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第16話「三人の敵」
しおりを挟むどのくらいの期間ここにいるのかは分からないけれど、レイがいる限り俺もずっとここにい続けなくてはならない。マゼンダもハッキリミケが準備したと言っていた。見た目ばかりやたら豪華で味ない料理なんて、正直材料の無駄遣いだと思う。
俺は一ヵ月もの間、ハチミツと一緒にご飯の準備をしていた。一緒に色々な物も作った。前世の俺とは違い、料理も格段に上手くなっていると思う。こんな料理を出されるくらいだったら俺が作った方がマシだ。
スプーンを置き、水をがぶ飲みする。そして、レイにも「食うな」と、食べないように伝えると、レイも渋々箸を置いた。味が無いのが分かっていて食べているんなら、こんなに勘違いする優しさはない。誰かがハッキリとミケに「不味い」と伝えなきゃアイツは分からない。
「ハッキリ言って不味い! 今日からレイが食うもんは俺が作る!」
皆の前でそう宣言すると、マゼンダは「はあ?」と、顔を歪ませた。
「おまえ、ふざけるのもいい加減にしてくれよ。突然やってきて、レイ様に醜態を晒した挙げ句、言いたい放題、やりたい放題。本来ならばすぐに処刑すべき人間なのに、レイ様がお優しいことをいいことに調子乗りやがって……」
マゼンダは物をハッキリと言う方らしく、俺にも遠慮ない言葉を投げかける。
だが、ミケには何も言わない。これもミケのフェロモンのせいなのだろうか。だとしたらこれ以上マゼンダを責めても意味がない。
俺はこの料理達が不味いことをここにいる皆に伝えた。それだけで十分だ。
「これまで俺の暴走によりポルニア国への無礼、本当に申し訳なかった。俺はレイと和解しに来たんだ。これからは対等な関係で付き合っていきたい」
誠心誠意、偽りなく伝えたけれど俺の言葉がマゼンダに響くことはないらしい。マゼンダは味のしない料理を全て間食していた。残りの二人も全て間食し終えていて、二つ折りにしたナプキンの上側中面の端をくちびるに当て、右から左へと拭いた。
レイが口を開いて三人に意見していないのも気になるが、俺に任せているという認識でいいのだろうか。だとしたら俺は三人にどしても伝えておきたいことがある。
「……今ここにいる者に伝えておく。言っておくが俺はレイを殺したりはしない。約束する。だが、ここにいる者の中にレイを殺そうとか考えているヤツがいたら、そのときは瞬時にそいつを俺が殺す」
そう伝えると、リリックがクスクスと肩を小さく震わせて笑い出した。
「……王を殺すだって? そんな大罪を犯したらどうなるかくらい分かってるでしょう?」
リリックは序盤の紹介でレイに一番慕われているのは自分だと、ゲーム内で言っていた気がする。だが、今の段階でレイがリリックを慕っている様子も見受けられないし、レイがリリックを特別扱いしているとは思えない。ということは、主人公であるミケに少しでも良く映るように見栄をはっていたということになる。コイツは見栄のために兵器で嘘をつく。
「そうだな。俺はレイを殺さない。……どうする?」
「『どうする』とはどういうことです? 何故私たちが王を殺す前提で話をしているんです?」
「綺麗事はいいんだよ。ここにいるヤツらは全員、レイの命を自分の手を汚さずにどうやったら奪えるかをずっと考えてる裏切者の集まりだからな」
何かを言いたそうに三人は俺を睨んでいる。
三人が何か胸の奥に秘めていることは分かっている。けれど、その『何か』を言ってしまえば、絶対ボロが出てしまうため、あえてこの場では口を開かない。そういった感じだ。俺から言わせてみればボロを出す可能性があるから黙っているという風にしか捉えられない。
「レイは……何か思うことはあるか?」
俺の言葉に全く口を挟んでこないレイに意見を問う。
レイは「思うことはたくさんあるが……あえて言わない」と、また口を閉ざした。一緒に食事を摂るくらいだ。信頼していないわけではないだろうが、レイはこの三人のことをどう思っているのだろう。
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