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第1章
第14話 恋愛に臆病な私は保険をかける
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(なし崩し的で一方的で、選択肢も殆どないけれど……。それでも凌駕する溺れるほど愛情を注いでくれるから……大切にしてくれるから、受け入れてもいいのかもしれない)
人だろうと人外で神様だろうと関係ない。
あの時、私を助けてくれたのは紫苑さんだけだったのだから。
「お館様、おめでとうございます!」
「ああ、左近もご苦労だった。プレゼン資料を作った右近にも後で労いの言葉をかけるとしよう」
「望外の喜びです。右近も同じ気持ちでしょう」
(プレゼンの資料は右近さんが作ったのね……。見た目ヤンキーっぽいのに意外)
「それでは小晴、式の日取りはいつにする!?」
「!?」
唐突に結婚式の話を言い出したので、待ったを掛けた。
唐突すぎる。というか婚約者に決まって即結婚式とはどういうことだ。
「紫苑さん! 婚約は認めましたが、まだ紫苑さんのことや人外など諸々ことなど分からないことだらけです! お店のこともありますし、まずは健全なお付き合いからしましょう!」
「お付き合い……婚約者……!」
「はい。ええっと、順番とかめちゃくちゃで、アレですが、私は紫苑さんのことを知っていきたいのです!」
「私を……!」
それはそれで甘美の響きだったのか、紫苑さんはあっさりとOKを出してくれた。
恋愛にはかなり後ろ向きで、当分恋愛は良いと思っていた矢先のことだった。
幼馴染みとの意見の相違からの独立前言と喧嘩別れ。
ずっと家族のようだと思っていた同僚達もみんな幼馴染みのほうに行ってしまった。あの時に幼馴染みへの淡い恋心は死んだ。
それから一年ぐらいだっただろうか。
親身に話を聞いてくれる藤堂さんが実は地上げ屋で、土地を狙って近づいたと知った時の絶望感はまだ完全に癒えてはいない。
情に絆されて彼の強かな優しさを見誤るところだった。彼のことも惹かれていたし、頼りになると思っていた。裏切りとは違う。
二人とも自分たちの希望を持って私の傍にいただけで、私を、私自身を見ていたわけではない。私の持っている何かがよかった。
紫苑さんもそうかもしれないと、思ってしまう自分がいる。
優しくされるのが怖い。
心を預けて失うのが怖い。
傷口が癒える間もなく立て続けにいろんなものを失った私は、臆病で小狡さを得た。
保険を掛ける。自分の心を守るために予防線も張ることを忘れない。
「とりあえず三カ月の期間を決めて、婚約者としてお互いの距離感などのすり合わせをしましょう」
「わかった。ハキハキと話す小晴も可愛い……」
紫苑さんは私の言葉を遮ってギュッと抱きしめる。そのまま頬ずりされてなされるがまま。
距離感が可笑しい。そう指摘しようとした矢先、これだ。
「紫苑さん!」
「今はお客様じゃないし、婚約者になったのだ。紫苑、そう読んでくれないか?」
「ええ。でも、その……」
「私からもお願いできませんでしょうか」
「え、左近さんまで!?」
「呼び名は人外の私たちにとって大事であり、許可を認めなければ名を発することはできません。お館様の真名を呼べるのは現段階で小晴様だけなのです」
(責任重大!?)
「小晴、呼んで」
泣きそうな顔をするのは何とも狡い。
それと頼られることやゴリ押しされるのに弱かったりする。
神様で、人外の美しさを持っていて、望めばありとあらゆるものを手中に収めることができる人が、こんなにもささやかな願いをしてくる。
それが何だか可笑しくて、少しだけ心が揺らぐ。
「紫苑」
「──っ、小晴! もう一度、ねえ、呼んでほしいな」
はにかんだ笑顔は心臓に悪い。きっと彼は毒だ。
ゆるりと甘い毒で惑わして、私を包み込んで虜にしてしまう。
「……紫苑」
「ふふっ、小晴、愛しているよ」
「……っ」
もうあの青紫色の双眸から逃げられない。
そんな予感があった。
人だろうと人外で神様だろうと関係ない。
あの時、私を助けてくれたのは紫苑さんだけだったのだから。
「お館様、おめでとうございます!」
「ああ、左近もご苦労だった。プレゼン資料を作った右近にも後で労いの言葉をかけるとしよう」
「望外の喜びです。右近も同じ気持ちでしょう」
(プレゼンの資料は右近さんが作ったのね……。見た目ヤンキーっぽいのに意外)
「それでは小晴、式の日取りはいつにする!?」
「!?」
唐突に結婚式の話を言い出したので、待ったを掛けた。
唐突すぎる。というか婚約者に決まって即結婚式とはどういうことだ。
「紫苑さん! 婚約は認めましたが、まだ紫苑さんのことや人外など諸々ことなど分からないことだらけです! お店のこともありますし、まずは健全なお付き合いからしましょう!」
「お付き合い……婚約者……!」
「はい。ええっと、順番とかめちゃくちゃで、アレですが、私は紫苑さんのことを知っていきたいのです!」
「私を……!」
それはそれで甘美の響きだったのか、紫苑さんはあっさりとOKを出してくれた。
恋愛にはかなり後ろ向きで、当分恋愛は良いと思っていた矢先のことだった。
幼馴染みとの意見の相違からの独立前言と喧嘩別れ。
ずっと家族のようだと思っていた同僚達もみんな幼馴染みのほうに行ってしまった。あの時に幼馴染みへの淡い恋心は死んだ。
それから一年ぐらいだっただろうか。
親身に話を聞いてくれる藤堂さんが実は地上げ屋で、土地を狙って近づいたと知った時の絶望感はまだ完全に癒えてはいない。
情に絆されて彼の強かな優しさを見誤るところだった。彼のことも惹かれていたし、頼りになると思っていた。裏切りとは違う。
二人とも自分たちの希望を持って私の傍にいただけで、私を、私自身を見ていたわけではない。私の持っている何かがよかった。
紫苑さんもそうかもしれないと、思ってしまう自分がいる。
優しくされるのが怖い。
心を預けて失うのが怖い。
傷口が癒える間もなく立て続けにいろんなものを失った私は、臆病で小狡さを得た。
保険を掛ける。自分の心を守るために予防線も張ることを忘れない。
「とりあえず三カ月の期間を決めて、婚約者としてお互いの距離感などのすり合わせをしましょう」
「わかった。ハキハキと話す小晴も可愛い……」
紫苑さんは私の言葉を遮ってギュッと抱きしめる。そのまま頬ずりされてなされるがまま。
距離感が可笑しい。そう指摘しようとした矢先、これだ。
「紫苑さん!」
「今はお客様じゃないし、婚約者になったのだ。紫苑、そう読んでくれないか?」
「ええ。でも、その……」
「私からもお願いできませんでしょうか」
「え、左近さんまで!?」
「呼び名は人外の私たちにとって大事であり、許可を認めなければ名を発することはできません。お館様の真名を呼べるのは現段階で小晴様だけなのです」
(責任重大!?)
「小晴、呼んで」
泣きそうな顔をするのは何とも狡い。
それと頼られることやゴリ押しされるのに弱かったりする。
神様で、人外の美しさを持っていて、望めばありとあらゆるものを手中に収めることができる人が、こんなにもささやかな願いをしてくる。
それが何だか可笑しくて、少しだけ心が揺らぐ。
「紫苑」
「──っ、小晴! もう一度、ねえ、呼んでほしいな」
はにかんだ笑顔は心臓に悪い。きっと彼は毒だ。
ゆるりと甘い毒で惑わして、私を包み込んで虜にしてしまう。
「……紫苑」
「ふふっ、小晴、愛しているよ」
「……っ」
もうあの青紫色の双眸から逃げられない。
そんな予感があった。
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