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62.変化

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その後、無事にシアと合流を果たした俺は、いつものメンバーが再び集まりお茶を楽しんだ。
シアと合流した際に、なんとシアの弟も一緒にいた。次代のオーウェンス公爵になる子かとジッと見てしまい、恥ずかしそうにシアの後ろに隠れてしまった。クリスティンと名乗ったシアの弟は11歳だそうだ。少々内気で困ってるらしい。

ジョセフは少し離れた、でも見える場所でお兄様とメイヴィスと共に挨拶に来る連中を捌いていた。
さっきミシェル嬢の件もあるからか心配してくれるのはうれしいけど、ホント俺の周りって過保護多いよね。

因みに公爵令嬢で婚約者のいないシアにも子息が群がってきたがすべて笑顔で遠ざけていた。
やたらとご機嫌だったから、想い人に会えたんだろうな。


その後は大したこともなくお茶会は終わりを告げた。





お茶会から数日経ち、休暇も残すところ数日となった。

宿題もなく、時間を持て余した俺はシアに教えてもらった刺繍をしていた。
この刺繍も令嬢としての嗜みらしく、嫁に行くまでにはマスターしておくようにと、休暇の始まりで教えてもらっていたのだ。
アンジェリカは多少できたようで、出来なくはないけど上手いわけでもなく、実家に帰ってからはお母様に暇さえあれば教わるという状態だった。

やりたくないけど料理裁縫は花嫁修業だと前世で聞いたこともある。料理はともかく、刺繍はできて当たり前らしいので、ちょいちょい練習してるという状況だ。

ある程度縫ってから見てみると、歪な花らしきものが並んでいて、項垂れる。

「刺繍なんて嫌いだ~…」

テーブルに放り投げて不貞腐れてソファーに寝転ぶ。
ため息をついて天井を見上げていると、ノックが響いて、慌てて起き上がる。
返事をすると、リーチェが入ってきた。

「お嬢様、ご来客です」
「来客?今日は予定には入ってなかったはずでは?」
「はい。元々はエリック様のご来客でしたが、ジョセフィード殿下もいらっしゃるので、お嬢様もご同席して欲しいと…」
「ジョセフ!?じゃあ服も着替えないと!こんな部屋着じゃだめ!髪もぐちゃぐちゃだし!ナタリー!ナタリーはどこですかー!?」
「お呼びですかお嬢様?」

慌ててナタリーが部屋にやってくる。ワタワタしてる俺の代わりにリーチェが説明してすぐに二人して余所行きのドレスを出して来てくれて、セットもしてくれる。時間がないので凝った髪型はできなかったが髪飾りで可愛くしてくれた。

準備してもらってる間に俺も落ち着きを取り戻したが、なんで俺、慌てて着飾ってるの?女子かよ!
あ、今は女子でした。鏡を見て現実を思い出し項垂れる。動くなと怒られた。今、打ち拉がれてるから優しくしてベアトリーチェさん。

薄く化粧を施してもらってるのを鏡越しに見ながら、俺は自分の心の変化に戸惑っていた。
俺はずっと心は男だと思っていたのに…いや、今でも男だと思ってるのに、時々、自分がまるで女のような思考になる。
そりゃあ今は女だけど……それでも最初はもっと男としての感情が大きかったはずだ。
なのにいつの間にか、最初から女だったような思考になってる。
これはアンジェリカの感情が表に出てるということだろうか…それとも心が体に合わせようとしてるのだろうか…



―――もしアンジェリカが表に出てきたらおれはどうなるのだろう―――


ぎゅっと唇を噛み締める。
そんな俺に気付いた二人が心配そうに俺の顔を覗き込んできて、心配させまいと慌てて「大丈夫」と微笑んだ。

「殿下を待たせるわけにはいかない。2人とも準備ありがとう、行ってくるね!」

明るい声を出して笑顔で部屋を飛び出す。
背中に二人の心配そうな声が聞こえてきたが振り向かずドアを閉めた。
場所は聞いていないが、たぶん客間だろうと歩き出す。

もしも…アンジェリカに戻って俺の意思が消えたら…ジョセフは俺から離れて行ってしまうだろうか…

答えの出ない不安を抱えたまま、客間についてノックをする。
すぐにお兄様の返事が聞こえ、そっとドアを開けた。淑女の礼を取って中に入ると、思いがけない人がそこにはいた。

「お久しぶりでございますアンジェリカ様」

立ち上がり礼を返し、顔をあげると空色の髪が揺れ同じ色の瞳が優し気に俺を見た。

「なんでここに……」

唖然と見る俺に、してやったりとお兄様とジョセフが微笑んでいた。




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