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12:人類悪には、浣腸を放て!
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「ただいま……」
マスターへの連絡を終えて帰宅した俺は、ブーツを脱ぐとポニーテールを結うシュシュをほどく。
フワッと下ろされたロングヘアーとともに、蒸れた甘い香りが広がる。
家族からの返事は無く、俺は小さくため息をついた。
時刻は二十三時を回っており、両親は寝てしまったのだろう。
俺は適当に入浴を済ませると、そのまま自室のベッドに倒れ込む。
服を着る元気もない。
夕食を口にする気力もない。
そう思えるほどに今日の出来事は、濃厚だった。
体に巻いていたタオルを投げだし、生乾きの髪を振り乱した俺は、勢いよく枕に顔をうずめる。
開け放ったままの窓から吹き込む風が、俺の肌を撫でる。
――自分の仕事に集中しろ――
マスターは、あのように言ったが、俺は正直なところ分からなくなっていた。
確かに俺の仕事は、武具屋としての鍛冶商売業である。
それはこの世界を生きていくと決めたが故の現実的指針であり、仕事というよりもなるべくしてなったという方が正しい。
だが、もし本当にすべき使命があるのだとしたら――。
脳裏にデッドキャスパーとゼロフィリップの言葉が巡る。
――転生者諸君――
――もう少しじっくりと話がしたいものだ――
――今後、会敵する機会も増えるだろう――
どの発言も、俺を転生者として意識した発言だ。それに最後の発言に至っては、今後も俺が戦場を駆けることを予言しているかの様にすら聞こえる。
わざわざ戦わない道を選んで生きてきたというのに、今更どうしろというのだ。
一体転生者とは何なのだ。
俺はより強く枕に顔を押し付ける。
今までまるで疑問を持たなかったことに、自分でも不思議になる。
よく「なろう」産のライトノベルやアニメーションでは、当たり前のように転生者が描かれる。
その多くは偶然であったり、誰かの差し金であったりと転生転移状況は多種多様。
当然の様に俺もその状況を知ることになると思っていたが、十六年も何もないと「偶然」であったのだと思っても仕方ないことだ。
だが、考えてみれば、世の中に偶然などほとんどないだろう。
アニメ麻痺とでも言うべきか。
偶然という言葉を軽く見過ぎていた。
考えてみれば、輪廻転生など極めて不思議な体験なのである。
そもそもとして、その状況に疑問を持つべきだった。
ましてや、偶然が重なって三人も転生者が集まるなど、奇妙な話である。
ここで何が起きているのだろう。
転生者知る存在。集う転生者。不可解な偶然の連鎖。
そして、何よりもそれらが今の時期に一斉に来たということ。
出来過ぎている。
まるでこのタイミングを計っていたかのような――。
『随分と、難儀しているようじゃぁないかぁ』
!?
突然の声に俺は慌ててタオルケットで体を隠し、飛び起きる。
身を強張らせる俺が視線を配ると、窓枠に腰掛ける人影が一つ。
「デッドキャスパー……」
俺の言葉に窓枠に腰掛けたデッドキャスパーは『よぉ』と片手をあげる。
『お邪魔してるぜぇ?』
そう言ってデッドキャスパーは、紅く錆びた装甲の隙間から静かに蒸気を吹く。
外部装甲は先刻と同様のモノだったが、その隙間から見える下地のスーツは真新しく、先ほど破壊されたモノとは別物に見えた。
「乙女の裸を覗き見とは趣味が悪いね。何しに来たの?」
露骨なまでに敵意をむき出し、俺はデッドキャスパーを睨む。
デッドキャスパーは笑う。
『そう。かっかするなよぉ。俺は、お前さんが聞きたいことを話に来ただけだよ』
「聞きたいこと?」
『そうさぁ。今悩んでたろ? そう言うことをわざわざ答えに来てやったんだ』
「なら、店頭からキチンと入って来なさいよ」
『それじゃぁ、エンターテインメント性に欠ける。悪者は悪者らしく振舞う主義なんでね』
デッドキャスパーはそう言って、首をかしげる。
彼のバイザーには月明かりが反射し、怪しく煌く。
「悪者の自覚があるなら、話すことだけ話して帰ってもらえないかしら?」
俺は胸の前でタオルを抱きしめるようにして、グッと体を強張らせる。
デッドキャスパーは首を振った。
『まぁ、そう焦るなよ。一つずつ話していこうじゃないか』
そう言ってデッドキャスパーは何処からか一冊の本を取り出すと、俺の方に投げてよこす。
ベッドの上に落ちた本の表紙には、古代の文字で「七英雄と魔王」と書かれている。
「これは?」
『グリスゲレムと呼ばれる書物でなぁ。転生者の記載がある唯一の古文書だ』
俺は恐る恐る本へと手を伸ばす。
すると、デッドキャスパーは言った。
『ソイツは後で読め。くれてやる。今はまぁ、聞いておけよ』
そう言って彼は、欠伸をするような仕草を見せる。
『その本によれば、この世界にはある大きな儀式が存在する。それが数百年に一度自動的に発動する「転生者召喚の儀式」だぁ』
それを聞いて俺は目を見開いた。
やはり偶然では無かったと。
俺の反応を確認し、デッドキャスパーは満足そうに軽く頷く。
『その転生者召喚の儀式だが、俺の調べた限りだいたい二百年周期くらいで回ってくるらしく、その目的は「世界の進化」なんだとさ』
俺は眉間の皺を寄せた。
「世界の進化?」
『そう。世界の進化だ。転生者というのは一度に八人召喚される。召喚された八つの魂はそれぞれの場所で新しい命として誕生し成長する』
言葉を続けるデッドキャスパーは天の月に手をかざす。
『そして、育った八つの魂は、七つの勇者と一の魔王となる。七つの光と一の闇がぶつかり合うことで、世界はその膨大なエネルギーを得て進化するという』
そこで言葉を切ったデッドキャスパーは、ゆっくりと顔をこちらに向けた。
バイザーの奥に灯る赤いランプが怪しく輝き、俺は息をのむ。
『それでお前がその一人。……というわけだぁ』
なるほど。
俺はだいたいの事情を把握し、苦笑いを浮かべた。
世界の進化のために呼ばれた八人の転生者。七つの光と一の闇はぶつかることで、儀式が成立する。
どおりで都合よく三人も転生者が集まるわけだ。
おそらくだが、コイツらが糸を引く云々以前に元々俺たちは引き合う運命にあったのかもしれない。
だが、それがわかったとしても一つ気になることが残る。
俺は問うた。
「アンタらは何が目的なの?」
確かに、世界を進化させる転生者の存在は、世界の行く末という部分では大きなカギを握る。
だが、商売人としての顔を持つコイツらがソレを糸引く理由が分からない。
俺たちを切り離し「進化」を遅らせることで、現環境の需要供給を独占化するなら納得できる。
しかし、これまでの動向を見た限りだと、連中はむしろ俺たちが巡り合うことを望んでいるかのように思えた。
何故だ?
デッドキャスパーはとぼけるようなジェスチャーをとる。
『何が目的? 勘違いするなよ。俺はあくまで偶然お前らの存在を知り、興味を持ったに過ぎない。それはウチのボスも同じだ。お前らどうしようと知ったことじゃぁない。こっちはビジネスだ。儲けるために働き、邪魔する奴がいれば叩く。それだけの話よぉ』
嘘だ。
俺は直感的にそう感じ、目を細めた。
それっぽい理屈を述べてはいるが、どうもコイツからは邪悪な匂いがする。
「へぇ。じゃぁ。どうしてわざわざ焚き付けるような話題をわざわざ提供しに来たのかしら?」
俺の言葉に、デッドキャスパーは暫し無言になった。
考えているのかと思いきや、彼は不思議そうに肩をすくめる。
『さぁ、なんでだろうなぁ? 俺も歴史の奇跡にあてられて気でも触れたかな? もともと今日ここに来たのは、別の理由があってのことだぁ。この話はそのついでさ。それになんだぁ? 可愛いお嬢さんが心痛しているのは放っておけない主義でねぇ?』
そう言って、彼は俺の全身を舐めるように見回していく。
俺は性的恐怖心では無く、生物的恐怖を覚え、身を強張らせた。
「……あくまでしらばっくれるのね。どうして私が転生者って知ってるのかとか、いろいろ聞きたいところだけれど。それより、その別の目的って何?」
単刀直入にそう問うた俺に対し、デッドキャスパーは懐から何かを取り出して床に投げた。
ゴトリ
鈍い音を立てて床に転がったソレは、ゆっくりと俺の近くまで転がってくる。
それを見た瞬間、俺は全身から血の気が引いてしまう。
腕だ。
それも二本。
息をのむ俺に対し、デッドキャスパーは言った。
『ボスには宣戦布告をして来いと言われててなぁ。ボスはお前にご執心でね。近いうちに強制捜査に来るんだろうと踏み、どうせならお前とも拳を交えたいとか言ってたぜぇ』
デッドキャスパーの言葉が耳に届かない。
俺の意識は、目の前の二本の腕に釘付けにされていた。
腕は色黒の太くたくましいものと、白く細いもの。
いずれもよく見慣れたものに似ている。
俺は恐る恐る。
その腕の指へと視線を移した。
!
主無き腕の指には、双方共通している点がある。
その薬指に銀の指輪がはめられているという点だった。
俺はタオルケットを巻き、部屋から飛び出した。
階段を駆け下り、両親の寝室へと走る。
「お父さん!? お母さん!?」
突き破る様にして開け放った扉。
そこに広がる光景を見て、俺はその場に立ち尽くした。
赫あか。
ただただ赤いその空間には、粉砕したベッドの破片と散乱する家具が散乱していた。
そして、その中央には、かろうじて姿を留めた大小二つの肉塊が転がっている。
俺はワナワナと震える足で、寄り添う様にして転がっている二つの肉塊へと近づいていく。
それは紛れもなく、俺の両親だった。
「あぁ……あ、あぁ……」
血だまりの中で膝をついた俺は、ピクリとも動かない二人の頭をそっと抱きしめた。
突然の出来事に涙すら出ない。
見開かれた俺の瞳は動揺に震え、全身は絶望のあまり痙攣する。
「どう……して?」
理解が追いつかない。何が起きたのか。
思考が正常に働かず、俺は今起きたことを必死に整理する。
しかし、二人が当に死んでいるという事実以外の情報が一切として脳に入ってこなかった。
『立派な。親だったぜぇ? 最後までお前の名を呼んでいたぁ。あんまりに切なくて、こっちが泣きそうだったぜ』
からかうような声が背後から響き、俺は怒りの形相で振り返った。
振り乱した髪が血に濡れて、紅く染まる。
そんな俺を見たデッドキャスパーは愉快そうに手を叩く。
『いいねぇ。その顔だぁ。……さぁて、お前には二つの選択肢があるぞぉ? 両親に救われた命を全うするため、大人しく鍛冶屋を続けるか。それとも、両親の仇を討つため剣をとるか。どうする!?』
その瞬間、俺の中で何かが弾ける。
「デッドキャスパーァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
俺は悲鳴にも似た怒声を上げて、デッドキャスパーに飛び掛かる。
飛び散る血しぶきと、はらりとズレ落ちるタオルケット。
そんなもの気にもならぬほどに、俺は激高し拳を握る。
金属相手にこんな小娘の拳が敵うはずが無い。
そんな分かり切ったことすら判断できぬほどに、俺は混乱していた。
『ふんっ!』
俺の拳が奴のバイザーに触れるかと思えたその瞬間、彼は俺の頬を思い切りぶった。
弾かれた俺は、そのまま壁に叩きつけられうめき声をあげる。
その場に崩れ落ちた俺に、デッドキャスパーは言った。
『どうするかはお前次第だぁ。これはチャンスでもあるぞ? よく考えろよ? お前が何者で、今、そして今後、どうすべきかをな』
そう言ってデッドキャスパーは踵を返す。
頬に走る痛みと、叩きつけられた背に走る激痛で視界が歪む。
俺は必死に奴へと手を伸ばす。
叫びたい。問いただしたい。
でも、同時にそうすることが出来ないほどに、俺は疲弊し絶望し、混乱していた。
すると、不意にデッドキャスパーは動きを止め、こちらに何か白い物体を投げてよこす。
バシャっと音を立てて、白い何かは俺の前に転がった。
血だまりに落下したソレを見て、俺は慌ててソレを拾い上げる。
「ピイっ!?」
ボロボロになった相棒は、微かに体を上下させ小さく「ピィ」と返事をする。
『心配するなぁ。死んではない』
コキリと首を鳴らし、奴は続ける。
『そのペット、大事にしろよ? ソイツ、真っ先にお前の両親を守るために襲い掛かって来たんだからなぁ』
デッドキャスパーはそう言って蒸気を吹かせると、ゆっくりと歩き去っていった。
奴の足音が遠のき、俺の家を出たのが分かる。
残された俺は、ピイを抱きしめ、その場でうな垂れた。
どうしてこうなった。
☆☆☆
翌朝、俺の街は大変な騒ぎになっていた。
俺の両親だけではなく、各所で冒険者や商人が殺されていたのである。
殺された人々は手の施しようのないほど残酷に殺されており、万能に等しい転生特典を持つアテラにすら治療不能とされるほどだった。
俺も最初はアテラに泣きすがったが、余りにも深刻な面持ちで首を振った彼を見て現実を受け止める他なかった。
どうしようもない後悔と、怒り。
ぶつけたところで帰らない命の尊さに、俺は涙をこぼした。
街に戻った時点で一度自宅には寄っている。
あの時にしっかりと確認しておけばよかった。
いや、確認したところで無意味だったかもしれないが、確認していればここまで後悔はしなかったかもしれない。
ピイと荷物の一式を置いて、ギルドに向かった自分が恨めしい。
もし、あそこで一度家族と話せていたら。
そう思うだけで胸が痛い。
だが、悔いたところで何かが変わるわけでは無い。
俺は涙を拭い、顔を上げた。
ピイについては一命をとりとめ、今は街の獣医のもとで経過を見てもらっている状況である。
家族を失い、相棒まで失っていたらと考えるとゾッとしない。
ピイが生きていたのは不幸中の幸いと言えるだろう。
俺は憲兵の調査が入っている自宅から出ると、ギルドへと向かった。
これからギルドでは、緊急集会が行われ今回の一件におけるギルドマスターの見解と方針が述べられる予定となっている。
俺の脳裏にはデッドキャスパーの言葉がこびりついていた。
――よく考えろよ? お前が何者で、今、そして今後、どうすべきかをな――
こんなのは挑発だ。そんなことは百も承知である。
どういうわけかは知らないが、奴は俺を戦わせたがっていた。
だが、何にせよ。
俺にはもう戦う以外の選択肢はない。
転生者は戦うために呼ばれたことが分かった以上、今後は本気で戦うことに意識を持って行かなくては生き残れないのだから。
もちろん。父の遺志を継ぐ意味でも店をたたむことはしない。
武具屋をやめるつもりもない。
しかし、それと同時に今後は転生者としての道を歩むと、俺は決意した。
道が定まった以上、逃げはしない。
俺は再び込みあがってくる涙をグッとこらえ、ギルドの門をくぐる。
ギルドのメインフロアは、いつもの倍以上の冒険者でごった返しているのにも関わらず、不気味なほど静かであった。
何人かの者は涙を流し、何人かはひどく複雑な表情を浮かべ、またある者達は怒りに体を震わせている。
フロアに踏むこむと、俺の存在に気が付いた冒険者たちの視線が一斉に俺に向けられた。
皆、両親の話を聞いたのだろう。
向けられた視線はどれも哀れみや、俺への慰めの感情がこもっている。
敢えて無感情でフロアの中央に進んだとき、フロアの奥からアテラとエリスが駆け寄って来た。
「リーナ……」
俺の名を呼ぶアテラの顔にはクマが出来ている。
昨日あれほどの激戦を行ったにもかかわらず、今朝の騒動で街中の救護にあたっていたのだろう。コイツのこういうところだけは尊敬できる。
アテラは俺に何か言おうとしているようだが、いい言葉が見つからないのか、ただ立ち尽くしている。
いつもなら「話しかけないで」と突き放してしまうところだが、今日ばかりは何も言えない。
俺は無言で糧の胸を軽く小突くと、小さく「ありがとう」とだけ呟いた。
その言葉を聞き、アテラは何とも言えないような複雑な表情で顔を上げる。
俺はエリスの方を見た。
「体は大丈夫なの? えっと……」
「あ、今はエリスよ。鏑木君は眠ってる。体の方は鏑木君が起きた時に、炎で修復してくれたから大丈夫みたい」
エリスはそう言って、控えめにほほ笑んだ。
そう言えば、確かに鏑木は「この身は炎」と言っていた。
今のエリスの口ぶりから察するに、体力さえ戻れば体を炎化して何回でも再生できたりでもするのだろうか。
便利だな。なんて思いつつ、俺も彼女につられて控えめにほほ笑んだ。
その時、フロアに凛とした透き通るような声が響く。
「皆、集まっているな」
皆の視線がギルドカウンターの方へと向けられる。
そこに立つギルドマスターは、酷く暗い表情で俺たちへ視線を配った。
「だいたいの話は聞いていると思う。今回の機獣事件に我々が介入したことを受け、ザイード商会から正式な戦布告が通達された。そのあいさつ代わりに今朝の事件だ」
そう言ってギリっと歯ぎしりした彼女は、胸の谷間から扇子を取り出し弄ぶ。
感情を落ち着けようとしているのだろうが、目が完全に怒りに燃えている。
マスターは続けた。
「もちろん我々は報復措置に出るわけだが、敵は極めて強大だ。油断するな。武装も雇っている傭兵も上級冒険者に匹敵するとすら言われている。機獣も出てくるだろう。あらかじめ言っておくが、作戦に参加する以上、無事は保証できん」
声のトーンを低くしたことで、グッとフロア内の空気が重くなる。
その空気を裂くようにして、彼女は扇子をビシリと突き出した。
彼女は声を張り上げる。
「しかしな、その程度で我々が屈してはならない! 冒険者とは危険を冒してこそ、その真価を発揮する。見せてやれ! 欲に駆られた金の亡者たちに! 命をなんとも思わず愚者たちに! 我々冒険者が何を背負って戦っているのかをその骨の髄に叩き込んでやれ!」
その瞬間、フロア内が冒険者たちの凄まじい怒号に包まれる。
「やってやる!」「ミドックスの仇討ちだ!」「クソ野郎どもに鉄槌を!」「そうだ! 俺たちならできる!」「やってやろうじゃねぇかぁああ!!」
口々に叫ぶ冒険者たちを見つめ、強く頷いたマスターは再び声を張り上げる。
「今夜出る! 集合はここに二十一時だ。覚悟のある者だけ来い。そして、アテラとエリス。お前らは作戦の軸となる。あとで私の部屋に来い。以上、解散だ! 各々準備にかかれ!」
☆☆☆
「本当にありがとうございました」
俺はそう言って、手の中に納まるピイをそっと撫でる。
ピイは気持ちよさそうに俺の手の中にうずくまり、小さく寝息を立てていた。
獣医は、俺の安堵した表情を見て小さく一礼する。
「まだ万全とは言えませんので、無理なことはさせないように気を付けてあげてくださいね」
医師の男性はそのように述べると、俺に薬の入った紙袋を手渡した。
俺はピイを上着のポケットにそっと入れると、紙袋を受け取り会釈する。
踵を返し、夕日の指す街道を歩く。
家に戻るのは気が引けたが、店と一体である以上戻らざるを得ない。
俺は込み上げる感情を押し殺し、歩みを進めた。
俺にとって家族というのは二つある。
一つは前世での家族。
そして、もう一つがここでの家族だ。
両方それぞれに優劣つけられないほどに愛していたが、やはり今を生きる世界での家族を失うというのはとても苦しいことだった。
逆に言えば、前世で残された俺の家族たちは俺の死で似たようなことを思っているのかもしれない。
そう考えると、自分のせいでなかったとしても家族より先に死したことは、極めて親不孝なことだったと思う。
親というものは時期はどうにせよ、いずれは子より先に旅立つ。
しかし、その逆は少なくはなくとも多いわけでは無い。
俺の苦しみは、確かにいつかは必ず巡ってくるものだった。
だが、だとしても、それは本来今では無い。
ましてや、このような形であっていいはずが無い。
俺は歯ぎしりする。
倒すべきは、デッドキャスパーか、はたまたローウェン・ザイードハウザーか。
いや、むしろその両方かもしれない。
たとえ指示であったとしてもデッドキャスパーは明らかに殺しを楽しんでいた。
元々の指示を出したローウェンにも怒りはあるが、やはり直接手を下したデッドキャスパーへの憎しみの方が強い。
怨恨で動くことが人から正常な判断を奪うことは分かっている。
分かっている。
分かってはいるが、それでも俺は動かずにはいられなかった。
帰宅した俺は、カウンターのクッションの上にピイを寝かせると工房に入る。
作業台の上にはガレット02がある。
改修構想は既に完成しているが、今からの時間でそれを完成させるのは難しい。
ならば、残された時間で出来るのは整備と、あるだけの装備を寄せ集めること。
最早出し惜しみもコストも関係ない。
ある限りの最高最善の装備で戦いに挑む。
魔法内包式のトラップも、弾丸も、ナイフも、使えるならば全てを使い切ってでも勝ちに行く。
今の俺にはそれしかできない。
特別な能力も強靭な身体も無い。ただの生娘一人。それでも、俺はこの身にある限りのエネルギーを使ってこの戦いに挑まねばならない。
そうしなければ、俺は先に進めない。
仮に戦わないまま結果的に安寧な未来が訪れたとしても、それは俺にとって後悔の人生だ。
例えその先が闇であっても、報われないものだとしても、運命に向き合わねば、俺はきっと後悔する。
俺を焚き付けるために奪われた両親の命だって、無駄になる。
ならば、せめてその運命に立ち向かおう。
戦おう。
俺は目を見開き、服を脱ぎ捨てる。
素早くアサシンの装束に身を包み、ガレット02をケースに入れて背に担ぐ。
あるだけの希少なトラップ装置やアイテムをポーチに詰め込み、俺はポニーテールを高い位置で結う。
準備は完了だ。
☆☆☆
『んで? 作戦はどうなんだぁ?』
デッドキャスパーの言葉に、ソファーで横になるローウェンは額に手を当てた。
「それよかよぉ。まぁ、いいんだけだどさぁ。わざわざ殺す必要はなかったろ……」
『でも、そうでもしなけりゃ。奴らは動かん。鬼気迫ってこその戦いってもんだろぉがよ』
デスクに腰掛けるデッドキャスパーは、そう言って蒸気を吹かす。
室内に錆びた鉄の匂いとオイルの匂いが充満する。
ローウェンは眉間にしわを寄せた。
彼としては「宣戦布告がてらに挑発して来い」とは言ったが、「不要なヘイトを買って来い」とは指示したつもりは無い。
不要なヘイトを買えば、今は何もなくとも後々面倒なことになる。
それに、ローウェン個人としても無意味な殺生は避けたいのが本音だ。
ローウェンは前世で、自身の両親を薬物中毒者に殺害されており、命を奪うことに対して大きな抵抗を持っている。
だからだろうか。未だに敵をどんなに痛めつけても、殺すことに踏み切れないことが多い。
逆に言えば、この世界で武器商人という「悪」に扮していても、その気持ちがあるから未だ完全に悪に染まり切れていない自分がいるのかもしれない。
肉親の死ほど大きな苦しみは無い。
それが自然的な死であったとしてもダメージは計り知れないのに、他殺となればその感情は留まるところを知らない。
あらかじめ釘をさしておくべきだった。
ローウェンは顔をしかめる。
あのリーナという娘は何としても手に入れなくてはならない。
それだけの価値がある。
故にこういった形での敵対は極力避けたかった。
奴が今回この戦場に来るとすれば、間違いなくそれは「復讐」だ。
リーナは別に大した能力も無ければ、商人として秀でた訳でもない。すべてほどほどだ。容姿については天下一品だが、そんなことはどうでもいい。
大事なのは奴の存在そのものに付与された「価値」なのである。
ゆくゆくは協力体制を築きたいと考えていたが、これでは少々難しくなりそうだ。
ローウェンは、首を捻る。
「俺の目的はあの小娘だけなんだよなー。ついでに邪魔なギルド支部潰せりゃ良かったくらいなんだよ。何で本気にさせたんだ。あんなに気を張られたら不意打ちも出来ねぇ。……つーか、窓開けろ。オイルくせぇ」
ローウェンの言葉に、デッドキャスパー『へいへい』といって窓を開ける。
『まぁ、確かに不意打ちで倒せば、娘も楽に手に入ったろうな。だがよぉ。今後のことを考えた上でも、そろそろ奴らには本気になってもらわんといかんだろうて』
「今後ねぇ……。俺は魔王との戦いは極力避けたいんだけどな」
ローウェンは面倒くさそうに、首をかく。
そんな彼を見て、デッドキャスパーは笑った。
『馬鹿なこと言うんじゃねぇよ。俺はお前に力を蓄えさせるために入れ知恵してやってんだよ。いずれは戦ってもらうぜ? そう言う約束だろ?』
「それもそうだがなー。つーか、いっつもはぐらかすが、どうしてそんなに戦わせたがる。世界の進化なんて、別にあんたの望むとこじゃないだろう」
すると、デッドキャスパーは天を仰ぐ。
『まぁ、別にこれと言った理由は無いんだが。考えてみろよ。魔王なんてものがいて、安心した暮らしが送れるか? 儀式云々じゃなくて、世界平和が一番だろぉ?』
わざとらしい仕草でおどけて見せるデッドキャスパー。
それを見てローウェンは、大きなため息をついた。
「ウソくせぇこと吐きやがる。別に言いたくねーならいいよ。アンタが協力してくれるうちは、精々稼がせてもらうからな」
諦めたようにそう呟いた彼を見て、デッドキャスパーは無言で蒸気を吐いた。
暫しの静寂。
外で鳥の鳴く声が聞こえる。
窓から吹き込むそよ風が心地よく、ローウェンは目を閉じる。
そこでデッドキャスパーが口を開く。
『そんで、作戦は? リーナは例外としても、転生者二人を相手するのは容易じゃぁねぇぞ? 先日の一戦でこちらの手もある程度割れてるだぜ? 相応の作戦がいるだろうに』
話が切り替わっていたせいでその話を忘れていた。
ローウェンは目を開けると、ゴロリと寝返りを打つ。
「あぁ、考えてるよ。って言っても、大した手じゃない。転生者以外に新型をぶつけて壊滅。転生者は誘導してお前が相手しな。困ったら俺が力を使う」
ローウェンの言葉に、デッドキャスパー嬉しそうに手のひらを合わせる。
『へぇ? 俺に遊ばせてくれるのか? それよかよぉ、力ってお前さん……自分の能力は冒険者向きじゃなかったといってた気がするが……、実はバリバリ先頭向き能力だったりするのか?』
すると、ローウェンはソファーから体を起こす。
「あぁ、本来バリバリの戦闘向きでな。だが、残念なことにソレはバケモノ向きじゃない。対人戦に特化したものだ」
冒険者とは本来バケモノを狩ることを生業とし、あくまで人を守ることを目的としている。
そのため、対人向けの能力が求められる仕事は限られるわけだ。
盗賊や悪商人といった正に自分たちがやっているようなことをする連中を狩ること以外は、本当に使い道がない。
仕事の数もごく僅かとなる。
その点で考えると、常に名声と実績がものを言う冒険者事業では、限定的な依頼をチョイスし続けることは名誉から遠のく行いだ。
対人向け能力が如何に強いところで大した成果はあげられない。
求められているのは、汎用性の高い能力だ。
しかし、あくまで自分は商人だ。相手するのは人間である。
そう考えれば、この力もうってつけの能力かもしれない。
ローウェンは、薄笑いを浮かべた。
「まぁ、連中も普段は個人業だ。軍でもなければ、兵団でもない。統率とれてる分、こっちの方が有利だ」
『へぇ。自信はアリか……』
「別に慢心するつもりは無いが、単純な作戦と物量で押せばどうとでもなる。一応奥の手もいくつか用意はあるしな」
そう言ってローウェンはゆっくりと立ち上がり、窓際へと歩いていく。
窓から差し込む目が痛くなるような夕日の輝きに、彼は目を細める。
「今夜あたりなんじゃねぇの?」
マスターへの連絡を終えて帰宅した俺は、ブーツを脱ぐとポニーテールを結うシュシュをほどく。
フワッと下ろされたロングヘアーとともに、蒸れた甘い香りが広がる。
家族からの返事は無く、俺は小さくため息をついた。
時刻は二十三時を回っており、両親は寝てしまったのだろう。
俺は適当に入浴を済ませると、そのまま自室のベッドに倒れ込む。
服を着る元気もない。
夕食を口にする気力もない。
そう思えるほどに今日の出来事は、濃厚だった。
体に巻いていたタオルを投げだし、生乾きの髪を振り乱した俺は、勢いよく枕に顔をうずめる。
開け放ったままの窓から吹き込む風が、俺の肌を撫でる。
――自分の仕事に集中しろ――
マスターは、あのように言ったが、俺は正直なところ分からなくなっていた。
確かに俺の仕事は、武具屋としての鍛冶商売業である。
それはこの世界を生きていくと決めたが故の現実的指針であり、仕事というよりもなるべくしてなったという方が正しい。
だが、もし本当にすべき使命があるのだとしたら――。
脳裏にデッドキャスパーとゼロフィリップの言葉が巡る。
――転生者諸君――
――もう少しじっくりと話がしたいものだ――
――今後、会敵する機会も増えるだろう――
どの発言も、俺を転生者として意識した発言だ。それに最後の発言に至っては、今後も俺が戦場を駆けることを予言しているかの様にすら聞こえる。
わざわざ戦わない道を選んで生きてきたというのに、今更どうしろというのだ。
一体転生者とは何なのだ。
俺はより強く枕に顔を押し付ける。
今までまるで疑問を持たなかったことに、自分でも不思議になる。
よく「なろう」産のライトノベルやアニメーションでは、当たり前のように転生者が描かれる。
その多くは偶然であったり、誰かの差し金であったりと転生転移状況は多種多様。
当然の様に俺もその状況を知ることになると思っていたが、十六年も何もないと「偶然」であったのだと思っても仕方ないことだ。
だが、考えてみれば、世の中に偶然などほとんどないだろう。
アニメ麻痺とでも言うべきか。
偶然という言葉を軽く見過ぎていた。
考えてみれば、輪廻転生など極めて不思議な体験なのである。
そもそもとして、その状況に疑問を持つべきだった。
ましてや、偶然が重なって三人も転生者が集まるなど、奇妙な話である。
ここで何が起きているのだろう。
転生者知る存在。集う転生者。不可解な偶然の連鎖。
そして、何よりもそれらが今の時期に一斉に来たということ。
出来過ぎている。
まるでこのタイミングを計っていたかのような――。
『随分と、難儀しているようじゃぁないかぁ』
!?
突然の声に俺は慌ててタオルケットで体を隠し、飛び起きる。
身を強張らせる俺が視線を配ると、窓枠に腰掛ける人影が一つ。
「デッドキャスパー……」
俺の言葉に窓枠に腰掛けたデッドキャスパーは『よぉ』と片手をあげる。
『お邪魔してるぜぇ?』
そう言ってデッドキャスパーは、紅く錆びた装甲の隙間から静かに蒸気を吹く。
外部装甲は先刻と同様のモノだったが、その隙間から見える下地のスーツは真新しく、先ほど破壊されたモノとは別物に見えた。
「乙女の裸を覗き見とは趣味が悪いね。何しに来たの?」
露骨なまでに敵意をむき出し、俺はデッドキャスパーを睨む。
デッドキャスパーは笑う。
『そう。かっかするなよぉ。俺は、お前さんが聞きたいことを話に来ただけだよ』
「聞きたいこと?」
『そうさぁ。今悩んでたろ? そう言うことをわざわざ答えに来てやったんだ』
「なら、店頭からキチンと入って来なさいよ」
『それじゃぁ、エンターテインメント性に欠ける。悪者は悪者らしく振舞う主義なんでね』
デッドキャスパーはそう言って、首をかしげる。
彼のバイザーには月明かりが反射し、怪しく煌く。
「悪者の自覚があるなら、話すことだけ話して帰ってもらえないかしら?」
俺は胸の前でタオルを抱きしめるようにして、グッと体を強張らせる。
デッドキャスパーは首を振った。
『まぁ、そう焦るなよ。一つずつ話していこうじゃないか』
そう言ってデッドキャスパーは何処からか一冊の本を取り出すと、俺の方に投げてよこす。
ベッドの上に落ちた本の表紙には、古代の文字で「七英雄と魔王」と書かれている。
「これは?」
『グリスゲレムと呼ばれる書物でなぁ。転生者の記載がある唯一の古文書だ』
俺は恐る恐る本へと手を伸ばす。
すると、デッドキャスパーは言った。
『ソイツは後で読め。くれてやる。今はまぁ、聞いておけよ』
そう言って彼は、欠伸をするような仕草を見せる。
『その本によれば、この世界にはある大きな儀式が存在する。それが数百年に一度自動的に発動する「転生者召喚の儀式」だぁ』
それを聞いて俺は目を見開いた。
やはり偶然では無かったと。
俺の反応を確認し、デッドキャスパーは満足そうに軽く頷く。
『その転生者召喚の儀式だが、俺の調べた限りだいたい二百年周期くらいで回ってくるらしく、その目的は「世界の進化」なんだとさ』
俺は眉間の皺を寄せた。
「世界の進化?」
『そう。世界の進化だ。転生者というのは一度に八人召喚される。召喚された八つの魂はそれぞれの場所で新しい命として誕生し成長する』
言葉を続けるデッドキャスパーは天の月に手をかざす。
『そして、育った八つの魂は、七つの勇者と一の魔王となる。七つの光と一の闇がぶつかり合うことで、世界はその膨大なエネルギーを得て進化するという』
そこで言葉を切ったデッドキャスパーは、ゆっくりと顔をこちらに向けた。
バイザーの奥に灯る赤いランプが怪しく輝き、俺は息をのむ。
『それでお前がその一人。……というわけだぁ』
なるほど。
俺はだいたいの事情を把握し、苦笑いを浮かべた。
世界の進化のために呼ばれた八人の転生者。七つの光と一の闇はぶつかることで、儀式が成立する。
どおりで都合よく三人も転生者が集まるわけだ。
おそらくだが、コイツらが糸を引く云々以前に元々俺たちは引き合う運命にあったのかもしれない。
だが、それがわかったとしても一つ気になることが残る。
俺は問うた。
「アンタらは何が目的なの?」
確かに、世界を進化させる転生者の存在は、世界の行く末という部分では大きなカギを握る。
だが、商売人としての顔を持つコイツらがソレを糸引く理由が分からない。
俺たちを切り離し「進化」を遅らせることで、現環境の需要供給を独占化するなら納得できる。
しかし、これまでの動向を見た限りだと、連中はむしろ俺たちが巡り合うことを望んでいるかのように思えた。
何故だ?
デッドキャスパーはとぼけるようなジェスチャーをとる。
『何が目的? 勘違いするなよ。俺はあくまで偶然お前らの存在を知り、興味を持ったに過ぎない。それはウチのボスも同じだ。お前らどうしようと知ったことじゃぁない。こっちはビジネスだ。儲けるために働き、邪魔する奴がいれば叩く。それだけの話よぉ』
嘘だ。
俺は直感的にそう感じ、目を細めた。
それっぽい理屈を述べてはいるが、どうもコイツからは邪悪な匂いがする。
「へぇ。じゃぁ。どうしてわざわざ焚き付けるような話題をわざわざ提供しに来たのかしら?」
俺の言葉に、デッドキャスパーは暫し無言になった。
考えているのかと思いきや、彼は不思議そうに肩をすくめる。
『さぁ、なんでだろうなぁ? 俺も歴史の奇跡にあてられて気でも触れたかな? もともと今日ここに来たのは、別の理由があってのことだぁ。この話はそのついでさ。それになんだぁ? 可愛いお嬢さんが心痛しているのは放っておけない主義でねぇ?』
そう言って、彼は俺の全身を舐めるように見回していく。
俺は性的恐怖心では無く、生物的恐怖を覚え、身を強張らせた。
「……あくまでしらばっくれるのね。どうして私が転生者って知ってるのかとか、いろいろ聞きたいところだけれど。それより、その別の目的って何?」
単刀直入にそう問うた俺に対し、デッドキャスパーは懐から何かを取り出して床に投げた。
ゴトリ
鈍い音を立てて床に転がったソレは、ゆっくりと俺の近くまで転がってくる。
それを見た瞬間、俺は全身から血の気が引いてしまう。
腕だ。
それも二本。
息をのむ俺に対し、デッドキャスパーは言った。
『ボスには宣戦布告をして来いと言われててなぁ。ボスはお前にご執心でね。近いうちに強制捜査に来るんだろうと踏み、どうせならお前とも拳を交えたいとか言ってたぜぇ』
デッドキャスパーの言葉が耳に届かない。
俺の意識は、目の前の二本の腕に釘付けにされていた。
腕は色黒の太くたくましいものと、白く細いもの。
いずれもよく見慣れたものに似ている。
俺は恐る恐る。
その腕の指へと視線を移した。
!
主無き腕の指には、双方共通している点がある。
その薬指に銀の指輪がはめられているという点だった。
俺はタオルケットを巻き、部屋から飛び出した。
階段を駆け下り、両親の寝室へと走る。
「お父さん!? お母さん!?」
突き破る様にして開け放った扉。
そこに広がる光景を見て、俺はその場に立ち尽くした。
赫あか。
ただただ赤いその空間には、粉砕したベッドの破片と散乱する家具が散乱していた。
そして、その中央には、かろうじて姿を留めた大小二つの肉塊が転がっている。
俺はワナワナと震える足で、寄り添う様にして転がっている二つの肉塊へと近づいていく。
それは紛れもなく、俺の両親だった。
「あぁ……あ、あぁ……」
血だまりの中で膝をついた俺は、ピクリとも動かない二人の頭をそっと抱きしめた。
突然の出来事に涙すら出ない。
見開かれた俺の瞳は動揺に震え、全身は絶望のあまり痙攣する。
「どう……して?」
理解が追いつかない。何が起きたのか。
思考が正常に働かず、俺は今起きたことを必死に整理する。
しかし、二人が当に死んでいるという事実以外の情報が一切として脳に入ってこなかった。
『立派な。親だったぜぇ? 最後までお前の名を呼んでいたぁ。あんまりに切なくて、こっちが泣きそうだったぜ』
からかうような声が背後から響き、俺は怒りの形相で振り返った。
振り乱した髪が血に濡れて、紅く染まる。
そんな俺を見たデッドキャスパーは愉快そうに手を叩く。
『いいねぇ。その顔だぁ。……さぁて、お前には二つの選択肢があるぞぉ? 両親に救われた命を全うするため、大人しく鍛冶屋を続けるか。それとも、両親の仇を討つため剣をとるか。どうする!?』
その瞬間、俺の中で何かが弾ける。
「デッドキャスパーァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
俺は悲鳴にも似た怒声を上げて、デッドキャスパーに飛び掛かる。
飛び散る血しぶきと、はらりとズレ落ちるタオルケット。
そんなもの気にもならぬほどに、俺は激高し拳を握る。
金属相手にこんな小娘の拳が敵うはずが無い。
そんな分かり切ったことすら判断できぬほどに、俺は混乱していた。
『ふんっ!』
俺の拳が奴のバイザーに触れるかと思えたその瞬間、彼は俺の頬を思い切りぶった。
弾かれた俺は、そのまま壁に叩きつけられうめき声をあげる。
その場に崩れ落ちた俺に、デッドキャスパーは言った。
『どうするかはお前次第だぁ。これはチャンスでもあるぞ? よく考えろよ? お前が何者で、今、そして今後、どうすべきかをな』
そう言ってデッドキャスパーは踵を返す。
頬に走る痛みと、叩きつけられた背に走る激痛で視界が歪む。
俺は必死に奴へと手を伸ばす。
叫びたい。問いただしたい。
でも、同時にそうすることが出来ないほどに、俺は疲弊し絶望し、混乱していた。
すると、不意にデッドキャスパーは動きを止め、こちらに何か白い物体を投げてよこす。
バシャっと音を立てて、白い何かは俺の前に転がった。
血だまりに落下したソレを見て、俺は慌ててソレを拾い上げる。
「ピイっ!?」
ボロボロになった相棒は、微かに体を上下させ小さく「ピィ」と返事をする。
『心配するなぁ。死んではない』
コキリと首を鳴らし、奴は続ける。
『そのペット、大事にしろよ? ソイツ、真っ先にお前の両親を守るために襲い掛かって来たんだからなぁ』
デッドキャスパーはそう言って蒸気を吹かせると、ゆっくりと歩き去っていった。
奴の足音が遠のき、俺の家を出たのが分かる。
残された俺は、ピイを抱きしめ、その場でうな垂れた。
どうしてこうなった。
☆☆☆
翌朝、俺の街は大変な騒ぎになっていた。
俺の両親だけではなく、各所で冒険者や商人が殺されていたのである。
殺された人々は手の施しようのないほど残酷に殺されており、万能に等しい転生特典を持つアテラにすら治療不能とされるほどだった。
俺も最初はアテラに泣きすがったが、余りにも深刻な面持ちで首を振った彼を見て現実を受け止める他なかった。
どうしようもない後悔と、怒り。
ぶつけたところで帰らない命の尊さに、俺は涙をこぼした。
街に戻った時点で一度自宅には寄っている。
あの時にしっかりと確認しておけばよかった。
いや、確認したところで無意味だったかもしれないが、確認していればここまで後悔はしなかったかもしれない。
ピイと荷物の一式を置いて、ギルドに向かった自分が恨めしい。
もし、あそこで一度家族と話せていたら。
そう思うだけで胸が痛い。
だが、悔いたところで何かが変わるわけでは無い。
俺は涙を拭い、顔を上げた。
ピイについては一命をとりとめ、今は街の獣医のもとで経過を見てもらっている状況である。
家族を失い、相棒まで失っていたらと考えるとゾッとしない。
ピイが生きていたのは不幸中の幸いと言えるだろう。
俺は憲兵の調査が入っている自宅から出ると、ギルドへと向かった。
これからギルドでは、緊急集会が行われ今回の一件におけるギルドマスターの見解と方針が述べられる予定となっている。
俺の脳裏にはデッドキャスパーの言葉がこびりついていた。
――よく考えろよ? お前が何者で、今、そして今後、どうすべきかをな――
こんなのは挑発だ。そんなことは百も承知である。
どういうわけかは知らないが、奴は俺を戦わせたがっていた。
だが、何にせよ。
俺にはもう戦う以外の選択肢はない。
転生者は戦うために呼ばれたことが分かった以上、今後は本気で戦うことに意識を持って行かなくては生き残れないのだから。
もちろん。父の遺志を継ぐ意味でも店をたたむことはしない。
武具屋をやめるつもりもない。
しかし、それと同時に今後は転生者としての道を歩むと、俺は決意した。
道が定まった以上、逃げはしない。
俺は再び込みあがってくる涙をグッとこらえ、ギルドの門をくぐる。
ギルドのメインフロアは、いつもの倍以上の冒険者でごった返しているのにも関わらず、不気味なほど静かであった。
何人かの者は涙を流し、何人かはひどく複雑な表情を浮かべ、またある者達は怒りに体を震わせている。
フロアに踏むこむと、俺の存在に気が付いた冒険者たちの視線が一斉に俺に向けられた。
皆、両親の話を聞いたのだろう。
向けられた視線はどれも哀れみや、俺への慰めの感情がこもっている。
敢えて無感情でフロアの中央に進んだとき、フロアの奥からアテラとエリスが駆け寄って来た。
「リーナ……」
俺の名を呼ぶアテラの顔にはクマが出来ている。
昨日あれほどの激戦を行ったにもかかわらず、今朝の騒動で街中の救護にあたっていたのだろう。コイツのこういうところだけは尊敬できる。
アテラは俺に何か言おうとしているようだが、いい言葉が見つからないのか、ただ立ち尽くしている。
いつもなら「話しかけないで」と突き放してしまうところだが、今日ばかりは何も言えない。
俺は無言で糧の胸を軽く小突くと、小さく「ありがとう」とだけ呟いた。
その言葉を聞き、アテラは何とも言えないような複雑な表情で顔を上げる。
俺はエリスの方を見た。
「体は大丈夫なの? えっと……」
「あ、今はエリスよ。鏑木君は眠ってる。体の方は鏑木君が起きた時に、炎で修復してくれたから大丈夫みたい」
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その時、フロアに凛とした透き通るような声が響く。
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そこに立つギルドマスターは、酷く暗い表情で俺たちへ視線を配った。
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そう言ってギリっと歯ぎしりした彼女は、胸の谷間から扇子を取り出し弄ぶ。
感情を落ち着けようとしているのだろうが、目が完全に怒りに燃えている。
マスターは続けた。
「もちろん我々は報復措置に出るわけだが、敵は極めて強大だ。油断するな。武装も雇っている傭兵も上級冒険者に匹敵するとすら言われている。機獣も出てくるだろう。あらかじめ言っておくが、作戦に参加する以上、無事は保証できん」
声のトーンを低くしたことで、グッとフロア内の空気が重くなる。
その空気を裂くようにして、彼女は扇子をビシリと突き出した。
彼女は声を張り上げる。
「しかしな、その程度で我々が屈してはならない! 冒険者とは危険を冒してこそ、その真価を発揮する。見せてやれ! 欲に駆られた金の亡者たちに! 命をなんとも思わず愚者たちに! 我々冒険者が何を背負って戦っているのかをその骨の髄に叩き込んでやれ!」
その瞬間、フロア内が冒険者たちの凄まじい怒号に包まれる。
「やってやる!」「ミドックスの仇討ちだ!」「クソ野郎どもに鉄槌を!」「そうだ! 俺たちならできる!」「やってやろうじゃねぇかぁああ!!」
口々に叫ぶ冒険者たちを見つめ、強く頷いたマスターは再び声を張り上げる。
「今夜出る! 集合はここに二十一時だ。覚悟のある者だけ来い。そして、アテラとエリス。お前らは作戦の軸となる。あとで私の部屋に来い。以上、解散だ! 各々準備にかかれ!」
☆☆☆
「本当にありがとうございました」
俺はそう言って、手の中に納まるピイをそっと撫でる。
ピイは気持ちよさそうに俺の手の中にうずくまり、小さく寝息を立てていた。
獣医は、俺の安堵した表情を見て小さく一礼する。
「まだ万全とは言えませんので、無理なことはさせないように気を付けてあげてくださいね」
医師の男性はそのように述べると、俺に薬の入った紙袋を手渡した。
俺はピイを上着のポケットにそっと入れると、紙袋を受け取り会釈する。
踵を返し、夕日の指す街道を歩く。
家に戻るのは気が引けたが、店と一体である以上戻らざるを得ない。
俺は込み上げる感情を押し殺し、歩みを進めた。
俺にとって家族というのは二つある。
一つは前世での家族。
そして、もう一つがここでの家族だ。
両方それぞれに優劣つけられないほどに愛していたが、やはり今を生きる世界での家族を失うというのはとても苦しいことだった。
逆に言えば、前世で残された俺の家族たちは俺の死で似たようなことを思っているのかもしれない。
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俺は歯ぎしりする。
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たとえ指示であったとしてもデッドキャスパーは明らかに殺しを楽しんでいた。
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怨恨で動くことが人から正常な判断を奪うことは分かっている。
分かっている。
分かってはいるが、それでも俺は動かずにはいられなかった。
帰宅した俺は、カウンターのクッションの上にピイを寝かせると工房に入る。
作業台の上にはガレット02がある。
改修構想は既に完成しているが、今からの時間でそれを完成させるのは難しい。
ならば、残された時間で出来るのは整備と、あるだけの装備を寄せ集めること。
最早出し惜しみもコストも関係ない。
ある限りの最高最善の装備で戦いに挑む。
魔法内包式のトラップも、弾丸も、ナイフも、使えるならば全てを使い切ってでも勝ちに行く。
今の俺にはそれしかできない。
特別な能力も強靭な身体も無い。ただの生娘一人。それでも、俺はこの身にある限りのエネルギーを使ってこの戦いに挑まねばならない。
そうしなければ、俺は先に進めない。
仮に戦わないまま結果的に安寧な未来が訪れたとしても、それは俺にとって後悔の人生だ。
例えその先が闇であっても、報われないものだとしても、運命に向き合わねば、俺はきっと後悔する。
俺を焚き付けるために奪われた両親の命だって、無駄になる。
ならば、せめてその運命に立ち向かおう。
戦おう。
俺は目を見開き、服を脱ぎ捨てる。
素早くアサシンの装束に身を包み、ガレット02をケースに入れて背に担ぐ。
あるだけの希少なトラップ装置やアイテムをポーチに詰め込み、俺はポニーテールを高い位置で結う。
準備は完了だ。
☆☆☆
『んで? 作戦はどうなんだぁ?』
デッドキャスパーの言葉に、ソファーで横になるローウェンは額に手を当てた。
「それよかよぉ。まぁ、いいんだけだどさぁ。わざわざ殺す必要はなかったろ……」
『でも、そうでもしなけりゃ。奴らは動かん。鬼気迫ってこその戦いってもんだろぉがよ』
デスクに腰掛けるデッドキャスパーは、そう言って蒸気を吹かす。
室内に錆びた鉄の匂いとオイルの匂いが充満する。
ローウェンは眉間にしわを寄せた。
彼としては「宣戦布告がてらに挑発して来い」とは言ったが、「不要なヘイトを買って来い」とは指示したつもりは無い。
不要なヘイトを買えば、今は何もなくとも後々面倒なことになる。
それに、ローウェン個人としても無意味な殺生は避けたいのが本音だ。
ローウェンは前世で、自身の両親を薬物中毒者に殺害されており、命を奪うことに対して大きな抵抗を持っている。
だからだろうか。未だに敵をどんなに痛めつけても、殺すことに踏み切れないことが多い。
逆に言えば、この世界で武器商人という「悪」に扮していても、その気持ちがあるから未だ完全に悪に染まり切れていない自分がいるのかもしれない。
肉親の死ほど大きな苦しみは無い。
それが自然的な死であったとしてもダメージは計り知れないのに、他殺となればその感情は留まるところを知らない。
あらかじめ釘をさしておくべきだった。
ローウェンは顔をしかめる。
あのリーナという娘は何としても手に入れなくてはならない。
それだけの価値がある。
故にこういった形での敵対は極力避けたかった。
奴が今回この戦場に来るとすれば、間違いなくそれは「復讐」だ。
リーナは別に大した能力も無ければ、商人として秀でた訳でもない。すべてほどほどだ。容姿については天下一品だが、そんなことはどうでもいい。
大事なのは奴の存在そのものに付与された「価値」なのである。
ゆくゆくは協力体制を築きたいと考えていたが、これでは少々難しくなりそうだ。
ローウェンは、首を捻る。
「俺の目的はあの小娘だけなんだよなー。ついでに邪魔なギルド支部潰せりゃ良かったくらいなんだよ。何で本気にさせたんだ。あんなに気を張られたら不意打ちも出来ねぇ。……つーか、窓開けろ。オイルくせぇ」
ローウェンの言葉に、デッドキャスパー『へいへい』といって窓を開ける。
『まぁ、確かに不意打ちで倒せば、娘も楽に手に入ったろうな。だがよぉ。今後のことを考えた上でも、そろそろ奴らには本気になってもらわんといかんだろうて』
「今後ねぇ……。俺は魔王との戦いは極力避けたいんだけどな」
ローウェンは面倒くさそうに、首をかく。
そんな彼を見て、デッドキャスパーは笑った。
『馬鹿なこと言うんじゃねぇよ。俺はお前に力を蓄えさせるために入れ知恵してやってんだよ。いずれは戦ってもらうぜ? そう言う約束だろ?』
「それもそうだがなー。つーか、いっつもはぐらかすが、どうしてそんなに戦わせたがる。世界の進化なんて、別にあんたの望むとこじゃないだろう」
すると、デッドキャスパーは天を仰ぐ。
『まぁ、別にこれと言った理由は無いんだが。考えてみろよ。魔王なんてものがいて、安心した暮らしが送れるか? 儀式云々じゃなくて、世界平和が一番だろぉ?』
わざとらしい仕草でおどけて見せるデッドキャスパー。
それを見てローウェンは、大きなため息をついた。
「ウソくせぇこと吐きやがる。別に言いたくねーならいいよ。アンタが協力してくれるうちは、精々稼がせてもらうからな」
諦めたようにそう呟いた彼を見て、デッドキャスパーは無言で蒸気を吐いた。
暫しの静寂。
外で鳥の鳴く声が聞こえる。
窓から吹き込むそよ風が心地よく、ローウェンは目を閉じる。
そこでデッドキャスパーが口を開く。
『そんで、作戦は? リーナは例外としても、転生者二人を相手するのは容易じゃぁねぇぞ? 先日の一戦でこちらの手もある程度割れてるだぜ? 相応の作戦がいるだろうに』
話が切り替わっていたせいでその話を忘れていた。
ローウェンは目を開けると、ゴロリと寝返りを打つ。
「あぁ、考えてるよ。って言っても、大した手じゃない。転生者以外に新型をぶつけて壊滅。転生者は誘導してお前が相手しな。困ったら俺が力を使う」
ローウェンの言葉に、デッドキャスパー嬉しそうに手のひらを合わせる。
『へぇ? 俺に遊ばせてくれるのか? それよかよぉ、力ってお前さん……自分の能力は冒険者向きじゃなかったといってた気がするが……、実はバリバリ先頭向き能力だったりするのか?』
すると、ローウェンはソファーから体を起こす。
「あぁ、本来バリバリの戦闘向きでな。だが、残念なことにソレはバケモノ向きじゃない。対人戦に特化したものだ」
冒険者とは本来バケモノを狩ることを生業とし、あくまで人を守ることを目的としている。
そのため、対人向けの能力が求められる仕事は限られるわけだ。
盗賊や悪商人といった正に自分たちがやっているようなことをする連中を狩ること以外は、本当に使い道がない。
仕事の数もごく僅かとなる。
その点で考えると、常に名声と実績がものを言う冒険者事業では、限定的な依頼をチョイスし続けることは名誉から遠のく行いだ。
対人向け能力が如何に強いところで大した成果はあげられない。
求められているのは、汎用性の高い能力だ。
しかし、あくまで自分は商人だ。相手するのは人間である。
そう考えれば、この力もうってつけの能力かもしれない。
ローウェンは、薄笑いを浮かべた。
「まぁ、連中も普段は個人業だ。軍でもなければ、兵団でもない。統率とれてる分、こっちの方が有利だ」
『へぇ。自信はアリか……』
「別に慢心するつもりは無いが、単純な作戦と物量で押せばどうとでもなる。一応奥の手もいくつか用意はあるしな」
そう言ってローウェンはゆっくりと立ち上がり、窓際へと歩いていく。
窓から差し込む目が痛くなるような夕日の輝きに、彼は目を細める。
「今夜あたりなんじゃねぇの?」
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この作品は「小説家になろう様 カクヨム様」にも掲載しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
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【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
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自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
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これではまともな生活ができない。
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