星が輝く夜に

海野 入鹿

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始まりの夜

始まりの夜

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2月4日午前8時―

「じゃあ、行ってきまーす!」

 どこにでもありそうなこじんまりとした小さな家から、かばんを持った青髪赤目の美少年が出てきた。
彼の名前はギルバート。今年で12歳になるアカデミアの学生だ。ギルバートが通学路を歩いていると、

「ギールッ♡」

と後ろからギルバートと同い年くらいの女の子が抱きついた。

「離せって、エレナ。」

ギルバートがエレナの手を振りほどく。
彼女の名前はエレナ。隣の家に住む幼なじみだ。

「誕生日おめでとう!はい、誕生日プレゼントよ。」

エレナはそう言うと、リボンで結んだ箱を取り出す。

「ありがとう。」

ギルバートは照れくさそうに誕生日プレゼントを受け取るとカバンの中にしまった。

2月4日午後4時―

「じゃあまた明日ね~」

エレナが手を振り隣の家に入っていくと、ギルバートも自分の家へと入る。

「ただいまー」

すると、パアンとクラクションの音がした。
そこにはギルバートの母が誕生日を祝おうとクラクションを持って待ちかまえていた。

「誕生日おめでとう!さあ、早くカバン置いてきなさい!準備はできているわよ!」

パーティー好きな母親がいつもよりハイテンションにギルバートを迎える。

「はーい」

ギルバートは返事をすると、カバンを二階の自分の部屋に置いて一階のダイニングへと向かった。

2月4日午後11時―

賑やかな誕生日パーティーも終わり、ギルバートの家は静寂に包まれていた。
ギルバートはふと起き上がる。

(トイレ行こ)

ギルバートはベッドから起き上がりトイレへと向かった。
 
ジャーーー

ギルバートはトイレをすましてウトウトとしながら自分の部屋に帰ろうとした時、どこからかピチャピチャッと液体の音がした。

(何だろう?)

ギルバートは音が気になって、音の出所をたどり母の部屋の前まできた。部屋のドアは少し開いていた。
部屋の中からは、先ほどの音に加えてジュルジュルという液体を吸う音も聞こえてきた。

ギルバートは本能でイヤな予感を感じ取っていたが好奇心には勝てなかった。
ギルバートはそぉーっと部屋の中をのぞく。
するとギルバートの前に驚愕の光景が広がっていた。
部屋の床には赤黒い液体―血がこぼれている。そして、母が寝ているはずのベッドには大量の血が元の色が分からないほどに染まっていた。

「えっ?」

ギルバートはゆっくりと部屋に入っていく。
すると、ベッドに眠る母の首元に噛みついている大柄な男の姿があった。
男越しに顔を除かせる母は死人の顔をしていた。

「うあああああ!」

とたんにギルバートは悲鳴を上げ、今すぐ自分の部屋に戻ろうとした。これは悪夢だ、きっと悪い夢を見てるんだと自分に言い聞かせていた。
両親の部屋を出たところで誰かにぶつかった。見上げるとそこには先ほどの男が立っていた。

「その姿は同族…いや違うな、吸血鬼化しかけの人間の子供か。」

「え?」

次の瞬間、全身が灼けるような強烈な痛みを感じ、

「ああああああああああああ!」

と、発狂した。ギルバートはあまりの痛さに床をのたうちまわった。苦しくて意識が何回も飛びかけた。
しばらくしてようやく痛みが落ち着き、ギルバートはゼエッゼエッと息を整える。
ギルバートはまるで自分の身体ではないような感覚に陥っていた。

「僕の体…どうなっているんだ…」 

すると男は淡々と話した。

「お前は吸血鬼化したんだ。」

「吸血鬼化…?」

「原因は未だに分かっていないが、16歳以下の人間が突如として吸血鬼に変異する現象だ。」

「吸血鬼なんて、架空の生物だろ?」

男はどこかか手のひらサイズの鏡を取り出して、ギルバートに差し出す。

「ならば自分の目で確認しろ。その架空の生物とやらをな。」

鏡にはギルバートの姿が映っていなかった。

「そんな…」

ギルバートが絶句していると、ハザードはさらに言う。

「それに、先ほど俺がお前の母親の血を吸っているのを見ただろう。」

「そうだ!母さん!」

ギルバートが重い身体を引きずって母が寝ていたベッドを見ると、そこには血も母もおらず黒炭があるだけだった。ギルバートはハザードを睨む。

「母さんをどこへやった…!?」

ハザードは黒炭を指を指す。

「これがお前の母親だ。」

「そんなわけが…」

「吸血鬼に吸い殺された人間は黒炭になるんだ。」

ギルバートは唖然として母だったモノを見る。

「嘘だ…こんなの全部夢に決まってる…」

ギルバートの涙がポタポタと床にこぼれ落ちる。

「しかし、運がよかったな。ガキ。」 

「…は?」

「ちょうど先日、我が下僕がヘマをして吸血鬼ハンターに殺されてしまってな、代わりとなる吸血鬼を探していたところだ。」

「何が言いたい…!」

「だから、お前を俺の下僕にしてやると言ってるんだ。」

「ふざけるな…誰がお前なんかに!」

「お前に拒否権はない。」

ギルバートは意識が薄れながらも男を睨みつける。

「許さない…!絶対、絶対殺してやる!」

そんなギルバートを見て、男はニヤリと笑う。

「威勢がいい奴だ。俺の名前はハザード、これからお前の主となる名だ。」

その直後、ギルバートは意識を失った。
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