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第三幕

第18話 邪神との対話2

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「それでも……人を守ろうとしたのが、始祖ナイトロードだった。彼女は――」
「その結果が、これよ。始祖の願いも虚しく二千年も経たずに人間が裏切った。だから同じやり方をしても、同じ結果にしかならないから根本を変えるの。アメリア・ナイトロードが大切に思っているのは弟妹が安心して暮らせる世界。そのために、あの国を滅ぼして手に入れる」
「…………人間は、そこまで愚かなことをキミたちにしてきたようだね」

 誰が死のうと関係ない。もっとも私を貶めた連中は、私の手で報復したいという気持ちはある。

「ジュノン様が私たちに協力してくださるのなら、国盗りもスムーズになるかもしれませんね」
「…………すごく怖いことをサラッと言っている」
「復讐は先ほども言ったように、私個人の問題ですから。ですが貴方を外に出すことは、私の中で決定事項です」
「は……え?」
「さっきの曲を歌劇場で披露したいとか思わないのですか? 貴方の演奏で拍手喝采、最大級スタンディングの賛辞オベーションを浴びてみたいと思いません?」
「ボクの……曲を?」

 意外だったのか目を泳がせながらも、頬を染めて照れていた。

「あれは手慰みものとして始めもので……」
「グランドピアノは自分で作ったのですか? 弾くのも自己流?」
「時間はいくらでもあったから、儀式の音色を聞いて外の情報を元に作ったもの……だし」

 手を合わせながら嬉しそうに語るジュノンは、幼子のよう。コミュ障だと聞いていたけど、思ったよりも会話が続く。
 勇者の影響を受けたのか、会話をするのが楽しいと思っているようだ。グッジョブ、従兄!

「外に出て世界を見てみたくないのですか? 私と《血の契約》をすればジュノン様の厄災を制御できると思うのですよ。まあ《血の契約》が難しいなら、邪気を抑える兎の着ぐるみを用意したので、これを着れば外に出て生活できますわ!」
「ボクと……《血の契約》ッ!? 着ぐるみ? 外に?」

 ぼぼぼ、と途端に真っ赤になった。なぜそんなに顔を赤らめるのかしら。確かに《血の契約》は信頼した者同士だけに適用するだけで、そこまで深い意味はない。

「ジュノン様?」
「わ、ボクと……契約ッ……ほ、本気?」
「はい」
「分かっている、冗談なのでしょう。ボクをからかって何が面白い――はい!? って、ええ!? なんて大胆な人なのですか……。たしかに昔、キミと何度か言葉を交わしたけれど、……ここ数年で破廉恥になるなんて」

 え、破廉恥!? 
 あ。もしかして首元にがぶりっていうのに照れている? その気持ちは分からなくもない。

「私も初めての試みですが、(注射で採血すればいいし)できるだけ優しくしますから!」
「積極的すぎませんか……それに急展開過ぎる。こういうのは、もっとお互いのことを理解し合ってからでないと……」

 なぜか乙女モード全開で目を潤ませて赤面しているものの、両手を頬に当てて嬉しそうだ。なんだろうこの純粋乙女青年は。
 従兄め、これ絶対巷の恋愛系小説を読ませたわね!

 まあ、可愛いけれど! 小さかった頃のルイスを思い出すわ。ふふふっ、安心しなさい。お姉さんが守ってあげるんだから!

「……ん? そういえばさっき、私と会ったことが何度かあるって言ったけれど?」
「うん……ここに来て、ボクのピアノを……褒めてくれたんだ」
「……あ! 何となく思い出してきたわ。そうそう! あの時は転移の魔法陣が失敗して……ウィルフリード様とエルバート様が心配して迎えに……」
「エルバート? キミを迎えに来ていた人間はランベルトじゃなかったの?」
「ランベルト……様?」

 なぜ第一王子の名前が?
 ううん、それよりもどうして、私がランベルト王子と面識があるの?
 私の幼馴染みはウィルフリードだけ。そもそもランベルトは隣国に視察に行った矢先に──。

「ああ、記憶を取り戻しても前世の記憶とごちゃ混ぜになったせいか、記憶が混濁したままのようだな」
「──っ!」

 耳に届く低い声音。
 振り返ると白銀の甲冑を身に纏った天使族の──ウィルフリードが入り口に佇んでいた。一対二翼を広げた姿はとても美しい。
 私を見る彼は嬉しそうに口元を綻ばせた。

「アメリア」
「ウィルフリード……」
「君が前世の記憶をハッキリと取り戻したのは、ランベルト王子が行方不明なったその日だ」
「!?」
「王都で出会ったのち、何度か辺境地を訪れて一緒に居たのは、俺とランベルトだよ。そしてランベルトが行方不明になってから、俺が君の婚約者となった。これも思い出せていないのか?」

 当時、私は八歳だった。思い出そうにも記憶が霧散して思い出せない。

「……それと、極大魔法術式がもうまもなく発動する。死にたくなければ待避することだ」
「え?」
「その邪神に着ぐるみを着せて、力を抑えられるのなら、な」

 すでにウィルフリードは踵を返していた。美しい翼が何度か羽ばたきを見せ、羽根が舞う。

「──っ、ウィルフリード」
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