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第3章

39話

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 リリィが心配しているなど、露ほども知らないカラミティはワイバーンの背に乗って数百mの高さもある空の旅を悠然と過ごしていた。
 普通のトカゲであれば、高速で飛んでいるワイバーンに乗っていられるはずがなく、すぐさま振り落とされていたはずで、仮に振り落とされていなかったとしても、こんな上空にいたら落ち着いていられるはずがない。
 そういうそぶりすら見せるどころか、ワイバーンの背に悠然と乗っているのはさすが、というべきであろう。
 そんな旅を始めて丸一日近く経ち、魔境の一つで通称べへモスの巣と呼ばれる荒原にもう間もなくといった距離まで来ていた。
 馬車で10日以上と言われていた距離をわずか1日ほどで踏破したのは、幼体とはいえ空を飛ぶことできるAランクのワイバーンだからこそできた芸当であろう。
 似たようなことができるとすれば、同じAランクのグリフォンくらいだろう。
 他のAランクの魔物では、どんなに頑張ったとしても1日ではたどり着けなかったであろう。

 べへモスの巣の近くまできたことにより、カラミティはべへモスの強さを感じ取ることができた。

 なるほど。セフィロトが言っていたべへモス、というやつか。
 たしかに、今の自分と近い強さを感じる。
 だが、この数はどういうことだ?

 カラミティが感じ取った、べへモスの数は一つ二つという数などというものではなく、数十、下手をすれば100にも及びそうな数だった。

 これは流石に想定外だ。

 魔の森では、セフィロトという絶対的強者がいて、その下にいたのは、今の自分よりも弱い魔物ばかりであった。
 それに比べると、ここは絶対的強者はいないが、今の自分と同じくらいの強さのやつがこれほどいると、脅威の質が変わってくる。
 魔の森が、一強で成り立っているとすれば、ここは数で成り立っている。
 別の言い方をすれば、数で補っていると言える。

 流石にこの数で攻め込まれれば、セフィロトといえどタダではすまない、と思う。
 しかし、どうするか。

 一対一であっても、必ず勝てる相手ではなく、時間をかければ他のべへモスが助けに来るはず。
 そうなれば、勝ち目はない。
 となれば、一対一でなおかつ、邪魔が入らない状況にする必要がある。
 ああ、もしくは、ワイバーンとで二対一、という形でもいいか。
 ワイバーンでは、対してダメージを与えることはできないかもしれないが、べへモスの周囲を飛び回って注意を引きつけてもらうだけでも十分だろう。

 そう考えていると、ワイバーンの速度が遅くなり、少しすると完全に止まってしまった。
 どうやら、ワイバーンにもべへモスの強さを感じたようで、進むのをやめたようだ。
 ならば仕方ない。
 ワイバーンの頭を叩き、地上へ降りるように指示すると、ワイバーンは地上へ下降する。
 地上に降り立ったはいいが、目的としているべへモスの住処からはまだ遠い。
 距離にして10kmくらいはありそうだ。
 しかし、丁度いいとも言える。
 ただのトカゲだった頃から、気配を殺すことには慣れている。
 ここならば、べへモスに気づかれずに近寄ることができるだろう。
 べへモスたちがどういう生活をしているか様子を見て、それからどうやって倒すかを考えるとしよう。
 その間、ワイバーンは、この周辺で過ごしてもらうとするか。
 見た限りでは——べへモスを除けば——ここらではワイバーンに匹敵するような存在はいないようだ。
 だからこそ、ここで過ごしてもらい、用ができたときに呼べばいい。

 そう考えたカラミティは、ワイバーンに向かって「クゥクゥ」と鳴く。
 すると、ワイバーンは「クオーン」と一鳴きすると、近場の岩陰まで飛ぶと、そこでうずくる。
 その様子からワイバーンは、カラミティの言いたいことが理解できたようだった。
 これは同じ爬虫類型の魔物だったからだろうか。
 それはともかくとして、ワイバーンが無駄についてくるということがなくなったのは、カラミティにとって懸念がなくなった。
 ワイバーンを後目に、いそいそとべへモスの住処へと向かう。

 一時間程かけてへべモスの住処にたどり着くと、カラミティの目に入ったのは、岩だらけで草も生えていないような荒れた場所であった。
 しかも、あたりの岩からは妙な力を感じていた。
 そのことが気になったカラミティは、一番近くから感じた場所へ行き、岩を眺める。
 が、見た限りでは特におかしなところは見られない。
 ならばと、岩に爪を立て穴を開けていく。
 しばらく掘り進めていくと、キィンという音がする。
 カラミティは掘りあてたものがなんなのか見てみると、そこにあったのは金属であった。
 しかも、その金属からは僅かながら魔力を感じた。
 それは、魔鉱石と呼ばれる金属であった。
 魔鉱石は、長い時間魔力を浴びたことで変異した金属で希少なものである。

 カラミティは、そんなことは知らずとも、この金属から妙な力を感じたのだと理解した。
 そのことがわかったカラミティは、改めてべへモスが見える場所まで移動する。
 しばらく移動すると、べへモスと思われる魔物の群れを見つける。
 その数は、6体。
 べへモスの姿は5m前後の大きさの牛の姿をした魔物であるが、足先が蹄ではなく、5本に分かれた鋭い爪を持っており、口からは鋭い牙が見える。
 その姿から、温和な草食の生き物というよりも、獰猛な肉食の生き物と言わざるを得ない。
 そんな姿をしたべへモスの1体が、前足を使い地面を掘り返していたかと思うと、そこから魔鉱石を取り出しそれを口へと運ぶ。
 まさかとは思ったが、べへモスは魔鉱石を噛み砕き、飲み込んでしまった。
 そんな事を何度か繰り返すと、満足したのかその場に寝転がり眠り始めてしまった。
 すると、他のべへモスたちが地面を掘り出し、真鉱石を取り出しては食べ始めた。
 多分最初のやつが、この群れのボスなのだろう。
 そのボスが食べ終えたことによって他の者が食べることができた、というところなのだろう。
 それを裏付けるように、そのボスと思われるべへモスが一番強い、とカラミティは感じた。
 この様子を見たカラミティは、雲行きが怪しくなってしまった。
 ほかのべへモスを見てみなければなんとも言えないが、ここと同じように小さな群れを作って行動しているとすれば、1体だけにするのは難しいと思ったからだ。
 その懸念は見事にあたり、べへモスは小さな群れを作っており、大きい群れだと10体を超え、小さい群れでも3体はいた。
それをみたカラミティは、考えていた作戦は無理だろうと断念した。
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