星が輝く夜に

第1章 出会いの夜

第８夜 平和なひととき

　山奥を流れる美しい小川。
　澄んだ川には、カニや小魚などが群れているのが確認できる。
　その小川のほとりで二人の吸血鬼が黙々と洗濯をしていた。
　そんな中、ギルバートは少し気まずさを覚えていた。そう、先ほどからチラチラとミラがギルバートを見てくるのだ。

（さっきから何なんだこの女は…）

　ギルバートはミラを訝しげに思っていた。
　そのミラはというと、

（これから一緒にやっていくうえで、仲良くなりたいけど…）

　またしてもちらっとギルバートの方を見る。

（4年も禄に会話をしていないから、どう話しかければいいのかがわからないわ…）

　話しかけれるタイミングを窺っていたが、なかなかそのタイミングがなく喋れずにいたのだ。

（にしてもそうとうな美形ね…世間ではこういうのを絶世の美男って言うのかな。）

「なあ、僕の顔に何かついているのか？」

　ギルバートはたまりかねてミラに聞いた。

「いや、絶世の美男だなぁって思って。」

　ミラはつい口を滑らせる。
　それを聞いたギルバートは少しの間固まると、少し顔を赤らめてバッと顔をミラから背ける。

（なんかかわいい…）

　ギルバートはミラが弟を見るかのような目で見ているのに気づき、

「早く終わらせるぞ！」

と声を荒げ、服を洗うスピードを上げる。
しばらくすると、ギルバートはミラに気になっていたことをポツリと聞いた。

「なあ、ミラは親が死んで悲しくなかったのか？」

ミラは少し間を開けてから優しげな声で言った。

「…正直、悲しくないと言うと嘘になるわ。でもあれでよかったと思っているの。お父さんはずっと苦しんでいたから。」

（お父さん、か。）

ギルバートは今は忘れた大切だった人々のことをぼんやりと思い出していた。

　二人は洗濯を終えて服を干すと、家へと入ろうとする。その時、

「テガミデス！テガミデス！」

　と機械的な声が空から聞こえてきた。
　見上げると、金属でできたコウモリがバサバサと降り立ってきた。
　その頃、ハザードは自室でルルが逃げた後の事を思い出していた。

　吸血鬼ハンターのルルが去っていった後、ハザードはギルバートに駆け寄り、ギルバートが負傷した箇所を診た。

（！これは…）

　ナイフが深く刺さっており、血もとどめなく流れていて思った以上に重症だった。

「痛いが我慢してくれ！」

　ハザードは応急処置を施そうと、まずギルバートのナイフを抜こうとした。
　すると、ハザードがナイフを抜く前にナイフにヒビが入って跡形もなく粉々に消えていった。
　そして傷もあっという間に回復していき、ついには傷跡が完全に無くなっていた。

（普通、回復力が高い吸血鬼でも銀武器でつけられた傷を回復させるのに最低でも3週間は要する。それに銀武器を破壊できる吸血鬼など聞いたことがない…）

「…一度、奴に診せる必要があるな。」

　ハザードがそう呟いた直後、ギルバートが部屋に入ってきた。

「部屋に入る前はノックをしてくれ。」

「何度もノックをしても返事がなかった。」

　ギルバートはそう言うと手紙を差し出す。

「なんかコウモリがあんた宛ての手紙を届けてきたぞ。」

　ギルバートは手紙をハザードに渡すと部屋からそそくさと出て行った。

（噂をすれば…）

　ハザードはさっそく手紙を読む。
　手紙を読み終えると、ハザードはため息をついていた。