海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿

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第二章 動乱の今川家

第九矢 今川義元

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氏輝、彦五郎の葬儀を終えた寿桂尼たちはすぐさま動きを見せた。
俺を還俗させると、福島正成を筆頭とする恵探を当主に推すものたち―恵探派を含めた重臣を駿府館に集結させ、俺の元服を行うこととしたのだ。
元服とは現代でいう成人式みたいなもので、これを経て大人として、また武将として初めて認められるのだという。

そんなわけで俺は元服の儀式を受けていた。
とても重要な儀式ということもあり、儀式は厳かに進行していった。
そして儀式も終盤に入り、崇孚が細長い帽子を持ってくる。
その帽子は烏帽子〔えぼし〕といって烏帽子をかぶることで成人したという証になるらしい。
崇孚が俺の頭に烏帽子をかぶせた。
しかしまだ儀式は終わらない。
成人になるにあたって、幼名から名前を改める必要があるのだ。
すると、寿桂尼は懐から手紙のようなものを取り出した。

「此度、将軍から偏諱〔へんき〕を賜りました。」
「おお…」

重臣たちは思わず声をもらした。
偏諱―君主から臣下へ与えられる名のことである。当時、偏諱を与えられるのは武士にとって名誉なこととされた。
なぜ将軍家からかというと、今川家は将軍家の親族の吉良家の分家であることから、立場上は将軍家の臣下にあてはまるのだ。
また寿桂尼は有力貴族の娘で京の有力者とのつてもあったことから、迅速に俺の元服を執り行うことができた。
これによって、今川家の当主は俺であるということをいち早く内外に示し、家臣団の混乱を避けると同時に恵探派を牽制することができたのだ。
当の牽制された恵探派の福島正成らは、悔しがるように文を読み上げる寿桂尼をジロリと睨みつけていた。しかし寿桂尼は意に介さない。

「名を義元。今川家十一代目当主の名は今川義元です。」

(義元ってどこかで聞いたことがあるような?)

俺はその名前に聞き覚えがあったが、それがどんな人物だったかまでは思い出せなかった。

その夜、俺は目を開けると椅子に座っていた。辺りを見回すと、机と椅子がずらりと並んでいて目の前には教壇と黒板があった。

(ここって学校の教室じゃん。懐かしいなー。)

すると、突然パッと教壇にカトセンが現れた。

(うわ~めっちゃ久しぶりだわ。)

と俺がしみじみとカトセンの顔を見ていると、カトセンは何かギャーギャーと怒っている。

「ん?何言ってんの?」

俺がカトセンに近寄ると、やっとカトセンの声が聞き取れた。

「相場ぁ!織田信長が今川義元と戦った戦いは桶狭間の戦いだ!ちゃんと授業を聞いてろ!」

その瞬間、カトセンが姿を消して辺りが真っ暗になった。
俺がパチッと目覚めると朝だった。

「夢…?」

俺があくびをしながら背伸びをすると、夢の中でカトセンが言っていたことを思い出した。

「そうだ。今川義元って織田信長と戦った人で有名じゃん。」

俺は日本史で習った今川義元について、さらに記憶を辿って思い出そうとする。

「確か桶狭間の戦いとかいう…うーん、義元が勝ったんだっけ?」

これ以上は思い出せないので、パンと一回手を叩いて頭を切り替えた。

「ま、いーや。今は目の前のことに集中しよ。」

そんなこんなで、かの有名な戦国大名・今川義元が誕生したのだった。
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