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しおりを挟む優冴から勉強を教えてもらっていると教室のドアから一人の女子生徒の声が聞こえた。
「優冴くーん!残ってるって珍しいね?何してるの?」
学年で一番可愛いと言われている吉野一華さん。セミロングのゆるくかかったウェーブ。ふわふわで色白で守ってあげたくなるような、そんな女の子。性格もとても良く誰の悪口も言わない完璧な女の子。
そんな吉野さんは優冴も気があるのが一目見て分かる。
吉野さんは教室に入ってきてはオレ達の席へと近寄り、優冴の広げているノートに微笑みながら視線を落とした。
「わー!?優冴くん、字……上手だね!」
確かに優冴は字が綺麗。
だけど、この吉野さんの鼻につくような言い方が受け付けない。
上手くは表現できないが、『こんなに褒めてる私イイ女でしょ』というのが見て取れる。
そんな優冴は吉野さんを見て顔を歪ませた。
「……アンタ、誰」
まさかの爆弾的な返しに吉野さんのにっこにこだった笑顔がどんどん曇っていくのが分かる。
「優冴! 隣のクラスの吉野さんだよ! ほら、学年で一番可愛いって噂されてる……!」
咄嗟にフォローを入れる。吉野さんは「キミは私のこと知ってくれてるんだね?」とオレに笑顔を向けた。
あーーこのパターンって、もしかしてオレが吉野さんに名前覚えられてない感じ? そうだよな、こんな地味でかっこよくもないオレの名前なんて知らないよな……でも、ずーっと優冴の隣にいるんだから、名前くらい知っててくれてもいいじゃないか……
どうしようもできない不満を吉野さんに抱いてしまう。
「それよりさ、学校の近くにパフェのお店ができててね。今日まで割引販売してるの。良かったら一緒に食べに行かない?」
唐突な吉野さんの誘いに優冴は額に眉を寄せる。
ヤバい、優冴の機嫌が悪くなってる……が、吉野さんのオレに寄せる期待も見て取れる。
優冴にも嫌われたくないが、吉野さんを敵に回してしまうとロクなことにならないような気がしてしまった。
「……行ってきたら? 今日まで割引ならもうこんな機会二度とないと思うし……勉強は別に今日じゃなくてもいいし! ほら、まだテストまで日数あるしさ」
すかさず吉野さんをフォローする。
優冴は「なんで俺が」と言いたげな目をオレにしてみせた。
「別に一人でも行けるんじゃないの」
吉野さんに冷たく言い放つ優冴。
そんな優冴に、
「割引の対象になるのは二人以上からなの! 一人じゃ無理なの! お願い、優冴くん!」
吉野さんも引き下がらない。
多分、吉野さんにとってパフェはただの口実であって、優冴と親しくなりたいのが見て分かる。
吉野さんにとってオレは邪魔ものでしかないのかもしれないけど、
「……じゃあ、オレも行こうか? 二人以上なら三人でもいいんでしょ?」
多分、こう言わなきゃ優冴は動かない。
吉野さんはオレからまた、優冴に視線を移した。
「でも……優冴くんがいなきゃ……」
「だ、大丈夫! 行くよな!? 優冴!」
困った吉野さんに『協力しますよ』全面なオレ。
優冴も渋々頷いてくれた。
「……陽が行くんなら」
――よし!!
「やったー!優冴くん、陽くんありがとう!」
嬉しそうに喜ぶ吉野さんの役に少しでも立てただろうか。
そうだったらいいな、と思っていると優冴は吉野さんに鋭い目を向け、
「陽の名前知らなかったのにいきなり呼び捨てってどうなの」
嫌味っぽく口を開いた。
ーーちょっ……今からパフェを美味しく食べましょうってときになんつーこと言ってるんだよ!
「おい、優冴! 別にいいだろ! 吉野さん、気にしなくていいから! あっ、オレ、瑞樹陽! 陽で全然いいしさ」
あと一言何か言ってしまったら泣きそうなくらい、目に涙を溜めている吉野さん。
……こんなことで泣いてしまうくらい女の子の心って繊細なんだ。
女子と関わりが無さすぎて、吉野さんという女の子と関わった今初めて知ることができた。
「ほらほら! さっさと行かないとパフェなくなっちゃうかもしれない!」
しょんぼりしていた吉野さんと優冴を連れて教室から出る。
最近できたパフェ屋さんはいつも人が混んでおり、建物の外観を流し見することしかできなかったけれどついに入ることができるのか……!
美味しいと評判だったから実はオレも食べてみたいと思っていたし、吉野さんに誘ってもらえてラッキーだったかも。
店内に入り、吉野さん、優冴、オレの順番で並ぶ。
「私はイチゴホイップカスタードパフェにしようかな~!」
メニュー表を見てキャッキャとはしゃぐ吉野さん。
「陽はどれにする?」
店員が差し出してくれたメニューをオレに見せる優冴。
ううっ! 美味そうなものがいっぱい……!
「この抹茶に白玉が乗ってるパフェ美味そう~!」
値段を見るとオレのだけ1000円を超えてしまっている。
美味そうなだけに値段が高い……抹茶白玉パフェのすぐ下にあるモンブランパフェは400円。ちくしょう、こっちにするか……
「や、やっぱりこっちのモンブランパフェにしようかな……」
「ーーん、分かった」
オレが悩んでいる間に吉野さんは自分で自分のお会計を終えてしまった。
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