海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿

文字の大きさ
上 下
26 / 88
第三章 河東争奪

第二十四矢 デート

しおりを挟む
「うーん…」

俺は自分の部屋で考え込んでいた。
ここ数日、婚儀を済ませてからというもの多恵の元気がないような気がするのだ。

(元気づけるかつ仲を深めるには…)

俺はふと思いついた。

「そうだ、デートしよう!」

多恵は部屋の襖を開けて、庭園を見ていた。

(見知らぬ土地、見知らぬ人…)

「離れると故郷が愛おしく感じて、寂しい気持ちになるのう…」

多恵がそう呟いていると、ドタドタと廊下を走る音が近づいてくる。
音が止むと、多恵の夫が姿を現した。

「いたいた。多恵、今ひま?」
「はい。ひまではございますが…」
「じゃあさ、一緒に城下町に行かない?」
「え?」

と、いうことで俺たちは駿府館の城下町でデートをすることにした。もちろん、氏好や小姓たちの護衛付きである。
城下町へ出てすぐに多恵は目を輝かせる。

「嫁入りの際に輿こしから見ておりましたが、やはり駿府の城下町は華やかでございますなあ。」
「だよねー、なんか京都と雰囲気が似てるよね。」
「殿は京の都に行ったことがあるのですか。」
「うん、というか何年かくらい京都に住んでたよ。」

すると、多恵は興味津々な様子で俺に聞く。

「なんと…!京はどのようなところなのですか?ぜひ、わたくしに教えてくださいませ。」
「京都はなんというか……」

俺が多恵に京都の華やかさを教えている後ろで、

「京の都…いつか行ってみたいのう。」

と、犬丸がボソッと呟いた。藤三郎はその呟きにすぐさま反応する。 

「ふん、わしは殿が治める駿府の城下町で充分じゃ。殿が治めているだけあって駿府は今や京にも劣らぬ。」
「可哀想に。どうやらおぬしには殿が駿府で留まるようなお方だと見えているらしい。」
「なっ…!そうは言っておらぬ!」
「わしにはそう聞こえたけどのう。」

両者が喧嘩を始めようとした時、二人の頭から拳骨げんこつが振り下ろされた。

「「痛っ!!」」

拳骨をしたのは吉田氏好だった。

「喧嘩は後で好きにやるがよい。今は殿の護衛中じゃ。」

氏好は二人をそう怒りを抑えて叱ったのだが、二人にはそれがより怖く見えた。
俺が京都の様子について話し終えると、多恵は感嘆していた。

「うらやましゅうございます。私は京どころか今まで館から外に出たことがなく、こうして町を歩くということが初めてなのです。」
「そっか。なら今日はとことん楽しもうね。」
「はい…!」

少し俺たちが歩くと、多恵がくいくいと俺の裾を引っ張った。

「なんか行きたいとこあった?」
「はい。殿、ここに寄りとうございます。」
「うん、わかった。」

俺たち一行は着物や絹織物が売っている呉服ごふく屋に入っていった。
呉服屋内に入ると、美しい着物や絹織物がたくさん売ってあった。

「まあ、どれも美しゅうございますなあ。」

多恵がいろいろな品を物色していると、ほんのりと赤く花々の模様が彩られた絹織物に目が止まった。

「綺麗だのう…」

多恵がその絹織物を手に取って惹かれたように眺めている。

「それ気に入った?買おっか?」
「いいのですか?ですがやはり…」
「遠慮しなくてもいいよ。俺たち夫婦なんだし。」
「では、お言葉に甘えて…」

俺たちはその絹織物を購入した。
その後と俺たちは以前に訪れた饅頭屋へと向かった。

「おっ、あったあった。やっぱ城下町に来たならここの饅頭食べないと。」

饅頭を買いにいった犬丸と藤三郎が戻ってきた。

「ほい。」

俺が多恵に饅頭を渡した。

「これすごくおいしいから食べてみ。」

饅頭を渡された多恵は恐る恐る饅頭を一口食べてみる。

「とってもおいしゅうございます…!」

多恵は駿府館に来てから一番の笑顔を俺に向けてた。俺はその可愛さにやられて、耳を真っ赤にする。

「それは、よかった。なんかずっと元気なかったから…」

(もしや私を元気づけるために…)

多恵は今回のデートの意図に気づいた。

「殿、今日は私を外に連れ出してくれてありがとうございまする。多恵は殿の妻となり幸せでございます。」
「俺の方こそ、多恵の夫になれて幸せだよ。」

この日のことは、多恵にとっても義元にとっても一生忘れられない思い出になった。

デートを無事に終えて駿府館へと帰ると、何やら駿府館が慌ただしくなっていた。

(どうしたんだろ。)

「あっ氏貞さん。」

俺はちょうど目の前を通った瀬名氏貞を呼び止める。氏貞は深刻そうな顔をしている。

「何かあったの?」

氏貞は重い口を開いた。

「北条が同盟を破棄し、我らの領土に侵攻してき申した!」
「…………え?マジで?」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵は家康

早川隆
歴史・時代
旧題:礫-つぶて- 【第六回アルファポリス歴史・時代小説大賞 特別賞受賞作品】 俺は石ころじゃない、礫(つぶて)だ!桶狭間前夜を駆ける無名戦士達の物語。永禄3年5月19日の早朝。桶狭間の戦いが起こるほんの数時間ほど前の話。出撃に際し戦勝祈願に立ち寄った熱田神宮の拝殿で、織田信長の眼に、彼方の空にあがる二条の黒い煙が映った。重要拠点の敵を抑止する付け城として築かれた、鷲津砦と丸根砦とが、相前後して炎上、陥落したことを示す煙だった。敵は、餌に食いついた。ひとりほくそ笑む信長。しかし、引き続く歴史的大逆転の影には、この両砦に籠って戦い、玉砕した、名もなき雑兵どもの人生と、夢があったのである・・・ 本編は「信長公記」にも記された、このプロローグからわずかに時間を巻き戻し、弥七という、矢作川の流域に棲む河原者(被差別民)の子供が、ある理不尽な事件に巻き込まれたところからはじまります。逃亡者となった彼は、やがて国境を越え、風雲急を告げる東尾張へ。そして、戦地を駆ける黒鍬衆の一人となって、底知れぬ謀略と争乱の渦中に巻き込まれていきます。そして、最後に行き着いた先は? ストーリーはフィクションですが、周辺の歴史事件など、なるべく史実を踏みリアリティを追求しました。戦場を駆ける河原者二人の眼で、戦国時代を体感しに行きましょう!

信忠 ~“奇妙”と呼ばれた男~

佐倉伸哉
歴史・時代
 その男は、幼名を“奇妙丸”という。人の名前につけるような単語ではないが、名付けた父親が父親だけに仕方がないと思われた。  父親の名前は、織田信長。その男の名は――織田信忠。  稀代の英邁を父に持ち、その父から『天下の儀も御与奪なさるべき旨』と認められた。しかし、彼は父と同じ日に命を落としてしまう。  明智勢が本能寺に殺到し、信忠は京から脱出する事も可能だった。それなのに、どうして彼はそれを選ばなかったのか? その決断の裏には、彼の辿って来た道が関係していた――。  ◇この作品は『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n9394ie/)』『カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16818093085367901420)』でも同時掲載しています◇

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

処理中です...