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第1章
第11話 改めてのプロポーズ
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そこまで聞いて私は人外に狙われ易いというのは理解出来た。しかしそれなら別の疑問が浮上する。
「でも両親が亡くなってから数年経っているのに、どうして今頃?」
「徐々に加護は薄れていましたが、店に張り巡らされていた護符の効果が機能しなくなったのでしょう。昨日、お館様が足を踏み入れたことで、結界が砕かれてしまったようです」
「え!?」
「人払いの術式と相性が悪かったのもあったのだろう。護符でも力の強いほうに当てられれば消滅する」
(あ。だから店の和紙が黒焦げに……)
もし紫苑さんが店に訪れなければ、ヨクナイモノに襲われることは無かったのだろうか。そう一瞬考えてしまったが、左近さんにはその思考がわかったのか、言葉を続けた。
「まあ、元々その護符も限界いっぱいだったようですから、昨日は本当に間一髪だったと思います。紙は劣化しやすい。だからこそ書き直しや張り直しが必要です。あの店はそういった意味でも危うかった」
「そう……だったのですね。助けて頂いたことは本当にありがとうございました」
今思い出しても体の震えが止まらない。あんな体験をしてしまったら、独りで生活するのが怖くてたまらなかった。けれど今すぐ避難できそうな親戚や友人は近くにいない。
ひとりぼっちだ。
自分自身を抱きしめようとしたとき、背中の温もりに遅まきながら気付いた。
「そこで、暫くはお館様と共にここ、あるいは別宅で過ごされてはいかがでしょう?」
「それはいい案だ」
「……え」
左近さんの眼鏡が輝き、壁側にスクリーンが用意されて自宅付近の映像が映し出される。
(ん?)
「それでは僣越ながら、左近めが、小晴様とお館様との婚約がどれだけメリットがあるのかなども含めて、プレゼンさせて頂きます」
(唐突なプレゼン!?)
紫苑さんは「小晴と飲むお茶は美味しい」とほのぼのマイペースさんだ。何だか可愛いのだけれど。
「まず現在の小晴様のご自宅兼仕事場ですが、物理的にも火の手が上がったのと、お館様の強風で屋根の一部が損壊。そのため、すぐさま業者を手配して、リフォーム準備諸々を進めています。家にあった荷物などは現在貸し、借倉庫にて既に移動を完了済みです」
「え、え、ちょ」
家にそんな倉庫や修繕費などの資金はない。だが、左近さんは「ご安心を」と言葉を続ける。
「今回の一件は全面的に、お館様が招いたことですので、引っ越し代、貸し倉庫代金、リフォーム及び店の売上げ代金など諸々はこちらで処理します。むろん、それは婚約とは一切関係ありません。あくまでもお館様ご自身の意向ですので」
「いえ、そんな。でも……(正直有り難い。でもこんなに上手い話がある?)」
下手をすれば数千万レベルの金額である。
それを見ず知らずの、しかも人外がポンと出すことに違和感しかない。しかもリフォームの設計図とかすでにできているとか、仕事ができすぎていて恐怖しか感じない。
店のホームページにも火事の一件のお知らせなどが掲載しているのを見せて貰った。仕事が早い──というかヤミ金よりも怖い。
「(だって人間界の常識とかないもの!)その契約書とか連帯保証人とか……」
「心配でしたら、公正証書にして弁護士にも確認の上、小晴様から代金はいただかない。またそのことで脅迫及び恩の強要もしないと一筆しましょう。これで不安は多少軽減出来ると良いのですが」
「え、そこまで……どうして……だって……」
「小晴」
私の蒼白具合に憐れんだのか、紫苑さんは優しげな声をかけてくれた。
「金銭面などは私の財産から出しているから心配することはない。どうせ何もしなくても土地代? とかで、口座には使い切れないほどの金額があるのだから」
「(不労所得のこと?)……ええと、そうではなく、私が返金できる見込みは、それこそ数十年かかると思います」
「返さなくていい。私はそんなことを望んでいない。……でも、一方的に恩を感じるのが嫌だというのなら、見返りとして私の傍にいてくれないか?」
「紫苑さんの?」
「左近はああ言ったが、私は小晴を花嫁として迎えたい。それを『無かったこと』にはできないだろう。私が見つけてしまった、それだけでどうあっても、その一点だけは変えられないし、変えてあげられない」
無茶苦茶な理屈だが、それが人外であり、人間社会では通用しない理なのだろう。
人の姿をして、人の心を理解はできるが、倫理観や感覚は全く異なる。それでも強要しないのは、私のことを慮ってくれているから──。
「紫苑さんは、私がいいと?」
「うん、小晴でないと駄目かな。小晴にとって私はよくわからない存在で、困ってしまうかもしれないけれど、今まで通り飴細工作りも、店のことも、私が支えるよ」
思わぬ提案に目をぱちくりしてしまう。
人外に連れ去られやすい面倒な存在である私を、どうして傍に置きたいと思うのだろうか。好きになったから?
シンプルすぎる理由で、信じられない。
だって下手したら数千万以上の負債に、地上げ屋との衝突あるいは、その上の御曹司とのことに巻き込む。
ヨクナイモノに狙われることだってあるのに、それを全て分かった受けで、この人は受け入れると、どうして言い切るのだろう。
「小晴が好きだから、婚約者になったのち、伴侶になってほしい」
「婚約者は確定なのですか!?」
「小晴と一緒にいたい……。伴侶になって」
(微妙に話がかみ合わない……)
美しくて見惚れてしまう紫苑さんに「好きだ」と言われるのは正直、嬉しい。心臓もバクバクするし、光栄なことだ。
その反面、何故私なのかという疑問が浮上する。
紫苑さんの話ではどうにも納得できないというか、理解出来ない部分が大きい。
人外の好きは、人間の好きと同義語かどうか不明だ。好ましいのなら恋愛感情以外にも沢山あるし、珍しいとか興味深いという意味合いで使う場合だってあるだろう。
(それとも私の作った飴細工が好きとか? 普通のモブ的な私に惹かれる要素は?)
「小晴の飴細工も好きだから、また作ってほしい。なんなら毎日でも」
(あ……)
「でも両親が亡くなってから数年経っているのに、どうして今頃?」
「徐々に加護は薄れていましたが、店に張り巡らされていた護符の効果が機能しなくなったのでしょう。昨日、お館様が足を踏み入れたことで、結界が砕かれてしまったようです」
「え!?」
「人払いの術式と相性が悪かったのもあったのだろう。護符でも力の強いほうに当てられれば消滅する」
(あ。だから店の和紙が黒焦げに……)
もし紫苑さんが店に訪れなければ、ヨクナイモノに襲われることは無かったのだろうか。そう一瞬考えてしまったが、左近さんにはその思考がわかったのか、言葉を続けた。
「まあ、元々その護符も限界いっぱいだったようですから、昨日は本当に間一髪だったと思います。紙は劣化しやすい。だからこそ書き直しや張り直しが必要です。あの店はそういった意味でも危うかった」
「そう……だったのですね。助けて頂いたことは本当にありがとうございました」
今思い出しても体の震えが止まらない。あんな体験をしてしまったら、独りで生活するのが怖くてたまらなかった。けれど今すぐ避難できそうな親戚や友人は近くにいない。
ひとりぼっちだ。
自分自身を抱きしめようとしたとき、背中の温もりに遅まきながら気付いた。
「そこで、暫くはお館様と共にここ、あるいは別宅で過ごされてはいかがでしょう?」
「それはいい案だ」
「……え」
左近さんの眼鏡が輝き、壁側にスクリーンが用意されて自宅付近の映像が映し出される。
(ん?)
「それでは僣越ながら、左近めが、小晴様とお館様との婚約がどれだけメリットがあるのかなども含めて、プレゼンさせて頂きます」
(唐突なプレゼン!?)
紫苑さんは「小晴と飲むお茶は美味しい」とほのぼのマイペースさんだ。何だか可愛いのだけれど。
「まず現在の小晴様のご自宅兼仕事場ですが、物理的にも火の手が上がったのと、お館様の強風で屋根の一部が損壊。そのため、すぐさま業者を手配して、リフォーム準備諸々を進めています。家にあった荷物などは現在貸し、借倉庫にて既に移動を完了済みです」
「え、え、ちょ」
家にそんな倉庫や修繕費などの資金はない。だが、左近さんは「ご安心を」と言葉を続ける。
「今回の一件は全面的に、お館様が招いたことですので、引っ越し代、貸し倉庫代金、リフォーム及び店の売上げ代金など諸々はこちらで処理します。むろん、それは婚約とは一切関係ありません。あくまでもお館様ご自身の意向ですので」
「いえ、そんな。でも……(正直有り難い。でもこんなに上手い話がある?)」
下手をすれば数千万レベルの金額である。
それを見ず知らずの、しかも人外がポンと出すことに違和感しかない。しかもリフォームの設計図とかすでにできているとか、仕事ができすぎていて恐怖しか感じない。
店のホームページにも火事の一件のお知らせなどが掲載しているのを見せて貰った。仕事が早い──というかヤミ金よりも怖い。
「(だって人間界の常識とかないもの!)その契約書とか連帯保証人とか……」
「心配でしたら、公正証書にして弁護士にも確認の上、小晴様から代金はいただかない。またそのことで脅迫及び恩の強要もしないと一筆しましょう。これで不安は多少軽減出来ると良いのですが」
「え、そこまで……どうして……だって……」
「小晴」
私の蒼白具合に憐れんだのか、紫苑さんは優しげな声をかけてくれた。
「金銭面などは私の財産から出しているから心配することはない。どうせ何もしなくても土地代? とかで、口座には使い切れないほどの金額があるのだから」
「(不労所得のこと?)……ええと、そうではなく、私が返金できる見込みは、それこそ数十年かかると思います」
「返さなくていい。私はそんなことを望んでいない。……でも、一方的に恩を感じるのが嫌だというのなら、見返りとして私の傍にいてくれないか?」
「紫苑さんの?」
「左近はああ言ったが、私は小晴を花嫁として迎えたい。それを『無かったこと』にはできないだろう。私が見つけてしまった、それだけでどうあっても、その一点だけは変えられないし、変えてあげられない」
無茶苦茶な理屈だが、それが人外であり、人間社会では通用しない理なのだろう。
人の姿をして、人の心を理解はできるが、倫理観や感覚は全く異なる。それでも強要しないのは、私のことを慮ってくれているから──。
「紫苑さんは、私がいいと?」
「うん、小晴でないと駄目かな。小晴にとって私はよくわからない存在で、困ってしまうかもしれないけれど、今まで通り飴細工作りも、店のことも、私が支えるよ」
思わぬ提案に目をぱちくりしてしまう。
人外に連れ去られやすい面倒な存在である私を、どうして傍に置きたいと思うのだろうか。好きになったから?
シンプルすぎる理由で、信じられない。
だって下手したら数千万以上の負債に、地上げ屋との衝突あるいは、その上の御曹司とのことに巻き込む。
ヨクナイモノに狙われることだってあるのに、それを全て分かった受けで、この人は受け入れると、どうして言い切るのだろう。
「小晴が好きだから、婚約者になったのち、伴侶になってほしい」
「婚約者は確定なのですか!?」
「小晴と一緒にいたい……。伴侶になって」
(微妙に話がかみ合わない……)
美しくて見惚れてしまう紫苑さんに「好きだ」と言われるのは正直、嬉しい。心臓もバクバクするし、光栄なことだ。
その反面、何故私なのかという疑問が浮上する。
紫苑さんの話ではどうにも納得できないというか、理解出来ない部分が大きい。
人外の好きは、人間の好きと同義語かどうか不明だ。好ましいのなら恋愛感情以外にも沢山あるし、珍しいとか興味深いという意味合いで使う場合だってあるだろう。
(それとも私の作った飴細工が好きとか? 普通のモブ的な私に惹かれる要素は?)
「小晴の飴細工も好きだから、また作ってほしい。なんなら毎日でも」
(あ……)
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