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第二章 動乱の今川家

第十八・五矢 義元の大志

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*恵探軍との戦の翌日の話になっております。*

恵探軍との戦に勝利した翌日、駿府館の大広間では勝利を祝ってうたげが開かれていた。

「綺麗だなー……」
 
家臣たちが勝利の美酒に酔いしれる中、俺は宴から抜け出して、庭園が目の前に広がる廊下にて夜空を眺めていた。

「どこに行ったかと思えば、ここで黄昏たそがれておったか。」

すると、崇孚が俺を探して、俺がいる廊下までたどり着いた。

「どうした。おぬしが辛気くさい顔をしとると皆が心配するぞ。」

俺は夜空を見上げたまま、崇孚に今の心情を吐露した。

「いやさ、兄ちゃんも恵探も皆死んじゃったなーって思って。」

少し間をおいてから俺は話を続けた。

「一緒にいる時間は少なくて、恵探に至っては一度会ったきりだけど……なんか悲しさと寂しさがブワッと来ちゃってさ。」

俺は兄たちとの思い出が頭に浮かんで、少し言葉を詰まらせる。

「そうか…そうだな。家族が死して悲しまぬ者などおらんよな。」

崇孚はこの世の中を悲観する。

「乱世とは嫌なものだ。他人はおろか親兄弟ですら命を奪い合う。だが、この世が異常だと思うておるのは、拙僧を含めてごく僅かだろう。」

俺は崇孚の話を聞き終え、俺の大志を崇孚に話した。

「俺、花倉城攻めあたりからずっと抱いていた大志があるんだ。」
「ほう、どんな大志だ?」
「俺は、乱世を終わらせて平和な世を必ず作る。乱世で命を落とした人たちのためにも。」

崇孚は一瞬呆気あっけにとられたが、途端に眉間みけんにしわを寄せる。

「それは本気か?」
「本気だよ。」
「それは半端な覚悟では為しえんことであるし、そう簡単なものではないぞ。」
「でも、誰かが乱世を終わらせなきゃいけないでしょ。」
「…茨の道となる。それでも目指すのか。」
「その先に平和があるなら、どんな道でも行くよ。だから承菊も俺についてきて。絶対に承菊が悲観しないような世にするから。」

両者の間に沈黙の時間が流れる。
崇孚は義元の目をじっと見る。
その目は覚悟を決めている目であった。

(…力強い目だ。)

崇孚はフフッと笑うと、俺の隣に立ち夜空の星を眺める。

「まったく、あの勉学嫌いのわらべが大きくなったものだのうー…」

夜空には無数の星々が輝きを放っていた。
ここは戦国時代。誰しもが大志を抱く時代―

*これをもって第二章は閉幕です*
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