上 下
7 / 52
第一章 幼少期

第六矢 駿府からの使者

しおりを挟む
鶯が春の始まりを告げる頃、建仁寺の境内にて子供達と蹴鞠をしている一人の若い僧侶がいた。

「承芳!また遊んでおったか!」

ゼエゼエと荒い息をしながら、和尚が若い僧侶のところまできた。ワアアアと子供達はそれぞれ散り散りに寺から出ていった。

「だって最近やってなかったし…」
「五日前にしとったばかりじゃろ!全くおぬしは…僧侶だという自覚はあるのか!」

そう、俺は和尚から梅岳承芳〔せんがく しょうほう〕という名前を与えられ、僧侶として建仁寺にいたのだ。
最初の頃は、和尚はthe高貴なお方って感じで修行の時も緊張感があった。だが段々と修行に飽きてきて、俺が寝たりサボったりしていくにつれて、ギャーギャー口うるさく叱るお節介じいちゃんとなっていった。

「おぬしと承菊に客が来とる。承菊にはもう伝えといた。おぬしも早う行くように!」
「了解。」

俺は返事をして客間まで向かった。
客間に入るとそこには、同じく改名した九英承菊改め太原崇孚〔たいげん すうふ〕と男が座っていた。
俺が崇孚の横に座ると、

「拙僧らに何の用でございましょうか?」

崇孚は男に用件を聞いた。
すると男は自らを名乗った。

「それがしは寿桂尼様の使者でございます。」
「寿桂尼様の…!」

崇孚はその名前を聞いて驚いた。

(寿桂尼って…確か俺の母親だったような。)

「で、俺の母ちゃんの使者がどうしたの?」
「はっ…貴方様には再び駿府館へとお戻りいただきたい。」
「それはつまり承芳を再び俗世に戻すということか?」

崇孚が使者の男に聞くと、使者の男は

「そこまでは聞いておりませぬ。それがしは芳菊丸殿―いえ、梅岳承芳殿を駿府館へと連れ戻すようにと命ぜられただけでございます。」

と言うだけだった。崇孚は少し考え込んだ後、使者の男に返事をした。

「あいわかった。承芳もよいか?」
「まあ会うだけならいいよ。」
「では、それがしは一足先にこのことを寿桂尼様にお伝えいたしまする。」

使者はそう言うと一足先に駿府へと帰っていった。

ということで俺たちは急きょ駿府へと帰ることになった。
建仁寺を出発する当日、和尚が見送りに来てくれた。

「おぬしたちは師弟揃って世話がかかったわ。あれはいつのことだったか、わしがまだ…」
「あっその話長くなる系?」
「ははは、師匠の別れ話は結構長いぞ。」
「もうよいわぁー!!」

和尚はそう叫ぶと、

「さっさと行くとよいわ!」

と、目に涙をうっすらと浮かべながら言い放った。

「はーい。じゃあまたね、じいちゃん。」

俺は和尚に手を振ると建仁寺を出発した。

「文を時々寄こすんじゃぞぉー!」

俺たちの後ろから和尚が少し震えた声でそう呼びかけた。

「しっかし、僧侶になった俺に何の用があるんだか。」
「そうだな。一体寿桂尼様は何を考えておられるのか…」

俺と崇孚は嫌な予感がしながらも、駿府へと足を運ばせた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

処理中です...