星が輝く夜に

海野 入鹿

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第1章 出会いの夜

第7夜 少女の時は動き出す

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昔はとても幸せな家庭だったと思う。
明るい笑顔が特徴的な母、気が弱そうだけどとっても優しい父に育てられた私は幸せいっぱいだった。
だけど、そんな幸せはあっさりと崩れ去るものだ。

母は今から4年前、私が9歳の時に不慮の事故で亡くなった。それ以来、優しかった父は激変してしまった。
父は大切な家族を再び失う恐怖からか、私を地下の部屋に閉じ込めた。
最初は地下から出ようと試行錯誤していたが、その度に父から暴力を受けた。そしてその後に父は泣き出すのだ。すまない、でもお前のためなんだ、と。
父は地下から出ようとしなければ、至って優しい『お父さん』だった。
だから私は、父が『お父さん』でいられるために地下から出ることを諦めた。

それから4年後、私は変わらず地下にいた。
地下の部屋には読書が好きだった母の本がたくさんあり、それらを読んで暇を潰していた。
父は毎日来てくれるが、私を母の名前で呼び、私がおそらく生まれる以前の出来事を一方的に話して帰っていくだけだった。

そして先ほど、私は突然灼けるような激痛に襲われ意識を失った。
再び意識が戻り幾ばくかの時間が過ぎた時、ガチャッと普段は外から鍵がかかっている地上と地下を繋ぐドアが開いた。
ドアから全く知らない人間が二人、地下に入ってくる。一人は大柄な男でもう一人は私より少し年下の少年だった。

「吸血鬼の匂いがすると思ったら…やはりいたか。先ほどの吸血鬼ハンターといい、今日はよく人に会う日だ。」

「あなたたちは…?」

私が聞くと、大柄な男が自己紹介をしてきた。

「俺はハザード。かれこれ300年生きている吸血鬼だ。で、こっちはギルバート。吸血鬼になりたての元人間だ。その様子だと君も元人間か。」

300年?吸血鬼?この人たちは何を言っているの?

私がわけの分からないという顔をしていると、ハザードは察したのか、

「まず吸血鬼というのは…」

と説明してくれた。

私が吸血鬼になるなんて…

説明を全てを聞き終え私が驚いていると、ハザードは綺麗に片付いている部屋を見渡し、私に提案をする。

「それでお前、俺の元でメイドとして来る気はないか?さすがに下僕一人だと家事が回らんし、見たところ、整理整頓ができるようだしな。」

ギルバートはギロリと殺気を出して、ハザードを睨みつける。

「そもそも、お前が家事を手伝って、整理整頓もしっかりすればいいだけの話なんだが…!」

私はゆっくりと首を横に振る。

「無理よ、そんなこと父が許してくれないわ。」

「お前の父はもういない。」

「え?」

「俺が吸い殺した。」

私は多少は驚いたけれど、そこに悲しみはなかった。だって私が大好きだった『お父さん』は母が亡くなった時に、一緒に亡くなったんだもの。

「で、どうする?」

私の答えはすでに決まっていた。

「私、あなたたちといくわ。」

吸血鬼になったばかりの私がこの世界を一人で生き延びるのは厳しいし、何よりも孤独はイヤだった。

「でもその前に父の遺体に会わせてほしい。」

「黒炭になっているがいいのか?」

「構わないわ。一応、彼にも別れを告げないと。」

私はハザードたちに続いて、地上への階段をゆっくりと上っていく。
久しぶりの地上。恐怖か喜びか、小さくカタカタと手が震え出す。

でも、ここで進まないと何も変わらない。
私は階段を上りきり、4年ぶりの地上へ出た。

4年ぶりの我が家は、まるで時が止まったかのように何も変わっていなかった。
あの日々のことが今にも思い浮かべる。

私は記憶を頼りに2階の父の部屋へと向かった。
父の部屋はあの頃と同じだった。
青色の絨毯に古びた机、そして青色の大きいベッド…
何一つ変わらない部屋。ただ一つ変わったとすれば、ベッドの上に黒炭があるということ。

これでよかった。父はずっと苦しんでいた。
ただ一つ欲を言うのならば…

「最後に、私の名前を呼んで欲しかったな…」

私は父の部屋をあとにして、ハザードたちと合流した。

「もう別れはすんだか。」

「ええ、もう大丈夫。行きましょう。」

「そういえば、名を聞いてなかったな。名は何て言うんだ?」

「ミラよ。これからよろしく。」

私はハザードとギルバートと握手を交わした。

私の止まっていた人生は再び動き出した―

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