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第五章 今川と織田
第四十四矢 草遊び
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北条の勝利の一報は駿府館にも届いていた。
「うわー上杉さんたちには申し訳ないことをしちゃったわー」
俺が頭をかいて申し訳なさそうにしていると、岡部親綱が少し怒り口調で言う。
「殿のせいではありませぬ。あれだけの大軍でありながらも一つの城すら落とせぬ連合軍が間抜けなのだ…!」
同じく朝比奈泰能もうなずいた。
「親綱に同感ですな。はたして北条が上手だったのか、上杉が兵を統制しきれなかったのか…」
「ま、何にしても当面東側は大丈夫だとして問題は…」
「三河国、ですな。」
泰能は目をキラリと光らせて言った。
「うん、そうなんだよねー」
ここ数年、三河国の国主・松平広忠尾張国の織田信秀による侵攻に悩まされていた。
広忠はかつて家督争いの際に手助けをしてくれた今川と友好関係を築いていた。
しかし、それとは裏腹に徐々に三河国における織田の影響力が強くなっていっているのだ。
「せっかく松平さんと良好な関係築けて、三河に影響力を持ってるのに…とりあえずこっちも織田さんに負けないように影響力を高めないと。」
当然その状況は今川にとっても好ましくなく、今現在両者は織田に対抗するために考えをめぐらせていた。
その頃、庭園では崇孚と五郎、そして五郎と同い年くらいの少年二人が歩いていた。
「今日は何をするのですか?」
そう崇孚に聞く少年は朝比奈丹千代。泰能の息子であり、藤三郎といとこにあたる五郎の小姓である。
そして、丹千代の横を歩く寡黙で少し大人びた少年は庵原宇吉。崇孚と親戚関係にある同じく五郎の小姓である。
この二人は共に五郎の学友として崇孚の元で教わっていた。
丹千代の問いに崇孚は答える。
「勉学ばかりでは気が滅入るだろう。だから、今日は気晴らしにこの庭園で遊びをしよう。」
「遊び?蹴鞠をするのか?鞠はないようだけど…」
「それはお楽しみだ。」
崇孚は穏やかな笑みを浮かべていた。
崇孚らは池付近まで行くと、そこには少しばかり雑草が生えていた。
「あった、あった…」
崇孚はその雑草を幾ばくかブチッとちぎって、五郎たちに見せた。
「これは相撲草と言ってな、二つの茎を絡めて引っ張り合いをして先に切れてしまった方が負けとなる遊びがあるんだ。」
「へえ~」
「ほれ、やってみたらどうだ。」
崇孚は相撲草をそれぞれ三人に渡す。
(つまらなそうな遊びだな…)
三人はそんなことを思いながらも、とりあえずやってみた。
まず最初に対決するのは五郎と丹千代。
「容赦しませぬよ!」
「かかってくるがよい!」
勝負は勝負ということで互いにメラメラと燃えていた。
両者の草はなかなかに切れない互角の勝負をしていた。が、ついにプチッと切れた。
先に切れたのは丹千代の草であった。
「やった!」
「くそう…!」
五郎は勝利に喜び、丹千代は敗北に悔しがった。
次に対決したのは五郎と宇吉であった。
しかし、勝負は一瞬でついた。
切れたのは五郎の草であった。
「……勝った。」
小さな声で、かつ嬉しそうに宇吉は勝利を喜んでいた。
「くそ、もう一回!」
「わしも!」
三人は時間を忘れて、ワイワイと草遊びに熱中していた。
「うわー上杉さんたちには申し訳ないことをしちゃったわー」
俺が頭をかいて申し訳なさそうにしていると、岡部親綱が少し怒り口調で言う。
「殿のせいではありませぬ。あれだけの大軍でありながらも一つの城すら落とせぬ連合軍が間抜けなのだ…!」
同じく朝比奈泰能もうなずいた。
「親綱に同感ですな。はたして北条が上手だったのか、上杉が兵を統制しきれなかったのか…」
「ま、何にしても当面東側は大丈夫だとして問題は…」
「三河国、ですな。」
泰能は目をキラリと光らせて言った。
「うん、そうなんだよねー」
ここ数年、三河国の国主・松平広忠尾張国の織田信秀による侵攻に悩まされていた。
広忠はかつて家督争いの際に手助けをしてくれた今川と友好関係を築いていた。
しかし、それとは裏腹に徐々に三河国における織田の影響力が強くなっていっているのだ。
「せっかく松平さんと良好な関係築けて、三河に影響力を持ってるのに…とりあえずこっちも織田さんに負けないように影響力を高めないと。」
当然その状況は今川にとっても好ましくなく、今現在両者は織田に対抗するために考えをめぐらせていた。
その頃、庭園では崇孚と五郎、そして五郎と同い年くらいの少年二人が歩いていた。
「今日は何をするのですか?」
そう崇孚に聞く少年は朝比奈丹千代。泰能の息子であり、藤三郎といとこにあたる五郎の小姓である。
そして、丹千代の横を歩く寡黙で少し大人びた少年は庵原宇吉。崇孚と親戚関係にある同じく五郎の小姓である。
この二人は共に五郎の学友として崇孚の元で教わっていた。
丹千代の問いに崇孚は答える。
「勉学ばかりでは気が滅入るだろう。だから、今日は気晴らしにこの庭園で遊びをしよう。」
「遊び?蹴鞠をするのか?鞠はないようだけど…」
「それはお楽しみだ。」
崇孚は穏やかな笑みを浮かべていた。
崇孚らは池付近まで行くと、そこには少しばかり雑草が生えていた。
「あった、あった…」
崇孚はその雑草を幾ばくかブチッとちぎって、五郎たちに見せた。
「これは相撲草と言ってな、二つの茎を絡めて引っ張り合いをして先に切れてしまった方が負けとなる遊びがあるんだ。」
「へえ~」
「ほれ、やってみたらどうだ。」
崇孚は相撲草をそれぞれ三人に渡す。
(つまらなそうな遊びだな…)
三人はそんなことを思いながらも、とりあえずやってみた。
まず最初に対決するのは五郎と丹千代。
「容赦しませぬよ!」
「かかってくるがよい!」
勝負は勝負ということで互いにメラメラと燃えていた。
両者の草はなかなかに切れない互角の勝負をしていた。が、ついにプチッと切れた。
先に切れたのは丹千代の草であった。
「やった!」
「くそう…!」
五郎は勝利に喜び、丹千代は敗北に悔しがった。
次に対決したのは五郎と宇吉であった。
しかし、勝負は一瞬でついた。
切れたのは五郎の草であった。
「……勝った。」
小さな声で、かつ嬉しそうに宇吉は勝利を喜んでいた。
「くそ、もう一回!」
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