
(えっ……まさかの)
「白銀財閥は、私の兄弟の末裔が起こしたグループで、私も現世でもそれなりに立場があるポストに就いている。人外界隈では、人間社会でも融通が利かせられると言えばいいだろうか」
「何だか言い回しが悪役っぽいような?」
「そうかな。……まあ、そんな場所の膝元であからさまな抗争をすればどうなるのか、分かっていたのだろう。小晴の店に出入りをしていた鬼神の末裔も、何かと接触を図っていたようだし」
「鬼神の末裔……。全然気付きませんでした……」
鬼神の末裔――と言うことは、神様の血脈を持った人、と言うことだろうか。ネット販売でのリピート客は多いが、実際に何度も店を訪れた人は限られている。
ふと脳裏に軽薄そうな男が浮かび上がった。
「まあ、向こうは小晴の住んでいる土地が危険だと思っていたから、どうにかして小晴を安全な場所に避難させたかったのだろうけれど色恋を出した結果、失敗したようだ」
「え。避難させようと?」
私のことを気に掛けていて、立ち退きをさせたかったと言うほうが衝撃だった。完全に私利私欲のためだと思っていたから驚きだ。
(でもあの電話で話しているの聞くまでは、信頼していたし……面倒見は良かった)
私は読み違いをしていたのだろうか。あるいはそう決めつけてしまった。
「気付いていなかったのか」
「はい。……藤堂さんは土地に執着しているとばかり」
「あの土地は特別だからね。耐性がないと長く住み続けるのは難しいんだ」
「私や家族は今までずっと、あの家で暮らしてきたのに……」
「それは小晴の祖父が覡としての役割を全うしていたからであって、本来なら人が住むには向いていない。耐性がなければ障りにとって恰好の餌場となる」
「!?」
ちらつくのは両親の事故死だ。
本当にあれは事故だったのか、その疑問が頭をもたげる。
「障り……とは、妖怪とも異なるのですか?」
「ああ。怪異ともいい、現象であり、災厄を怪物でもある。妖怪にも残虐性の強い者があるが、その発生元は大抵怪異から生じたものが多いだろう。人によって生み出された闇の側面でもある。そう言うものにも、小晴は魅力的に映る」
「(それが昨日の夜に形になって、現世に姿を見せた……)私を食べると長生きできるとか、人魚の肉のような扱いなのでしょうか?」
「いや。そういうのではなく、美しい魂の色を好むんだ」
「魂の色……ですか」
「ああ。小晴は真珠のように美しい。可愛い。見る角度によっては虹色を放つ。惚れ惚れしてしまう」
「自分では……よくわかりません」
「小晴の生き方によって、魂の色合いは移りゆくとても綺麗で、可愛い。私はとても好きだ。好ましい」
「……っ」
白銀の雪が空から振り落ちていく。
現世とは異なり、白銀の結晶は幻想的で、空を舞う龍や烏天狗たちが旋回しているのが見えた。心なしか妖怪の数が増えた気がする。
「もうすぐ逢魔が時だから、増えるんだよ」
紫苑は私の手を引いて抱き寄せた。冷たくなっていた指先がじんわりと温かくなり、その熱は触れ合う部分から徐々に全身に広がっていく。
「私の傍から離れないように」と、耳元で囁く紫苑は本当に狡い。
ゆっくりと私の選択肢を狭めていくのだから。
「そんなことはない。それほど小晴を気に入っている連中は多い。ただ……」
「ただ?」
「小晴の住んでいた土地は、元々私の領域だったからね。私の領域に無作法な真似をしてまで、土足で入ってこようとしなかっただけだ」
「時雨さんも言っていましたが、紫苑はこの土地の……神様ということになるのですか?」
「それも兼任をしている。白銀財閥について名前ぐらいは知っているかな?」
「はい、日本有数の財閥ですよね。金融業に力を入れていると、聞いたことがあります」
財閥の名を出されて固まっていると、紫苑は口元を綻ばせた。
(えっ……まさかの)
「白銀財閥は、私の兄弟の末裔が起こしたグループで、私も現世でもそれなりに立場があるポストに就いている。人外界隈では、人間社会でも融通が利かせられると言えばいいだろうか」
「何だか言い回しが悪役っぽいような?」
「そうかな。……まあ、そんな場所の膝元であからさまな抗争をすればどうなるのか、分かっていたのだろう。小晴の店に出入りをしていた鬼神の末裔も、何かと接触を図っていたようだし」
「鬼神の末裔……。全然気付きませんでした……」
鬼神の末裔――と言うことは、神様の血脈を持った人、と言うことだろうか。ネット販売でのリピート客は多いが、実際に何度も店を訪れた人は限られている。
ふと脳裏に軽薄そうな男が浮かび上がった。
「まあ、向こうは小晴の住んでいる土地が危険だと思っていたから、どうにかして小晴を安全な場所に避難させたかったのだろうけれど色恋を出した結果、失敗したようだ」
「え。避難させようと?」
私のことを気に掛けていて、立ち退きをさせたかったと言うほうが衝撃だった。完全に私利私欲のためだと思っていたから驚きだ。
(でもあの電話で話しているの聞くまでは、信頼していたし……面倒見は良かった)
私は読み違いをしていたのだろうか。あるいはそう決めつけてしまった。
「気付いていなかったのか」
「はい。……藤堂さんは土地に執着しているとばかり」
「あの土地は特別だからね。耐性がないと長く住み続けるのは難しいんだ」
「私や家族は今までずっと、あの家で暮らしてきたのに……」
「それは小晴の祖父が覡としての役割を全うしていたからであって、本来なら人が住むには向いていない。耐性がなければ障りにとって恰好の餌場となる」
「!?」
ちらつくのは両親の事故死だ。
本当にあれは事故だったのか、その疑問が頭をもたげる。
「障り……とは、妖怪とも異なるのですか?」
「ああ。怪異ともいい、現象であり、災厄を怪物でもある。妖怪にも残虐性の強い者があるが、その発生元は大抵怪異から生じたものが多いだろう。人によって生み出された闇の側面でもある。そう言うものにも、小晴は魅力的に映る」
「(それが昨日の夜に形になって、現世に姿を見せた……)私を食べると長生きできるとか、人魚の肉のような扱いなのでしょうか?」
「いや。そういうのではなく、美しい魂の色を好むんだ」
「魂の色……ですか」
「ああ。小晴は真珠のように美しい。可愛い。見る角度によっては虹色を放つ。惚れ惚れしてしまう」
「自分では……よくわかりません」
「小晴の生き方によって、魂の色合いは移りゆくとても綺麗で、可愛い。私はとても好きだ。好ましい」
「……っ」
白銀の雪が空から振り落ちていく。
現世とは異なり、白銀の結晶は幻想的で、空を舞う龍や烏天狗たちが旋回しているのが見えた。心なしか妖怪の数が増えた気がする。
「もうすぐ逢魔が時だから、増えるんだよ」
紫苑は私の手を引いて抱き寄せた。冷たくなっていた指先がじんわりと温かくなり、その熱は触れ合う部分から徐々に全身に広がっていく。
「私の傍から離れないように」と、耳元で囁く紫苑は本当に狡い。
ゆっくりと私の選択肢を狭めていくのだから。
11
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
大正石華恋蕾物語
響 蒼華
キャラ文芸
■一:贄の乙女は愛を知る
旧題:大正石華戀奇譚<一> 桜の章
――私は待つ、いつか訪れるその時を。
時は大正。処は日の本、華やぐ帝都。
珂祥伯爵家の長女・菫子(とうこ)は家族や使用人から疎まれ屋敷内で孤立し、女学校においても友もなく独り。
それもこれも、菫子を取り巻くある噂のせい。
『不幸の菫子様』と呼ばれるに至った過去の出来事の数々から、菫子は誰かと共に在る事、そして己の将来に対して諦観を以て生きていた。
心許せる者は、自分付の女中と、噂畏れぬただ一人の求婚者。
求婚者との縁組が正式に定まろうとしたその矢先、歯車は回り始める。
命の危機にさらされた菫子を救ったのは、どこか懐かしく美しい灰色の髪のあやかしで――。
そして、菫子を取り巻く運命は動き始める、真実へと至る悲哀の終焉へと。
■二:あやかしの花嫁は運命の愛に祈る
旧題:大正石華戀奇譚<二> 椿の章
――あたしは、平穏を愛している
大正の時代、華の帝都はある怪事件に揺れていた。
其の名も「血花事件」。
体中の血を抜き取られ、全身に血の様に紅い花を咲かせた遺体が相次いで見つかり大騒ぎとなっていた。
警察の捜査は後手に回り、人々は怯えながら日々を過ごしていた。
そんな帝都の一角にある見城診療所で働く看護婦の歌那(かな)は、優しい女医と先輩看護婦と、忙しくも充実した日々を送っていた。
目新しい事も、特別な事も必要ない。得る事が出来た穏やかで変わらぬ日常をこそ愛する日々。
けれど、歌那は思わぬ形で「血花事件」に関わる事になってしまう。
運命の夜、出会ったのは紅の髪と琥珀の瞳を持つ美しい青年。
それを契機に、歌那の日常は変わり始める。
美しいあやかし達との出会いを経て、帝都を揺るがす大事件へと繋がる運命の糸車は静かに回り始める――。
※時代設定的に、現代では女性蔑視や差別など不適切とされる表現等がありますが、差別や偏見を肯定する意図はありません。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
となりの京町家書店にはあやかし黒猫がいる!
葉方萌生
キャラ文芸
★第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。お読みくださった皆様、本当にありがとうございます!!
京都祇園、弥生小路にひっそりと佇む創業百年の老舗そば屋『やよい庵』で働く跡取り娘・月見彩葉。
うららかな春のある日、新しく隣にできた京町家書店『三つ葉書店』から黒猫が出てくるのを目撃する。
夜、月のない日に黒猫が喋り出すのを見てしまう。
「ええええ! 黒猫が喋ったーー!?」
四月、気持ちを新たに始まった彩葉の一年だったが、人語を喋る黒猫との出会いによって、日常が振り回されていく。
京町家書店×あやかし黒猫×イケメン書店員が繰り広げる、心温まる爽快ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる