上 下
37 / 42
第3章

37話

しおりを挟む
 魔の森の中央に近い場所で、体長50mを優に超すほど大きくなっていたカラミティが寝そべっていた。
 その周囲には、血肉の欠片が残っていることから、何かを捕食して休んでいることがわかる。
 そんなふうに眠っているカラミティは、みに覚えのあるプレッシャーを感じた。
 もしやと思い、片目を開けてみると、目の前には魔の森の主であるセフィロトがいた。

『久しぶりね、カラミティ』

 そう言われるのも仕方ない。
 最後に会ったのは、あの争いだったのだから。
 それ以後は、カラミティは会わないように行動をしていたのだ。

 やはりお前か。
 何の用だ?

『あら、用がなければ会いにきちゃダメだった?』

 そういう意味じゃない。
 そもそも、お前がその気になればいつでも会いにこれたはず。
 そのお前が、今まで会いにこなかったのに、今になって現れた。
 その裏を邪推するなという方が無理というものだ。

『やっぱりそう思うわよね。失敗したわ。これなら、もっとこまめに会いにくればよかったわ』

 で、何の用だ?

『んー、大したようではないわ。どれくらい強くなったのか、直に確かめたかっただけ』

 そうか。

『気にならないの?』

 聞くまでもない。
 まだ、お前には遠く及ばないことくらいわかっている。

『確かにそうね。でも、あの時と比べればかなり強くなったわよ。あの時と同じくらいの威圧をかけているのに、対して効いていないから』

 それは慣れだ。
 これが初だったら、あの時と同じように硬直してまともに動けていなかっただろう。

『そうかしら?私はそう思わないわ。でも、ここに住んでいた強い魔物はほとんど食べ尽くしたみたいね。どう?私に挑戦してみる?』

 ふん。
 わかりきったことを聞くな。
 勝ち目のない戦いに挑むつもりはない。

『あら、そう。つまらないわ』

 それよりも、そろそろその威圧をやめてくれないか。
 あいつが耐えきれなくなりそうだ。

 カラミティはそう言って、少し離れた場所で震え縮こまっているワイバーンを見つめる。

『そういえば、あの子を育てているんだったわね』

 違う。
 勝手についてくるだけだ。

『そんなことを言っているわりには、甲斐甲斐しく面倒を見ていたように見えたけど?』

 セフィロトはそう言いながら、ニヤニヤと笑っていた。

 カラミティとワイバーンの出会いは、約半年ほど前だった。
 その時も、強くなるためにつがいのワイバーンを倒し食べていた。
 そして、その場にワイバーンが産んだ卵があったのだが、カラミティはその卵には手を出すつもりはなかったので、放っておいて倒したワイバーンを食べ終えた後はその場に眠りについていた。
 数時間たち眠りから目覚めたカラミティの目の前に、孵化したばかりのワイバーンの幼体がいた。
 いくらワイバーンといっても幼体では食べたところで対して力にならないと判断し、その幼体を放って移動を始めたのだが、どういうわけかワイバーンの幼体は、カラミティの後を追ってきた。
 ワイバーンの幼体は、攻撃をする様子を見せず懸命に追っていた。
 まるで、親に離されまいとする子供のように。
 その様子を目にしたが、カラミティは関係ないとばかりに移動していく。
 しばらく進んで一休みしていると、体に擦り傷を追いながらも幼体のワイバーンがやってきた。
 その様子は疲労困憊で、脅威にならないと放置した。
 事実、ワイバーンの幼体は、その場に倒れ込みカラミティを攻撃できなかった。
 その後も移動すると、幼体のワイバーンは後を追ってきて、時折カラミティが食い残したものを食べて生き繋いでいた。
 だが、それでは幼体のワイバーンの体は持たなくなり、ある時、格下である魔物に襲われているのを見て思わず手を出し助けてしまった。
 それ以降、幼体のワイバーンの分の餌も確保して面倒を見るようになっていた。

 そのことを、このセフィロトは知っていたのだ。

 偶々だ。
 それに、こんな弱い者を食らったところで、対して力を得られない。

『んー、どうやら本気で言っているみたいね。けど、それだとかなり時間がかかるわよ』

 それを聞いたカラミティは、ため息をつく。
 ただし、50mを超えるカラミティが吐くため息は、強風となってあたりに生えていた木々をなぎ倒していた。

 ああ、その通りだ。
 予想したよりも、成長が鈍い。
 このままでは食べごろになるのがいつになることやら。

『そんな、あなたに朗報よ』

 朗報?なんだそれは?

『ここから南東に下った場所に、べへモスという魔物がいるの。そいつは今のあなたと同等か少し弱いくらいの強さを持っているわ。そいつを狩りに行ったらどうかしら?』

 ……何が目的だ?

『大した事じゃないわ。あなたがどこまで強くなれるのか、見届けたいだけよ』

 それが本気かわからないが、後悔するなよ。
 べへモスというやつを全て喰らい尽くして、お前より強くなってやる!

『ふふふ。そうなるといいわね』

 セフィロトは、にこやかな笑顔を見せる。
 その余裕な態度を見せるセフィロトに、カラミティはこれ以上言う事なくべへモスを目指して歩き出したところで呼び止められる。

『待ちなさい。まさか歩いて行くき?せっかくいい脚があるのだから使いなさいよ』

 脚?

『あの子よあの子。あなたが育てているワイバーンの子。その子を使えば歩いていくよりも早くつけるわ』

 そうだな。その方が早いか。

 セフィロトの威圧がなくなったにもかかわらず、いまだに震え続けるワイバーンに目を向ける。
 カラミティとセフィロトが子供扱いしているワイバーンだが、その体調は3mを超えるほどだ。
 だが、成体であれば最低でも5mを超えていることから、子供扱いするのも納得する。

 しかし、こいつにべへモスのいる場所がわかるのか?

『大丈夫よ。今私が、そこまでの道のりのイメージを送るわ』

 そういうと、セフィロトはワイバーンに向けて人差し指を向ける。
 その時間はわずか数秒といったところで、やめる。

『これで大丈夫よ』

 それを見ていたカラミティは不安を覚える。

 まあ、お前のことだから大丈夫なのだろうが、どうやってべへモスのことを知ったんだ?

『秘密よ。じゃ、用事も終わったことだし、私は帰るわ』

 セフィロトはそういって去って行った。

 カラミティはしばらくそれを見ていたが、セフィロトのあまりにも自由な行動に呆れてしまう。

 セフィロトの気まぐれな行動を気にするだけ無駄か。
 それよりも、さっさとべへモスのところに向かおう。

 カラミティは、そう思うと体を小さくしていき、30cmほどになるとワイバーンの背中に登り始める。
 その様子にワイバーンは惑いを見せたが、カラミティがしっかりと背中にしがみついているのを確認すると、翼を動かし空へと飛び立つ。
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

テイムしたトカゲに魔石を与え続けるとドラゴンになりました。

暁 とと
ファンタジー
テイムしたトカゲはドラゴンになる

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

転生?いいえ。天声です!

Ryoha
ファンタジー
天野セイは気がつくと雲の上にいた。 あー、死んだのかな? そう心の中で呟くと、ケイと名乗る少年のような何かが、セイの呟きを肯定するように死んだことを告げる。 ケイいわく、わたしは異世界に転生する事になり、同行者と一緒に旅をすることになるようだ。セイは「なんでも一つ願いを叶える」という報酬に期待をしながら転生する。 ケイが最後に残した 「向こうに行ったら身体はなくなっちゃうけど心配しないでね」 という言葉に不穏を感じながら……。 カクヨム様にて先行掲載しています。続きが気になる方はそちらもどうぞ。

異世界でホワイトな飲食店経営を

視世陽木
ファンタジー
 定食屋チェーン店で雇われ店長をしていた飯田譲治(イイダ ジョウジ)は、気がついたら真っ白な世界に立っていた。  彼の最後の記憶は、連勤に連勤を重ねてふらふらになりながら帰宅し、赤信号に気づかずに道路に飛び出し、トラックに轢かれて亡くなったというもの。  彼が置かれた状況を説明するためにスタンバイしていた女神様を思いっきり無視しながら、1人考察を進める譲治。 しまいには女神様を泣かせてしまい、十分な説明もないままに異世界に転移させられてしまった!  ブラック企業で酷使されながら、それでも料理が大好きでいつかは自分の店を開きたいと夢見ていた彼は、はたして異世界でどんな生活を送るのか!?  異世界物のテンプレと超ご都合主義を盛り沢山に、ちょいちょい社会風刺を入れながらお送りする異世界定食屋経営物語。はたしてジョージはホワイトな飲食店を経営できるのか!? ● 異世界テンプレと超ご都合主義で話が進むので、苦手な方や飽きてきた方には合わないかもしれません。 ● かつて作者もブラック飲食店で店長をしていました。 ● 基本的にはおふざけ多め、たまにシリアス。 ● 残酷な描写や性的な描写はほとんどありませんが、後々死者は出ます。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

はぐれ聖女 ジルの冒険 ~その聖女、意外と純情派につき~

タツダノキイチ
ファンタジー
少し変わった聖女もの。 冒険者兼聖女の主人公ジルが冒険と出会いを通し、成長して行く物語。 聖魔法の素養がありつつも教会に属さず、幼いころからの夢であった冒険者として生きていくことを選んだ主人公、ジル。 しかし、教会から懇願され、時折聖女として各地の地脈の浄化という仕事も請け負うことに。 そこから教会に属さない聖女=「はぐれ聖女」兼冒険者としての日々が始まる。 最初はいやいやだったものの、ある日をきっかけに聖女としての責任を自覚するように。 冒険者や他の様々な人達との出会いを通して、自分の未熟さを自覚し、しかし、人生を前向きに生きて行こうとする若い女性の物語。 ちょっと「吞兵衛」な女子、主人公ジルが、冒険者として、はぐれ聖女として、そして人として成長していく過程をお楽しみいただければ幸いです。 カクヨム・小説家になろうにも掲載 先行掲載はカクヨム

わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた

名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。

処理中です...