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第四章 続・河東争奪
第四十三・五矢 父の死
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わしは父上が大好きであった。
腕っぷしが強く、この世の誰よりも優しい。
わしはそんな父上を誇りにも思っていた。
だからこそ悔しくて悲しかった。
あの父上が討ち死にしてしまったことが。
北条との戦を終えた駿府館。
わしこと三浦犬丸は浮かない顔をして、その駿府館の一室で殿に届く様々な書状の処理を行っていた。
父上が亡くなったからと言って、わしが重臣に出世するわけではなく、わしは引き続き小姓として殿に仕えていた。
父上…
「…おい。」
「………」
「おい。」
「………」
「おいっ!」
わしが大声に驚いて我に返ると、藤三郎がふてぶてしい顔をしてわしを見ていた。
「手が止まっておるぞ。」
「ああ…」
「ふん、全くこの駄犬は…」
藤三郎はヤレヤレといった表情を浮かべながら、処理を続ける。
わしはそんな藤三郎にイラッとした。
確かに今のはわしが悪かった。しかし、もう少し言い方というものがあるじゃろ!
こいつはいつもそうじゃ!
わしより三カ月も後に生まれてきたくせに生意気な態度を取る。
わしはこいつが昔っから大嫌いじゃ!
しかし、わしは今や三浦家の当主。わしは気品ある大人として、そんな怒りをなるべく表に出すまいと堪えて引きつった笑みを向けた。
「すまぬのう。駄犬で。」
すると、藤三郎はわしに対してドン引きして、
「気持ちわるいわ。」
の一言。
その一言を聞いて、わしは堪忍袋の緒が切れた。
「人が下手に出ているのいいことに調子に乗りおって、今ここで叩きのめしてくれるわ!」
「やっといつもの調子に戻ってきたか。」
「なにを言う!」
「先ほどまで辛気くさい顔をして仕事の邪魔じゃったわ。」
藤三郎はそう言うとため息をつく。
「それに分かっていないようだが、範高殿は死んではおらぬ。」
「父上は討ち死にしたと言って…」
「そういう意味ではない。」
「では、何だと言うのじゃ。」
少し間を開けて藤三郎は答えた。
「範高殿の思いは生きておる。」
藤三郎は続ける。
「範高殿の思いを受け継ぎ、範高殿の分もお前が殿を支えていけばいいだろうが。」
犬丸は今まで死してしまえばそこで全て終わってしまうと、そう考えていた。
だが違う。
思い、それを紡いでいけば人はいつまでも心の中で生き続けるのだ。
「そう、だったのか…」
わしは霧が晴れたかのようにスッキリとした。
「…藤三郎、礼を言うぞ。」
「ん?なんじゃ?よく聞こえんのう。」
聞こえておるくせに…!
わしは少しイラッとしながらも、
「礼を言う!」
声を張り上げて言うと、
「おお、あの駄犬が礼を言うとは成長したのじゃなあ。」
藤三郎はいかにもわざとらしく感動をしている。
こやつ、やはり嫌いじゃ!
夕焼け空の下、二人は小姓の仕事をこなしていた。
腕っぷしが強く、この世の誰よりも優しい。
わしはそんな父上を誇りにも思っていた。
だからこそ悔しくて悲しかった。
あの父上が討ち死にしてしまったことが。
北条との戦を終えた駿府館。
わしこと三浦犬丸は浮かない顔をして、その駿府館の一室で殿に届く様々な書状の処理を行っていた。
父上が亡くなったからと言って、わしが重臣に出世するわけではなく、わしは引き続き小姓として殿に仕えていた。
父上…
「…おい。」
「………」
「おい。」
「………」
「おいっ!」
わしが大声に驚いて我に返ると、藤三郎がふてぶてしい顔をしてわしを見ていた。
「手が止まっておるぞ。」
「ああ…」
「ふん、全くこの駄犬は…」
藤三郎はヤレヤレといった表情を浮かべながら、処理を続ける。
わしはそんな藤三郎にイラッとした。
確かに今のはわしが悪かった。しかし、もう少し言い方というものがあるじゃろ!
こいつはいつもそうじゃ!
わしより三カ月も後に生まれてきたくせに生意気な態度を取る。
わしはこいつが昔っから大嫌いじゃ!
しかし、わしは今や三浦家の当主。わしは気品ある大人として、そんな怒りをなるべく表に出すまいと堪えて引きつった笑みを向けた。
「すまぬのう。駄犬で。」
すると、藤三郎はわしに対してドン引きして、
「気持ちわるいわ。」
の一言。
その一言を聞いて、わしは堪忍袋の緒が切れた。
「人が下手に出ているのいいことに調子に乗りおって、今ここで叩きのめしてくれるわ!」
「やっといつもの調子に戻ってきたか。」
「なにを言う!」
「先ほどまで辛気くさい顔をして仕事の邪魔じゃったわ。」
藤三郎はそう言うとため息をつく。
「それに分かっていないようだが、範高殿は死んではおらぬ。」
「父上は討ち死にしたと言って…」
「そういう意味ではない。」
「では、何だと言うのじゃ。」
少し間を開けて藤三郎は答えた。
「範高殿の思いは生きておる。」
藤三郎は続ける。
「範高殿の思いを受け継ぎ、範高殿の分もお前が殿を支えていけばいいだろうが。」
犬丸は今まで死してしまえばそこで全て終わってしまうと、そう考えていた。
だが違う。
思い、それを紡いでいけば人はいつまでも心の中で生き続けるのだ。
「そう、だったのか…」
わしは霧が晴れたかのようにスッキリとした。
「…藤三郎、礼を言うぞ。」
「ん?なんじゃ?よく聞こえんのう。」
聞こえておるくせに…!
わしは少しイラッとしながらも、
「礼を言う!」
声を張り上げて言うと、
「おお、あの駄犬が礼を言うとは成長したのじゃなあ。」
藤三郎はいかにもわざとらしく感動をしている。
こやつ、やはり嫌いじゃ!
夕焼け空の下、二人は小姓の仕事をこなしていた。
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