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26.友情と恋心2(ラノフside)

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勉強を教えてる途中でアンジェリカ様は俺の手と、ご自分の手を見比べだして、声をかけると慌てて手を離し、恥ずかしそうに顔を赤くした。その様子が可愛くて手をとり滑らかな手を撫でると彼女の頬はさらに赤くなった。

それが嬉しかったが、その後にアンジェリカ様に婚約者がいると言われて、落胆した。

こんなにも可憐なのだ。皆、放っておかないだろうとは思っていたけど……。
彼女――――アンジェリカ様は、辺境伯のご令嬢で、元々、身分が違い過ぎるのだ。身分など気にしないと言ってくれたけど、本来なら出会う事すら無い方なのだ。
それでもアンジェリカ様への想いは高まっていった。

また明日も来ると残し帰っていった彼女を見送り、溜め息を付く。


『こんな時……彰がいたらな……』


思い悩んだときは、真っ先に相談し聞いてくれた親友の顔が浮かぶ。
ノートに挟んでいた短冊を取り出し眺め、もう一度溜め息を付いた。

まず世界が違うのだ。彰も転生したとしても同じ世界とは限らないのだから。

まず、身分差があり想いを伝える事は迷惑になるだろう。しかし心の中だけなら想い続ける事は許されるかもしれない。
ソールを目指して勉強していた彼女を助けよう。
勿論、下心はある。今は図書室で放課後の短い時間しか一緒にいられないし、彼女の婚約者も、ずっとほっとく事なんてしないだろう。だけど、彼女がソールクラスになれば同じクラスになれるのだ。毎日、無条件で彼女と顔を会わせ、話す機会も増えるだろう。

そんな事を考えながら翌日、図書室でアンジェリカ様を待った。

後から来た彼女は昨日と同じ正面の席に座った。微笑みは名前の通り天使のようで、見惚れてしまう。
顔も熱いから、きっと赤くなってるだろう。
照れてしまい少し視線をそらして落ち着かせてから笑顔を向けた。

「お待たせしましたか?」「今来たとこです」なんて、デートの待ち合わせのようだと内心ドキドキしながら今日は何を勉強するのか問うと「歴史を。お恥ずかしいのですが、少し苦手でして……」と恥ずかしそうに頬を染めて俯いた。

歴史は彰も苦手だったな。彼に教えるために色々工夫して教え、その為に他よりも調べる事が多かったからか、得意科目と言えるほどになっていた。

急に親近感が湧いた。
歴史が苦手な者が友人に、いた事を伝えると彼女も同じ様に思ったのか、ホッとした顔をした。



資料の本を取りに行き、勉強を始める。
しかし、合間に俺の顔をチラチラと見てくる。
好きな女性に見られて澄ましてられる訳もなく照れて赤くなりそうになる。
逃げるように他の本をさがしてくると、その場を後にして、顔の火照りがとれた後に本を持って戻ると、アンジェリカ様が涙を流していた。
彼女は俺の、お守り代わりの短冊を見ていた。
少し動揺したが、読めるわけはないと取り繕おうとしたが、彼女は日本語で書いてある文字を読み上げた。

アンジェリカ様は俺と同じ転生者だった。
こんな偶然はあるのだろうか……お互い転生した後の事を話し合い「もう一人じゃない、私がいるから」なんて言われて嬉しくて涙が込み上げてくる。
敬称も要らないと言われて驚いたが、それも嬉しかった。敬語も要らないといった後に愛称で呼んで良いと言った後に前世の名前を教えてくれた。




その名前は俺がずっと会いたかった親友と同じだった。



目の前の彼女は、どう見ても女性だった。
転移ではなく転生した訳だから性別が変わることも可笑しくはないかもしれない。
でも酷く困惑した。俺はアンジェリカ様に惹かれていた。でも途中で彰と似てるとは何処かで思っていた。
俺はアンジェリカ様に惹かれたのか、彰と無意識に気付いて惹かれたのか、判らなくなった。

名前を聞かれ咄嗟に誤魔化してしまった。
俺が豊と分かってしまうと、彼女・・は俺を友達としてしか見てくれなくなると思ったからだ。

短冊の願いは叶った。寧ろ、死に際の思いが叶ったと言っても良い。とても喜ばしい事だ。
なのに、なぜ会ってしまったのだと感情が沸き上がる。
初めて愛した女性が、会いたかった親友だったなんて、なんと滑稽なのだろう。
昔のように彰に相談することすら出来ない。誰にも出来ない。嬉しいのに胸が苦しい。

必死に取り繕う。知られたくない。俺の想いを……豊だとバレたくない。思うだけで良いだなんて嘘だ。本当は俺を見てほしい。
あの愛らしい笑顔を俺だけに向けてほしい。
昨日と同じ様に慌てて帰っていく彼女を見送って、誰も居なくなった夕焼けの光で赤く染まった図書室で項垂れる。


『彰……ごめん……』

恋心と友情に挟まれ苦しくなった俺は一人、図書室で溢れる涙を止めることもせず短冊を握りしめた。


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