2 / 83
第一章 幼少期
第一矢 善得寺
しおりを挟む
「ここがどことは、ここは善得寺に決まっておろう。」
「あー善得寺ね、うんうん。」
(善得寺…聞いたことないな。)
俺は適当に相づちを打った。
「その様子…」
そんな俺を僧侶が訝しげな目でジロジロと俺を見ると、はっ!とひらめいたかのように言った。
「もしや熱の影響で記憶がなくなっているのか…!」
この時代、今ではなんとでもない熱でも死に至ってしまうことから僧侶はそう勘違いをしたのである。だが、そんなことを転生したばかりの高校生が知る由もない。
「え…あ、そうそう!俺なんか記憶がなくなってて。」
俺が僧侶の話に合わせると、僧侶はしばらくの間石になったかのように硬直したのち眉間に手を当てて、
「これまたどうしたことか…」
と考え込むように呟いた。
「ひとまず、部屋に戻りなされ。そこでおぬしのことについて話そう。」
俺は僧侶と共に先ほどいた部屋に戻りふとんに入った。僧侶はそのそばに座り、
「さてどこから話をすれば…」
と考え込む。
「えーと、じゃあまず俺の名前とかあなたの名前とかから教えてくれません?」
僧侶はこくりと頷き、説明を始めた。
「おぬしはこの駿河国の国守・今川氏親様の子、今川芳菊丸じゃ。そして、拙僧はおぬしの教育係である九英承菊じゃ。」
(駿河…駿河湾っていう海があったはずだから静岡県の辺りのことか?それに今川…どっかで聞いたことがあるような。)
今川という名に聞き覚えがあり、俺は記憶を辿る。
今川…今川…桶狭間…
「あっ!」
俺はカトセンの怒り顔と共に日本史の授業で習った今川義元を思い出した。
「今川家ってもしかして、今川義元の…!」
「今川義元…?拙僧の知る限りではそのような方は存ぜぬが…」
承菊は首をかしげる。
(承菊のしゃべり方といい、地名といい昔の時代っぽいけど…)
「今って鎌倉?室町?ですか?」
「うむ、室町と言えるだろうな…だが、かつて足利尊氏公が開いた室町幕府も応仁の乱にて威光が弱まり、ついには多数の勢力が台頭していった。今川家もその一つじゃ。今この世は群集割拠の時代と言った方が正確であろう。」
(てことはここは戦国時代ってことか。)
「で、俺は何で寺に居るわけ?」
「それはおぬしが五男だからよ。五男は普通ならば家督を継げん。だから、大名の長男と次男以下の兄弟は寺に預けられるのが大多数じゃ。」
「俺も僧侶になるの?」
「ああ、そうじゃ。他に聞きたいことはあるか?」
「うーん、もうないや。」
「そうか。」
承菊は立ち上がり、
「さて、熱が下がったとはいえ再発しては意味がない。今日は安静にしておれ。」
と言うと部屋を後にした。
俺はふとんに仰向けになって、今起こっている状況を整理した。
この時代は戦国時代で、俺は桶狭間の戦いで有名な今川一族の子供に転生したらしい。さらには、僧侶になるために寺で修行中なのだという。
「しっかし、戦国時代か~。なかなか大変な時代に転生しちゃったもんだ。」
(まあでも僧侶になる俺には戦いとかには無縁そうだし関係ないか。)
俺はそうのんきに考えると、しばらくしたのちにスヤスヤと安らかな眠りについた。
そう、自分が転生したのがよりにもよってあの今川義元だと知らず…
「あー善得寺ね、うんうん。」
(善得寺…聞いたことないな。)
俺は適当に相づちを打った。
「その様子…」
そんな俺を僧侶が訝しげな目でジロジロと俺を見ると、はっ!とひらめいたかのように言った。
「もしや熱の影響で記憶がなくなっているのか…!」
この時代、今ではなんとでもない熱でも死に至ってしまうことから僧侶はそう勘違いをしたのである。だが、そんなことを転生したばかりの高校生が知る由もない。
「え…あ、そうそう!俺なんか記憶がなくなってて。」
俺が僧侶の話に合わせると、僧侶はしばらくの間石になったかのように硬直したのち眉間に手を当てて、
「これまたどうしたことか…」
と考え込むように呟いた。
「ひとまず、部屋に戻りなされ。そこでおぬしのことについて話そう。」
俺は僧侶と共に先ほどいた部屋に戻りふとんに入った。僧侶はそのそばに座り、
「さてどこから話をすれば…」
と考え込む。
「えーと、じゃあまず俺の名前とかあなたの名前とかから教えてくれません?」
僧侶はこくりと頷き、説明を始めた。
「おぬしはこの駿河国の国守・今川氏親様の子、今川芳菊丸じゃ。そして、拙僧はおぬしの教育係である九英承菊じゃ。」
(駿河…駿河湾っていう海があったはずだから静岡県の辺りのことか?それに今川…どっかで聞いたことがあるような。)
今川という名に聞き覚えがあり、俺は記憶を辿る。
今川…今川…桶狭間…
「あっ!」
俺はカトセンの怒り顔と共に日本史の授業で習った今川義元を思い出した。
「今川家ってもしかして、今川義元の…!」
「今川義元…?拙僧の知る限りではそのような方は存ぜぬが…」
承菊は首をかしげる。
(承菊のしゃべり方といい、地名といい昔の時代っぽいけど…)
「今って鎌倉?室町?ですか?」
「うむ、室町と言えるだろうな…だが、かつて足利尊氏公が開いた室町幕府も応仁の乱にて威光が弱まり、ついには多数の勢力が台頭していった。今川家もその一つじゃ。今この世は群集割拠の時代と言った方が正確であろう。」
(てことはここは戦国時代ってことか。)
「で、俺は何で寺に居るわけ?」
「それはおぬしが五男だからよ。五男は普通ならば家督を継げん。だから、大名の長男と次男以下の兄弟は寺に預けられるのが大多数じゃ。」
「俺も僧侶になるの?」
「ああ、そうじゃ。他に聞きたいことはあるか?」
「うーん、もうないや。」
「そうか。」
承菊は立ち上がり、
「さて、熱が下がったとはいえ再発しては意味がない。今日は安静にしておれ。」
と言うと部屋を後にした。
俺はふとんに仰向けになって、今起こっている状況を整理した。
この時代は戦国時代で、俺は桶狭間の戦いで有名な今川一族の子供に転生したらしい。さらには、僧侶になるために寺で修行中なのだという。
「しっかし、戦国時代か~。なかなか大変な時代に転生しちゃったもんだ。」
(まあでも僧侶になる俺には戦いとかには無縁そうだし関係ないか。)
俺はそうのんきに考えると、しばらくしたのちにスヤスヤと安らかな眠りについた。
そう、自分が転生したのがよりにもよってあの今川義元だと知らず…
10
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

花倉の乱 ~今川義元はいかにして、四男であり、出家させられた身から、海道一の弓取りに至ったか~
四谷軒
歴史・時代
【あらすじ】
今川義元は、駿河守護・今川氏親の四男として生まれ、幼くして仏門に入れられていた。
しかし、十代後半となった義元に転機が訪れる。
天文5年(1536年)3月17日、長兄と次兄が同日に亡くなってしまったのだ。
かくして、義元は、兄弟のうち残された三兄・玄広恵探と、今川家の家督をめぐって争うことになった。
――これは、海道一の弓取り、今川義元の国盗り物語である。
【表紙画像】
Utagawa Kuniyoshi, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で

日本が危機に?第二次日露戦争
杏
歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。
なろう、カクヨムでも連載しています。
【短編】輿上(よじょう)の敵 ~ 私本 桶狭間 ~
四谷軒
歴史・時代
【あらすじ】
今川義元の大軍が尾張に迫る中、織田信長の家臣、簗田政綱は、輿(こし)が来るのを待ち構えていた。幕府により、尾張において輿に乗れるは斯波家の斯波義銀。かつて、信長が傀儡の国主として推戴していた男である。義元は、義銀を御輿にして、尾張の支配を目論んでいた。義銀を討ち、義元を止めるよう策す信長。が、義元が落馬し、義銀の輿に乗って進軍。それを知った信長は、義銀ではなく、輿上の敵・義元を討つべく出陣する。
【表紙画像】
English: Kano Soshu (1551-1601)日本語: 狩野元秀(1551〜1601年), Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で

戦国記 因幡に転移した男
山根丸
SF
今作は、歴史上の人物が登場したりしなかったり、あるいは登場年数がはやかったりおそかったり、食文化が違ったり、言語が違ったりします。つまりは全然史実にのっとっていません。歴史に詳しい方は歯がゆく思われることも多いかと存じます。そんなときは「異世界の話だからしょうがないな。」と受け止めていただけると幸いです。
カクヨムにも載せていますが、内容は同じものになります。
敵は家康
早川隆
歴史・時代
旧題:礫-つぶて-
【第六回アルファポリス歴史・時代小説大賞 特別賞受賞作品】
俺は石ころじゃない、礫(つぶて)だ!桶狭間前夜を駆ける無名戦士達の物語。永禄3年5月19日の早朝。桶狭間の戦いが起こるほんの数時間ほど前の話。出撃に際し戦勝祈願に立ち寄った熱田神宮の拝殿で、織田信長の眼に、彼方の空にあがる二条の黒い煙が映った。重要拠点の敵を抑止する付け城として築かれた、鷲津砦と丸根砦とが、相前後して炎上、陥落したことを示す煙だった。敵は、餌に食いついた。ひとりほくそ笑む信長。しかし、引き続く歴史的大逆転の影には、この両砦に籠って戦い、玉砕した、名もなき雑兵どもの人生と、夢があったのである・・・
本編は「信長公記」にも記された、このプロローグからわずかに時間を巻き戻し、弥七という、矢作川の流域に棲む河原者(被差別民)の子供が、ある理不尽な事件に巻き込まれたところからはじまります。逃亡者となった彼は、やがて国境を越え、風雲急を告げる東尾張へ。そして、戦地を駆ける黒鍬衆の一人となって、底知れぬ謀略と争乱の渦中に巻き込まれていきます。そして、最後に行き着いた先は?
ストーリーはフィクションですが、周辺の歴史事件など、なるべく史実を踏みリアリティを追求しました。戦場を駆ける河原者二人の眼で、戦国時代を体感しに行きましょう!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる