【完結】白蛇神様は甘いご褒美をご所望です

あさぎかな@電子書籍二作目発売中

文字の大きさ
上 下
20 / 57
第2章

第20話 八咫烏の宝石店

しおりを挟む
 現世のジュエリーショップと外装は変わらないのに、店内に入った瞬間、英国風の超高級者向けの壁紙やらアンティークっぽい雰囲気に驚いた。

「いらっしゃいませ」
(あ!)


 目鼻立ちが整った美男美女の──背中から羽根を生やした妖精が出迎える。黒で統一されたスーツがまたよく似合っていた。

「予約した者だ。加護付きの婚約指輪を贈りたい」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」

 虹色に煌めく蝶々のような羽根に目を奪われつつも、奥の客室へと着いていく。
 妖精を目視して、少しテンションが上がってしまった。

「紫苑、妖精って幽世にもいるのですね」
「ああ、西から流れて定着する者たちも少なくないからね。この国の食事や霊脈が気に入っているらしい。……ああ、でもここの店のオーナーは妖精じゃない」
「そうなのですか」

 奥の客室に入ると、焦げ茶色のカウチとアンティークの調度品がある部屋に、真っ赤な髪の眉目秀麗の美女、いや黒の燕尾服を着こなした男性だ。
 両肩から濡れ羽色の美しい烏の翼を生やしていた。

「あらー、ご当主様。そしてお嬢ちゃん、いらっしゃい」
「婚約者の小晴だ」
「ふ~ん。お嬢ちゃんが、ご当主様とくっ付くとは予想外だったわね」
「(お嬢ちゃん……って私のこと?)ええっと」
「小晴、彼は八咫烏やたがらす時雨しぐれ。この店のオーナーを務めている」
「相変わらず人の話をガン無視する神様ね! ……まあ、通常運転だからいいけれど」
「(いいんだ)あの……柳沢小晴と言います」
「小晴ちゃんは、話がわかる良い子ね~。それにいつも美味しい飴をありがとう」
「え」

 女口調だが親しげに話す時雨さんは、私の店で売っている金太郎飴を見せた。
 それは箱詰め用ネット販売しているものだ。

「あ。それは先月に購入があった春風駘蕩しゅんぷうたいとうの金太郎飴……。じゃあ、いつも購入して下さる『ノワール』様?」
「正解。いつも美味しく頂いているわ。特に今回は桜模様がとても綺麗で、食べるのが惜しいくらいなのよ」
「本当ですか、よかった! 薄紅色を出すのに試行錯誤して仕上げたので嬉しいです」
「うんうん。本物はやっぱり可愛いわね~」
「……」

 お得意様と遭遇にはしゃいでいると、紫苑は私を後ろから抱きしめて、腕の中に閉じ込める。
 急なスキンシップは心臓に悪い。離してもらおうと振り返ろうとするが、身じろぎできない。

「し、紫苑?」
「小晴の楽しそうな顔は好きだが、だがむずむずする」
「ふふ。あのご当主様に嫉妬させるなんて、流石だわ。ああ、婚約はおめでたいことだけれど、ねえ、小晴ちゃん。お店が元に戻り次第、通常運転する予定かしら?」
「あ、はい。火事前に承った発注分は受領して、それ以降は一時的に購入をストップしています」
「そう。ああ、もし作業場が必要なときは、声をかけてくれれば──」
「私が何とかするので問題ない」
「紫苑?」
「あー、はいはい」
「……」

 紫苑は顎を私の肩に乗せながら、ぎゅうっと腕の力が入る。何を警戒しているのだろう。背中から感じる熱が心地よい。

 時雨さんは悪戯が失敗した子供のように、ちょっとだけ残念がっていた。
 けれどすぐに明るく微笑む。

「ふふっ、やっぱり隙は作れないか」
「もしかして私に恩を作ろうとしたのですか?」
「ん~、どちらかと言うと、貴女と縁を結びたいと思ったのよ。小晴ちゃんのファンだから、仲良くしたいって思っているモノは結構多いわ」

 意外だった。
 常連さんたちは、みな飴を評価してくれていたので、私自身に感心が向けられていたとは思っていなかった。
 
「そうだったのですね。気にかけていただいて嬉しいです」
「ふふっ、ああ、でもさっきも言ったけれど、ネット販売だけでも早めに復活した方がいいわよ」
「え?」
「私以外にも、小晴ちゃんのファンは沢山いるのよ。でも小晴ちゃんのところは一人で切り盛りしているから、あまり無茶な発注はできないし、体調を崩しても困るだろうってなって毎月ネット会議が開かれているのよ」
「は、初耳です」
「ええ。非公式だもの」

 そう言って時雨さんは微笑んだ。
 知らないところで飴が好評なことに嬉しくて、口元が綻んでしまう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

大正石華恋蕾物語

響 蒼華
キャラ文芸
■一:贄の乙女は愛を知る 旧題:大正石華戀奇譚<一> 桜の章 ――私は待つ、いつか訪れるその時を。 時は大正。処は日の本、華やぐ帝都。 珂祥伯爵家の長女・菫子(とうこ)は家族や使用人から疎まれ屋敷内で孤立し、女学校においても友もなく独り。 それもこれも、菫子を取り巻くある噂のせい。 『不幸の菫子様』と呼ばれるに至った過去の出来事の数々から、菫子は誰かと共に在る事、そして己の将来に対して諦観を以て生きていた。 心許せる者は、自分付の女中と、噂畏れぬただ一人の求婚者。 求婚者との縁組が正式に定まろうとしたその矢先、歯車は回り始める。 命の危機にさらされた菫子を救ったのは、どこか懐かしく美しい灰色の髪のあやかしで――。 そして、菫子を取り巻く運命は動き始める、真実へと至る悲哀の終焉へと。 ■二:あやかしの花嫁は運命の愛に祈る 旧題:大正石華戀奇譚<二> 椿の章 ――あたしは、平穏を愛している 大正の時代、華の帝都はある怪事件に揺れていた。 其の名も「血花事件」。 体中の血を抜き取られ、全身に血の様に紅い花を咲かせた遺体が相次いで見つかり大騒ぎとなっていた。 警察の捜査は後手に回り、人々は怯えながら日々を過ごしていた。 そんな帝都の一角にある見城診療所で働く看護婦の歌那(かな)は、優しい女医と先輩看護婦と、忙しくも充実した日々を送っていた。 目新しい事も、特別な事も必要ない。得る事が出来た穏やかで変わらぬ日常をこそ愛する日々。 けれど、歌那は思わぬ形で「血花事件」に関わる事になってしまう。 運命の夜、出会ったのは紅の髪と琥珀の瞳を持つ美しい青年。 それを契機に、歌那の日常は変わり始める。 美しいあやかし達との出会いを経て、帝都を揺るがす大事件へと繋がる運命の糸車は静かに回り始める――。 ※時代設定的に、現代では女性蔑視や差別など不適切とされる表現等がありますが、差別や偏見を肯定する意図はありません。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

となりの京町家書店にはあやかし黒猫がいる!

葉方萌生
キャラ文芸
★第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。お読みくださった皆様、本当にありがとうございます!! 京都祇園、弥生小路にひっそりと佇む創業百年の老舗そば屋『やよい庵』で働く跡取り娘・月見彩葉。 うららかな春のある日、新しく隣にできた京町家書店『三つ葉書店』から黒猫が出てくるのを目撃する。 夜、月のない日に黒猫が喋り出すのを見てしまう。 「ええええ! 黒猫が喋ったーー!?」 四月、気持ちを新たに始まった彩葉の一年だったが、人語を喋る黒猫との出会いによって、日常が振り回されていく。 京町家書店×あやかし黒猫×イケメン書店員が繰り広げる、心温まる爽快ファンタジー!

処理中です...