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第四幕

第30話 ヒロイン、リリスの視点5

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 そう命令したがウィルフリードは動かない。腕輪の効力も効かないのか、私を見ることもなかった。なんでこの男だけは効果がでないのよ!
 強く命令をしてもピクリとも動かない。

「なっ、ちょっと、ウィルフリード!」
「黙れ。……アメリア嬢、それで本日はどのような考えがあって、パーティー会場に来られたのか伺っても?」
「宣戦布告をしに来たのよ。始祖ナイトロードが作り上げた社会システムでは人間を増長させて、誰が今まで庇護下の置いていたのかまるで分かっていなかったのだもの。初代は人間と対等であろうとしたけれど、それは間違いだったわ。だから国王、これは私から最後の慈悲よ。今、王位を私に譲位するのなら、侯爵の地位を与えてあげても良いわ。もし断るのなら、武力行使でこの国を落とすけれど」
「なっ、そんな馬鹿なことがまかり通る訳ないだろう!」

 はあああ!? 
 この国を手に入れるのは私なのに、何言っているのよ!
 感情的に国王に自分の気持ちを代弁させた。

「あら? まかり通るとかそんなのどうでも良いのよ。アメリア・ナイトロードがそうすると決めたらそうなるの。ああ、それと紹介が遅れたけれど、今日のパーティーに参加してくれた私の大親友の魔王アルムガルド様よ」

 魔王。やっぱり!
 その言葉を聞いた瞬間、全員の表情が凍り付いたのだけれど私は騙されない。

「魔王は勇者に打たれて死んだって聞いたわよ!」
「余はその次の魔王、アルムガルド・クレスケンスルーナだ。かつて邪神の脅威を抑えるため初代ラディル国王と始祖ナイトロード殿、先々代の魔王、死神の立ち会いの下、不可侵条約を結んだ。──が、此度の一件で魔界及び魔族は、アメリア・ナイトロード側に付く。いや正確には吸血鬼女王と同盟を組んでいる。この地を統べる古の神の中でも最強を誇っていた彼女に喧嘩を売る愚か者などいないと思っていたが、なかなかどうして人間とは怖い物知らずなのだな」
「ま、魔王が……吸血鬼族と同盟!? あり得ない!」
「リリス……」

 スチュワートは真っ青な顔をしているだけで、賛同してくれない。他の貴族たちもだんまりだ。ちょっと魔力で威圧されたからって情けない。
 こっちにはウィルフリードがいるし、それにいざとなったら大規模魔法術式を使えば一掃できる。
 武力でも人数的にも有利なのに、どうして周りは黙っているの!?
 アメリアが手紙を出し続けたおかげで、対策用の魔導具だって用意しているんだもの、負けるはずがない。
 それに私の味方は王侯貴族だけじゃない、教会だってイアン枢機卿が──。

「教会側もアメリア・ナイトロードを支持する。この国はあまりにも魂が汚れきってしまった。何より罪なき者を殺し、罪をなすりつけるやり方は吐き気がする」

 は?
 白い法衣に金の刺繍の入ったストラ、白銀の錫杖、顔はベールで隠されているので見えないが、全身真っ白な偉丈夫は──教皇聖下だ。
 その姿を見て王妃が失神するように指示して倒れさせた。従者や使用人が駆け寄ろうとするが動けない。人が倒れたのに影を解除しないなんて!
 本当に厄介ね! 

 王子に卒倒にピクリともしないなんて、なんて非道な女なのかしら! 普通は解除ぐらいするでしょうに! 
 それより聖下がどうしてここに来たのか、ゲームでも教会本部の謁見の間から出たところを見たことがないのに!
 枢機卿イアンはどうしたのよ!? 国王、聞き出しなさい!

「聖下、邪神の封印のため術式展開の儀式を行っていると聞いていたが……」
「国王、久し振りだな。僕の腹心であるクロード枢機卿が何者かによって殺されたことで中止した。己が欲望のために君たちは増長しすぎた。その責務を重く感じ、譲位を自ら言っていたらまだ少しは見込みがあると思っていたんだが、残念だよ」
「さて、聖下も揃ったところで、一つハッキリさせておきましょうか」

 パチン、とアメリアが指を鳴らした瞬間、パーティー会場に半透明の人間が次々と姿を現した。
 それを見た瞬間、発狂する貴族たちが続出し、気絶する者もいた。まるで幽霊、お化けにでもあったかのような反応に、眉を顰める。
 なんだっていうのよ。次から次へとシナリオにないことばかり!

 聖下の前に同じ法衣に身を包んだ青年が姿を見せる。あの男は攻略キャラの一人、ミステリアスな雰囲気を持つ最年少で枢機卿に上り詰めたクロード・エグルトン!
 なんで殺されているのよ!? 
 どおりで教会に行っても全然、会えないしイベントが発生しない訳ね! 薄紫色の長い髪が美しいイケメンは私の物になるはずだったのに!

「死者が……蘇った? まさかこの国で噂になっている……死者復活は……」
「私、『死人に口なし』って言葉が昔から好きじゃなかったのよ。だから、ね。死後は冥界に向かう前に、ナイトロード領地を含むマリーナ領、カルクス領、トフ領ス、アガト領を軸とした五角形の領土一帯を《煉獄領域》と称して転移されるようにしたの。生前罪を犯した者には、罪を犯した分の年数を労働で払って貰う。逆に善行を積んだものは四十九日間優雅な暮らしを約束させようと思って、リゾート地まで開発中なのよ。ふふっ、それにこれで殺して罪を押しつけることもできない。私が作る国は法と秩序の世界。そこには死と生の境界も緩める」

 なんてつまらない世界なの。誰が得するのよ。
 そんなことよりクロードが死んでいるなんて、ショック!

『聖下、お役目を果たせず、申し訳ありません』
「構わないさ、アメリアのおかげで再会できたのだから。……さて、感傷に浸る前に君を殺したのは、そして今回の黒幕は誰かな?」
『私を殺して、教会の実権を握ろうと画策したのは、スチュワート殿下を含む宰相ディカルディオ、エドニー子爵、ヒューム男爵、ハスラー伯爵、最後にリリス嬢を聖女と認めるよう迫った、枢機卿イアンです』
「(はああ? スチュワートがクロード枢機卿を? 聞いてないんだけれど!)スチュワート殿下が、クロード枢機卿を殺めるようにしたのですか?」
「リリス!? ……っ、僕は関係ない! 君が動きやすいように……手を回したけれど……イアンが良い案があると……」

 そういえば枢機卿イアンの姿がない。逃げた?

「ああ、枢機卿イアンなら僕の配下が回収しているよ。僕の腹心を殺してくれたんだ。簡単には殺さない。さて、死者たちよ。事実を語るが良い」
『リリス様に毒を盛るようにと指示してきたのは、リリス様ご本人です。しかし、そのあと、私は用済みだったのか殺されました。弟の薬ほしさに申し訳ありません』
『自分はイアン様に命じられて、様々な証拠を隠滅してきましたが、最終的に全て人外貴族のせいにするため殺されました』
『私はディカルディオ様の不正を見てしまって……』
『自分も領地を──』

 次々に現れる死者はみな王侯貴族に恨みがある者たちばかり。しかも私たちの罪や罪状を暴いていく。次々に私がしてきたことが明らかになり、周囲の貴族たちからの視線も冷ややかなものになっていく。なんで私がそんな目で見られないといけないのよ!

「全部、幻術か魔法で操っているの! アメリア・ナイトロードは悪役令嬢で世界を、そうこの国を滅ぼす悪なの! みんな騙されてはダメ!」
「悪でも何でもいいわよ。私は私の守りたい者のためにこの国を滅ぼして、統治者となる。それだけ、邪魔したいのなら受けて立つわ。吸血鬼女王と魔王と教皇聖下死神と冥府を敵に回してもいいのなら」

 アメリアの笑みは崩れない。
 なんであんな女の傍にイケメンばかりが集まるのよ! 可笑しいじゃない。ヒロインは私なのに!

「国王、返答は?」
「一存ですぐに譲位はできない。……時間をくれないだろうか?」

 何言っているのよ! 
 今すぐ潰してしまえばカタが着くのに! 最期の最期で私の指示を無視するなんて、ふざけている!
 もういい。
 アイテム・ストレージから魔法武器を取り出して、アメリアを殺せば──。

 そう手を動かした瞬間、蜂蜜色の美しい髪の青年が現れた。甘い香りと共に、喉元に短剣を突きつけて睨み付ける。
 え、なっ、顔近っ! ああ、睫毛長い、すっごくタイプ。
 熱の籠もった視線に頬が熱くなる。

「おねーさまに敵意を向けるだけでも万死に値するのに、殺害しようなんて──この場で殺してあげようか」
「──っ、姉? もしかしてルイス?」
「もう喋らないでくれる?」

 ああ、なんて格好よく成長したのかしら。
 ルイスも殺したはずだけれど蘇るなんて! 
 しかも意地の悪い姉に洗脳されているんでしょうね。じゃなきゃ、ヒロインである私に殺意を向けるなんてあり得ない。大丈夫、ゲームでも姉の非道な行いに葛藤していたんだから、ヒロインの私がしっかりと導いてあげないと!

「ああ、なんて可哀想なのかしら。ルイス、貴方の苦悩を私はすぐに取り払ってあげ」
「気持ち悪」
「え──っ!」

 刃を振るうけれど私には届かない。
 だって私の騎士がそれを阻んだ。というか私の盾として無理矢理割り込ませたのだ。「ぎゃあ!」と耳障りな声を上げたが、ヒロインのために死ねるんだから、名誉なことだと思いなさい!

 まだ終わりじゃない! 
 騎士に奴隷も総動員して、包囲するだけの時間は稼いだ。すでに正面入り口も、裏も私の騎士と戦闘要員の奴隷がいるし、王城の上空にも竜を待機させている。足が縫い止められていようとも、靴を脱ぎ捨てて、あるいは足を犠牲にすればいい!
 あとは私の号令だけ!
 やっぱり最後に勝つのは、ヒロインである私よ!

「大聖女のリリス・ダウエルが命じる。悪役令嬢アメリア・ナイトロードを鏖殺せよ!」

 騎士達は一斉に魔法剣を構える。なんて素晴らしい光景なのだろう。
 私の《操り人形マリオネットの証・プルース》を使えばアメリアを殺すなんて簡単だ──そう勝利を確信した瞬間、あの女は笑ったのだ。
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