【完結】白蛇神様は甘いご褒美をご所望です

あさぎかな@電子書籍二作目発売中

文字の大きさ
上 下
13 / 57
第1章

第13話 なし崩し的に婚約者になりました

しおりを挟む
 私は自分の首回りを見ようとしたが、鏡を見なければ確認出来なさそうだ。
 後で確認しよう。
 話を聞くにつれて、どんどん後戻りができない状況になっているのは気のせいだろうか。完全に外堀を超スピードで埋められている気がする。

「先ほどお伝えした通り、『婚約』には、いくつかの条件をクリアしなければなりません。口吸いと、添い寝をして、お館様の匂いや加護を色濃くする必要がありました」
「寝ている小晴も可愛かった」
「!?」

 忘れていたが、結構すごい状況だったのを思い出す。出会ったばかりの人に寝顔を見られて爆睡していたのだから恥ずかしい。お嫁に行けないのでは?

(よく考えたら私、拉致されているし! 緊急事態だったからあれだけれど……)
「捕捉ですが、《稀人》は複数から求婚を受けることができます。一方的に人外が気に入って加護や祝福を与えることも、ままありますからね」
「な、なるほど?」
「加護と祝福ぐらいまでなら、浮気扱いにはしない……」
「許容範囲が分かりづらいような? ちなみに知らない間に加護や祝福って受けていたりするのでしょうか?」

 私の言葉に、紫苑さんと左近さんは目を逸らした。

「…………小晴は人外たらしだからな」
「そうですね。現在の小晴様の加護と祝福数は……お聞きにならない方がいいかもしれません」
「そう言われると、気になるのですが!?」

 紫苑さんは目を泳がせて誤魔化し、左近さんはスクリーンの映像を変えてしまう。

 次の映像では、男子高校生がバレンタイン時に沢山のチョコを貰う場面のようだ。一方的にもらうことが可能というのは、確かに見て分かり易い。

「私も小晴からチョコ? なるものがほしい」
(なるほど。祝福や加護はチョコを貰うような感じなのか。ふむふむ。……というかページを重ねるごとに絵のクオリティも上がっているのだけれど、これを作ったのは左近さんなのだろうか) 
「小晴は私にくれないのかい?」
「うっ……ええっと……」

 紫苑さんの言葉を結果的にスルーしたことにより、しょんぼりと肩を落としてしまった。
 何故だろう、落ち込んでいると頭を撫でて上げたい衝動に駆られるのは。
 たぶん庇護欲あるいは、大型の犬に対して撫でたいという気持ちに近いのかもしれない。

 好奇心に負けてさらさらの白紫色の髪を撫でたら、思いのほかご機嫌になった。
 良いのですか神様。ちょろすぎませんか。

「そのチョコというのを渡すのは二月なのですよ?」
「まだ先なのだな。……では、また飴細工を作ってくれるか?」
「それは……はい」

 紫苑さんは「約束だぞ」と嬉しそうに笑みを深めた。胸の奥がじんわりと温かくて勘違いしてしまいそうになる。

 まるで口の中で蕩ける飴のように、紫苑さんはあっという間に私の心を溶かしてしまう。

「……最後に『婚姻』は一番強い結びつきになり、つがい、あるいは伴侶として結んだ人外と同等の祝福を受けます。もはや人外に近しい存在ですね。人間じゃなくなります」
(さらっと人間辞める発言!?)
「まあ、形は人間を保ちますが、寿命が違います。一応伴侶を得ても、一方的に加護や祝福は受けられます。ただ」
「ただ?」
「伴侶となった人外があまりいい顔しません。むしろふて腐れますし、周囲に八つ当たりもします。婚姻を結ぶ場合、基本的に人外は純愛かつ愛が重く、独占欲が凄まじいのです。ああ、伴侶に対してデレデレに甘いのは共通しております」
「(愛が……重い?)それってヤンデレとかDVとか?」
「DVやモラハラなんてありません。ひたすら伴侶を溺愛し、大事にします。経済力もありますし、容姿もいい、浮気は一切しない&させない。今ならお買い得ですよ!」
(プレゼンから突然ネットショッピングに!?)

 チラリと紫苑さんを見たら、期待に目を輝かせている。
 熱を孕んだ視線を向けないでほしいのですが。

「前向きに考えたいとは思っています。……というか選択肢、ないんですよね?」
「はい」
「そうだね」
「断言した!?」
「私は小晴を手放せないから、しょうがない」
(言い訳になっていない!)
「事実ですので。こちらとしても無理矢理ではなく、双方が納得して頂いて締結した方がいいと思い、小晴様が納得できるよう微力ながら、このような場を設けさせて頂きました」

 左近さんは深々と頭を下げた。
 紫苑さんは私の頬に手を添えて、微笑んだ。

(これはもう『そういうものだから諦めろ』的な境地に立たせようとしている……のよね。たぶん)
「私から話すべきなのだろうが、こういったことは全て初めてで、不手際や事後報告と言った形になったのはすまないと思っている」
「紫苑さん」
「小晴」

 そうだ。
 この人達は人と変わらない姿をしているけれど、神様で、人外の世界という人間の常識とはかけ離れた所にいる。本来なら一方的に連れ去って自分たちのいいように話をして、嘘をついて、騙して、丸め込むことだってできた。

 けれどそうしなかったのは、少なくとも対等あるいは、今後の関係を大事にしたいと思っているからだろう。それが言葉の端々から伝わってきた。

 私のことを好いてくれている。
 そこに嘘などはないと、頬から伝わってくる熱が教えてくれた。
 未だに「なんで私なんか」と思う部分があるが、自分の中にあったモヤモヤや腑に落ちない気持ちと折り合いを付けることができた。

「ええっと、一応聞いておきたいのですが、『婚約』の解除なんかは……」
「……世界を滅ぼすような気持ちにさせないでほしい。それとも小晴は私が嫌いなのだろうか……」
「ナンデモナイデス。婚約者トシテヨロシク、オ願シマス」
「小晴!」

 ぱぁあ、と笑顔で微笑む。
 この方が怒っている姿は昨日の夜少し垣間見えたけれど、たぶん容赦ない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

大正石華恋蕾物語

響 蒼華
キャラ文芸
■一:贄の乙女は愛を知る 旧題:大正石華戀奇譚<一> 桜の章 ――私は待つ、いつか訪れるその時を。 時は大正。処は日の本、華やぐ帝都。 珂祥伯爵家の長女・菫子(とうこ)は家族や使用人から疎まれ屋敷内で孤立し、女学校においても友もなく独り。 それもこれも、菫子を取り巻くある噂のせい。 『不幸の菫子様』と呼ばれるに至った過去の出来事の数々から、菫子は誰かと共に在る事、そして己の将来に対して諦観を以て生きていた。 心許せる者は、自分付の女中と、噂畏れぬただ一人の求婚者。 求婚者との縁組が正式に定まろうとしたその矢先、歯車は回り始める。 命の危機にさらされた菫子を救ったのは、どこか懐かしく美しい灰色の髪のあやかしで――。 そして、菫子を取り巻く運命は動き始める、真実へと至る悲哀の終焉へと。 ■二:あやかしの花嫁は運命の愛に祈る 旧題:大正石華戀奇譚<二> 椿の章 ――あたしは、平穏を愛している 大正の時代、華の帝都はある怪事件に揺れていた。 其の名も「血花事件」。 体中の血を抜き取られ、全身に血の様に紅い花を咲かせた遺体が相次いで見つかり大騒ぎとなっていた。 警察の捜査は後手に回り、人々は怯えながら日々を過ごしていた。 そんな帝都の一角にある見城診療所で働く看護婦の歌那(かな)は、優しい女医と先輩看護婦と、忙しくも充実した日々を送っていた。 目新しい事も、特別な事も必要ない。得る事が出来た穏やかで変わらぬ日常をこそ愛する日々。 けれど、歌那は思わぬ形で「血花事件」に関わる事になってしまう。 運命の夜、出会ったのは紅の髪と琥珀の瞳を持つ美しい青年。 それを契機に、歌那の日常は変わり始める。 美しいあやかし達との出会いを経て、帝都を揺るがす大事件へと繋がる運命の糸車は静かに回り始める――。 ※時代設定的に、現代では女性蔑視や差別など不適切とされる表現等がありますが、差別や偏見を肯定する意図はありません。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

となりの京町家書店にはあやかし黒猫がいる!

葉方萌生
キャラ文芸
★第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。お読みくださった皆様、本当にありがとうございます!! 京都祇園、弥生小路にひっそりと佇む創業百年の老舗そば屋『やよい庵』で働く跡取り娘・月見彩葉。 うららかな春のある日、新しく隣にできた京町家書店『三つ葉書店』から黒猫が出てくるのを目撃する。 夜、月のない日に黒猫が喋り出すのを見てしまう。 「ええええ! 黒猫が喋ったーー!?」 四月、気持ちを新たに始まった彩葉の一年だったが、人語を喋る黒猫との出会いによって、日常が振り回されていく。 京町家書店×あやかし黒猫×イケメン書店員が繰り広げる、心温まる爽快ファンタジー!

処理中です...