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1.顔面国宝級なオレの親友
しおりを挟む二学期の中間テストが迫る中、今までにないほど頭を抱え自分の机に突っ伏しているオレ、水樹陽。
部活にのめりこんでいるわけでもない、彼女ができることもない。ダラダラと、十七年という人生を過ごしてしまったと思う。
ーーオレの青春はもう終わってしまった。
「陽、おはよ」
それもこれも、この国宝級のイケメン、難波優冴の傍に居続けたことが原因だと思う。
黒色のツヤがある髪はサラサラしていて、顔は非の打ち所がないほど整っている。
目は二重でパッチリとしていて、鼻筋はスッと通っており、おまけに、ふと笑った時に見せる笑顔はとてつもなくカッコイイ。
そんなパーフェクト男子の傍に居続け早五年。誰一人、オレに告白してくれる女の子は現れなかった。
よく、『モテ男の傍にい続けたら、かっこよくないヤツでもかっこよく見えてしまう』と言ったりするけれど、オレの場合、全然そんなミラクルが起きることもなかった。
イケメンの傍に居続けたからといって、オレ自身がモテるわけではなかった。
もちろん、そんな不順な動機で今まで一緒にいたわけではないが、今ほんの少しだけその動機を求めてしまった。
未だふて腐れるように机に顔を伏せていると、優冴はオレの頭にポンポンと優しく触れた。
「何か悩んでんの?」
優しいトーンで声を掛けられたため、せめて何かしらの反応はしないといけない、と、ゆっくりと頷く。
『青春を置き去りにしてしまったことに悩んでいる』なんて、オレ以外が理解し難いことはいちいち言わないけど。それでも優冴はオレから何かを察したらしい、
「中間テストなら心配しなくても大丈夫だよ。俺、バイト休みもらえたし。一緒にテスト勉強するから」
オレが毎回赤点ギリギリだからだろうか。テストのことで悩んでいると思われ、励まされてしまった。
「ありがとう。今回も絶望的だからまた勉強教えて」
「うん。だから、いい加減顔上げて」
男のオレに優しくしても良いことなんてなにもないのに。
複雑な気持ちで顔を上げると、オレの視界にドアップで優冴の顔面が映った。
「近ッ!」
「いや、陽がなかなか顔を上げてくれないから」
「だからって……おまえ、近すぎ! 顔ぶつかるかと思っただろ!」
火照る顔を腕で隠しながら、机の端に置いていたスマホに目を落とした。
優冴のオレに対しての距離感が年々近づいていると思う。信頼してくれているからだろうか、最近目に余ることが多い。だからといって「距離感おかしくない?」と聞くのもどうかと思っていたけど、今日という今日は我慢の限界だ。
こんなに距離感がバグられたらどう接したらいいか分からなくなる。
それとなく聞いてみようと、優冴に「あのさ」と口を開く。
「おまえのその距離感なんなの」
「……距離感?」
「近いし、おまえの距離感バグってんだよ」
優冴は「ああ」と頷いては両腕を組み、何かを考え出した。
こんなに真剣な質問をしているときでも、ああ、コイツの顔かっこよすぎると思ってしまうオレも、相当感覚がバグっていると思う。
「陽って犬っぽいからさ。つい、距離感近くなるというか、目が離せないんだよね」
あっけらかんといった感じで口にする優冴に唖然とした。
……犬? え、オレ、今まで犬っぽいって思いながら見られてたの? 確かに、髪の色素は薄いから茶髪だし、くせっ毛だし、目も大きいねって羨ましがられることはあったけど。犬っぽいって。人間ですらないじゃん。
変に意識していた自分が恥ずかしくて、また顔を伏せた。
「そういうとこも犬っぽいんだよ」
ククッと小さく笑い声を出す優冴のその顔が見たくて、ゆっくりと顔を上げる。
オレが犬だとしたら、飼い主は間違いなく優冴だ。
優冴はとにかく女子にモテる。女子達が優冴を見てキャーキャー騒ぐのも頷ける。だってオレが一番身近で優冴がモテるのを見ているから。
オレに彼女ができないのは「残念だね」で済ませられるけど、優冴に彼女がいないのは「残念だね」で済ませられることではない。
オレが優冴だったら彼女の一人や二人すぐに作っちゃうのに。
授業の始まりを告げるチャイムが鳴ると、優冴は「じゃあ、また後で」と、自分の席へ戻って行った。
そんなオレ達を遠くの席から見ている男が一人いる。八尾大志。
金の髪色をしている八尾の耳には大量のピアスが付いている。いわゆる不良だ。顔もカッコイイ。金髪にピアスはカッコイイやつしか許されない特権だと思う。
そんな八尾はよくオレを見ては睨んでいる。
何かしただろうかと、高1の時から思い続けて早1年と半年が過ぎた。優冴にも相談したけれど「考えずぎ、気にしなくていいよ」と言われ気に掛けないようにしていた。けれど、こうして目が合ってしまえばやっぱり気になる。
八尾とは喋ったことがない。これからも喋ることはないのだろうと、八尾から目を離し、机の上に視線を戻す。
今日もいつも通り授業が始まり、いつも通りの一日が過ぎていく。
「英語のノート持って行くんで、教卓の上に置いてくださーい」
今日が日直のオレは、教卓の上に提出されたノートを預かり、教室を出て廊下を真っ直ぐ進む。階段を下っていると背後から妙な気配を感じた。
やっぱり優冴に着いてきてもらえばよかったと反省しつつ、小走りになる。すると、後ろのヤツもオレを追いかけ、走りだした。
階段を下りた瞬間殴られる覚悟を決め、後ろを振り返る。急に止まって後ろに振り返ったせいで、
「おい、なに……ぶわっ!?」
小走りでオレの後ろを歩いて来ていた人とぶつかった。目を見開くと八尾が立っている。
ここには八尾のノートもある。
……オレ、殺されるんだろうか。
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