7 / 88
第一章 幼少期
第六矢 駿府からの使者
しおりを挟む
鶯が春の始まりを告げる頃、建仁寺の境内にて子供達と蹴鞠をしている一人の若い僧侶がいた。
「承芳!また遊んでおったか!」
ゼエゼエと荒い息をしながら、和尚が若い僧侶のところまできた。ワアアアと子供達はそれぞれ散り散りに寺から出ていった。
「だって最近やってなかったし…」
「五日前にしとったばかりじゃろ!全くおぬしは…僧侶だという自覚はあるのか!」
そう、俺は和尚から梅岳承芳〔せんがく しょうほう〕という名前を与えられ、僧侶として建仁寺にいたのだ。
最初の頃は、和尚はthe高貴なお方って感じで修行の時も緊張感があった。だが段々と修行に飽きてきて、俺が寝たりサボったりしていくにつれて、ギャーギャー口うるさく叱るお節介じいちゃんとなっていった。
「おぬしと承菊に客が来とる。承菊にはもう伝えといた。おぬしも早う行くように!」
「了解。」
俺は返事をして客間まで向かった。
客間に入るとそこには、同じく改名した九英承菊改め太原崇孚〔たいげん すうふ〕と男が座っていた。
俺が崇孚の横に座ると、
「拙僧らに何の用でございましょうか?」
崇孚は男に用件を聞いた。
すると男は自らを名乗った。
「それがしは寿桂尼様の使者でございます。」
「寿桂尼様の…!」
崇孚はその名前を聞いて驚いた。
(寿桂尼って…確か俺の母親だったような。)
「で、俺の母ちゃんの使者がどうしたの?」
「はっ…貴方様には再び駿府館へとお戻りいただきたい。」
「それはつまり承芳を再び俗世に戻すということか?」
崇孚が使者の男に聞くと、使者の男は
「そこまでは聞いておりませぬ。それがしは芳菊丸殿―いえ、梅岳承芳殿を駿府館へと連れ戻すようにと命ぜられただけでございます。」
と言うだけだった。崇孚は少し考え込んだ後、使者の男に返事をした。
「あいわかった。承芳もよいか?」
「まあ会うだけならいいよ。」
「では、それがしは一足先にこのことを寿桂尼様にお伝えいたしまする。」
使者はそう言うと一足先に駿府へと帰っていった。
ということで俺たちは急きょ駿府へと帰ることになった。
建仁寺を出発する当日、和尚が見送りに来てくれた。
「おぬしたちは師弟揃って世話がかかったわ。あれはいつのことだったか、わしがまだ…」
「あっその話長くなる系?」
「ははは、師匠の別れ話は結構長いぞ。」
「もうよいわぁー!!」
和尚はそう叫ぶと、
「さっさと行くとよいわ!」
と、目に涙をうっすらと浮かべながら言い放った。
「はーい。じゃあまたね、じいちゃん。」
俺は和尚に手を振ると建仁寺を出発した。
「文を時々寄こすんじゃぞぉー!」
俺たちの後ろから和尚が少し震えた声でそう呼びかけた。
「しっかし、僧侶になった俺に何の用があるんだか。」
「そうだな。一体寿桂尼様は何を考えておられるのか…」
俺と崇孚は嫌な予感がしながらも、駿府へと足を運ばせた。
「承芳!また遊んでおったか!」
ゼエゼエと荒い息をしながら、和尚が若い僧侶のところまできた。ワアアアと子供達はそれぞれ散り散りに寺から出ていった。
「だって最近やってなかったし…」
「五日前にしとったばかりじゃろ!全くおぬしは…僧侶だという自覚はあるのか!」
そう、俺は和尚から梅岳承芳〔せんがく しょうほう〕という名前を与えられ、僧侶として建仁寺にいたのだ。
最初の頃は、和尚はthe高貴なお方って感じで修行の時も緊張感があった。だが段々と修行に飽きてきて、俺が寝たりサボったりしていくにつれて、ギャーギャー口うるさく叱るお節介じいちゃんとなっていった。
「おぬしと承菊に客が来とる。承菊にはもう伝えといた。おぬしも早う行くように!」
「了解。」
俺は返事をして客間まで向かった。
客間に入るとそこには、同じく改名した九英承菊改め太原崇孚〔たいげん すうふ〕と男が座っていた。
俺が崇孚の横に座ると、
「拙僧らに何の用でございましょうか?」
崇孚は男に用件を聞いた。
すると男は自らを名乗った。
「それがしは寿桂尼様の使者でございます。」
「寿桂尼様の…!」
崇孚はその名前を聞いて驚いた。
(寿桂尼って…確か俺の母親だったような。)
「で、俺の母ちゃんの使者がどうしたの?」
「はっ…貴方様には再び駿府館へとお戻りいただきたい。」
「それはつまり承芳を再び俗世に戻すということか?」
崇孚が使者の男に聞くと、使者の男は
「そこまでは聞いておりませぬ。それがしは芳菊丸殿―いえ、梅岳承芳殿を駿府館へと連れ戻すようにと命ぜられただけでございます。」
と言うだけだった。崇孚は少し考え込んだ後、使者の男に返事をした。
「あいわかった。承芳もよいか?」
「まあ会うだけならいいよ。」
「では、それがしは一足先にこのことを寿桂尼様にお伝えいたしまする。」
使者はそう言うと一足先に駿府へと帰っていった。
ということで俺たちは急きょ駿府へと帰ることになった。
建仁寺を出発する当日、和尚が見送りに来てくれた。
「おぬしたちは師弟揃って世話がかかったわ。あれはいつのことだったか、わしがまだ…」
「あっその話長くなる系?」
「ははは、師匠の別れ話は結構長いぞ。」
「もうよいわぁー!!」
和尚はそう叫ぶと、
「さっさと行くとよいわ!」
と、目に涙をうっすらと浮かべながら言い放った。
「はーい。じゃあまたね、じいちゃん。」
俺は和尚に手を振ると建仁寺を出発した。
「文を時々寄こすんじゃぞぉー!」
俺たちの後ろから和尚が少し震えた声でそう呼びかけた。
「しっかし、僧侶になった俺に何の用があるんだか。」
「そうだな。一体寿桂尼様は何を考えておられるのか…」
俺と崇孚は嫌な予感がしながらも、駿府へと足を運ばせた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
敵は家康
早川隆
歴史・時代
旧題:礫-つぶて-
【第六回アルファポリス歴史・時代小説大賞 特別賞受賞作品】
俺は石ころじゃない、礫(つぶて)だ!桶狭間前夜を駆ける無名戦士達の物語。永禄3年5月19日の早朝。桶狭間の戦いが起こるほんの数時間ほど前の話。出撃に際し戦勝祈願に立ち寄った熱田神宮の拝殿で、織田信長の眼に、彼方の空にあがる二条の黒い煙が映った。重要拠点の敵を抑止する付け城として築かれた、鷲津砦と丸根砦とが、相前後して炎上、陥落したことを示す煙だった。敵は、餌に食いついた。ひとりほくそ笑む信長。しかし、引き続く歴史的大逆転の影には、この両砦に籠って戦い、玉砕した、名もなき雑兵どもの人生と、夢があったのである・・・
本編は「信長公記」にも記された、このプロローグからわずかに時間を巻き戻し、弥七という、矢作川の流域に棲む河原者(被差別民)の子供が、ある理不尽な事件に巻き込まれたところからはじまります。逃亡者となった彼は、やがて国境を越え、風雲急を告げる東尾張へ。そして、戦地を駆ける黒鍬衆の一人となって、底知れぬ謀略と争乱の渦中に巻き込まれていきます。そして、最後に行き着いた先は?
ストーリーはフィクションですが、周辺の歴史事件など、なるべく史実を踏みリアリティを追求しました。戦場を駆ける河原者二人の眼で、戦国時代を体感しに行きましょう!
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

【架空戦記】蒲生の忠
糸冬
歴史・時代
天正十年六月二日、本能寺にて織田信長、死す――。
明智光秀は、腹心の明智秀満の進言を受けて決起当初の腹案を変更し、ごく少勢による奇襲により信長の命を狙う策を敢行する。
その結果、本能寺の信長、そして妙覚寺の織田信忠は、抵抗の暇もなく首級を挙げられる。
両名の首級を四条河原にさらした光秀は、織田政権の崩壊を満天下に明らかとし、畿内にて急速に地歩を固めていく。
一方、近江国日野の所領にいた蒲生賦秀(のちの氏郷)は、信長の悲報を知るや、亡き信長の家族を伊勢国松ヶ島城の織田信雄の元に送り届けるべく安土城に迎えに走る。
だが、瀬田の唐橋を無傷で確保した明智秀満の軍勢が安土城に急速に迫ったため、女子供を連れての逃避行は不可能となる。
かくなる上は、戦うより他に道はなし。
信長の遺した安土城を舞台に、若き闘将・蒲生賦秀の活躍が始まる。

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。

本能のままに
揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった
もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください!
※更新は不定期になると思います。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる