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第2章
第19話 初デート
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あの世とこの世の狭間にある空間、幽世。
現世とは異なる世界は白銀に煌めいていて、人外で溢れている。
幽世は人外側の領域であり、現世の裏舞台のようなものだとか。
そんな人混みを私と紫苑は並んで歩く。角やら獣耳のある人型の人外もいれば、獣やら奇っ怪な形のモノたちまで様々だ。私の知る箔可香市の町並みにそっくりだが、元の世界とは異なるというのがわかる。
(何でこんなことに……)
「小晴、はぐれないように抱き上げるのと、手を繋ぐのはどちらがいい?」
「て、手を繋ぐほうで……」
「そうか」と残念そうに落ち込む紫苑に罪悪感を覚える。しかし手を繋ぐとすぐに機嫌を直すので、私の胸の痛みを返してほしい。
ちなみにめったに屋敷から出ない(らしい)紫苑が私を連れて幽世の町中を闊歩しているのは、婚約指輪を買いに行くためである。
(左近さんからも、紫苑に現世での生活を馴染ませたいとか言っていたし……。紫苑って、一体今までどんな生活をしてきたのかしら)
白銀の上質な着物を着こなす紫苑は何度見てもとても美しい。溜息が漏れるほども。
それに引き換え私ベージュ色のハイネックのセーターに、黒のスカートと黒タイツ、それからカシミヤ100パーセントの焦げ茶のコートにマフラと温かい恰好をしている。
服はかなり高価なものだが、私では着こなせていない感が半端ない。どう見ても隣を歩いていて彼女は『これじゃない感』がする。不似合いだと悲しくも自覚する。
(はあ、やっぱり並んでみて分かるけれど、私がもう少し美人だったら……)
「小晴? 難しい顔をしてどうしたんだい?」
(ち、近っ!?)
紫苑は鼻先が触れるほど距離を詰め、私の顔を覗き込んでくる。
さらさらの髪が頬に当たった。
「だ、大丈夫です。ええっと、その紫苑が今までどんな風に生きてきたのかが気になったので……」
「私? 私を気に掛けてくれるとは嬉しい」
美しく微笑む紫苑に、心臓が激しく脈打つ。
正直、心臓がいくつあっても持ちそうにない。そのうち自分の体が灰となるんじゃないかと思ってしまう。
「紫苑、その笑顔は凶器になるので、あまり見せないほうがいいと思います」
「笑顔? 私は小晴にしか心動かされないから問題ないだろう」
(何という模範解答! というかこの眩しいほどのご尊顔に誰も気付かないの!?)
「ころころ表情を変える小晴も可愛い」
「……っ」
周りを見渡しても、誰も私たちを気に掛ける素振りなどない。もしかしたら術式などで人払いしているのだろうか。
そんな疑問を思いつつも、紫苑は終始ご機嫌で歩調を合わせて歩いてくれる。
(男の人って歩幅が違うから、よく『遅い』って言われていたっけ……)
紫苑のちょっとした気遣いがじんわりと温かくなるのは、それだけ過去の辛い記憶を上書きしている最中なのだろう。それは私にとって大事なことだ。
「現世でも小晴とデートというものをしてみたい」
「紫苑はしたことがないのですか?」
「ああ。誰かと何かをした記憶はない。必要もなかったから」
「神様というから全知全能とか次元が違うと思っていたのですが、紫苑は何というか話しやすいです」
「それなら嬉しい」
艶やかに笑みを深くするので、気を引き締めないと好かれていると自惚れてしまいそうだ。
好意は本物かもしれないが、私にはそれを素直に受け取るだけの心の余裕や許容量、何より恋愛に臆病のままだ。
それを紫苑に話をしたが「それなら小晴に恋や愛が芽生えるまで待つ」と言ってくれた。無理強いも、強要も、押しつけもせずに尊重してくれるのが嬉しい。
「私も何だか嬉しいです」
ぱあ、と純粋に微笑むので、その笑顔が私にも伝染したようだ。
ふと小舟で移動する人たちを見て、ちょっとだけ勇気を出す。
「紫苑、もしよければ帰りは小舟に乗って見ませんか?」
「ん。ああ、いいね。せっかくだから少し遠回りしながら乗って帰ろう」
「はい」
現世とは異なる世界は白銀に煌めいていて、人外で溢れている。
幽世は人外側の領域であり、現世の裏舞台のようなものだとか。
そんな人混みを私と紫苑は並んで歩く。角やら獣耳のある人型の人外もいれば、獣やら奇っ怪な形のモノたちまで様々だ。私の知る箔可香市の町並みにそっくりだが、元の世界とは異なるというのがわかる。
(何でこんなことに……)
「小晴、はぐれないように抱き上げるのと、手を繋ぐのはどちらがいい?」
「て、手を繋ぐほうで……」
「そうか」と残念そうに落ち込む紫苑に罪悪感を覚える。しかし手を繋ぐとすぐに機嫌を直すので、私の胸の痛みを返してほしい。
ちなみにめったに屋敷から出ない(らしい)紫苑が私を連れて幽世の町中を闊歩しているのは、婚約指輪を買いに行くためである。
(左近さんからも、紫苑に現世での生活を馴染ませたいとか言っていたし……。紫苑って、一体今までどんな生活をしてきたのかしら)
白銀の上質な着物を着こなす紫苑は何度見てもとても美しい。溜息が漏れるほども。
それに引き換え私ベージュ色のハイネックのセーターに、黒のスカートと黒タイツ、それからカシミヤ100パーセントの焦げ茶のコートにマフラと温かい恰好をしている。
服はかなり高価なものだが、私では着こなせていない感が半端ない。どう見ても隣を歩いていて彼女は『これじゃない感』がする。不似合いだと悲しくも自覚する。
(はあ、やっぱり並んでみて分かるけれど、私がもう少し美人だったら……)
「小晴? 難しい顔をしてどうしたんだい?」
(ち、近っ!?)
紫苑は鼻先が触れるほど距離を詰め、私の顔を覗き込んでくる。
さらさらの髪が頬に当たった。
「だ、大丈夫です。ええっと、その紫苑が今までどんな風に生きてきたのかが気になったので……」
「私? 私を気に掛けてくれるとは嬉しい」
美しく微笑む紫苑に、心臓が激しく脈打つ。
正直、心臓がいくつあっても持ちそうにない。そのうち自分の体が灰となるんじゃないかと思ってしまう。
「紫苑、その笑顔は凶器になるので、あまり見せないほうがいいと思います」
「笑顔? 私は小晴にしか心動かされないから問題ないだろう」
(何という模範解答! というかこの眩しいほどのご尊顔に誰も気付かないの!?)
「ころころ表情を変える小晴も可愛い」
「……っ」
周りを見渡しても、誰も私たちを気に掛ける素振りなどない。もしかしたら術式などで人払いしているのだろうか。
そんな疑問を思いつつも、紫苑は終始ご機嫌で歩調を合わせて歩いてくれる。
(男の人って歩幅が違うから、よく『遅い』って言われていたっけ……)
紫苑のちょっとした気遣いがじんわりと温かくなるのは、それだけ過去の辛い記憶を上書きしている最中なのだろう。それは私にとって大事なことだ。
「現世でも小晴とデートというものをしてみたい」
「紫苑はしたことがないのですか?」
「ああ。誰かと何かをした記憶はない。必要もなかったから」
「神様というから全知全能とか次元が違うと思っていたのですが、紫苑は何というか話しやすいです」
「それなら嬉しい」
艶やかに笑みを深くするので、気を引き締めないと好かれていると自惚れてしまいそうだ。
好意は本物かもしれないが、私にはそれを素直に受け取るだけの心の余裕や許容量、何より恋愛に臆病のままだ。
それを紫苑に話をしたが「それなら小晴に恋や愛が芽生えるまで待つ」と言ってくれた。無理強いも、強要も、押しつけもせずに尊重してくれるのが嬉しい。
「私も何だか嬉しいです」
ぱあ、と純粋に微笑むので、その笑顔が私にも伝染したようだ。
ふと小舟で移動する人たちを見て、ちょっとだけ勇気を出す。
「紫苑、もしよければ帰りは小舟に乗って見ませんか?」
「ん。ああ、いいね。せっかくだから少し遠回りしながら乗って帰ろう」
「はい」
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