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53.人の事は言えませんよ!

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コンコンとノックの音が響いて、ピッと背筋が伸びる。動揺してることが悟られないよう、極力お淑やかに返事をする。

「失礼します」と一声してから扉が開き礼をして入ってきたのはリーチェだった。

「なんだ……リーチェかぁ……」
「なんだとは何ですか。お嬢様?何時なんどき誰が来るか分からないのですから、気を抜いてはいけませんよ」
「わかってますぅ~」

ぐったり机に突っ伏しながら答える。
今の俺は少々センチメタルなのだ。許してほしい。
リーチェは「まったく……」と溜め息をついたが、それ以上は何も言わなかった。

持っていたお盆をテーブルに置くと、俺の横に合ったカップを片付け、お盆に乗っていた新しいお茶を淹れてくれた。
ふんわり立ち込める薫りに少し癒され、ホッとした。

宿題が全部終わったことを伝えると誉めてくれた。
男だったことは言えなくっても、半分知ってるリーチェは俺にとって信頼できる女性ひとだ。
だからこそ、今さら男だったなんて言い出せないんだけどさ。
使ったカップを片付ける為に部屋を出ていくリーチェの後ろ姿を見ながら、俺は再び溜め息をついた。




夜、お父様達が早く帰ってこれたので、久しぶりに四人揃っての食事になった。明後日には王都に戻る俺達と過ごすために明日と明後日は休みを取ってくれたらしい。
一緒に食事制限が嬉しいのか、上機嫌でお酒を煽るお父様を飲み過ぎと諌めてはいるがお母様も嬉しそうでニコニコしてる。


「それにしてもアンジェ、貴女だいぶ落ち着いたわね。やっぱり色んな方に接して大人になったのかしら?」

食後、皆でお茶を飲んでいたらお母様が急に話を振ってきた。黙ってたのはボロを出さないためだったのだが……逆にヤバかったのかもしれない。

にっこり微笑んで、慌てて誤魔化す。

「当然ですお母様!私は王太子の妃になるんですから、日々成長しているのですわ!」
「偉いぞアンジェ!流石は私の娘だ!」

お父様が感動して立ち上がった。目がウルウルしてるのを見て引きかけたが、笑顔をキープした。若干ひきつっていたけど、許してほしい。
お兄様、呆れた顔してるけど普段のお兄様も対して変わんないからなと半目で見たら、苦笑された。
あの親にしてこの子ありとはこの事だ。

お父様が王様の信頼を得ていると聞いたけど……そうは見えないよなー。ただの親バカじゃないか。

「明後日帰ってしまうと、二人とは年末までまた会えないのね……それが数年続くのは寂しいわ」
「え?来年はお兄様が帰ってくるのでは?」

お兄様は後、半年ちょっとで学院を卒業するはずだ。俺は2年半ほどだけどさ………と思ってたら、お兄様はくすりと微笑んだ。

「ふふ、学院は確かに来年卒業だけど、その後は騎士学校に入るからね……そこで1年みっちり教え込まれ、2年の兵役につく事になるんだ。騎士学校は年末年始ぐらいは帰れるだろうけど、そのあとの2年間は学生の間とは違って中々帰ることは出来なくなるからね」
「じゃあ……お兄様が何時も素振りをしてたのは……」
「僕と殿下は騎士科だからね、鍛錬を怠るわけにはいかないから。まあ、知ってるとは思うけど、3年になれば、騎士科、普通科、2つの学科に別れちゃうけど、女性は騎士にはなれないから、アンジェは、普通科になるね」
「でも学科が2つに別れてしまうのにそれぞれに3クラスも別れてるのですか?」

確かお兄様は自分はソールクラスだと言っていたしな。そうなると1クラス人数は大分少ない事になる。

「3年はそれぞれ、ソールとルナの2クラスだよ。僕達は騎士科のソールで、文官を目指す人はどちらかのソールクラスになる必要があるんだ」
「なるほど……お兄様教えてくださりありがとうございます。私ってば全然分かってなくてお恥ずかしいです」
「いいんだよ。分からないことがあればいつでも聞いて?」

微笑んで頷いた俺に満足そうにお兄様も微笑んだ。
それにしても学院の事、全然知らんかった!
お兄様だから気にせず教えてもらえたけど、外でこうなるとちょっとヤバイよな。今度ジョセフに教えてもらおう。

そして、その翌日に家族水入らずで過ごし、更に翌日に、お父様に泣きながら見送られ、苦笑しつつ俺とお兄様は王都に戻ったのだった。

因みに前は俺が慣れない馬車旅だったからか、余裕をもっていていてくれたらしく実際は行きも帰りも8日で着きました!前は休憩も多かったし、宿に入るのも早かったし、馬も、もう少しゆっくり走っていた気がします。
ビックリだね!



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