【完結】白蛇神様は甘いご褒美をご所望です

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第2章

第17話 白蛇神・紫苑の視点1

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 空に手を伸ばすように、すくすくと育つ高竹色の竹林。
 白銀に煌めく空に、半透明に浮遊する木霊やら精霊たちがいた。

(祝福かあるいは恐れか。万物の一部であり全として生まれ落ちたのはいつだったか。人の形に近く生まれ落ちたのは、人が対話を望んだから)

 紫苑は白蛇神であり、それは万物の一欠片でもあった。
 山であり海であり万物を司るそのものであり、その一柱。元は一つだったけれどあまりにも力が強すぎるので三つだか四つに別れて、それぞれ気に入った場所に住み着くことにした。
 蛇は臆病で警戒心が強い。

(他の兄弟も様々な道を歩んだ。私は生まれた時から何にも興味がなく──自分の役割をただこなして、眠りについた。時折、その土地に住む人間に乞われて加護を与えて適当に身の回りの臣下を作り丸投げしていた)

 次に紫苑が目覚めたのは偶然か、あるいは運命だったのか。
 気まぐれで目を覚まし、現世で自分の土地をふらついて回った。
 やたら橋が多く、小舟が白銀の水面を進んでいく。人が多く、緑も豊か観光客も多く、神社仏閣も多いと臣下の右近と左近がそう説明する。

 紫苑が眠っている間、雑務はこの二人とその下の者たちに任せている。紫苑はこうやって人里に降りるのは初めての行動でもあり、臣下たちは困惑と歓喜の入り交じった雰囲気を出していた。

 数百年前とまるで異なる世界は物珍しかったが、紫苑の食指が動くものはないと思われたのだが、空から振り落ちる雪にブルリと震えた。
「もう帰ろうか」と思った矢先、紫苑は不意に甘い香りに誘われて、飴細工店に足を踏み入れた。

 ヨクナイモノを押し込めた場所、適度に浄化しなければ禍が起こる。
 それだというのに店内は明るい。
 不審に思いながら周りを見た瞬間、紫苑は固まった。

「いらっしゃいませ!」
(…………ああ、漸く見つけた)

 自分の空っぽを埋める存在。
 世界の色を小晴がずっと持っていたようだった。
 彼女の作った飴を食べた瞬間、ずっと欠けて、失って、ないと思っていた心臓の鼓動が脈打った。

 紫苑は一瞬で自分の伴侶を見いだしたのだと悟る。彼女を得ていなかったからこそ、世界は無意味でどうでもよいモノだったということも。

(ああ、言葉が、思いが溢れてうまく話せない)

 紫苑は恋というものを知って慄いた。
 語彙力の低下。
 訳も分からず小晴に惹かれ、抱き寄せてしまう言動。まるで磁石のようにぴったりくっつくと安心する。それを言葉に言語化するのは本当に難しい。

(さらさらの髪、少しかさついているけれど肌が触れ合うと安心する。小さくて、仕草の一つ一つが愛おしい。欲が出た)


 ***


 気を失った小晴を抱き変えたまま屋敷に戻り、湯浴みなどの身支度を任せた。
 当初、紫苑が行おうとしたら側近の二人に全力で止められたからだ。

 お揃いの浴衣姿で布団に寝かされている小晴はとても可愛らしい。だがそんな甘い雰囲気は障子の向こう側に現れた魑魅魍魎どもによってかき消される。

(ああ、煩わしい。……小晴の居る場所にふさわしくないモノだ)

 幽世では、より欲望に忠実な人外が現れる。
 今まで結界など張っていなかったため、紫苑を格下だと侮っていた人外は一瞬で塵と化した。

(今まで頓着していなかったにが、よかったのだろう。私の力は世界を大きく揺るがし、壊す。それこそ兄弟たちの中でも好き勝手やって封じられた者もいる)

 今までは力をただ垂れ流していただけだった。しかしそれでは人間の小晴は狙われてしまう。
 すぐさま術式を組み直し、できる限り小晴に加護と祝福を与える。

 すでに小晴は紫苑という白蛇神が捕らえた。
 人外は精霊でも、妖怪でも、神でも一度執着したら手放さない。
 理不尽で面倒な愛情を注ぐ。

 紫苑は彼女の頬に手を添える。日頃の疲れを薬湯で癒したからか触れる頬はすべすべで心地が良い。

「小晴。早く私と同じ所まで落ちてきてくれ」

 嘯きながら小晴の左首筋に『婚約印』を付けた。
 自分の大切な者だと見せつけるように──。
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