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第二章 動乱の今川家
第十五矢 抵抗
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福島正成は命からがら居城である久能城に帰還した。帰還するやいなや正成は恵探を探し始める。
「恵探はどこにおる!」
「恵探様は自室におられまするが…」
小姓がそう言うと、怒りを顕わにして正成は恵探のところへと向かう。
あの戦は大将である恵探さえいればまだ勝ち目はあった。それを義元軍の前に怖じ気ついて逃げ出したことで士気はガタ落ち。軍は総崩れになったのだ。
恵探の部屋の襖を勢いよく開けると、そこには部屋の隅に縮まる恵探の姿があった。恵探はずっとブツブツと呟いている。
「これは、何かの間違いじゃ。そうに違いない。天に選ばれし我が負けるなどあり得ぬ。」
正成はズンズンと恵探の元へと歩いていき、恵探の胸ぐらを掴み怒鳴りつけた。
「何を言うておる!わしらは負けたのじゃ!」
すると次の瞬間、なんと恵探はボロボロと泣き出したのだ。
「まだ負けておらぬ!わしはまだ負けておらぬ!」
その姿は、まるで負けを認めない子供のようだった。
(こやつは使い物にならぬ!)
正成は泣きじゃくる恵探を見限り、部屋から出て行った。
それ以降、恵探はすっかり自身の部屋に閉じこもってしまった。
よって、全指揮は正成が担うことになり、敗れた恵探軍は福島正成の居城である久能城を中心にしぶとく抵抗を続けていた。
一方、ここは富士の山の麓を流れる富士川―
緩やかに流れる穏やかな川を渡る軍勢がいた。
その軍勢が掲げる旗には三つ鱗の紋様が印されてあった。
「誠に申し訳ございませぬ!」
駿府館の大広間では、朝比奈泰能が頭を床にこすりつけて陳謝していた。
「そんな謝んなくても大丈夫ですって。」
「しかしながら殿っ!それがしは殿が敵軍と戦っているのにも関わらず、城で指をくわえているだけでございました…」
泰能は徐々に声が小さくなっていき、自身の情け無さに腹が立っているのか小刻みに震えていた。
「不肖朝比奈泰能!腹を切って詫びまする!」
「ちょっ誰か止めて!」
腹を切ろうとする泰能を犬丸や藤三郎が必死に止めた。そして、少し落ち着いた泰能を俺はなだめた。
「泰能さんは責任感ありすぎ。今回は、一日で駿府に進軍してきた敵さんがすごかったんだから仕方ないよ。」
「殿っですが…」
「それに俺、人の切腹とか見たくないから。俺が嫌がっていることを泰能さんはしたいの?」
「いえ、そういうわけではございませぬ!」
「はーい、この話はもう終わり。次は頑張ってください。以上!」
俺は強引に話を終わらせて、自分の部屋に戻っていった。
「しっかし恵探軍もなかなか手強いなあ。なんか恵探に味方する人も日に日に増えていくし。」
そう、駿府館の戦いで義元軍が大勝して以降というものの、恵探軍の予想以上の奮闘ぶりにかつて今川氏親が駿河国の隣国の遠江国に進出する足がかりとして築城した方ノ上城の城主である狩野景茂を始め、恵探軍に加担する人々が増えていたのだ。
また、恵探軍を討伐しようにも甲斐の武田が虎視眈々と今川の領地を狙っていたり、先日の戦の影響でまだ駿府館の兵が回復しきれていなかったりと義元軍は思うように動けなかったのである。
「はあ~ここんとこいろいろありすぎてなんか疲れたわ。」
俺はゴロンと横たわった。
すると、犬丸がここぞとばかりに俺に申し出てきた。
「殿っ!では、それがしが腰をお揉みいたしましょうか!」
「え?本当?じゃあお願いしよっかな。」
先を越されたと藤三郎が悔しさを滲ませていると、犬丸がドヤ顔で藤三郎を煽った。
俺は横ばいになり、犬丸が俺の腰を揉む。これがなかなかに気持ちいい。
「あ~いい、そこそこ。」
俺がだんだんと眠くなっていると、吉田氏好がドタドタと慌ただしい足音を立てながら俺の部屋までやって来た。
「殿っ!」
「どうしたの、氏ちゃん。」
俺が眠そうに聞くと氏好が報告した。
「たった今報告があり、北条が援軍を進発させ先ほど富士川を渡り申した!」
「おお~ようやくだね。」
北条家は義元の祖父の代から縁があり、義元の遠い親戚にあたる一族である。
また、現在も北条家当主・北条氏綱の嫡男である北条氏康の正室として、義元の妹が嫁いでおり婚姻関係にあるなど深い関係を結んでいる。
駿府館の戦いを終えて、俺が北条家に援軍を要請していたところ、北条氏綱はその要請を快諾してくれたのだ。
「じゃあ、そろそろ本腰入れて恵探軍をやっつけますか。」
「はっ!」
「でもその前にひと眠りしよ。」
「はっ!?」
俺はそのまま犬丸に腰を揉まれながら、眠りについたのだった。
「恵探はどこにおる!」
「恵探様は自室におられまするが…」
小姓がそう言うと、怒りを顕わにして正成は恵探のところへと向かう。
あの戦は大将である恵探さえいればまだ勝ち目はあった。それを義元軍の前に怖じ気ついて逃げ出したことで士気はガタ落ち。軍は総崩れになったのだ。
恵探の部屋の襖を勢いよく開けると、そこには部屋の隅に縮まる恵探の姿があった。恵探はずっとブツブツと呟いている。
「これは、何かの間違いじゃ。そうに違いない。天に選ばれし我が負けるなどあり得ぬ。」
正成はズンズンと恵探の元へと歩いていき、恵探の胸ぐらを掴み怒鳴りつけた。
「何を言うておる!わしらは負けたのじゃ!」
すると次の瞬間、なんと恵探はボロボロと泣き出したのだ。
「まだ負けておらぬ!わしはまだ負けておらぬ!」
その姿は、まるで負けを認めない子供のようだった。
(こやつは使い物にならぬ!)
正成は泣きじゃくる恵探を見限り、部屋から出て行った。
それ以降、恵探はすっかり自身の部屋に閉じこもってしまった。
よって、全指揮は正成が担うことになり、敗れた恵探軍は福島正成の居城である久能城を中心にしぶとく抵抗を続けていた。
一方、ここは富士の山の麓を流れる富士川―
緩やかに流れる穏やかな川を渡る軍勢がいた。
その軍勢が掲げる旗には三つ鱗の紋様が印されてあった。
「誠に申し訳ございませぬ!」
駿府館の大広間では、朝比奈泰能が頭を床にこすりつけて陳謝していた。
「そんな謝んなくても大丈夫ですって。」
「しかしながら殿っ!それがしは殿が敵軍と戦っているのにも関わらず、城で指をくわえているだけでございました…」
泰能は徐々に声が小さくなっていき、自身の情け無さに腹が立っているのか小刻みに震えていた。
「不肖朝比奈泰能!腹を切って詫びまする!」
「ちょっ誰か止めて!」
腹を切ろうとする泰能を犬丸や藤三郎が必死に止めた。そして、少し落ち着いた泰能を俺はなだめた。
「泰能さんは責任感ありすぎ。今回は、一日で駿府に進軍してきた敵さんがすごかったんだから仕方ないよ。」
「殿っですが…」
「それに俺、人の切腹とか見たくないから。俺が嫌がっていることを泰能さんはしたいの?」
「いえ、そういうわけではございませぬ!」
「はーい、この話はもう終わり。次は頑張ってください。以上!」
俺は強引に話を終わらせて、自分の部屋に戻っていった。
「しっかし恵探軍もなかなか手強いなあ。なんか恵探に味方する人も日に日に増えていくし。」
そう、駿府館の戦いで義元軍が大勝して以降というものの、恵探軍の予想以上の奮闘ぶりにかつて今川氏親が駿河国の隣国の遠江国に進出する足がかりとして築城した方ノ上城の城主である狩野景茂を始め、恵探軍に加担する人々が増えていたのだ。
また、恵探軍を討伐しようにも甲斐の武田が虎視眈々と今川の領地を狙っていたり、先日の戦の影響でまだ駿府館の兵が回復しきれていなかったりと義元軍は思うように動けなかったのである。
「はあ~ここんとこいろいろありすぎてなんか疲れたわ。」
俺はゴロンと横たわった。
すると、犬丸がここぞとばかりに俺に申し出てきた。
「殿っ!では、それがしが腰をお揉みいたしましょうか!」
「え?本当?じゃあお願いしよっかな。」
先を越されたと藤三郎が悔しさを滲ませていると、犬丸がドヤ顔で藤三郎を煽った。
俺は横ばいになり、犬丸が俺の腰を揉む。これがなかなかに気持ちいい。
「あ~いい、そこそこ。」
俺がだんだんと眠くなっていると、吉田氏好がドタドタと慌ただしい足音を立てながら俺の部屋までやって来た。
「殿っ!」
「どうしたの、氏ちゃん。」
俺が眠そうに聞くと氏好が報告した。
「たった今報告があり、北条が援軍を進発させ先ほど富士川を渡り申した!」
「おお~ようやくだね。」
北条家は義元の祖父の代から縁があり、義元の遠い親戚にあたる一族である。
また、現在も北条家当主・北条氏綱の嫡男である北条氏康の正室として、義元の妹が嫁いでおり婚姻関係にあるなど深い関係を結んでいる。
駿府館の戦いを終えて、俺が北条家に援軍を要請していたところ、北条氏綱はその要請を快諾してくれたのだ。
「じゃあ、そろそろ本腰入れて恵探軍をやっつけますか。」
「はっ!」
「でもその前にひと眠りしよ。」
「はっ!?」
俺はそのまま犬丸に腰を揉まれながら、眠りについたのだった。
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