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第2章
第22話 摩訶不思議な世界のこと
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頬にキスを落とす。
流れるような動作に、私は恥ずかしさで頬に熱が集まる。それを見て紫苑は笑みを深めた。
「──っ!」
「可愛い」
(うう……。恥ずかしい)
「小晴は可愛いのだから、恥ずかしがる必要はない」
「私は紫苑のように、その美人とかではないですし、言われたことなんてほとんどないんです」
「じゃあ、これから一生分、たくさんの小晴に伝えよう。なに、この私が可愛いというのだ、誰にも文句は言わせない」
「──っ」
傲慢な言葉に思わず笑ってしまった。
世辞ではなく、真っ直ぐに紡がれた言葉だからこそ私の胸にストンと落ちる。
「……こ、光栄です」
「しかし今日一日でこの世界、この時代に興味を持ったことは僥倖だった」
「ずっと眠っていたと言っていましたが、いつタブレットの使い方や常識を身につけたのですか?」
「必要であれば順応はできるし、数時間あれば充分かな」
「さすが神様……」
「面倒なので今までしてこなかったけれど小晴がいると、煩わしいことや面倒だと思っていた気持ちが変わってくる。小晴はすごい」
(私にそんな凄い機能はありません)
人外でありながらも、人の世に興味を持つ存在は多いらしい。
この幽世は現世の舞台裏らしく、障りと呼ばれる禍から妖怪の抗争などの荒事は幽世で行い、対処するという。その影響が稀に現世に漏れ出てしまうらしいが、それもかなり最小限だとか。
三百年前までは幽世と現世は境界が薄く、神々は別としても妖怪やら障りが跋扈していたという。時代も戦乱などで荒れていたのもある。
しかし江戸時代以降は、国そのものが安定したことで、人外関係の騒動が目立つようになってしまった。
人間側と妖怪、精霊、妖精、神々のバランスを調整するため、神社仏閣を軸にして幽世という層を現世とずらしている。
それによって幽世で起こったできごとが、現世で大幅に希釈させて波風程度の影響に止めた。そうやって区切らなければ妖怪の抗争で、一県が灰燼に帰す可能性があったからだという。
(私が知らないだけで、こんな摩訶不思議な世界があるんだもの……話のスケールも大きくなるのは頷けるわ)
「稀に温厚だった者の気が狂っただとか、土砂崩れだったり、交通事故なども幽世での影響によるものがあったりする」
「……では、その場に居合わせたことで、被害に遭われる方もいるのですね」
「偶然は基本的に起こりえない。現世では因果応報と呼ばれることがあるが、あれは正しい。自分の行いが巡り巡って戻ってくる。今日、時雨と出会ったのも、以前から関わりがあったからこそ更なる縁を結んだ」
「あれは本当に驚きました。私の作った飴を喜んで下さる方に直接会えたのも嬉しいですが、私の身を案じてくれていたことが、こう胸が温かくなりました!」
「左近から聞いたが、小晴は人外に好かれ易いらしい。あの飴の味を知ったのなら当然だと思う」
誇らしげに、けれど少し不服そうに紫苑は呟く。
恐らく私の作った金太郎飴が気になっているのだろう。自分の飴を気に入ってくれているのはとても嬉しい。
「明日、場所を借りられたら金太郎飴を作る予定だったので、良ければできあがったら食べて頂けますか?」
「食べる」
子供のように笑顔に微笑ましく思ってしまう。本当に飴が大好きなようだ。
「もちろん小晴が食べさせてくれるのだろう?」
「え、あ。はい」
子供の笑顔から途端に男性の色香を出してくる。しかも声音も先ほどよりも色っぽい。
わざとなのか、それとも素なのか。
上手な返し方が分からず、話を逸らしてみることにした。
「そ、そう言えば、妖怪と言うのは神様と何が違うのでしょう?」
「ん。ああ……大体は神から零落あるいは側面として成した存在が多く、人間くさい連中が多い」
「なるほど?」
「そなたを巡って抗争が起こる前に、小晴と出会えて良かった」
紫苑は私の肩により掛かるが重みはなく、寄り添い甘えている感じが何だか可愛らしい。ふわりと香る白檀と彼の匂いが混じっている。
流れるような動作に、私は恥ずかしさで頬に熱が集まる。それを見て紫苑は笑みを深めた。
「──っ!」
「可愛い」
(うう……。恥ずかしい)
「小晴は可愛いのだから、恥ずかしがる必要はない」
「私は紫苑のように、その美人とかではないですし、言われたことなんてほとんどないんです」
「じゃあ、これから一生分、たくさんの小晴に伝えよう。なに、この私が可愛いというのだ、誰にも文句は言わせない」
「──っ」
傲慢な言葉に思わず笑ってしまった。
世辞ではなく、真っ直ぐに紡がれた言葉だからこそ私の胸にストンと落ちる。
「……こ、光栄です」
「しかし今日一日でこの世界、この時代に興味を持ったことは僥倖だった」
「ずっと眠っていたと言っていましたが、いつタブレットの使い方や常識を身につけたのですか?」
「必要であれば順応はできるし、数時間あれば充分かな」
「さすが神様……」
「面倒なので今までしてこなかったけれど小晴がいると、煩わしいことや面倒だと思っていた気持ちが変わってくる。小晴はすごい」
(私にそんな凄い機能はありません)
人外でありながらも、人の世に興味を持つ存在は多いらしい。
この幽世は現世の舞台裏らしく、障りと呼ばれる禍から妖怪の抗争などの荒事は幽世で行い、対処するという。その影響が稀に現世に漏れ出てしまうらしいが、それもかなり最小限だとか。
三百年前までは幽世と現世は境界が薄く、神々は別としても妖怪やら障りが跋扈していたという。時代も戦乱などで荒れていたのもある。
しかし江戸時代以降は、国そのものが安定したことで、人外関係の騒動が目立つようになってしまった。
人間側と妖怪、精霊、妖精、神々のバランスを調整するため、神社仏閣を軸にして幽世という層を現世とずらしている。
それによって幽世で起こったできごとが、現世で大幅に希釈させて波風程度の影響に止めた。そうやって区切らなければ妖怪の抗争で、一県が灰燼に帰す可能性があったからだという。
(私が知らないだけで、こんな摩訶不思議な世界があるんだもの……話のスケールも大きくなるのは頷けるわ)
「稀に温厚だった者の気が狂っただとか、土砂崩れだったり、交通事故なども幽世での影響によるものがあったりする」
「……では、その場に居合わせたことで、被害に遭われる方もいるのですね」
「偶然は基本的に起こりえない。現世では因果応報と呼ばれることがあるが、あれは正しい。自分の行いが巡り巡って戻ってくる。今日、時雨と出会ったのも、以前から関わりがあったからこそ更なる縁を結んだ」
「あれは本当に驚きました。私の作った飴を喜んで下さる方に直接会えたのも嬉しいですが、私の身を案じてくれていたことが、こう胸が温かくなりました!」
「左近から聞いたが、小晴は人外に好かれ易いらしい。あの飴の味を知ったのなら当然だと思う」
誇らしげに、けれど少し不服そうに紫苑は呟く。
恐らく私の作った金太郎飴が気になっているのだろう。自分の飴を気に入ってくれているのはとても嬉しい。
「明日、場所を借りられたら金太郎飴を作る予定だったので、良ければできあがったら食べて頂けますか?」
「食べる」
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「もちろん小晴が食べさせてくれるのだろう?」
「え、あ。はい」
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上手な返し方が分からず、話を逸らしてみることにした。
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「ん。ああ……大体は神から零落あるいは側面として成した存在が多く、人間くさい連中が多い」
「なるほど?」
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紫苑は私の肩により掛かるが重みはなく、寄り添い甘えている感じが何だか可愛らしい。ふわりと香る白檀と彼の匂いが混じっている。
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