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第二章 動乱の今川家
第十矢 それぞれの思惑
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義元の元服から数日後、意外にも恵探は怒り狂ってはいなかった。
「あやつの元服など些事にすぎぬ。天が味方をしておるわしこそが、最後は当主になるに決まっておる。」
恵探は未だに自分こそが選ばれし存在などと思い込んでいたのだ。
「してやられたわ。」
一方の正成は焦っていた。
義元の元服がこれほど早く行われるとは思っていなかったのだ。
おかげで、恵探を還俗させて将軍から偏諱を賜って正当な後継者として宣言するという計画が頓挫してしまった。
それにより恵探が当主となるにはただ一つ。挙兵して今川義元を討つことなのだが、自称当主に味方をしてくれる者は少ないだろう。
ただ、今さら降参しても確実に福島氏の影響力は低下する。
(いや、恵探を差し出せばあるいは…)
正成はこれからどう立ち回るかを考え込んでいた。
その頃、普段は家臣たちが集まる駿府館の部屋には二人の子供がドキドキとしながら自分がこれから仕える殿様を待っていた。
名は朝比奈藤三郎と三浦犬丸。
二人は当主になって日が短い俺の小姓として抜擢された重臣の子で、今回は顔合わせのために俺を待っていたのだ。
犬丸は落ち着かない様子でチラチラと襖の方を見る。
「殿はまだかのう。」
そんな犬丸を藤三郎はヤレヤレと呆れていた。
「待てもできないのか、これだから駄犬は…」
「最近まで寝小便を垂れていた奴に言われたくないわ!」
「なんじゃと?」
朝比奈氏と三浦氏は、お互いに長年今川家を支え続けている重臣。そんなこともあって家族ぐるみの付き合いをしていた。
そんな家に同じ年に生まれた二人は当然幼少期から交流がある。が、だからといって仲が良いわけではなく、むしろ敬遠の仲だった。
二人が睨み合っていると、俺が二人が待っている部屋に入っていった。
「おっ、君たちが俺の小姓になってくれる子?」
俺がそう聞くと、二人は睨み合うのをやめて慌てて頭を深く下げる。
「あ、朝比奈藤三郎でございます!」
「み、三浦犬丸でございます!」
「うん、これからよろしくね。」
「はっ!!」
二人は勢いよく返事をすると、目を輝かせて俺を見ていた。
小姓との顔合わせを終えた俺は、重臣たちと評議をしていた。
それもこれも、日を追うごとに義元派と恵探派の対立が激しくなっていたからである。
「やっぱり兄弟で争うのはよくないでしょ。ですよね、泰能さん。」
朝比奈泰能がウンウンとうなずき俺に賛同した。
「無益な戦は国力の低下を招くだけにござる。ここは恵探殿を説得して、どうにか穏便に済ませましょう。」
一方で、今川一門衆である瀬名氏貞は異見を示した。
「しかしながら殿、当の恵探殿は頑なに争う姿勢を見せておりまする。説得はほぼ不可能でございましょう。」
「恵探殿は説得は不可能でしょうな。」
「恵探殿は、とはどういうことだ?」
「恵探殿が説得に応じないのであれば、福島殿を説得してはどうか。」
「なるほど…」
崇孚の提言に重臣たちは納得した。
福島正成は野心は強いが、冷静に物事を見ることができるしたたかな男。そんな彼ならば説得できるかもしれないと思ったのだ。
すると、寿桂尼が進み出てきた。
「なればわたくしが福島正成めと面会して、必ずや説得いたします。」
いくら福島正成でも氏親の正室であった寿桂尼の要求を無下にはできないだろう。よって反対する者はいなかった。
「じゃ、そういう方向でお願いしまっす。」
「はっ!」
後日、俺たちの目論見通り、福島正成は寿桂尼との面会に応じた。
「あやつの元服など些事にすぎぬ。天が味方をしておるわしこそが、最後は当主になるに決まっておる。」
恵探は未だに自分こそが選ばれし存在などと思い込んでいたのだ。
「してやられたわ。」
一方の正成は焦っていた。
義元の元服がこれほど早く行われるとは思っていなかったのだ。
おかげで、恵探を還俗させて将軍から偏諱を賜って正当な後継者として宣言するという計画が頓挫してしまった。
それにより恵探が当主となるにはただ一つ。挙兵して今川義元を討つことなのだが、自称当主に味方をしてくれる者は少ないだろう。
ただ、今さら降参しても確実に福島氏の影響力は低下する。
(いや、恵探を差し出せばあるいは…)
正成はこれからどう立ち回るかを考え込んでいた。
その頃、普段は家臣たちが集まる駿府館の部屋には二人の子供がドキドキとしながら自分がこれから仕える殿様を待っていた。
名は朝比奈藤三郎と三浦犬丸。
二人は当主になって日が短い俺の小姓として抜擢された重臣の子で、今回は顔合わせのために俺を待っていたのだ。
犬丸は落ち着かない様子でチラチラと襖の方を見る。
「殿はまだかのう。」
そんな犬丸を藤三郎はヤレヤレと呆れていた。
「待てもできないのか、これだから駄犬は…」
「最近まで寝小便を垂れていた奴に言われたくないわ!」
「なんじゃと?」
朝比奈氏と三浦氏は、お互いに長年今川家を支え続けている重臣。そんなこともあって家族ぐるみの付き合いをしていた。
そんな家に同じ年に生まれた二人は当然幼少期から交流がある。が、だからといって仲が良いわけではなく、むしろ敬遠の仲だった。
二人が睨み合っていると、俺が二人が待っている部屋に入っていった。
「おっ、君たちが俺の小姓になってくれる子?」
俺がそう聞くと、二人は睨み合うのをやめて慌てて頭を深く下げる。
「あ、朝比奈藤三郎でございます!」
「み、三浦犬丸でございます!」
「うん、これからよろしくね。」
「はっ!!」
二人は勢いよく返事をすると、目を輝かせて俺を見ていた。
小姓との顔合わせを終えた俺は、重臣たちと評議をしていた。
それもこれも、日を追うごとに義元派と恵探派の対立が激しくなっていたからである。
「やっぱり兄弟で争うのはよくないでしょ。ですよね、泰能さん。」
朝比奈泰能がウンウンとうなずき俺に賛同した。
「無益な戦は国力の低下を招くだけにござる。ここは恵探殿を説得して、どうにか穏便に済ませましょう。」
一方で、今川一門衆である瀬名氏貞は異見を示した。
「しかしながら殿、当の恵探殿は頑なに争う姿勢を見せておりまする。説得はほぼ不可能でございましょう。」
「恵探殿は説得は不可能でしょうな。」
「恵探殿は、とはどういうことだ?」
「恵探殿が説得に応じないのであれば、福島殿を説得してはどうか。」
「なるほど…」
崇孚の提言に重臣たちは納得した。
福島正成は野心は強いが、冷静に物事を見ることができるしたたかな男。そんな彼ならば説得できるかもしれないと思ったのだ。
すると、寿桂尼が進み出てきた。
「なればわたくしが福島正成めと面会して、必ずや説得いたします。」
いくら福島正成でも氏親の正室であった寿桂尼の要求を無下にはできないだろう。よって反対する者はいなかった。
「じゃ、そういう方向でお願いしまっす。」
「はっ!」
後日、俺たちの目論見通り、福島正成は寿桂尼との面会に応じた。
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