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第3話『気づかなかった誘惑』

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 ハチミツにシャドウ国に住んでいる人達には「ソウルの人格が穏やかになった」という平和的な方向で伝えてもらった。その情報を聞きつけた職もまともに摂っていなさそうなシャドウ国の民が城の敷地内に集まっていたので一人一人の話を聞いてみることにした。


 まず初めに分かったことは、ソウルの住む国、シャドウ国は悪の国ということで恐れられている。奴隷制度に加え、一日に数千人の餓死者を出す。奴隷は寝る暇もなく働き、国のために貢献しなければならない。また、ソウルの人を殺せる能力を利用し、民が減ったら隣のポルニア国から平民を都度誘拐していたが、それを阻止するために、ポルニア国からシャドウ国に不自由ない金銭を送るようになったそうだ。


 ハチミツに、今国にどれだけの金があるのかを聞くと、ポルニア国の援助のおかげで国一つ丸々抑えるくらいのお金は蓄えているそうだ。なんとも酷い話だ。そんなに蓄えているならシャドウ国を平和な町にできるだろうに。それも驚くことに、そのお金はソウルの私利私欲の為のお金で、王であるソウルしか使う権限を赦していないらしい。よってシャドウ国は豊かになることはなかったらしい。


「今まで申し訳なかった。俺の頭がどうにかしていた。今日から奴隷制度も無くし、平和で豊かな国にすることを誓う。シャドウ国に住む城外の者には、毎日一日三食十分に食べられる食料を届けさせよう」

「あ、ありがとうございます! あの子……今まで禁じてられておりました子を宿すことは赦されますか?」

「もちろん、子が増えればこの町も賑わうし、子供たちが今後の希望にもなる。子が産まれたところには、それ相応の援助も、この国が負担しよう。これからは王族、その他に関わらず皆平等に、殺し合いがない、住みたい国になるように皆で頑張ろう」


 王になりきり声高らかに宣言すると、一斉に拍手が起こった。今日一日ソウルとして過ごしてみて、ソウルが傲慢で自分勝手な男だということを身をもって思い知ることができた。


 翌朝、

「――で、俺が近々成し遂げたかったことは、レイを殺してポルニア国を乗っ取ることだったと? シャドウ国があるのになんのために? シャドウ国の城は外観黒いし不気味だし、お化け屋敷かよって思うし、もっと良い城ほしいっていうのは分かるけど……」


 ハチミツに準備してもらった甘いクッキーと紅茶を頂く。これがとにかく美味しくてさっきから手が止まらない。
もしかしてハチミツは料理が上手なのかもしれない。


「ハチミツ、料理得意なのか? クッキー以外も作れたりするのか?」

「はい!ハチミツめ、料理は得意でございます! シャドウ城の夕食は全てハチミツめが担当しておりまして、お菓子以外もなんなりとお申し付けください!」

「そうか、ありがとう。助かる。これからは俺にも食事の準備を手伝わせてくれ」


 そうお願いするとハチミツはほっぺたが落ちそうなくらい顔を赤くして驚いていた。この日から毎日三食分、城内の食事をハチミツと一緒に準備し、城外の住民にも余った食事は炊き出しとして振舞っていた。


 一ヵ月ほどが経ったある日、いつものようにハチミツに準備してもらったお菓子を食べながら一息つく。


「ソウル様、毎日の食事の準備を手伝っていただきありがとうございます。とても素早く助かっております」

「いや、俺も……久しぶりに働くことの大切さが知れてよかったよ、ありがとう」


 感謝の気持ちを伝えると、ハチミツは曇った表情を向けた。


「ソウル様……ポルニア国のレイ様の暗殺計画のお日にちは本日の予定でしたが……遂行されなくて大丈夫ですか? ポルニア国を手にすることができたらもっと領土が広がるとおっしゃっておりましたので」


 ハチミツは不安気に問いかけてきた。

 そうか、レイが殺された日は今日なのか。お菓子を準備してくれたときから今の今までハチミツはイスに座ることもなく、ましてやお茶菓子も口にしていなかった。今日はハチミツと一緒に優雅に過ごしたい。


 「ハチミツ、一緒にお茶菓子食べよう」と誘うと、ハチミツは首を横にブンブンと振り否定した。


「い、いけません! そのようなことは許されておりません!」

「じゃあ俺が許す。それとも俺と一緒だとイヤか?」

「とんでもございません! ええと、いいのですか? 頂いても」

「もちろん。むしろいつも準備させてしまって悪かった」


 俺の横に腰掛けるハチミツのために、クッキーが添えられている皿をハチミツの前に移動させると、ハチミツはぎこちない様子で「頂きます」と、クッキーを1枚口に頬張った。美味しそうに口をもぐもぐ人動かすハチミツを見ながら、ハチミツのために紅茶を淹れる。

 ハチミツは紅茶のカップを手に取り喉を麗した。一息ついてまた本題に入る。


「ーーそうか、レイが俺に殺された日は今日だったのか」

「はい。ポルニア国を乗っ取るのは権力のためだと、ずっとおっしゃってました……なので、ハチミツめもこの日の為にポルニア国へ行って帰って来られる分の能力は蓄えておりましたが……」

「国を乗っ取ることが目的だとすると、俺……いや、ソウルはレイが嫌いだったわけじゃはないんだよな?」

「いいえ。とても嫌ってらっしゃいました。ポルニア国の王レイ様はとてもお顔がお美しく、美形なため、俺の方が顔が良いといつも仰ってましたし……」


 ソウルが自分大好きナルシストだったことが判明した。まあ、カッコイイし、仕方ない。目を瞑ろう。


「いや……なんかすまん。レイの方が断然カッコイイと思う! ええっと、その……簡単に言えば今の俺はレイを嫌いじゃなくて、なんというか、むしろ好きなんだ! 大好きなんだ!」

「…………だい、すき……? ソウル様がレイ様を?」

「そう! 今の俺は凄く寛大だから!」


 レイについての情熱をハチミツに伝える。ハチミツは嬉しそうに微笑みながら涙を流した。


「それは存じております。お人が変わったソウル様をハチミツめだけではなく、シャドウ国の皆が目にしているわけですから。で、では、もうレイ様をあやめるということは……」

「もちろんしない! 今までの計画は全部白紙! 全てはシャドウ国を平和にするためだ! ハチミツ、力を貸してくれるか!?」

「も、もちろんでございます! ハチミツめ、嬉しいでございます!」

「おう! そうと決まればさっそくレイと和解しよう! ええっとここからどうやってポルニア国に行けばいいんだ?」

「ハチミツめの能力はテレポーターなので、いつもソウル様を現地までテレポートさせていただいてます! その分の能力は都度、ソウル様の計画通りに溜めておりますので、お任せ下さい!」


 お茶菓子を食べ終えた俺たちは和解するためにレイのところに出向くことを決めた。ハチミツが手を広げ「フン!」という掛け声と共にテレポートを実行してくれた。


 ハチミツがポルニア国の城の前に飛ばしてくれたおかげで、レイのところに向かうことがだいぶ楽になった。だが、ハチミツは泣きそうな顔をしている。


「ソウル様、申し訳ありません。ハチミツめ、失敗しました……」

「失敗? でもここはポルニア城の敷地内だよな?」

「城内に飛ばすはずでしたのに……ハチミツめ、ソウル様がお優しくて浮かれておりました……」

 地面に頭をつき、深々と『帰りの分で力を残す必要ごあるので、ごめんなさい』と謝罪するハチミツの頭をポンと撫でる。


「いいよ。十分。歩いて行けばいいし」

「で、ですが、ポルニア国とは今まで敵対していました。なので、すんなり中に入れるとは思いませんが……」

「俺がここ数か月で変わったということも風の噂で伝わってないかな?」

「……シャドウ国の情報は全て外に漏れないようにシャットアウトしておりますので、難しいかと思います」

「…………そうか。とにかくひとまずは物影に隠れよう」


 俺達は城内の出入り口が目視できる距離に離れ、物影に隠れて作戦を練ることにした。


 ソウルの能力は半径三メートル内ではあれば一瞬で殺すことができるということをハチミツのおかげで知ることができた。三メートルという長さの制限があることは知らなかったが、レイを殺めるときもこの能力を使って殺めた。この能力はゲーム内でソウルしか使うことができない無敵の能力だ。


「どうすっかな……レイが大好きってことを伝えれば会わせてもらえるかな?」 

「い、いえ……それは……とても難しいと思います……」


 ハチミツと一緒に色々な案を出し合ってみるけれど、どれも城の中にすんなり入れてもらえるとは思えず、二人してどうしようと悩む。すると、運よく城内からゲームの主人公ミケが出てくる姿が見えた。その姿はまさに『受け』の見た目で、茶髪の少し長めなふわふわ髪。女顔で仕草も可愛らしい。だからこそミケは複数の男性からモテるのだろう。


 ハチミツに目を向けると、トロンと見惚れていそうな表情でミケを見つめていた。


「おい、ハチミツ!!」


 肩を揺らすとハチミツは我に返ったようにハッとした。


「申し訳ございません! ハチミツめ、ミケさんに見とれておりました!」

「アイツは複数の男を惑わせる危険なヤツだ。しっかりしろ!」

「そうなのですか!? は、はい! 気をつけます!」


 プレイ中はミケの立場だったから気づくことができなかったが、ハチミツが見惚れてしまうのも頷ける。ミケは何か特殊なフェロモンを放っている。


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