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第四章 続・河東争奪

第四十矢 決着

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時を同じくして、今川軍左翼の方でも佳境を迎えていた。

(こやつ…なかなかに手強い!)
(全く、めんどくさい奴じゃ。)

岡部親綱と北条綱高は未だに互角の闘いをしていた。
しかし、この二人とは真逆に戦況は一方的なものとなっていた。
その原因である武将が今川軍左翼にいた。

「親綱殿だけ抜け駆けして…わしも殺り合いたかった。」

そうふて腐れながらも刀を片手に北条兵を蹴散らす男は由比正信。親綱と同じく今川家の武闘派として名が上がっている若手である。
この若き武将は血気盛んで、今回の戦の際も勇猛果敢に北条方の強い武将と闘おうとするも、親綱に全て奪われてしまったのであった。
そんなこともあって力が有り余っていた正信の奮闘もあり、元々足止めが限界を迎えていた北条兵はついに潰走を始めた。

「逃げるでない!最期の一兵になるまで戦うのじゃ!」

松田盛秀が潰走し出す兵の流れを止めようとするが、兵たちの足は今川軍とは真逆の方向へと向かっていて止まろうとはしない。

「盛秀様もお退きくださりませ!ここはもちませぬ!」

盛秀の側近も盛秀に退却を促した。

「く…これまでか…!」

盛秀はとても口惜しそうにして、戦場を後にした。

親綱と闘っていた綱高にも自軍の兵らが逃げ出していることが確認できていた。

「ふむ、こうなっては貴殿と闘う意味がない。ではまた…」

(まあ、もう二度とおぬしのようなやからと戦場で会いたくないが…)

綱高はきびすを返すと、早々に戦線を離脱した。

「ちっ逃げ足が速い…まあよい、早う殿の加勢に行かねば!」

親綱たちは退却する北条兵を追おうとはせず、義元のいる中央へと向かった。

そして、その戦場の中央では大将同士がぶつかり合い肉迫した戦いを見せていた。

(ここで義元を仕留めなければ、我らに勝利はない…!)

北条氏康率いる兵らは目を血走らせて今川軍右翼を攻め立てる。
対する今川軍は、北条軍の猛攻に若干じゃっかん受け身になりながらも攻める姿勢を崩さない。
お互いが攻め合う状態が続く中、氏康は強気に攻勢に出た。
氏康は今川兵を斬り倒して、義元の首ただ一点を狙って突き進む。

俺の横から何やらワーッと兵の声がだんだんと大きくなっていた。

「なんだろ?」

俺が気になって横を向くと目の前に氏康がいた。

「今川義元ぉ!」

その瞬間、氏康が大槍を振り下ろした。
氏康の出現を予期していなかった俺はぎりぎりかわすも腕を、それも利き腕の方を負傷した。
ザックリと切られた箇所は血がドバドバと溢れ出していた。

「……ッ!」

痛さで顔を歪めるが次の瞬間、氏康の攻撃がまた襲いかかる。
俺は槍を利き腕を根性で動かして、なんとか氏康の大槍を受け止めた。

「はあああ!!」

俺は痛みを和らげるため声を出して、大槍をはねのけた。

(どこにそんな力が…!)

氏康がそう驚いていると、俺は槍を両手で持って氏康に向けて槍を突き出す。
俺の槍が氏康のわき腹を貫いた。

「ぐっ…」

氏康が一旦後方に下がろうとすると、

「氏康を討て!」

今川兵が氏康に攻撃を集中させようとすれば、

「氏康様を守れ!!」

と、北条兵が氏康の前に立ち塞がって今川兵を寄せつけない。
俺はここぞとばかりに前へ出て今川兵と呼応して北条兵の壁を突破したが、俺についてきた今川兵は氏康の首に迫るが大槍の前に倒され、俺の槍も防がれた。
氏康は今川兵の追撃を逃げ切り、北条兵らの後ろに下がり、再び俺を討とうと機をうかがう。

あるものは誇りのために戦い、あるものは家族のために戦う。あるものは野望のために戦い、あるものは利益のために戦う。

戦場は様々な武士もののふの想いに溢れている。
そして、それはこの両者も例外ではない。
彼らもまたお互いに譲れないもののためにこの戦場で槍を交えていた。
想いは力となる。
そうなのだとしたら、両者の闘いには永遠に終りは来ないだろう。
しかし、始まりあるものに終わりあり。
ついにその時は訪れる。

(まだまだっ…!)

氏康が二度目の攻勢に出ようとした時、斜め後ろから怒号が聞こえてきた。

「北条氏康!覚悟せよ!」

親綱の声が聞き取れたと思ったら今川軍左翼が氏康の方へなだれ込んできた。と、同時に武田軍もなだれ込んできた。

「氏康様!このままでは挟み撃ちにされまする!」
「なっ…」

義元を討ち取るのはまだ可能だ。
だが、そのあとに自身が討ち取られては意味がない。

(あと一歩…その大きな一歩が足りなかったのか…)

「わしの完敗というわけか…」

氏康は戦意をなくし、全軍に指示を下した。

「全軍、撤退せよ!」
「逃がすか!」

今川軍は撤退を始める北条軍を追討する。
北条軍にもはや今川軍と交戦する力はなく、多数の死者を出して敗走していった。

北条軍が狐橋から撤退。
北条と今川の決戦は今川に軍配が上がったのであった。
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